実務の友   消費者金融等に関する判例集
最新更新日2002.9.5-2005.06.19
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1 金銭消費貸借と公序良俗違反
    1 最高裁2小判昭30.10.7民集9巻11号1616頁
    2 最高裁1小判昭61.9.4判例タイムズ624号138頁
    3 最高裁3小判昭29.8.31民集8巻8号1557頁
    4 最高裁1小判昭32.9.5民集11巻9号1479頁
    5 大阪高裁判平成8.1.23判例時報1569号62頁
    6 東京高裁判平成13.2.20判例時報1740号46頁
    7 東京高裁判平成14.10.3判例時報1804号41頁
    8 東京地裁平成16.8.27判例時報1886号60頁

 (参考)   超高金利・やみ金に関する判例集



1 金銭消費貸借と公序良俗違反
 1 公序良俗違反と金銭消費貸借契約の効力
 ○ 最高裁2小判昭30.10.7民集9巻11号1616頁,判例解説民事篇昭和30年度186頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 「酌婦としての労働契約が公序良俗に反し無効である場合には,これに伴い消費貸借名義で交付された金員の返還請求は許されない。」


 2 公序良俗違反と金銭消費貸借契約の効力
 ○ 最高裁1小判昭61.9.4判例タイムズ624号138頁,判例時報1215号47頁
(判決要旨)
 「貸与される金銭が賭博の用に供されるものであることを知ってする金銭消費貸借契約は公序良俗に違反し無効であると解するのが相当である(最高裁昭和46年(オ)第1177号同47年4月25日第三小法廷判決・裁判集民事105号855頁)。」

 3 消費貸借成立のいきさつに不法の点があった場合における貸金返還請求と民法90条,708条の適用の有無
 ○ 最高裁3小判昭29.8.31民集8巻8号1557頁,判例解説民事篇昭和29年度128頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 消費貸借成立のいきさつにおいて,貸主の側に多少の不法の点があったとしても,借主の側にも不法の点があり,前者の不法性が後者のそれに比し極めて微弱なものにすぎない場合には,民法第90条及び第708条は適用がなく,貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するを相当とする。

(判決理由抜粋)
 「民法第708条は,社会的妥当性を欠く行為を為しその実現を望む者に助力を拒まんとする私法の理想の要請を達せんとする民法第90条と並び,社会的妥当性を欠く行為の結果の復旧を望む者に助力を拒まんとする私法の理想の要請を達せんとする規定であるといわれている。社会的妥当性を欠く行為の実現を防止せんとする場合はその適用の結果も大体妥当性に合致するであろうけれども,すでに給付された物の返還請求を拒否する場合は,その適用の結果は却て妥当性に反する場合が非常に多いから,その適用については十分の考慮を要するものである。本件は給付の原因たる行為の無効を主張して不当利得の返還請求をするものではなく,消費貸借の有効を主張してその弁済を求めるものである。それゆえ第一次においては民法90条の問題であるけれども,要物契約である関係上不法な動機のための金銭の交付はすで完了してしまっており,残るはその返還請求権だけであって,この請求は何ら不法目的を実現とするものではない。それゆえ実質的には前記民法90条に関する私法理想の要請の問題ではなく,同708条に関する該要請の問題であり,その適用の結果は妥当性を欠く場合が多いのであって,このことを考慮に入れて考えなければならない。本件において原審の認定したところによると・・・密輸出に対する出資ではなく通常の貸借である。すなわち利益の分配を受けるのでもなく損失の分担もしないのであり,また貸した金につき被上告人がこれを密輸出に使用する義務を負担したとか,密輸出に使用することを貸借の要件としたとかいうものでもない。すなわち,密輸出に使用することは契約の内容とされたわけではなく,上告人はただ密輸出の資金として使用されるものと告げられながら貸与したというだけのことである。されば上告人は被上告人の要請によりやむを得ず普通の貸金をしたに過ぎないもので,本訴請求が是認されてももともと貸した金が返ってくるだけで何ら経済上の利益を得るわけではない。しかるにもし708条が適用されて請求が棄却されるとまるまる15万円の損失をしてしまうわけである。これに対して被上告人は上告人を欺罔して15万円を詐取し,これを遊蕩に費消していながら(原審認定),民法90条,708条の適用を受けると右15万円の返還義務もなくなり,甚しい不法不当の利得をすることになるであろう。この場合上告人の貸金の経路において多少の不法的分子があったとしても,右法条を適用せず本訴請求を是認して弁済を得させることと,右法条を適用して前記の如く上告人の損失において被上告人に不法な利得をさせることと,何れがより甚しく社会的妥当性に反するかは問うまでもあるまい。考えなければならないところである。前記の如き事実であってみれば,上告人が本件貸金を為すに至った経路において多少の不法的分子があったとしても,その不法的分子は甚だ微弱なもので,これを被上告人の不法に比すれば問題にならぬ程度のものである。ほとんど不法は被上告人の一方にあるといってもよい程のものであって,かかる場合はすでに交付された物の返還請求に関する限り民法第90条も第708条もその適用なきものと解するを相当とする。」

