この道 : 国道156号線




 国道156号線は、岐阜県岐阜市に始まって富山県高岡市にまで延びる国道である。総延長は212.4km。東海地方と北陸地方を結ぶ道となっており、言うなれば現代の脇往還である。起点が今ひとつハッキリしないのだが、左写真にある22号線の終点・茜部本郷交差点か、さもなくば21号線との交点となる岐南交差点だろう。他に岐阜県内で東海北陸を結ぶ国道としては、41号線(飛騨街道)や、酷道マニアの間では一部区間が伝説視されている157号線がある。東から41号、156号、157号の並びである。
 156号線の経路上には、郡上八幡や、世界遺産にも登録された各合掌集落が存在している。また、スキー場をはじめとするレジャースポットも多い。156号線に沿う形で近年整備が続けられている東海北陸自動車道もそうだが、この道を走っている車の顔ぶれを見る限りは、観光道路としての性格が強いように思える。詳しくは別項に譲るが、このごろでは「さくら道」の通称でも売り出し中である。
 実際のところは、比較的最近まで石川県(わけても金沢市)と名古屋市とを結ぶ道として機能していた。ただ、北陸地方の交通網整備が、東海地方のそれに立ち遅れている関係もあり、北陸自動車道や東海北陸自動車道などの新たな路線が整備されるたび、それらとの絡みで156号線の地位にも多少の浮沈が生じるようだ。



 当初、さくら道の構想は一個人の思いつきでしかなかった。しかし、これが数十年を経て沿道各自治体をも巻き込む大きな動きとなっている。
 スタート直後、156号線は岐阜の中心市街の縁に造られたスロープを登り、岐阜城のある金華山腹に掘られた岩戸トンネルに吸い込まれていく。このあたりの区間は、岐阜市から奥美濃や飛騨へと抜けていくためのバイパスなのだろう。このバイパスを通ることで、岐阜市の市街地を走っていることを実感する間もなく、山の裏側に広がる郊外地区に入り込んでしまう。気が付くと四方を山に囲まれてしまっている感じで、この風景は海のない内陸県ならではのものか。沿道の風景に関しては、この先しばらくの間は目立った変化もないまま推移していく。基本的にはごく普通の街並みである。
 岐阜市の北隣は関市。正宗や村正等と並ぶ名刀として名高い、関孫六で知られた刃物の町である。現在ではさすがに刀剣の需要は激減しているはずだが、包丁などの刃物を商う店が目に付く。
 さらに先へと進むと美濃市。美濃和紙の産地として知られていて、関市のパターンと同じくお土産に美濃和紙を扱う店もちらほらと見受けられる。また、市内の156号線からすぐ脇にそれた道沿いには「うだつ」の街並みが残されている。




 うだつとは、古く伝統的な民家の屋根に取り付けられた防火壁のことで、これを屋根に設置するのには相当の財力が必要とされた。「うだつがあがらない」とは、「うだつを付けることも出来ないような取るに足らない人物」が原義の慣用句。
 美濃市の北にあるのが郡上市だ。2004年3月1日付で、旧郡上郡(八幡町・大和町・白鳥町・高鷲村・美並村・明宝村・和良村)が合併して成立した市で、最近議論がかまびすしい『平成の大合併』の一例だ。
 とは言うものの、この近辺は旧町村単位での町おこし村おこしに精力的だった地区でもある。旧地名にちなんだスポットが多いため、郡上市になったからと言ってもそれまでの呼称が全く消滅してしまっているわけではない。郡上市の市域がかなり広く、旧町村ごとに特筆すべきものも多いので、ここでは旧名称で言うと、美濃市を抜けて最初に入るのは美並村だ。少し進んだあたりには道の駅「美並」もあり、奥美濃観光最初のチェックポイントとして機能しているのだろうか。
 このあたりでは、両側に迫る山の間、長良川の流れによって削られたらしい平地を走る。長良川鉄道、東海北陸自動車道もこの谷間の道を延びており、しばらくはこれらと互い違いに交差しながらの道行きである。




