|
最一小判平成23.7.14 集民第237号263頁 (裁判所判例検索システム)
|
(判決要旨)
金銭消費貸借に係る基本契約が順次締結され,これらに基づく金銭の借入れと弁済が繰り返された場合において,先に締結された基本契約に基づく最終の弁済からその後に締結された基本契約に基づく最初の貸付けまでの間に,約1年6か月ないし約2年4か月の期間があるにもかかわらず,これらの期間を考慮することなく,各基本契約に当初の契約期間の経過後も当事者からの申出がない限り当該契約を2年間継続し,その後も同様とする旨の定めが置かれていることから,先に締結された基本契約に基づく取引により発生した各過払金をその後に締結された基本契約に基づく取引に係る各借入金債務に充当する旨の合意が存在するとした原審の判断には,違法がある。
(補足意見がある。)
(参照法条) 民法488条,利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項
|
(判決理由抜粋)
3 原審は,上記事実関係の下において,基本契約1ないし3には本件自動継続
条項が置かれていることから,基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基
づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の
貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けま
での各期間のいずれにおいても,2年ごとの契約期間の自動継続がされていたとし
て,上記各期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は,事実上
1個の連続した貸付取引であり,基本契約1ないし3に基づく取引により発生した
各過払金をそれぞれ基本契約2ないし4に基づく取引に係る借入金債務に充当する
旨の合意(以下「本件過払金充当合意」という。)が存在すると判断して,原告の
請求を認容した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定
した基本契約(以下「第1の基本契約」という。)が締結され,この基本契約に基
づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発
生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両
者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基
本契約(以下「第2の基本契約」という。)が締結され,第2の基本契約に基づく
取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した
過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限
り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に
係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第2
268号同20年1月18日第二小法廷判決・民集62巻1号28頁)。
そして,
第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれ
に基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の
基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行
されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から
第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の
基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の基本契約における利率等の契約条
件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが
終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約とが事実上1個の連続し
た貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解
するのが相当である(前記第二小法廷判決)。
しかるに,原審は,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく最終の弁済から
基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3
に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく
最初の貸付けまで,それぞれ約1年6か月,約2年2か月及び約2年4か月の期間
があるにもかかわらず,基本契約1ないし3に本件自動継続条項が置かれているこ
とから,これらの期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は事
実上1個の連続した取引であり,本件過払金充当合意が存在するとしているのであ
るから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があ
る。
論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記特段の事情の有無
等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
|