山間に溶け込むようにして佇む木造駅舎に藤棚のような大きな車寄せがどっしりと置かれている青梅線の駅、鳩ノ巣。若干のリニューアルは施されてはいるが、開業時からその姿を今も留めており、線内はおろか日本国内においても貴重な名駅舎として名をはせてもおかしくはない。
対抗式のホームを持つが、2つの踏切の間に駅を造ってしまった関係で、停車できる電車の車両限界が4両と制限されている。青梅から発車する奥多摩行きの電車が4両編成なのは、ここ鳩ノ巣の駅構内が大きな要因となっている。
多摩川が作った谷の下に巨岩や奇岩が連なる鳩ノ巣渓谷は、駅から徒歩で簡単に行くことができる観光スポットである。その昔、渓谷の下にある水神を祀った小さな神社に鳩が巣を作って、餌を運んでいた姿を見て、その鳩を霊鳥としてあがめたことから、鳩ノ巣という地名が誕生したという。
鳩ノ巣の由来となった神社の周りには、江戸時代に木材を運搬する舟運で栄えていた頃、そこで働く人たちの宿があり、鳩の姿を見ることによって仕事の合間のひと時を得ていたのかも知れない。かつて鳩ノ巣渓谷の下の神社の近くには宿が存在していた。しかし現在はすでに廃業し、建物は取り壊されずに残されたままである。
(2021.1.4)