 旧美並村域にある道の駅「美並」。トイレ・売店などはあるが、相対的にはあまり大きなものではない。
 美並村の北に位置するのが八幡町。夏には30夜を夜通しで踊る郡上踊りや、美濃路の小京都として名高い、古い街並みでも知られる町だ。腰を落ち着けて観光するにも良い所である。156号線にも大型店舗が何件か軒を並べている箇所もあるが、この道は郡上八幡の市街を通らず、その脇を走り抜けていく形になっている。156号線と八幡市街は山に隔てられるような形になっており、ちょっとした隠れ里のようでもある。この郡上市街を観光をする場合には、城南町交差点を右折する必要がある。ここをまっすぐ走っていけば、国道472号経由で高山方面にも抜けられる。
 八幡界隈までの156号線はかつての郡上街道に沿って延びて来た。しかし、ここで郡上街道は東に進路を変え、高山方面に向かう道となる。これから先の道行きは、八幡あたりで郡上街道と接続していた越前街道沿いとなる。
 八幡から旧大和町にかけては、左手に長良川を見ながら、右側にはこの道と生きてきたらしい民家を見ながらの道である。まっすぐな道で信号が少ないこともあり、大和町の町域はわりあいあっさりと通り抜けてしまう。次は、旧白鳥町だ。




 八幡の旧市街は、郡上踊りのシーズンでなくてもそぞろ歩きが楽しい。
 かつて郡上郡白鳥(しろとり)町と呼ばれていた一帯は、美濃飛騨の交通の要衝とも言える場所である。現在の156号線の道筋にも東海北陸自動車道の白鳥ICがあり、向かって左手に見える油坂峠には中部縦貫自動車道の油坂峠道路もある。そして、トンネルによって峠を越える油坂峠道路に対し、尾根筋近くまで坂を登っていく国道158号線も、白鳥町内で156号線から分岐している(この先の荘川村牧戸交差点までは2路線の重複区間)。
 油坂峠を越えた先は、すでに福井県大野郡和泉村だ。福井(越前)側の158号線は、美濃から来る道と言うことで美濃街道と呼ばれている。旧八幡町あたりからは越前街道沿いに延びて来た156号線だが、この越前街道が美濃街道に接続する形となっているのである。あるいは、同じ街道が県境をまたぐことにより別々の名で呼ばれていると表現した方が正確なのだろうか。しかし、越前街道そのものはこの先の荘川村内まで続いているので、そういう表現も直感的ではないかも知れない。
 白鳥ICや158号線との交点があるあたりが、白鳥の中心市街となっており、色々な店が建ち並んでにぎわっている。そしてその先、ここまでは長良川沿いの低平地伝いにゆるゆると坂を登ってきた156号線は、一気に高度を稼ぐ山道となる。
 なお、上写真は道の駅「白鳥」前で撮影したもの。道の駅から少し北に行くと、旧郡上郡高鷲村域に入る。




 油坂峠道路。長野県松本市と福井県福井市を結ぶ中部縦貫道の中の一区間と言う位置付け。
 ただ、最近の道路建設をめぐる情勢を鑑みるに、整備計画が完遂されるかどうかはやや怪しい。
 現在は白鳥町ともども郡上市の一部になっている高鷲村は、東海三県でも屈指の高原リゾートスポットであるひるがの高原を擁する自治体だった。漢字で書くと「蛭ヶ野」となるらしいが、あまり良い字面ではないためか、現在ではどこに行っても「ひるがの」一色である。
 ひるがのに入る直前あたりは長良川の最上流部になっていて、急カーブの連続する山道を登っていると分水嶺の表示看板が目に付く。ひるがのより南に降った雨水は太平洋に、北に降った雨は日本海に注ぐ川となるのである。長良川源流もこのあたりにある。
 分水嶺を過ぎて少し行ったあたりで、周囲の土地が急に平らになり、色々な建物が建ち並ぶようになったあたりがひるがの高原だ。冬はスキー場地帯、夏は避暑地としてにぎわう場所で、比較的人の往来が少なくなるのは春秋なのだろうか。
 このひるがの高原より少し北側には道の駅「大日岳」がある。ただ、ここには専ら冬場に活躍するチェーン脱着所に、毛が生えた程度の施設しかない。どうやら日本一小さい道の駅らしい。普通の道の駅と言うよりは、スキー旅行の際の拠点として利用するのが賢いやり方かもしれない。




