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 交通事故等による逸失利益計算の実務
(計算方法を中心として)
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2001.11.19〜2022.01
 1 不法行為による損害の分類
 2 逸失利益の計算
 3 逸失利益の一般計算式
     (1)死亡の場合
     (2)後遺障害の場合
 4 逸失利益の計算要素
     (1)死亡の場合
     (2)後遺障害の場合
 5 逸失利益の計算例
     (1)死亡の場合
     (2)後遺障害の場合
 6 逸失利益に関する最高裁判例
 7 逸失利益に関する参考文献


1 不法行為による損害の分類
 交通事故等の不法行為による損害は,これを分類すれば,人身損害と物件損害に分けられる。
 さらに,人身損害は,財産的損害と精神的損害(慰謝料)に分類される。
 このうち財産的損害は,積極損害と消極損害に分類される。
 損害→┌人身損害→┌財産的損害→┌積極損害
    │     │      └消極損害−逸失利益
    │     └精神的損害
    └物件損害

 「積極損害」は,事故によって被害者が支出させられたことによる損害である。治療費,付添看護費,諸雑費,葬儀費,弁護士費用等がこれに当たる。
 「消極損害」は,被害者が事故に遭わなければ得られたであろうと考えられる利益である。休業損害,逸失利益等がこれに当たる。


2 逸失利益の計算
 逸失利益は,不法行為(事故)がなければ得られたであろう将来の利益である。収入は,普通,月又は年単位で取得するが,逸失利益として請求するときは,一括して請求するのが一般的である。
 「積極損害」が過去発生型の損害であり,証拠による認定が比較的容易であるのに対し,逸失利益は,将来発生型の損害であり,どのように算定するかは,損害の捉え方,評価方法によって異なる。その損害の算定をめぐっては理論的対立の激しい分野の代表である。
 本質論をめぐっては,差額説(現実損害説,所得喪失説)と労働能力喪失説の二大対立があり,その他の説(死傷損害説,評価段階説等)もあるが,現行実務では,基本的に差額説に基づきながら,労働能力喪失説の考え方も取り入れられている。
 逸失利益の算出方法としては,現在,大枠でほぼ固定され,一般的な計算式は,いずれの説によっても共通している。
 以下は,その概説である。


3 逸失利益の一般計算式
(1) 死亡逸失利益
 事故により死亡した場合の逸失利益は,次のような計算式で算出される。
 基礎収入(年収)×(1−生活費控除率)× 中間利息控除係数 (計算式1)

 この場合の「中間利息控除係数」としては,労働能力喪失(就労可能)期間に対応するライプニッツ係数又はホフマン係数(新ホフマン係数ともいう。)を使用する。
 この死亡逸失利益は,下記の計算式2における労働能力喪失率を100%(=1)として,新たに損益相殺として生活費控除の操作を加えたものとみることができる。

 なお,未就労年少者(18歳未満の者)の場合には,次の計算式によると考えられている。
 男女別平均賃金(年収)×(1−生活費控除率)×(67歳までの中間利息控除係数−18歳までの中間利息控除係数)


(2) 後遺障害逸失利益
 事故により後遺障害を蒙った場合は,一般に,次のような計算式で逸失利益が算出される。
 基礎収入(年収)× 労働能力喪失率 × 中間利息控除係数 (計算式2)

 この場合の「中間利息控除係数」としては,就労可能期間に対応するライプニッツ係数又はホフマン係数を使用する。

 なお,未就労年少者(18歳未満の者)の場合には,次の計算式によると考えられている。
 男女別平均賃金(年収)×労働能力喪失率×(67歳までの中間控除係数−18歳までの中間利息控除係数)


4 逸失利益の計算要素
(1) 死亡逸失利益の場合
 [1] 基礎収入(年収)の認定
   ア 有職者の場合
給料所得者  原則として,事故前の現実の収入額を基礎とする。
 賃金センサスの平均賃金額を下回るときは,平均賃金による。
 この賃金額には,本給,各種諸手当,賞与等が含まれる。
事業所得者  原則として,事故前の申告額を基礎とするが,賃金センサスの平均賃金額を参酌して認定する。
家事従事者(主婦)  原則として,賃金センサスの女子労働者の平均賃金額を基礎とする。
 それ以上の収入があるときは,現実の収入額を基礎とする。

