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 最二小判平成20.1.18 民集第62巻1号28頁 (裁判所判例検索システム)
(判決要旨)
 1 同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されない。

 2 同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合において,下記の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができるときには,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するものと解するのが相当である。
         記
 第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等

(参照法条) (1,2につき)民法488条,利息制限法1条1項
(判決理由抜粋)
 3 原審は,次のとおり判示して,第1審判決中,被上告人の過払金返還請求の うちの一部を棄却した部分を取り消し,上告人に対し,第1審の認容額である28 万7552円及びうち27万2973円に対する平成17年11月19日から支払 済みまで年5分の割合による金員に加えて,43万8157円及びうち41万48 29円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じた。

 (1) 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返される金銭 消費貸借契約においては,借主は,借入総額の減少を望み,複数の権利関係が発生 するような事態が生じることは望まないのが通常であると考えられるから,仮にい ったん約定利息に基づく元利金が完済され,その後新たな借入れがされた場合で も,少なくともそれらの取引が一連のものであり,実質上一個のものとして観念さ れるときは,利息制限法違反により生じた過払金は新たな借入金元本の弁済に当然 に充当されるものと解するのが相当である。

 (2) 本件においては,基本契約1の完済時から基本契約2の締結時まで取引中 断期間が約3年間と長期間に渡ったものの,この間に基本契約1を終了させる手続 が執られた事実はないこと,基本契約2締結の際の審査手続も基本契約1が従前ど おり継続されることの確認手続にすぎなかったとみることができることを考慮する と,基本契約1と基本契約2とで利率と遅延損害金の率が若干異なっており,毎月 の弁済期日が異なっているとしても,基本契約1及び基本契約2は,借増しと弁済 が繰り返される一連の貸借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボ ルビング方式の金銭消費貸借契約を成すと解するのが相当であるから,基本契約1 につき平成7年7月19日の弁済時に生じた過払金42万9657円は,その後平 成10年6月8日に50万円の貸付けがされた時点で,何らの意思表示をすること なく同貸付金債務に当然に充当される(したがって,基本契約1の取引により生じ た過払金について,上告人の主張に係る消滅時効は成立しない。)。

これにより, 平成10年6月8日から平成17年7月7日までの借入れ及び弁済について,制限 超過部分を元本に充当されたものとして計算をすると,法定金利計算書1の番号7 5から220までに記載のとおり,平成17年7月7日の時点において過払金元金 68万7802円が,同年11月18日までに過払金利息3万7907円がそれぞ れ発生している。

 これに対し,第1審判決は,平成7年7月19日に生じた過払金42万9657 円は平成10年6月8日の貸付金債務に充当されないとする判断を前提として被上 告人の請求を一部認容しているが,その判断は誤りであるから,第1審の認容額に 加えて上記のとおりの金員の支払を命ずる。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。

 (1) 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されること を予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金 のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発 生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず, その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契 約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引によ り発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事 情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基 づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である最高裁平成18年 (受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182 頁最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集 61巻4号1537頁参照)。

そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が 反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に 基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無, 借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無, 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間にお ける貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と 第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基 本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引 と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価す ることができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。

 (2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく 取引について,約定利率に基づく計算上は元利金が完済される結果となった平成7 年7月19日の時点において,各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過 払金42万9657円が発生したが,その当時上告人と被上告人との間には他の借 入金債務は存在せず,その後約3年を経過した平成10年6月8日になって改めて 基本契約2が締結され,それ以降は基本契約2に基づく取引が行われたというので あるから,基本契約1に基づく取引と基本契約2に基づく取引とが事実上1個の連 続した貸付取引であると評価することができる場合に当たるなど特段の事情のない 限り,基本契約1に基づく取引により生じた過払金は,基本契約2に基づく取引に 係る債務には充当されないというべきである。

 原審は,基本契約1と基本契約2は,単に借増しと弁済が繰り返される一連の貸 借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費 貸借契約を成すと解するのが相当であることを根拠として,基本契約1に基づく取 引により生じた過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されると する。しかし,本件においては,基本契約1に基づく最終の弁済から約3年間が経 過した後に改めて基本契約2が締結されたこと,基本契約1と基本契約2は利息, 遅延損害金の利率を異にすることなど前記の事実関係を前提とすれば,原審の認定 した事情のみからは,上記特段の事情が存在すると解することはできない。

 そうすると,本件において,上記特段の事情の有無について判断することなく, 上記過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されるとした原審の 判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,主文第1項及び第2項は破棄 を免れない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため, 本件を原審に差し戻すこととする。





2013.2-

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