はじめに
この話のプロットはハリポタ6巻原書が発売される以前に考え、ちょうど「Half-Blood Prince」が出た頃、ほとんど書き上げた状態でした。
そのため6巻に出てくるWWWの様子とは明らかに相容れない部分が多々ございますが、あくまで5巻終了時点でリクエストに答えるべく妄想によって書いた、という前提でお読み下さいませ。
2005.07.20




存在しなかった夏休み



 「ここで働かせてください!」
 元気いっぱい、笑顔いっぱいでいきなり店に現れたその少年を、フレッドとジョージは同じように眉根を寄せて見つめてしまった。
(なんだ、こいつは)
頭の中も同じような言葉が浮かぶが、なんだといっても二人とも実はよく知っている人物ではあるわけだ。
 ただし、知っているからといって親しいわけではないし、ましてや好意を抱いているかどうかは全く別問題だ。
 そんなヤツが久しぶりに会った途端、挨拶もなしに開口一番これだ。いい顔ができるわけがない。
 しかしそこはさすがに二人とも商売人だ。特に学校の後輩ともなれば良きお得意さんになる見込みも大であるわけで、そうそう冷たくするわけにもいかず、ものの5秒で二人は営業スマイルを取り戻した。
「あー、コリン、せっかくだがうちは手は足りてるんだ」
 フレッドがありきたりに無難な返答を返す。
「ロンとジニーも手伝ってくれてるしね」
ジョージが付け加える。
 実際夏休みともなればW.W.W.の店舗は大にぎわい。ふだんの3倍は客の入りがあるという、まさにかき入れ時なのだ。
 だからもちろん人手はほしい。ほしいが、いくら事業が軌道に乗ったとはいえ、商売人としてはまだまだ駆け出しの部類。しかもいわばハリーに出資してもらったからこそ店を構えることができたようなもの。ハリーが受け取るとは思えないが、それでも一応フレッドとジョージは配当金という形で返すつもりでいるのだ。人件費に余計な出費を割くほどの余裕はまだない。
 ロンもジニーも、お小遣い程度のバイト料と、あとは現物支給を条件に手伝わせているのだ。この上正式のバイトを雇う必要はない。ロンはぶつぶつ文句を言いながらも結局逆らえずに裏方仕事をよくやってくれるし、ジニーのほうは看板娘として笑顔を振りまきながらてきぱきと客の相手をしてくれた。
 特別美人ではないが明るくしっかり者で、双子の悪戯好きをよく受け継いでいるジニーは、こんな店に来るような少年たちにはそれなりに人気があった。あわよくばジニーといい仲になろうという魂胆を持った者も何人かいたが、ほどなくして、「ジニーをデートに誘おうとするとその瞬間3本の杖が向けられる」という噂が伝わって、トライする者もいなくなっていった。

