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最二小判平成16.7.9 集民第214号709頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
貸金業者が貸金の弁済を受けてから7ないし10日以上後に債務者に領収書を交付したとしても,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用要件である同法18条1項所定の事項を記載した書面の弁済直後における交付がされたものとみることはできない。
(参照法条) 貸金業の規制等に関する法律18条1項,貸金業の規制等に関する法律43条1項,利息制限法1条1項
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(判決理由抜粋)
3 原審は,次のとおり判断し,上告人株式会社Y1の請求を棄却し,被上告人
の請求を一部認容した。
(1) 利息制限法2条は,利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適
用の仕方,すなわち,受領額を元本として計算した場合の利率が同項の制限に服す
ることを定めているのであるから,法43条1項が一定の要件の下に利息制限法1
条1項の規定の適用を排除しているのは,利息の天引きがされた場合の規定である
同法2条の規定の適用をも排除する趣旨と解するのが相当である。
したがって,利
息の天引きについても,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されること
を認識した上でその天引きを承諾したのであれば,法43条1項所定の任意の弁済
に当たる。
利息の天引きがされた貸付け1から30までについては,被上告人が上告人株式
会社Y1に対して法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」と
いう。)及び法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)
をいずれも交付した事実が認められ,法43条1項の規定の適用要件を満たすもの
ということができる。
(2) 利息の天引きがされていない貸付け31から33までについては,被上告
人が上告人株式会社Y1に対して17条書面を交付しており,かつ,各弁済につい
ては,被上告人は,上告人株式会社Y1から各弁済を受けた都度,直ちに,18条
書面を上告人株式会社Y1に対して交付したものということができる。
したがって,上記各弁済については,法43条1項により有効な利息の債務の弁
済とみなされる。
4 しかしながら,原審の上記判断は,いずれも是認することができない。その
理由は,次のとおりである。
(1) 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場
合における天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解するのが相
当である(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2
月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
したがって,貸付け1
から30までについては,法43条1項の規定の適用要件を欠くものというべきで
ある。これと異なる原審の前記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反がある。
(2) 法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部
について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,18条書面をその弁済をした者
に交付しなければならない旨を定めている。
そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに
交付することが義務付けられているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後
にしなければならないものと解すべきである(前掲最高裁平成16年2月20日第
二小法廷判決参照)。
【要旨】前記のとおり,被上告人は,前記各弁済を受けてから7ないし10日以
上後に上告人株式会社Y1に対して本件各領収書を交付しているが,これをもって
,上記各弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできない(なお,前
記事実関係によれば,本件において,上記各弁済について法43条1項の規定の適
用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはできない。)。
したがって
,貸付け31から33までについても,法43条1項の規定の適用要件を欠くもの
というべきである。これと異なる原審の前記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼ
すことが明らかな法令の違反がある。
5 以上によれば,上記の各点についての論旨はいずれも理由があり,その余の
論旨及び上告理由について判断するまでもなく,原判決中上告人らの敗訴部分は破
棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審
に差し戻すこととする。
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