   イ 無職者の場合
幼児,生徒,学生  原則として,賃金センサスの平均賃金額を基礎とする。
高齢者  就労の蓋然性があれば,賃金センサスの賃金額を基礎とする。
 就労の蓋然性がなければ,逸失利益の認定は困難となる。
失業者  再就職しての稼働が確実であれば,予定収入額を基礎とする。
 失業前の収入も参考とするが,賃金センサスの平均賃金以下であれば,平均賃金による。


 [2] 控除の対象
   ア 所得税
 所得税は,控除しないとするのが実務である。
   イ 幼児の養育費
 将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきか。
 最高裁は,控除すべきでないとして,非控除説を採用している。
 (最高裁2小判決昭和53.10.20民集32.7.1500



 [3] 生活費控除率の設定
 被害者が死亡した場合には生活費がかからなくなることから,一般に次のような割合で控除が考えられている。
(1) 扶養家族のある者  職業,収入の程度,扶養家族数により,30〜40%
(2) 女子(主婦,女児を含む。)  30〜40%
(3) 男子(独身,幼児を含む。)  50%
 (参考) 任意保険の支払基準によれば,被扶養者の人数に応じて,次のような率になっている。
(1) 被扶養者がいない場合  50%
(2) 被扶養者が1人の場合  40%
(3) 被扶養者が2人の場合  35%
(4) 被扶養者が3人以上の場合  30%
          

 [4] 稼働可能期間の設定
稼働(就労)可能期間 平均的就労可能期間は,
原則として,18歳から67歳まで(49年間)と考えられている。
始期 就労可能な高校卒業時の18歳とされている。
 大学進学や卒業が確実視されている場合には22歳とされることもある。
終期  一応の基準として,67歳とされている。
 就労可能年数は,一般に
  55歳未満の者は,67歳から被害者の年齢を控除した年数
  55歳以上の者については,簡易生命表により求めた平均余命年数の2分の1とされている。
 この年数は,職業や健康状態によって,延長されたり短縮されたりすることがある。
 就労可能年数とライプニッツ係数は,係数算出の18歳未満,18歳以上のボタンで見ることができる。


 [5] 中間利息の控除方式
 将来当然得られるであろう利益(得べかりし利益)を,前にさかのぼって(事故発生時に)まとめて一時払いを受けられることから,その間の利息が控除される。
 この中間利息を控除する計算方式には,ライプニッツ式とホフマン式があり,従前はホフマン式が主流の時期もあり,逸失利益に関する最高裁判例でも,いずれの方式も是認されていたが,近年,裁判実務では,ライプニッツ方式に統一されつつある。
 平成11年11月,東京,大阪,名古屋各地方裁判所の交通事故損害賠償請求訴訟専門部により,「交通事故による逸失利益の算定における中間利息の控除方式については,特段の事情のない限り,年5分の割合によるライプニッツ方式を採用する」と提言されている(平成11年11月22日付け東京・大阪・名古屋3地方裁判所の共同提言(判例時報1692号162頁,判例タイムズ1014号61頁,ジュリスト1171号124頁)参照)。
4 共同提言の骨子
 交通事故による逸失利益の算定において、原則として、幼児、生徒、学生の場合、専業主婦の場合、及び、比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金又は学歴平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については、基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金によることとし、それ以外の者の場合については、事故前の実収入額によることとする。
 交通事故による逸失利益の算定における中間利息の控除方法については、特段の事情のない限り、年5分の割合によるライプニッツ方式を採用する。
 上記のA及びBによる運用は、特段の事情のない限り、交通事故の発生時点や提訴時点の前後を問わず、平成12年1月1日以降に口頭弁論を終結した事件ついて、同日から実施する。
5 共同提言の運用
 なお、この共同提言の内容が、各裁判官の個々の事件における判断内容を拘束するものではないことは当然のことである。
 現在,損害保険会社等が保険金等を支払うときの支払基準を定める国土交通省・金融庁平成13年告示第1号「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成14年4月1日から施行)では,逸失利益の算出はライプニッツ係数によることが明記されている。