 コリンは双子の断りをまるで意に介さず、なおも元気の良い笑顔で言った。
「バイト代はいりません! 手伝わせてください!」
再び双子の眉間にしわが寄ってしまった。コリンの精神構造と行動パターンは双子といえどもどうも読みづらい。理解したくないだけかもしれないが。 「なんで?」
営業スマイルも忘れてフレッドが聞いた。
「ここにいたらハリー・ポッターに会えると思って」
無邪気に即答したコリンの答えに、さすがの双子も一瞬思考が停止した。
「なんでそういうことになる?」
フレッドはまた同じような質問をした。
「だってロン・ウィーズリーはハリーの親友でしょう? 夏休み中にも会っているんですよね。僕は皆さんのご自宅を知らないし、きっとここに一度ぐらいは顔を出すに違いないと思って。ロンがお手伝いしてるなら必ず来ますよね! よかった〜。やっぱり、僕の考えに間違いはなかったんだ〜」
すでにここでハリーに会うことが確定しているようなコリンの言い方に、ジョージは思わずしまったというように自分の口を押さえて、暗い表情でうつむいた。コリンの首から提げられたカメラが目に入った。
(やる気満々だな……)
「それで、ただ働きでもいいと……」
フレッドが確認すると、
「はいっ」
と、コリンは勢いよくうなづいた。
「けど、ハリーとはべつに約束してるわけじゃないんだ。来るかどうか、来るとしてもいつ来るかなんて分からないんだぜ」
ジョージがそう説得にかかっても、
「かまいません! 夏休みが終わるまでには少なくともダイアゴンに来るでしょう? そのときにきっと来てくれますよ。僕それまで一所懸命待ち、いえ、働きますから!」
少しもひるむ様子がない。
 フレッドとジョージは同時にくるりとコリンに背を向けると、がしっと肩を組んで額を付き合わせて声を落とした。
「どうするよ、おい」
「どうするって、あいつ言葉が通じそうにないぞ」
「断ってもきっとハリーが来るまで店の前に居座るつもりだぜ」
「ディスプレイにもなりゃしないな」
「役に立つかどうかは分かんないけど」
「バイト料いらないっていうし」
「じゃあ……」
「しょーがねえんじゃねえ?」
 二人はまた同時にくるりとコリンに向き直った。再び営業スマイルを浮かべて。
「分かった、コリン。ほんとにバイト代いらないっていうならハリーが来るまでおいてやる。その代わり手抜きするなよ。手伝う気がないんだったらすぐ出てってもらうからな」
 フレッドがそう言い渡すと、コリンは大感激して両手でフレッドの手を握りしめながら何度も何度も礼を言った。その手をさっさとふりほどきたいが露骨に邪険にもできず迷惑そうなフレッドに救いの手を差し伸べもせず、ジョージは今のうちとばかり地下の製造室へ駆け降りていった……。

「なんで僕が……」
   店の奥の倉庫でいつものごとくせっせと商品の整理をしていたロンのところに、フレッドがコリンを連れてきたのだ。眉根を寄せて困惑したロンの表情は妙に双子の兄たちに似ていて、第三者が見たら笑えるかもしれない。
「とにかくそういうわけだから、おまえの助手として使ってやってくれたまえ」
フレッドにわざとらしい笑顔で言われては、ロンには拒否権などない。
 ロンは決してコリンが嫌いではない。いや、以前はあまり好きではなかった。ハリーが迷惑していたのを知っていたからだ。といってもそれも最初は贅沢な悩みに思えていた。こんなに熱心に自分を崇拝してくれる人がいるなんて、羨ましいぐらいだと思っていた。だが、コリンがクィディッチの試合で骨折したハリーの写真を撮ってから、ようやくロンにもハリーの嫌がる気持ちが理解できるようになった。
 それでもロンはある点でコリンを認めてはいた。コリンはいかなるときもハリーに対するその忠誠心を捨てなかった。DAのメンバーでさえあった。もしばれたら退学になりかねなかったのにもかかわらず。文字通り、ハリーのためならたとえ火の中水の中、なのだろう。その勇気はやはりグリフィンドールにふさわしいと言えるのだろうと思った。
 しかし、だからといって、夏休み中までお付き合いしたいわけでは決してなく……。しかもハリーが来るまでだって? もちろんハリーはW.W.W. に来たがっていた。けど、コリンがカメラを持って待ちかまえていると分かったらどうするだろうか。言わずにいて後でハリーに恨まれるのは嫌だ。しかし言ってしまえば来ないかもしれないし、そうしたらコリンは夏休み中ずっとここにいるんだろうか?
 なんでフレッドもジョージもちゃんと断ってくれなかったんだ。恨みがましい視線をフレッドに向けたが、フレッドはコリンをその場に残してさっさと表に戻っていった……。







1700を踏んでくださったメロンソーダ様のリクエスト。
夏休みにWWWでバイトするコリン、ということでした。
どうせならもっとさっさと書いておくか、6巻をちゃんと全部読んでから書きはじめればよかったのに、なんとも間の悪いことになってしまい、申し訳ありません……。
いずれにしろ都合の悪いことは無視して読みたいものを書くのが二次創作でございますから (暗い部分はないことにして、ハリーには永遠に楽しい学生生活を送っててほしいとか)どうぞ広い心でお読み下さいませ。






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