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最二小判平成19.7.13 民集第61巻5号1980頁 (裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
1 貸金業者が返済方式を元利均等方式とする貸付けをするに際し,貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に当たるものとして借用証書の写しを借主に交付した場合において,(1)当該借用証書写しの「各回の支払金額」欄に,一定額の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があり,償還表は借用証書写しと併せて一体の書面をなすものとされ,各回の返済金額はそれによって明らかにすることとされていること,(2)「各回の支払金額」欄に元利金として記載されている一定額と償還表に記載された最終回の返済金額が一致していないことなど判示の事実関係の下では,償還表の交付がなければ,同項の要求する各回の「返済金額」の記載がある書面の交付があったとはいえない。
2 貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したが,その受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,民法704条の「悪意の受益者」であると推定される。
(参照法条) (1,2につき)貸金業の規制等に関する法律43条1項,利息制限法1条1項 (1につき)貸金業の規制等に関する法律17条1項,貸金業の規制等に関する法律施行規則13条1項1号チ (2につき)民法704条
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(判決理由抜粋)
3 原審は,次のとおり判断して,本件各契約書面は,貸金業法17条1項所定
の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)ということができるとし
て,同法18条1項所定の事項を記載した書面の交付を欠く弁済を除く本件各弁済
について同法43条1項が適用されることを前提に過払金の額を算定し,かつ,過
払金について,被上告人は本訴の訴状が送達されるまでは悪意の受益者であるとい
うことはできないとした。
(1) 本件各契約書面には,「各回の支払金額」欄に元利金として一定額の記載
があるから,本件@〜J貸付けに係る本件各契約書面は,償還表が別紙として添付
されているか否かにかかわらず,貸金業法17条1項9号,貸金業の規制等に関す
る法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チの各回の「返済金
額」の記載要件を充足する。
(2) 民法704条にいう「悪意」とは,法的に不当利得の返還義務を負ってい
ることを認識していることを意味するものであり,貸金業者において貸金業法43
条1項が適用される可能性があることを認識している場合には上記の認識があると
はいえない。貸金業者は,資金を高利で運用して利益を得るという経済活動をして
いるとはいえ,個々の顧客について常に同項の適用の有無を把握していたと断定す
ることはできず,このことは被上告人についても同様である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1) 原審の上記3(1)の判断について
貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,
17条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化す
ることで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者
間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると
解されるから,貸金業法17条1項所定の事項の記載があるとして交付された書面
の記載内容が正確でないときや明確でないときには,同法43条1項の適用要件を
欠くというべきである(最高裁平成15年(受)第1653号同18年1月24日
第三小法廷判決・民集60巻1号319頁参照)。
これを本件についてみると,17条書面には各回の「返済金額」を記載しなけれ
ばならないところ(貸金業法17条1項9号(平成12年法律第112号による改
正前は同項8号),施行規則13条1項1号チ),前記事実関係等によれば,本件
各契約書面の「各回の支払金額」欄には「別紙償還表記載のとおりとします。」と
の記載があり,償還表は本件各契約書面と併せて一体の書面をなすものとされ,各
回の返済金額はそれによって明らかにすることとされているものであって,「各回
の支払金額」欄に各回に支払うべき元利金が記載されているとしても,最終回の返
済金額はそれと一致しないことが多く,現に本件においても相違しているのであ
り,その記載によって各回の返済金額が正確に表示されるものとはいえないという
べきである。
それにもかかわらず,原審は,本件@〜J貸付けにつき,償還表の交付の有無に
ついての認定判断をしないで,本件各契約書面の交付をもって,17条書面の交付
があったものと認められると判断したものであるから,原審の上記3(1)の判断に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(2) 原審の上記3(2)の判断について
金銭を目的とする消費貸借において利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,
単に「制限利率」という。)を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効で
あって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,
貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の
弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨か
らすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残
元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として
借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。
そうすると,
貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受
領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同
項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったこ
とについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因
がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受
益者」であると推定されるものというべきである。
これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人
は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過
部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,少なくともその一部については貸金
業法43条1項の適用が認められないというのであるから,上記特段の事情のない
限り,過払金の取得について悪意の受益者であると推定されるものというべきであ
る。
そうすると,上記特段の事情の有無について判断することなく,貸金業者におい
て貸金業法43条1項が適用される可能性があることを認識している場合には悪意
の受益者ということはできないとして,同項が適用されない弁済について被上告人
は訴状送達の日までは悪意の受益者であるということはできないとした原審の上記
3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべ
きである。
5 以上によれば,論旨はいずれも理由があり,原判決中,上告人の敗訴部分の
うち,不当利得返還請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,償還表の交付の
有無,上記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,上記部分につき
本件を原審に差し戻すこととする。
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