美作河井は因美線の中では最高所にある駅で、標高は335メートルある。そんな美作河井の駅でかつては鉄道ファンの間では名物の物があった。かつてこの因美線には「砂丘」という名前の急行列車が走っており、山間の県境の駅であるがゆえに交換設備が設けられ、駅員も滞在していた。ただし山間の駅というだけあって利用者は少なく、急行も通過扱いがなされていた。
「砂丘」があった頃はタブレット閉塞と言って、単線区間では言うまでもなく1編成の列車を走らせる事が出来ない。タブレットはそんな単線の線路を優先的に通らせる権利を持ったいわば線路の通行手形の役割を持つものだった。
美作河井は急行が通過してしまう駅だったのでタブレットを受け取ったり、投げ渡しをする設備を設けて通過時にスムーズにタブレットを受け渡しする事が可能になり、鉄道の名物になっていた。
だが智頭急行の開通により、岡山や大阪から鳥取へ行く優等列車はすべてこの智頭急行経由となってしまい、因美線の
東津山〜智頭間は普通列車のみのローカル線に転じてしまい、この駅も交換設備が撤去され無人化されてしまった。またかつてのタブレットの受け渡しをする設備も今はもうなくなっている。
また現在私鉄の駅の全駅下車を挑戦し続けている横見浩彦氏がこの美作河井に下車をして当時のJR全ての駅の下車を達成し、地元の小学生から花束が贈呈されたのが新聞でも紹介された。
駅の周辺には何もないように見えるが歩いて1分もすればまとまった集落が見え、そこには建設会社や床屋があった。また列車の到着時には阿波村のレトロ調のボンネットバスが送迎をしてくれている。
急行「砂丘」が廃止されて寂しい駅になってしまったが、駅ノートの書き込みや送迎バスを見ているときちんとこの駅を見守り続けている人がいるんだなとちょっとした安堵感があった。
(2003.6.7)