 [6] 中間利息控除の利率
 従前の裁判実務では全て年5%で計算してきたが,長引く低金利事情を考慮して,平成8年頃から,下表のとおり,年2〜4%の利率を採用する下級審裁判例も多数出ていた。
(1) 福岡地裁判決平成8.2.13判例タイムズ900号251頁(4%採用)
(2) 東京高裁判決平成12.3.22判例時報1712号143頁(4%採用)
(3) 長野地裁諏訪支部判決平成12.11.14判例時報1759号94頁,判例タイムズ1074号226頁(3%採用)
(4) 津地裁熊野支部判決平成12.12.26判例時報1763号206頁(2%採用)
(5) 札幌地裁小樽支部判決平成15.11.28判例時報1852号130頁(3%採用)
(6) 津地裁四日市支部判決平成13.9.4判例時報1770号131頁,判例タイムズ1113号209頁(2%採用)
(7) 札幌地裁小樽支部判決平成15.11.28判例時報1852号130頁(3%採用)
 しかし,最高裁は,最近,「損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率(年5分)によらなければならない」として,この争点に終止符を打った(最三小判平成17.6.14 民集第59巻5号983頁(平成16年(受)1888号損害賠償請求事件))。
 ところが,将来とも低金利状況が見込まれる中,年5%複利で計算するライプニッツ方式では中間利息の控除額が多くて被害者に酷であることなどから,上記平成17年最高裁判例後,下級裁判例では,ライプニッツ方式採用かホフマン方式採用かが争点となり,異なる判決が出始めている。
 * ライプニッツ方式かホフマン方式か(判例を見る)
 (1) ライプニッツ方式採用
   ・札幌地判平成17.11.2 (裁判所Web判例集),その他多数
 (2) ホフマン方式採用
   ・福岡高判平成17.8.9 判タ1209号211頁
   ・札幌高判平成20.4.18 (裁判所Web判例集)


(2) 後遺障害逸失利益の場合
 [1] 基礎収入額の算定方法
    死亡逸失利益に同じ

 [2] 労働能力喪失率の算定
 被害者の性別,年齢,職種,障害の部位・程度,事故前後における具体的な稼働状況,生活状況等を総合的に考慮して,喪失割合が認定される。
 この場合,自動車損害賠償保障法施行令2条別表(障害等級表)に記載された障害程度に応じて定められた障害等級を基に,労働能力喪失率表が利用されている。(参考:労働基準局通牒(昭和32年7月2日基発第551号別表))

 [3] 労働能力喪失期間の算定
 労働能力喪失期間とは,後遺障害により労働能力喪失又は低下が継続する期間である。
 一般に,症状固定時から就労可能な満67歳までと考えられている。

 [4] 中間利息の控除方式
    一般に,症状固定時から満67歳までと考えられている。



5 逸失利益の計算例
 ここでは,種々の事案に応じて適用できる一般計算式を中心として扱うので,前述の共同提言(判例時報1692号162頁)の実務的事例の中から計算の仕方としての代表例を借用(事例内容は要約)して次に示すこととする(【】内は事例番号を示す)。

(1) 死亡逸失利益
 [1] 給与所得者の33歳男子【事例1】
  事故前の年収  495万円
  生活費控除率   50%
  67歳までの34年間に対応するライプニッツ係数  16.1929
 【計算式】
    495万円×(1−0.5)×16.1929=4007万7427円

 [2] 半年後医師として勤務予定の29歳男子の家庭教師【事例8】
  事故前の年収   72万円(半年間家庭教師アルバイト)
  (平成9年男子全年齢平均年収の1199万0100円と認定)
  生活費控除率    40%
  半年間に対応するライプニッツ係数        0.4819
  30歳から67歳までの37年間のライプニッツ係数  16.7905
 【計算式】
   72万円×(1−0.4)×0.4819+1199万0100円×(1−0.4)×(16.7905−0.4819)=1億1753万3226円