 4 月1割の利息支払の約定と公序良俗違反の有無
 ○ 最高裁1小判昭32.9.5民集11巻9号1479頁,判例解説民事篇昭和32年度190頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 消費貸借上の貸主が,借主の窮迫,軽率もしくは無経験を利用し,著しく過当な利益の獲得を目的としたことが認められない限り,利息が月1割と定められたという一事だけでは,この約定を公序良俗に反するものということはできない。

 5 早期完済契特約が公序良俗に反するとされた事例
 ○ 大阪高裁平成8.1.23判例時報1569号62頁
(判決要旨)
  消費貸借契約における早期完済特約(借主の申し入れにより,弁済期前に支払った場合には,借主は弁済期までの約定利息を支払わねばならないとする合意)が公序良俗に反するとされた事例
(判決理由抜粋)
 「以上の認定事実によると,一応本件早期完済特約の合意はあったものといえるが,例文に過ぎず,被控訴人は右特約のあることさえ知らなかったし,控訴人の担当者は被控訴人が右特約に気づいていないことを知りながら,あえて被控訴人に右特約のあることを教えなかったこと,本件特約が適用されると,被控訴人が期限の利益を放棄して返済期限前に元金残額を返還しようとする場合,借入日から返還までの期間が短ければ短いほど支払うべき未経過利息は多額となり,本件の場合でも約定通り支払った場合はもちろんのこと,減額されて支払っても右にみたとおり,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律所定の最高限度額を超える過大な利率となることを総合勘案すると,本件早期完済特約は,信義誠実の原則に照らして不当な約款であり,公序良俗に照らして無効であって,控訴人が右特約に基づき請求できるとして550万円を取得したのは法律上の原因なくして受けた利益となり,被控訴人に返還すべきものであると解すべきである。」

