両生類では、爬虫類と違って日光浴をすることは、まず考えられません。この文章と資料中のデータからは、成体のいる場所が特定できないのですが、もし水の中に入っているのであれば(資料には「しぶきで濡れた岩肌」という記述がみられる)、観察されたのがいずれも7月下旬と8月上旬の暑い時期であることから、この行動は「水分補給のための水浴び」である可能性が高いと思います。夏場の水浴びは、ヒキガエルではよく知られた現象ですが(Stille, 1952)、サンショウウオでは報告例がないと思います。それに、ホルモンバランスの問題がありますので、繁殖期以外に両生類が水に入ること自体(水中越冬も含めて)、面白い現象です。是非、報告して下さい。但し、観察された場所の標高が約1800mと高いことから、繁殖期という可能性も捨て切れません(繁殖期かどうかは、水中にいる成体の形態が陸生型か水生型かを調べることで判断できます。陸生型の形態を示すのであれば、水浴びの可能性大です)。
・Stille, W. T. 1952. The nocturnal amphibian fauna of the southern Lake Michigan beach. Ecology 33: 149-162.
ハコネサンショウウオ成体の陸生型・水生型の判別は、難しくありません。水生型の雌雄では、幼生と同様に指趾の先端に黒い爪が生じ、前後肢の裏側には多数の黒色の小突起が出現します。また、水生型のオスの後肢は、へら状に平たく膨らみ、これら黒色の小突起はオスの肥大した後肢の裏側に顕著です。参考文献としては、写真が載っているという点で、秋田(1985)が分かりやすいと思います。
・秋田喜憲. 1985. 繁殖期の宝達山産ハコネサンショウウオ. 両生爬虫類研究会誌 31: 1-6.
「エゾサンショウウオが約2万年前に分化した」という記述は、間違いなく私が書いたものです。これは、本州と北海道を隔てる津軽海峡(ブラキストン線)の海底を走る現在の大陸棚が陸地になり、両者が陸橋でつながったのが約2万年前のウルム氷期とされているからです。つまり「それ以前にエゾサンショウウオは北海道には生息できない」という地質学上の問題があります。もしエゾサンショウウオの染色体数40本への分化が、もっと古い時代に生じたとするのならば、現在の本州にもエゾサンショウウオが生息しなければならないでしょう。この点を、細胞遺伝学の研究者は、どう説明しているのでしょうか?
[解説]
(1) サンショウウオ属は、染色体数が56本の止水性の種のグループと、染色体数が58本の流水性の種のグループ(オキサンショウウオは56本)に、大きく分けられる。エゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)は止水性の種であるが、染色体数は40本しかない。これを受けて(?)、Satobiusという新属が、エゾサンショウウオのために提唱されたこともある。
I'm ready to answer many of your questions about hynobiid salamanders in Japan. A recent major taxonomic change in Hynobius species was identification of H. tenuis as a "subjective junior synonym" of H. hidamontanus (Matsui et al., 2002), thereby now the specific name of H. tenuis completely disappeared. I'm sure my first impression of H. tenuis was a very thin individual of H. hidamontanus.
・Matsui, M., K. Nishikawa, Y. Misawa, M. Kakegawa, and T. Sugahara. 2002. Taxonomic relationships of an endangered Japanese salamander Hynobius hidamontanus Matsui, 1987 with H. tenuis Nambu, 1991 (Amphibia: Caudata). Current Herpetology 21(1): 25-34.
To say your main interest in Hynobius dunni, no literature on ecological topics may exist for this species other than Masiba (1969). However, I know H. dunni closely resembles H. nigrescens and H. retardatus in aquatic and terrestrial morphology, reproductive behavior, life-history traits, and so on among lentic-breeding hynobiids.
*Your writing "Mashiba" is right, but he used "Masiba" as his family name.
・Masiba, S. 1969. Ecology of Hynobius dunni Tago. Collecting and Breeding (Tokyo) 31: 122-135. (In Japanese)
I was aware of the following comment and picture in your site (quoted by >>).
>>Posted on Monday, 27 January, 2003 - 19:47:
Without doubt, this picture, showing a skin color with a tinge of brown, is a juvenile of Hynobius retardatus. Is the author name of that book Takaji Matsui? If so, an erroneous exchange between juvenile photographs of "nigrescens" and "retardatus" has long occurred. OK?