 156号線沿い、夫婦滝ポケットパークにある長良川源流の看板。同じデザインの分水嶺看板も、この道沿いにある。
 合併により面積に関してはかなり大きな自治体となった郡上市の北に位置するのが、大野郡荘川村だ。この村は、典型的な山村で、158号線との交点となっている牧戸交差点周辺以外は、道すがらにぽつぽつと古い民家が点在している程度である。
 実を言うとこの村には、昭和35年に完成した御母衣ダムにかなりの部分を飲み込まれたと言う経緯がある。その湖底に沈んだ村から移殖された2本の年経た桜の巨木こそが、かの有名な荘川桜なのである。156号線は牧戸の交差点を過ぎると、エメラルドグリーンに輝く人造湖・御母衣湖沿いの道になる。ここを走っていると、やがて進行方向右手に見えてくるのが荘川桜だ。オフシーズンであれば何事もなく通り過ぎてしまうような辺鄙な場所だが、例年ゴールデンウィーク頃と重なるこの桜の満開時には、遠来の客が多く押し寄せ、付近では普段なら考えられないような渋滞も発生すると言う。




 「さくら道」としての156号線の歴史は、まさに荘川桜から始まったと言っても過言ではない。沿道にそそり立つ二本の桜は、この路線を象徴する光景といえる。
 御母衣湖は、二つの村にまたがる人造湖だ。ちょうど、荘川桜の脇を通り抜けて少し行ったあたりで、道は白川村に入る。庄川の流れをせきとめて御母衣湖を作っている御母衣ダムは、この白川村側にある。一度は右手にダムを見た後、長い下り坂の途中で道はUターンする。その時、岩と粘土を積み上げて造った巨大なダムの姿を真正面に見ることになる。御母衣ダムは国内では初の本格的ロックフィル式ダムだった。
 巨大な岩壁のような御母衣ダムの直下には、ちょっとした集落がある。かつて水没を免れてからも続いてきた地区なのだろう。この集落はあまり広くないので、少し進むと再び林間の道を走ることになる。埋蔵金伝説で知られる「帰雲城埋没地」の看板が目に付く。
 そこからさらに進み、再度のダムとなる鳩谷ダムをやり過ごして少し行ったあたりが、白川郷・荻町合掌集落だ。世界遺産にも登録され、いまや一大観光地となった感はあるが、その佇まいは素朴なままだ。さすがに156号線は合掌集落をバイパスしていくが、一本脇道にそれるだけで合掌集落に御邪魔できる位置を走っている。ちゃんとした案内表示の看板もあるが、もし見過ごしてしまった場合は先に進んだ荻町交差点で右折すれば合掌集落に入れる。
 なお、白川郷を過ぎた鳩谷交差点は、東海北陸自動車道の白川郷IC(2004年5月現在では岐阜・高山方面にはまだ抜けられない)に接続している他、白山スーパー林道(冬季閉鎖)にもつながっている。




 荻町合掌集落
 単独の合掌民家であれば156号線沿いには、旧遠山家民俗館なども公開されているが、それらが一つの集落を成していることが世界遺産登録の決め手となったようだ。この界隈には世界遺産となった合掌集落がいくつもある。
 荻町合掌集落を過ぎて少し行くと、道はついに富山県東礪波郡上平村に入る。が、このあたりの県境線は複雑に入り組んでいるのが特徴で、一つ橋を渡るたびに富山県に入ったり岐阜県に戻ったりを繰り返す。くねくねと蛇行する川に沿って県境が設定されているのだが、156号線はこの川筋を縫うようにして通り抜けているためだ。「飛越七橋」などと呼ばれ、連続して七度橋を渡るのだが、そのたびに岐阜県と富山県を交互に走り抜けるわけである。写真はその飛越七橋の一つ、合掌大橋。ちなみに、飛は飛騨、越は越中を意味する。
 この県境地帯を抜けると、間もなく道の駅「上平ささら館」がある。そこそこの規模で、売店の充実度もまずまずといったところ。ここで売られているお土産は、川魚の甘露煮や栃餅、土地の人の手作りらしい工芸品など、山家の暮らしを彷彿とさせる素朴な品が中心。この近辺にも世界遺産に登録された菅沼合掌集落がある。




