Another True History 2


   ホームが見えなくなってから席に戻ると、双子はすでに席に着いていて、何やら楽しそうに話をしている。
 わたしはべつに人付き合いが嫌いなわけではないが、上手ではない。特に初対面の人にはどうしていいのか分からず、話しかけていいものかどうかも分からず、居心地の悪い時間を黙って過ごした。
 過ごしたといっても、後から思うに、それはほんの数分もなかったのだ。
 双子はまもなく、屈託のない笑顔を向けて、勝手に自己紹介してきた。
「君も1年生? 僕らもなんだ」
「もし同じ寮になったらよろしくね」
「あ、僕はエドワード・ウィーズリーで」
「僕はデイヴィッド・ウィーズリー。分かると思うけど双子なんだ」
「エドとデイブでいいよ」
 ウィーズリー! やっぱり! 
 それを聞いた瞬間、引っ込み思案も人見知りもどこかにぶっ飛んでいた。
「じゃあ、じゃあ、もしかして!」
「ああ、僕らはかのハリー・ポッターの盟友、ロン・ウィーズリーの子孫じゃないよ」
「え……」
 べつにそんなつもりではなかったのだが、多分2人はよくそんなふうに聞かれるので機先を制したのだろう。もちろんウィーズリー家といってもいろいろあるのだろうが。
「でもあの、あのウィーズリー家とは関係ないの?」
「あのってことは、あれのことだよね、やっぱり」
 分かったような分からないような会話である。
 わたしは勝手に通じているものと思い込んで、こくこくとうなづいた。
「僕らは、フレッド・ウィーズリーの、えーと、ひひひ…孫?」
「いや、たしかひひひひ…まあどうでもいいや。とにかくそこの直系だよ」
 こともなげに双子は言ったが、わたしは再度息が止まるほど驚いた。そして大混乱した。
「フレッド・ウィーズリーって、あの、ごめんね、あの……」
「いきなり謝られても困るけど、何?」
「だって、あのフレッド・ウィーズリーだったら亡くなってるでしょ? 子孫を残す前に」
「ああ」
 それも言われ慣れているのか、2人は顔を見合わせてにやりと笑った。
 それは妙に既視感のある光景だった。
 いや、見たことなどあるはずはない。自分が本の挿絵の中にでも入り込んでしまったかのような不思議な心持ちだった。
「あのね、もし君が『七つの物語』のことを言っているなら、少なくともフレッド・ウィーズリーは死んでいないよ」
「そうなの!?」
「そうさ。現に僕らがこうしているじゃないか」
 そう言われてもにわかには信じがたい。
「君、もしかしてマグル生まれ?」
「母がマグルで、父は魔法使いだけど、ずっとマグルの学校に行ってたから……」
 もしかして、魔法界ではもう当たり前に知られていることなのだろうか。
 そう問うと、そうでもないと双子は答えた。
「あのね、あれは実は当事者たちが生存中に書かれたものではあるんだけどね」
「かなり高齢になっていたし、ハリー・ポッター本人はもちろん、近くにいた人たちほどみんなあまり語りたがらないってとこもあったらしくて」
「一応取材して書いたらしいけどね。かなりの部分、想像で補われてるんだってよ」
「で、本が出版されて、自分が死んだことになっているのでフレッドじいさんはずいぶん驚いたらしい」
「そこへジョージ・ウィーズリーから手紙が来て、それがなんと、フレッドの葬式の招待状だったそうだ」
「今まで死んでいたとは知らず仕事をさせていた上、葬式も出してやらずにすまなかった。墓ぐらい立ててやろうと思うが場所はどこがいい、と聞いてきたんだって」
「家族みんなで大笑いしたって、伝説だよ、我が家の」
そう言って2人は笑ったが、わたしはまだ笑うどころではなかった。
「でもそんなこと書かれて、怒らなかったの? 訴えてやろうとかしなかったのかな」
「「全然」」
 2人は声をそろえて否定した。
「事実はこうさ。フレッドじいさんはあのとき、頭に大きなけがをして、その後戦闘不能になったんだ」
「気を失って、とりあえず隠し通路に隠されてたんだって」
「それがじいさんにとっては自分史の中の唯一の汚点だと言ってたらしいが」
「親戚連中に言わせると、そんなことよりはるかにしょうもない汚点だらけの人生に、本人が気がついてないだけだと」
「その意見は特にパーシー・ウィーズリーの系統に多いな」
「それはともかく、そんなわけで、敵にやられたわけでもないのに勝手に戦闘不能になった不名誉より、あの話のほうがまだましだって」
「べつに怒りもせず、かえって面白がってたそうだよ」
 わたしは唖然として、しばらく二の句が継げなかった。

   このホグワーツへの初めての旅が、わたしの歴史学者としての歩みの始まりでもあったと、今になっては思うところである。





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