>>Seems what distinguishes this Hynobius species (H. nigrescens; remarks by M. Hasumi) from others in Japan is:
Unlike lotic-breeding hynobiids (e.g., Hynobius kimurae, Onychodactylus japonicus), there are little geographic variations in the skin color in lentic-breeding hynobiids (e.g., H. nigrescens, H. lichenatus) because they have concealing coloration, though skin color variations are found in some species (e.g., H. nebulosus, Salamandrella keyserlingii).
これは、ちぎれた左前肢が、細胞の壊死「ネクローシス(necrosis)」を起こした結果だと思います。ちなみに、幼生の尾ひれが変態時に吸収されてなくなる現象は、プログラムされた細胞死「アポトーシス(apoptosis)」とされています。
良いと思います。一般に再生とは脱分化が生じることですから、これから段々と再分化して左前肢の形状が出来上がってくることが期待されます。前肢の内部では、骨の基になる軟骨細胞が盛んに形成されているはずです(「軟骨(cartilage)」が骨化したものが「骨(bone)」です)。ピンク色の膨らみの中が、どうなっているのか想像してみるのも楽しいことかもしれません。
実際に観てみないと何とも言えませんが、おそらく骨が突出しているのでしょう(骨なら、さわれば感触で分かると思います)。このまま再生が進行すれば、異常肢が出現する可能性は高いと思います。今からでも遅くありませんから、その骨らしきものを切除してはいかがでしょうか?
>知り合いの方が飼育しているクロサンショウウオは、霧吹きの水が身体に触れるたびに、尾を垂直に「ピン!」と跳ね上げるのだそうです。私は、クロサンショウウオがそういう行動を採ることは初耳だったのですが、これは他の有尾類にみられるような威嚇、或いは忌避の姿勢と考えてよいのでしょうか? クロサンショウウオがそういう姿勢を採ることは、特に珍しくはないことなのでしょうか? (2002年12月14日)
アカハライモリなどの毒を持つ種では、警告色が発達しています。これは「食べても不味いから、俺を食べるな」という、捕食者に対する一種のシグナルです。例えばカリフォルニアイモリ(Taricha torosa)は、捕食者に襲われたとき、警告色の役割をする自分のお腹の色を目立たせるため、ブリッジのように、後方に反り返る姿勢を採ります。
これに対し、サンショウウオ科などの毒を持たない種では、周りの環境に溶け込むように、目立たない地味な色をしており、これは隠蔽色と呼ばれます。それでも不幸にして捕食者に見つかってしまったとき、サンショウウオ科では、捕食者に対して「尾を持ち上げて揺らす(tail undulation)」行動がみられます。これは、尾のほうに捕食者の注意を引きつけて、自分の身の安全を確保するための防御姿勢だと考えられています。
実験的には、先の尖った棒のようなもので個体を突っついて、このような姿勢を採らせることが出来ます(試してみて下さい。有尾両生類の抗捕食者行動に関しては、1970年代後半から1980年代に掛けて、主に米国の研究者が調べています)。おそらく、その方が飼育しているクロサンショウウオが、霧吹きの水を「捕食者」だと認識しているんだろうと思います。
ハクバサンショウウオに関しては、羽角ら(2002)以外に参考になるものは、取り立てて思い付きません。ヤマサンショウウオがハクバサンショウウオのシノニム=同物異名(松井正文さんは「主観新参異名(subjective junior synonym)」と論文で書いています)とされたことは、ご存知でしょうし(Matsui et al., 2002)、私のホームページには、ハクバサンショウウオについて現時点で書けることは書いていますし......(記述事項は散在していますから、探すのが大変かもしれません。「ハクバサンショウウオ」をキーワードに、Google検索を掛けると、現時点で17件ヒットします)。
・羽角正人・懸川雅市・齊川祐子. 2002. 大きな石の下に産み付けられたハクバサンショウウオの卵嚢. 爬虫両棲類学会報 2002(2): 70-72.
・Matsui, M., K. Nishikawa, Y. Misawa, M. Kakegawa, and T. Sugahara. 2002. Taxonomic relationships of an endangered Japanese salamander Hynobius hidamontanus Matsui, 1987 with H. tenuis Nambu, 1991 (Amphibia: Caudata). Current Herpetology 21(1): 25-34.
幾つかの図鑑などでは、クロサンショウウオの英名を「Kuro salamander」または「Japanese black salamander」と書いているものがあるようです。しかし、これは図鑑などの著者が勝手に命名したもので、正式な英名は決められていないはずです。属名と種小名で「Hynobius nigrescens」と書けば、それは紛れもなく「クロサンショウウオ」のことを指すわけですから、英名にこだわる必要はないと思います。