青く塗られた貨車を改造した駅舎がある南弟子屈、周辺の地名は「熊牛」といい、これはアイヌ語で魚を干す棚が多い所という「クマ・ウシ」に由来するものだが、当時北海道内に同じ駅名が存在しており、弟子屈の南端に位置していたことから、今の駅名に落ち着いたという。
2020年3月のダイヤ改正によって、根室本線の
古瀬と共に廃止されるため、釧路から始発列車に乗って南弟子屈に降りてみた。駅の真ん前に民家や建設会社があって、それほど秘境感は感じない駅である。
駅前通りの緩やかな坂を上り切ると、国道が通る交差点があり、そこにはガソリンスタンドや閉校した小学校に小さな宿、そして南弟子屈の名物となっている小沢商店がある。
朝8時という早朝から、すでにお店は開店しているという情報があったので、店内に入ってみると、御年97歳で店を切り盛りする店主のおばあちゃんが笑顔で迎えてくれる。
かつての南弟子屈は木材の積出駅として栄え、駅員が5人もおり、周囲に鉄道官舎もあったことから、向かいの小学校には多い時で130人もの児童が在籍していたという。しかし2015年の閉校時には児童が5人にまで減少してしまったなどといった、過去60年間の南弟子屈の栄光と衰退の歴史を笑いながら語ってくれた。
南弟子屈の廃止の話を聞きつけて、来店する旅行者が多いようで、おすすめの品は地元の製菓会社が弟子屈出身である大横綱、大鵬に因んで作った「大鵬せんべい」である。化粧まわしの形をした、大きくて固めのクッキーという感じのお菓子だが、これが町のロングセラーとなっているお土産品となっており、中には1万円分も買ってくれた旅行者がいたと話していた。南弟子屈の話をしていながらも所々に「大鵬せんべい」をすすめてきたので、店の売り上げに少しだけ貢献すべく、せんべいとプリッツを1つずつ購入して店を後にした。
弟子屈が1990年に摩周と改称したため、唯一残った町名を冠した南弟子屈。廃止によって弟子屈の名前が入った駅が完全に消滅することとなる。
(2020.2.25)