 [3] 高校3年在学中で大学進学希望の18歳女子【事例18】
  事故前の収入   なし
  (平成9年大卒女子の全年齢平均賃金の448万6700円と認定)
  生活費控除率   30%
  18歳から67歳まで49年間に対応するライプニッツ係数 18.1687
  大学在学中の4年に対応するライプニッツ係数     3.5459
 【計算式】
   448万6700円×(1−0.3)×(18.1687−3.5459)=4592万5681円


(2) 後遺障害の場合
 [1] 大学卒業後信用金庫に就職して2年目の24歳男子【事例2】
  事故前の収入   年収290万円
  (平成9年大卒男子全年齢平均賃金の687万7400円と認定)
  労働能力喪失率  35%(傷害)
  24歳から67歳までの43年間に対応するライプニッツ係数 17.5459
 【計算式】
   687万7400円×0.35×17.5459=4223万4560円

 [2] 10歳の男子【事例17】
  事故前の収入   なし
  (平成9年男子全年齢平均賃金の575万0800円と認定)
  労働能力喪失率  35%(傷害)
  10歳から67歳までの57年間に対応するライプニッツ係数 18.7605
  10歳から18歳までの8年間に対応するライプニッツ係数  6.4632
 【計算式】
   575万0800円×0.35×(18.7605−6.4632)=2475万1759円

 [3] 高校卒業後プロ野球の投手として一軍で活躍している28歳男子【事例9】
  事故前の収入   事故前年は年収6500万円(申告所得額)
  (28歳から32歳までの5年間は年収6500万円を基礎収入とし,
  その後は平成9年全年齢平均賃金を基礎収入として67歳までの逸失利益を算定)
  労働能力喪失率  20%(傷害)
  当初の5年間に対応するライプニッツ係数        4.3294
  28歳から67歳までの39年間に対応するライプニッツ係数 17.0170
 【計算式】
   6500万円×0.2×4.3294+575万0800円×0.2×(17.0170−4.3294)=6654万5570円


6 逸失利益に関する最高裁判例
【別紙のとおり】


7 逸失利益に関する参考文献
(1) 鷺岡康雄「17 後遺障害と逸失利益」,喜如嘉貢「18 女児の逸失利益」,吉本俊雄「20 サラリーマンの逸失利益」(吉田秀文・塩崎勤編集「裁判実務体系第8巻・民事交通・労働災害訴訟法」(青林書院1985年)
(2) 木宮高彦外「注釈自動車損害賠償保障法」66頁以下「逸失利益」の項(有斐閣1986年)
(3) 澤井裕「未就労年少者の死亡損失 最高裁判例の軌跡」石田外還暦記念論文集中巻「損害賠償法の課題と展望」所収(日本評論社1990年)
(4) 吉岡進「逸失利益の本質と算定」(加藤一郎・木宮高彦編「自動車事故の損害賠償と保険」(有斐閣1992年))
(5) 北野隆之・藤村和夫著「詳解後遺障害逸失利益・裁判例の分析と新基準試案」(ぎょうせい1996年)
(6) 高野真人「後遺障害の評価方法と現行実務の問題点」(山田卓生編集代表「新・現代損害賠償法講座5」(日本評論社1997年)
(7) 損害賠償算定基準研究会編「注解交通損害賠償算定基準(上)」(改訂版)(ぎょうせい1998年)
(8) 倉田卓次外編集代表「平成9年度11月版交通事故損害賠償必携(資料編)」302頁以下(新日本法規出版株式会社1997年)
(9) 山口成樹「人身損害賠償と逸失利益(総論)」(山田卓生編集代表「新・現代損害賠償法講座6」(日本評論社1998年)
(10) 別冊ジュリスト「交通事故判例百選」(No.152)掲載の藤井正博外「逸失利益(1)〜(7)」(有斐閣1999年)
(11) 東京三弁護士会交通事故処理委員会等編「損害賠償額算定基準」(赤い本2001)
(12) 高野真人「中間利息の控除についてーライプニッツ式への統一と5%の是非ー」(法律のひろば54巻12号30頁)
(13) 加賀山茂「逸失利益(4)−中間利息控除(ホフマン方式)」別冊ジュリスト「交通事故判例百選」(No.152)
(14) 大島眞一「ライプニッツ方式とホフマン方式」判例タイムズ1228号(2009年)



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