冷蔵庫


2003年7月21日(月曜日)の海の日、新潟大学五十嵐キャンパスは、午前8時30分から午後5時まで停電であった。大学が休みのとき、大学院自然科学研究科の建物内へは、綜合警備保障の入構カードを使い、ドアロックを解除してから入る。しかし停電時には、この解除が出来ず、建物内へは入れない。数年前までは利用者への便宜を図って、停電前に事務がドアにガムテープを貼り、ドアロックされないようにしていた。ところが最近は、防犯上の理由からなのか、ガムテープを貼ることをしなくなってしまった。当然、建物内へは入れない。

その日は、お昼近くに起床してから「どうしようか」と思案に暮れていたが、どこかに遊びに行くのも金が掛かって、もったいない。第一、私には「遊ぶ」という感覚がない。結局、下宿で過ごすことにした。ふと思い立って、それまで懸案だった「冷蔵庫の製氷室(1)」の氷を溶かすことにした。製氷室の蓋を開けて吃驚(びっくり)、中はびっしりと氷で埋め尽くされていた。

冷蔵庫のコンセントを抜いてから、中のものをテーブルに移し、水がこぼれても大丈夫なように紙を敷き詰めた。それから洗面器を用意し、鑿(のみ)代わりのドライバーと、鑿用のハンマーを使い、作業を開始した。これが、想像以上に大変であった。なにしろ製氷室には、冷蔵庫の冷却用ガス管が通っている。これを傷つけたらガスが抜け、冷蔵庫は一巻の終わりである。慎重に、かつ大胆に、氷を剥がしていった。

作業開始時刻は、午後1時ちょっと前。途中途中で休憩を入れながら作業を進めること5時間にして、漸く製氷室の下にある受け皿を取り出すことができた。それからは、製氷室の金属板の後ろに隠れている氷の塊を取り外すだけである。午後6時、作業完了。氷の欠片(かけら)は、実に洗面器3杯分にもなっていた。私には「どこも傷つけていない」という手応えがあり、充分に満足のいく仕上がりであった。早速、冷蔵庫の電源を入れてみる。

動いた!!

それから数時間して冷蔵庫のドアを開けてみると、製氷室の金属板は、見事なまでに霜で覆われていた。その後、冷蔵庫は、忘れていた感覚を思い出すかのように、一日に何度も冷却スイッチが入るようになった。ただ、これが本当に良かったのかどうかは分からない。なにしろ、冷たい空気は下に行く。製氷室が氷で埋め尽くされていたときは、これが天然のクーラーとしての役割を果たしていたとも思われるからである(それまで冷却スイッチが頻繁には入らなかったことも確かである)

[脚注]
(1) 大学入学時に購入した、1980年製の生協のワンドア冷蔵庫である。かなりの電力を消費する代物だと思うので、買い換えたいのは山々なのだが、いかんせん先立つものがない。地球環境のことを憂慮する私のような者にとっての、大いなる自己矛盾といったところである。ちなみに冷蔵庫には、大量の「野菜ジュース」だけが入っている。


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