季節的な移動をおこなうハクバサンショウウオで、成体の繁殖移動の時期(春)、その年に生まれて変態上陸した幼体の移動分散の時期(夏)、及び陸上で暮らす個体の冬眠移動の時期(秋)を考慮すると「砂利道を舗装する」と仮定した場合の工期は、彼らが冬眠する12月〜2月しかありません。建設業界では「冬場の工事は無理」という認識ですので、砂利道の鋪装を中止する幾つかの根拠の中では、これが最も説得力があると思います。
これは、その通りだと思います。受精に関わったオスが複数の場合、卵嚢中の卵は、ほぼ100%の確率で受精するはずですから、メスが卵嚢を産出するときに、おそらくオスが周りに1匹しか存在しなかったのでしょうね。そのオスが、かなり下手糞だったものと思われます。
(カスミサンショウウオで)「全く(一匹も)孵化しない卵嚢」というのは、次の2通りが考えられます。ひとつは「胚が全く発生していない卵嚢」で、もうひとつは「ちゃんと胚発生はしているが、孵化に至る途中で胚が死滅してしまった卵嚢」です。
胚が球状卵のまま白くなっているのであれば、未受精卵の可能性が高いと思います。神経胚や尾芽胚まで発生が進んだ状態で、つまり球状卵でなくなった状態で白くなっているのであれば、繁殖水域が一度、干上がって発生途中の胚が死滅したということも考えられます。
もし、これらの卵嚢が未受精卵だけを含むのでしたら、周りにオスが存在しない状況で、メスが卵嚢を単独で産出したことが一番の原因でしょうね。ちなみに、私が提唱している「精子枯渇」仮説というのは「メスが産出した卵嚢を中心にサンショウウオの団子(メーティングボール)を形成している多数のオスは、メスから卵嚢を最初に引き出して、メーティングボールの中心で卵嚢を独占しているオスの精子を余計に消費させる、つまり精子を枯渇させる戦術を採る」というものです(Hasumi, 2001)。
道路を舗装する件は、事情が分かりました。道路を舗装すれば、当然のことながら、道路を維持するために側溝も造らなければなりません。側溝を造れば、それがハクバサンショウウオやヒダサンショウウオの移動の障壁となることは、疑いの余地のないところでしょう。道路を挟んで向かい側に、サンショウウオが生息していることが分かれば、彼らが道路を横断することは確実です。そこらあたりの事情をご存知であれば、道路の舗装に反対する確固たる理由が出来ると思いますので、そこから攻めてはいかがでしょうか? (戻る)
当年変態幼体を繁殖水域の周辺に放す時期は、自然のサイクルに合わせた夏場以降がベストだと思います。また変態上陸後は、繁殖水域の周辺から遠くに移動分散する幼体もいれば、そこに留まる幼体もいるはずです。従って2年目以降の幼体であれば、繁殖水域の周辺には、冬眠期間を除いて放せば問題はないでしょう。つまり、あらゆる個体が冬眠から覚醒する、早春の繁殖期でも大丈夫だということです。
「その筋の専門家」ですか? どなたかは知りませんが、大した専門家ですね。サンショウウオは、確かに幼生のときは共食いが盛んですが、変態上陸後の幼体・亜成体・成体は共食いをしません。それに「必要以上の保護」と言いますが、変態後の幼体を繁殖水域の周辺に幾ら多く放したとしても、生息地には環境収容力の問題がありますから、それに見合った個体数が生き残るだけです。増えすぎを心配する必要はありません。
保護に対する認識の件ですが、○○さんは「渇水でカスミサンショウウオの繁殖水域の水が少なく、このままでは生息地の環境収容力に見合った個体数を確保できそうもないから、産出された卵嚢を保護・採取・飼育し、変態後の幼体を繁殖水域の周辺に放している」のではないのですか?
サンショウウオ科では、排水溝や道路の側溝などの水域で繁殖する種は、少なくありません。例えば、トウホクサンショウウオでは「なんで、こんなところに?」と思えるような場所に産卵します。一例として、秋田県八森町の個体群では、工事関係車輛の「わだち跡」に出来た水たまりで、かなりの数が繁殖していました(ここは、ブナの原生林で有名な白神山地へ通じる、青秋林道沿いにあります)。
カスミサンショウウオの場合も、もしかしたら元々あった繁殖適地を人間に奪われてしまったせいで、排水溝のような場所で、仕方なく繁殖しているのかもしれませんね。
>以上のことから、カスミサンショウウオの産卵地として最も望ましい環境とはどんなものか、それに不可欠なものや、最低でもこれだけは整備したほうが良いといった条件について、ご教授お願いします。 (2002年11月1日)
両生類の保全保護をおこなっている研究者の中には「(両生類の個体が)勝手に、そこ(繁殖に不向きな人工建造物のあるような場所)に来て繁殖しているんだから、何もするな」ということを、平然と言ってのける人がいます。でも私に言わせれば、そこには元々両生類の繁殖適地が広がっていたのかもしれず、その場所を人間が奪っているのだとしたら、彼らの繁殖の手助けをするのは、私たち人間の責務でもあるはずです。
サンショウウオの産卵地の環境として不可欠なものは、やはり「水の確保」でしょう。ご存知のように、産卵のための繁殖水域は、幼生の生育水域でもあるわけです。そのため、これらの水域は「繁殖期にさえ水が確保できればいい」という性質のものではなく、幼生が変態を終える夏場以降までは、少なくとも水が涸れない必要があるわけです。それから、幼生の餌が豊富にある環境が望ましいのは当然のことですし、幼生が捕食者から逃れ、隠れることの出来る堆積物が、生育水域の底に多数あることも必要条件のひとつでしょう。
北米産のアンビストーマ科の、ある種のサンショウウオでは「生育水域の水が早く涸れる環境で育った幼生は、常に水がある環境で生育する幼生よりも、早く変態して上陸する」という適応戦略が知られています。しかし、このカスミサンショウウオの場合は、繁殖の時点で水が涸れる可能性があり、このような適応戦略とは全く異なるものですから、生育水域の水が涸れる前に、幼生が変態して上陸することは考えられないわけです。このようなことも、行政サイドへの説明をする場合、知識として知っておいて損はないと思います。
ハクバサンショウウオの白馬村にある生息地の数は、調査が進むにつれて増えています。しかし、彼らの生息地が湿地帯に限定されることを考慮すると、元々辺り一面に広がっていた湿地帯が、白馬村の観光開発(道路、宿泊施設、スキー場、等々)や長野オリンピック開催に伴う開発などで分断され、それぞれが孤立化した個体群となってしまったのだろうと推察されます。そのため「新たな生息地の発見で、ハクバサンショウウオの分布域は拡大している」というよりは「湿地帯という限られた範囲内で、新たに発見された個体群の数が増加している」と考えていただいたほうが、正確かと思います。