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最一小判平成23.7.7 集民第237号139頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合において,上記債権を譲渡した業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんにより,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が上記債権を譲り受けた業者に当然に移転する,あるいは,当該業者が上記取引に係る過払金返還債務を譲渡の対象に含まれる貸金債権と一体のものとして当然に承継すると解することはできない。
(参照法条) 民法91条,民法703条,民法第3編第1章第4節(債務引受)
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(判決理由抜粋)
3 原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判
断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
(1) 本件譲渡契約は営業譲渡契約であるから,特段の事情がない限り,Aの営
業に関する債権のみならず,金銭消費貸借取引に係る契約上の地位も上告人に移転
したというべきである。
(2) 上告人は,本件譲渡契約には上告人において本件債務を承継しない旨の定
めがあると主張する。しかし,金銭消費貸借取引に係る基本契約に基づく貸金債権
と過払金返還債務とは表裏一体の関係にあり密接に関連するところ,過払金返還債
務のみを承継の対象から除外すると,借主は取引期間全体につき弁済金の充当計算
をして過払金の返還を請求する利益を喪失するのであるから,借主がこのことを承
知の上で金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転を承諾したなど特段の事情が
ない限り,過払金返還債務も承継の対象になるというべきである。
本件において,
上記特段の事情は認められず,本件債務は上告人に承継され,上記のような定めが
あることは,本件債務の承継を否定する根拠にならない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以
下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有
する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべ
きであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間
の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転する,あるいは,
譲受業者が上記金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務を上記譲渡の対象に含まれ
る貸金債権と一体のものとして当然に承継すると解することはできない(最高裁平
成22年(受)第1238号,同年(オ)第1187号同23年3月22日第三小
法廷判決・裁判集民事236号登載予定参照)。
そして,借主と譲渡業者との間の
金銭消費貸借取引に係る基本契約が,過払金が発生した場合にはこれをその後に発
生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであったとしても,借主は
当然に貸金債権の一括譲渡の前後を通算し弁済金の充当計算をして過払金の返還を
請求する利益を有するものではなく,このような利益を喪失することを根拠に,譲
受業者が上記取引に係る過払金返還債務を承継すると解することもできない。
前記事実関係によれば,本件譲渡契約において,上告人は本件債務を承継しない
旨が明確に合意されているのであって,上告人は本件債務を承継せず,その支払義
務を負わないというべきである。
5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法が
ある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,不服申立ての範囲
である106万0061円及びこれに対する平成21年8月18日から支払済みま
で年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れな
い。 そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分及び上告人の民訴法260条2
項の裁判を求める申立てにつき,本件を原審に差し戻すこととする。
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