 道の駅から見た東海北陸自動車道。とにかく山の上のほうを走っている印象の強い高速道である。
 上平村の隣は平村。少し紛らわしい名前だ。東礪波郡城端町、西礪波郡福光町、そして石川県の金沢市方面に抜ける304号線との交点のあたりが平村の中心のようで、民家や個人商店が密集している。
 その平村の中心地を抜けると、最前の上平ささら館からさほどの距離は無いはずなのだが、ここにも道の駅「たいら」がある。上平よりはこぎれいに整備されている感じの駅で、単なるドライブインという以上のもののようだ。
 平村あたりの道は、庄川峡伝いに走っていく快走路だ。新緑の頃は特に気持ちの良いドライブコースだろう。若干きついカーブもあるので、無謀なスピードは禁物だが、道も決して悪くない。そんな峡谷地帯を抜けると、そこから先は富山の平野部である。



 庄川町に入るや否や、またまた道の駅「庄川」に出迎えられる。ここは直前の二者に比べるとシティ派?の道の駅なのだろうか。素朴さを売りにしようと言う風はない。
 さすがに庄川町は、今まで走ってきた山村に比べるとかなり開けた印象の町だ。とは言え、沿道にたくさんの民家や店舗が建ち並ぶ雑駁な感じの街並みでもない。まだまだ田園地帯を走る道の趣だ。この傾向は庄川町の隣、砺波市に入ってもあまり変化はない。ただ、このあたりの風景は単に田園風景(あるいは農村風景)とは言っても、他地域のそれとは若干趣を異にするものだ。砺波平野の村落は、「散居村」と呼ばれる独特の形態で知られる。同じ集落内の民家がひとつ所に密集しているのではなく、田畑に隔てられて点在する形となっているのである。156号線を走っていても、そうした様子をうかがうことが出来る。
 さて、砺波市はチューリップの産地として知られ、市内にある道の駅「砺波」もチューリップ公園に近接し、チューリップを売りにした道の駅のようだ。このあたりでは、毎年ゴールデンウィークにはチューリップ祭りも催されている。



 国道156号線、砺波と高岡を結ぶあたりの区間は砺波街道と呼ばれる。この砺波街道を、ゴール目指して北上しているうちに参居村の風景はなりを潜めるようになり、沿道は次第に賑わいをましていく。JR北陸本線の高架をくぐる南町交差点から先のあたりが高岡市の中心地である。もっとも、高岡の街は駅を核にして発展しているのか、大型店舗は156号線よりもう少し東側の、駅前近辺に立地しているようだ。市街には加賀藩ゆかりの高岡城址を整備した古城公園や日本三大仏の一つに数えられる高岡大仏がある。
 高岡市は、路面電車の走る街でもある。156号線の経路も、この路線電車区間と重複している。距離にして数百mほど、路面電車のレールを見ながら走った後、広小路交差点で左折すると、全200km余りの行程の終点が近づく。




 近傍から見た高岡大仏。意外に小さい?
 国道156号線の終点、高岡市・四屋交差点。北陸の最重要路線、国道8号線との交点である。少し探しては見たものの、例の如くここが156号線の終点であることを示すようなものは見当たらなかった。この交差点の直前まで、8号線はバイパス化しており、その途中には国道160号線と接続する四屋IC交差点がある。いずれも「四屋」の名を冠した交差点であることからわかるように、一応、別個の交差点となっているが二つの交差点間の距離は短い。156号線から160号線に接続する事を意図した設計なのだろう。
 それにしても何の変哲も無い交差点だ。交差する相手の8号線は、交通量が多く、しかも大型トラックなどの割合が高い。見るからに優先道路と言う感じで、ここまで数時間の付き合いだった156号線が少々気の毒でもある。




 160号線は石川県七尾市が起点、富山県氷見市を経由する国道で、156号と同じようにこの場所で8号線と接続して終わり。





ロケ地:道の駅 上平ささら館
今回使用した車
サニー(排気量:1500cc)

国道156号線総括
 全般に山間を走るイメージの強い路線だが、意外なことに急峻な坂道は、ひるがの高原前後で目立つ程度。その点では、さほどの高出力は要求されない。近年に整備が進められた結果、山岳ドライブ特有のヘアピンカーブ、ブラインドカーブ、そして狭路区間も少なくなり、随分走り易くなったようだ。


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