相変わらず霧は晴れなかった。ここ数日さらに寒さを増し、時折切れる雲間から差し込む月光が余計に空気を冷たく感じさせた。
 テーブルの上には『日刊予言者新聞』が広げられていた。最近この新聞では毎日のように悪徳商法を暴露し糾弾する記事を載せていた。新聞にはもちろんもはやハーティ社の広告はない。ラジオでは二人が録音したハーティ社の人間の怒鳴り声が、繰り返し放送された。
 フレッドとジョージが撮った写真は、後日本当に『ザ・クィブラー』誌に匿名の「潜入レポ」付きで掲載された。かつて人気の若い魔女が身に付けていたマントと帽子が呪いを受けて無惨に裂け、役に立たずに着ていた人間を害する様が、写真というより短い動画として雑誌の中で繰り返されていた。魔法界の普通の写真のように、写っている人間が勝手に隠れたりすることはできなかった。
 ハーティ社の人間が逮捕されると、予言者新聞もラジオ局も掌を返したようにクィブラーに追随し、それを見聞きして、自分も同じ目に遭ったという人々が次々に現れ、他の新聞、雑誌はそのような被害者を見つけ出しては取材記事を載せていた。
「すっきりしない……」
 ぼーっと外を眺めていたジョージがつぶやいた。
「ああ、すっきりしないことにかけちゃ、この部屋も外もいい勝負だ」
フレッドの不機嫌そうな声に、ジョージはのろのろと窓際から戻ってきた。
 そう広くもない床には、W.W.W.の様々な製品やら注文用紙やら梱包材やら、すでに梱包して宛名書きまでしてあるものやら、あれこれ分類して一面に広がっていた。明日ふくろう便で発送する分で、その大部分はホグワーツ校に行くことになる。
「紅茶でも飲むか?」
「砂糖多めで。いいかげんやる気出せよ」
そう言ったフレッドも、手に持っていた紐を放り出した。
「だけどおまえだって言ってたじゃないか。あの商売だけやってる連中とは思えない。なのにその裏にまでは手が伸びてないんだ。しかもマスコミは自分たちの間違いを認めたわけじゃない。絶対また同じことが繰り返される」
「ああ、そうだな」
フレッドは床から立ち上がって椅子に腰掛けた
「俺たちのやったことは、せいぜい俺たちの気にくわない奴をさしあたってフィルチの事務所に閉じこめた程度のもんさ。これからもそんなことしかできないだろうな」
 ジョージは憂鬱そうに新聞を払いのけ、熱い紅茶を自分とフレッドの前に置いた。嫌になる……。爽快感があるのはその時だけだ。杖先で一時的に霧を払っても、すぐにまた立ちこめてきて先が見えない。そんな感じだ。
「……気が滅入るのはこの霧のせいだ」
うつむいてカップを見つめながら、ジョージがつぶやいた。
「いつかは晴れるさ。こんな時代はいつまでもは続かない。少なくとも俺はそう信じてる」
フレッドが気を引き立たせるように言うと、ジョージはにやっと笑った。
「どっかで聞いたセリフだな」
フレッドもにやりと笑った。
「そうか? じゃあ、間違いないってことだろ」
 二人は同時に窓の外を見やった。窓ガラスには線対称に同じ姿の青年が二人、映っていた。 





魔法界の録音録画機器ってのがよくわかんないんですね。
あるんだろうけど、とりあえずハリポタ本編に出てきてないものは、ないということにして、その範囲の中だけで作ってみました。
情報の真偽を自分で考えることは大切。でも、隠されている情報も世の中多いんですよね、っていうお話でした。




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