リー・ジョーダン回想録


(入学編)

 俺がやつらと出会ったのは、当然といえば当然なんだが、ホグワーツに入学したその日のことだった。正確に言うと、出会ったというより「見た」のが先なんだが。
 どこで見たかというとホグワーツ特急の中だった。俺もそれなりに小さい頃から悪ガキでならしてはいたものの、そりゃあ多少の緊張はするってものさ。そんな列車の中で、通路を列車の先頭から最後尾までだだだーっと走り抜けていった真っ赤な頭の双子を目にしたのだった。双子の後ろからは、これまた真っ赤な頭の上級生が、顔まで真っ赤にして二人を追いかけていった。
 何をやらかしたかは知らないが、それがやつらの兄貴だと後に知った。
 当然乗っている生徒たちの注目を浴びていたわけで、そんなリラックスした連中がまさか自分と同じ新入生だとは、そのときは思いもしなかった。
 だから組分けのために新入生だけが集められたとき、その中にその赤毛の双子を発見したときはあきれたものだった。
 発見といっても苦もなく見つかったわけなのだが。というよりいやでも目に付いた。何せただでも目立つ赤毛なのに、それがそっくり同じものが二つ並んでる。列車の中ではそれほどよく分からなかったが、ちゃんと見てみるとまさに細胞分裂したみたいに(まあ、実際したんだけども)同じ顔をしている。で、騒いでる。
 これから何が起こるのかと緊張している新入生の中で、組分けのときは怪物と決闘するんだとか、長い長い呪文を暗記させられるんだとか、できなかった生徒はそのまま送り返されるんだとか、あることないこと、いや、全くありもしないことばかり言って周囲を脅かしていた。
 俺はグリフィンドールになった。嬉しかったし、上級生がみんな拍手で迎えてくれたときは、ガラにもなくちょっとジ〜ンときちゃったりして。
 席に着いて、なんとなく、あの双子は? と気になってしまったのは俺の運命だったんだろうか。彼らはほとんど最後のほうだった。先にフレッドがグリフィンドールに決まった。列車の中で見た兄貴がグリフィンドールにいたから、そうなんだろうなとは思った。あの怒っていた兄貴も、やっぱり喜んでいた。
 フレッドはこちらに歩いてくる途中、ふっと足を止めて広間の前方、つまり組分けが行われているほうを振り返った。拍手したり立ち上がって迎えてくれていた上級生たちも、思わず手を止めてそちらを見た。途中で止まった新入生などいなかったから。
 フレッドが前を見たちょうどそのとき、帽子がジョージにも「グリフィンドール!」と告げた。フレッドはジョージを待って、二人並んで兄貴、パーシーの隣りの席に着いた。


 そしてその後寮へ案内されて、最初の事件は早くもそのときに起こった。 ときの監督生が寮での注意だとかグリフィンドールの伝統がどうとか気持ちよく演説していたときだった。でも1年生は疲れていたし、俺もちょっとあくびが出てきたところだった。
 突然、パパパーン! という爆発音が立て続けに起きた。派手な火花が飛び交い、異臭が鼻をついた。
 やつらが、例の赤毛の双子があろうことか談話室でフィリバスターの花火と糞爆弾に火を点けたのだ。
 談話室は当然阿鼻叫喚の渦、というのはちょい大げさだが、女の子たちの悲鳴と上級生たちの驚愕の声。
 それが収まると、何人かの上級生たちが笑い出した。つられてほかのみんなも笑い出した。監督生は茫然としていた。
 その状況の中、一番冷静だったのは双子を除いてはパーシーだったかもしれない。きっと慣れてるんだ。いや、予測していたのか。兄としての任務をたたき込まれていたのか。
「フレッド! ジョージ! お前たちだな! なんてことをしてくれたんだ!」
と、かんかんだった。  しかしパーシーの説教なんぞ、双子は双子で慣れているらしく知らんふりだ。
 そこへもっと強力なのが駆けつけた。寮監のマクゴナガルだ。
 ほとんど前代未聞だろう、こんなことをするやつは。俺もそう思ったが、マクゴナガルもそう言っていた。マクゴナガルの説教は、彼らの兄たちがどれほど優秀だったかを引き合いに出し、兄どころか両親の名前まで持ち出して延々と続いた。
 入学したばかりの1年生が寮生注視の中で怒られるなんて気の毒な、と、そのころまだ純真だったおれは一瞬そう同情してあげた。まあ自業自得だけどな、とも思ったのもそれはそれで事実だが。
 だが、マクゴナガルの背後から、俺は偶然見てしまったんだ。うなだれて大人しく説教を聞いているかに見えた二人が同時にちらと互いを見て、その目が満足そうににんまりしているのを。半端じゃねえ……。
 やっとマクゴナガルの説教が終わって寝室に入った俺たちは、双子を取り囲んだ。そのとき彼らが語ったところによると、あれは上級生たちと教師陣に対する先制攻撃だったそうだ。
 つまり、彼らの一番上の兄貴というのは首席で、しかも女子生徒の人気は絶大なものがあり、彼の在学中に学校にいた上級生たちで知らない者はいないぐらいだ。
 次男は成績優秀な上クィディッチのキャプテンで、無敵のシーカーとしてすでに伝説化していた。当然これまた上級生で知らない者はいない。
 パーシーも成績優秀、品行方正。先生方の覚えもめでたいときたもんだ。その上ウィーズリー家は純血だ。教師陣も家族のことをよく知っている。
 だから、学校側や上級生たちが自分たちに何を期待しているかは容易に想像がつく。しかし、「俺たちは違うぜ」というのをどうしても先に思い知らせておかなければならない、と考えたらしい。
 普通やっぱりプレッシャーに負けてグレるパターンだよな。ご立派な家族への反発か、とその日の俺は安易にそう思った。そしてやはりちょっと同情したのだった。まだ純粋だったからな。今思うと、ささやかな俺の同情心を返せって言いたいけどな。


 10日もすると、双子はすっかり学校中で有名になった。当然だ。さっきも言ったが、元々ウィーズリーの弟というだけで期待されてたんだ。もっとも、そんな声を聞くたび、実態を知っているパーシーは身の置きどころがなく、前年の学年末が近づく頃にはクヌートはげができそうなほどプレッシャーだったそうだ。当の双子はプレッシャーのかけらもないのに気の毒なこった。
 その10日の間にフレッドとジョージはスネイプに減点され、フィルチにしょっぴかれ、禁じられた森にもぐりこもうとしてハグリッドに連行され、校長室に呼び出され、キレたマクゴナガルに書き取り罰を言いつけられていた。
 これだけやれば学内に勇名を馳せるってもんさ。後にウィーズリーの末弟と共に入学してくることになるハリー・ポッターのような特殊な例を除けば、入学後良くも悪くもこれほど早く有名人になったやつもいまい。
 意外なことに、そんなあいつらも授業に遅刻したことはなかった。案外まじめなんだな、と思ったのも俺の不徳の致すところで、「迷ったと思われるのは恥だから」だそうだ。
 そしてまたこれも意外なことに、実は彼らは案外頭は良かったんだ。てっきり不出来な弟が優秀な兄たちと比べられることに嫌気が差しての行動だと思ったのに、裏切られた気分だった。なんだよ、結局こいつらもできるんじゃねえか。
   だが、次から次へと騒ぎを起こしてくれる双子のせいで、もとい、おかげで、慣れないホグワーツでの生活に右往左往している他の寮の新入生と比べて、俺たちグリフィンドールの1年生は案外早く学校に馴染めたのも事実だった。
 




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