古代のシカ


2004年7月25日の午前10時15分に、モンゴルのダルハディン湿地からムルンへと向かう途中のキャンプ地を出発した私たち一行は、それから一時間も経たないうちにムルン空港へと到着した。ちょうど正午に、ムルンからウランバートルへと向かう、学生が乗った2台のトラック部隊を見送った後、午後2時40分のプロペラ機への搭乗までの空き時間を利用して、2台のロシアンジープに分乗して「シカを見に行く」という話になった。

ジープに乗ってからも「モンゴルのシカねえ......」と思いながら、ズラに「シカは日本でも、しょっちゅう見てるし、それほど見たいとも思わないんだけどなあ」と愚痴をこぼすと、彼女からは「死んだシカよ」という答えが返って来た。「死んだシカ??? シカの剥製か? 博物館にでも行こうとしているのかなあ?」と、ますます訳(わけ)が分からなくなってしまった。ムルンの街を左手に眺めながら、デルゲルムルン川を渡り、草原の道なき道を12分間ほど疾走すると、ジープが着いた場所は、草原の真っただ中に石柱が群立する「古代の遺跡(1)」であった。

なるほど、確かに「死んだシカ」である。石柱には、それぞれシカの絵が描かれてあった。一種の、シカの壁画である。周りをロープで囲われた石柱群の中に身を投じてみると、背後に控える丘陵地の景観とも相まって、何か地球上のものとは思えない異様な雰囲気をかもし出しているのであった。そう、まるで他の惑星にでも降り立ったかのような、不思議な不思議な異空間であった(2)。

[脚注]
(1) ダイヤモンド・ビッグ社の「地球の歩き方 D14 モンゴル 2003〜2004年版」で、ムルンの街を紹介した106〜108ページに、この遺跡は掲載されていない。が、モンゴルでは有名な遺跡のようである。
(2) 遺跡の手前に停めたジープのところで、午後0時35分に昼食を採った。ジープの中に設置した簡易コンロで作る韓国ラーメン、パン、野菜の酢漬け、コンビーフというメニューであった。これで、今回の野外で採る食事は、全て終了した。まあ、野外では何を食べても美味しいが、私の場合「野外調査では、いつ食べられなくなるか分からないから、食べられるときに食べておこう」という意識が常に脳裏を支配しているので、ついつい食べ過ぎてしまった嫌いがある。しかし、最終的には痩せて帰って来たくらいだから、いかにハードな調査内容だったかが分かるというものであろう。


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