 6 商工ローンの契約方式が公序良俗に反し無効とされた事例
 ○ 東京高裁判平成13.2.20判例時報1740号46頁
(判決要旨)
1 商工ローン業者による根保証の法形式及び手形の利用が公序良俗に反するとされた事例
2 商工ローンの契約において根保証の文言のある承諾書が差し入れられたが,意思表示の合致がないか,心裡留保で無効であるとされた事例
3 保証人が詐欺錯誤によって保証することを商工ローン業者が容認歓迎している場合に,保証人の詐欺錯誤の主張が可能であるとされた事例
(判決理由抜粋)
(1) 被控訴人の貸付業務の場合,根保証の法形式は,保証の対象である個別の債権の内容を,保証人に不明確なものとする道具として使われている疑いが濃厚である。個別の保証であれば,保証の対象を明らかにしなければ,保証契約は成立しない。保証の対象を明らかにすれば,それに伴い,主債務者の信用状態も表面に現れてくるのが通常である。本件でも,被控訴人が乙山の既存の債務の内容を,控訴人に説明すれば,乙山が被控訴人に負う債務の総額(600万円と割引かれている手形の合計金額)と,乙山が弁済のため調達可能な資金の額(当面は割り引かれている手形の金額と同額)に差があること,そしてその差額は600万円という多額にのぼること,したがって,乙山の支払能力が十分ではなく,控訴人が保証をすれば,保証人の責任を追及される可能性があることが,露わになっていたものと認められる。
 控訴人のように,主債務者の事業内容を知りうる立場になく,主債務者の事業によって直接間接に利益を得る立場にもない者の場合は,保証をするかどうかの判断に当たって,保証の対象である債権が弁済される可能性があるかが,ほぼ唯一の判断基準であるといってよいと考えられる。そのような判断をする場合でに,保証の対象がどの債権であるかが,まずもって最も重要な事実である。その重要事実が,根保証という法形式が採用されると共に,被控訴人のように,既存債務の内容を説明しないと言う取扱いによって,曖昧にされれば,保証人は,容易に,騙され,保証の対象である債権は確実に弁済されるとの錯誤に陥るであろう。現に,本件では,そのような事態が生じているものと認められる。
 根保証の法形式が採用され,既存債務の内容が知らされない取扱いに,このような危険があることを予め告知されれば,保証人は,根保証を望まないことは明らかである。それにもかかわらず,被控訴人が根保証を求める背景には,債権の回収不能のリスクを保証人に付け替える上での便宜の問題が存在しているものと考えられる。すなわち,既存の融資金について主債務者の弁済資力が不足しているということは,債権者である被控訴人にとって,債権の回収が危ぶまれるリスクがあることを意味する。それが錯誤によってであれ,保証人によって保証されれば,債権者である被控訴人は,その負担していた回収不能のリスクを,保証人に付け替えることができる。このようなリスクの付け替えをするのに,保証人に対してリスクの存在が秘匿されていれば,保証の可能性が高まり被控訴人にとって好都合であることは否定できない。被控訴人が当事者となる訴訟では,保証人の保証意思の決定過程に錯誤や錯誤があるかどうか争われる事件が,極めて多いことは,当裁判所に顕著であり,広く知られているところでもある。それにもかかわらず,被控訴人が根保証という法形式を譲らず,しかも,本件のように既存債務の内容を知らせない取扱いをしている。
 以上検討した事実関係を総合して判断すると,被控訴人は,単に債権者として個別に保証をとる手間を省きたいということにとどまらず,それ以上に,保証人の保証の対象が不明確となり,本件のように,錯誤に陥って保証する者が現れることを,容認し,むしろこれを歓迎しているものと評価されてもやむを得ないものと認められる。
 平成11年12月17日の法律第155号による貸金業の規制等に関する法律の一部改正などによって,根保証の法形式の利用による保証対象の不明確化の弊害を防止する措置が執られた。しかし,そのような法改正の前でも,根保証の法形式をこのように保証対象を不明確化するために利用すること自体が許されていたわけではない。そのような利用が不当なものであり放置できないことから,国会は,法律を改正したものと認められる。被控訴人による根保証の法形式の利用は,公の秩序である法の弱点を逆手に取って,自己の不法な利益を図ろうとするものであり,実質上公序良俗に反するものと認めるのが相当である。
(2) さらに,被控訴人の貸付業務の場合,根保証の法形式の利用は,保証の対象の不明確化を通じて,保証の対象のその後の変化,特に弁済その他による消滅や,利息制限法の適用による債権額の減少を,保証人に隠蔽する道具として,使われているともいえる。このことは,手形を利用した権利主張の場合に,明らかであるが,手形を利用しない本訴であっても,このような状況が見られる。本件の場合も,一審段階では,被控訴人自身の認識する債権額を超えて,本訴が提起されているのである。このような手形訴訟や根保証という法形式の利用も,いわば公の秩序である法律の弱点を逆手に取って,自己の不法な利益を図ろうとするものであり,実質上公序良俗に反するものというべきであって,これを許容すべきものではない。
(3) そして,すでに認定したように,根保証の文言のある承諾書や確認書さらにはこれらと同時に徴収される手形が,このような利用のされ方をされていることについて,契約の当事者である控訴人は,説明を受けたことはなく,知らされてもいない。知らされていれば,控訴人が承諾書や手形に署名押印することはなかったものと認められる。そして,契約の相手方である被控訴人は,その事実を十分に認識していたのである。
 契約の一方当事者が契約の意義を正確に知らされておらず,その結果,意思表示をしたものであって,正確な意義を知らされれば,意思表示をすることはない場合に,そのことを契約の相手方が十分に知っているというときには,それは,意思表示がその真意に欠けるものであることを相手方が知っていることとなるから,心裡留保の規定である民法93条但し書きにより,当該意思表示は,法律上無効であるといわねばならない。
(4) そして,このような場合には,当事者の内心の意思を相手方が知っているのであり,その内心の意思は,相手方にとって,そのまま認識可能ないわば表に現れた意思であるともいえるから,当事者間に表示どおりの契約の意思がないことが明確になっているものとして,契約成立の要件である意思表示の合致はなく,表示どおりの契約が成立していないと認めることもできる。
 以上検討したように,本件の承諾書・確認書は,その内容どおりの根保証の契約としては,意思表示の合致がなく,契約は不成立であると認められる。もしこのような場合も契約が成立しているというのであれば,その契約は文言どおりの根保証としては,民法93条但し書きの適用により無効であるといわねばならない。また,本件の場合の根保証の法形式の利用は,公序良俗に反するものであり,民法90条の適用により,その契約は,根保証としては無効であるということができる。
(略) 前記認定のとおり,被控訴人が根保証の法形式を利用し,かつ,既存債務の内容を説明しなかったのは,保証人がこのような錯誤によってでも保証してくれることを,容認し,むしろ,歓迎していたものと評価されてもやむを得ないものである。そうであるとすると,仮に,被控訴人の主張するように,平成10年8月26日の被控訴人の別個の貸付けの事実がなく,その前の旧債務が残存していたとしても,控訴人の本件保証の意思表示には,詐欺または錯誤があり,取り消しうるものであるか,無効であると認めるのが相当である。」

 7 金銭消費貸借契約が公序良俗に反し無効であり,貸金の返還も不法原因給付として否定された事例
 ○ 東京高裁判平成14.10.3判例時報1804号41頁
(判決要旨)
1 借り主を窮迫させこれを利用して多額の経済的利益を得ることを目的として,その手段としてされた貸し付けと担保の取得などの行為が,公序良俗違反であるとして,無効であるとされた事例
2 公序良俗違反の金銭消費貸借により交付された金員について貸主側から不当利得を理由に返還を求める請求が,不法原因給付を理由に拒絶された事例
(判決理由抜粋)
1 「控訴人戊野は,控訴人甲原らと共謀の上,被控訴人の軽率,無経験,法律の不知につけ込み,必ずしも住宅ローンの借換えをする必要がなかった被控訴人に対し,従前の住宅ローンよりも有利な条件で借換えが可能であるなどと虚偽の事実を申し向けて,本件の借入れを決断させた上,本件金銭消費貸借契約書は,仮のものであるなどと述べてその弁済期を約半年後とし,合わせて本件各不動産に6300万円もの極度額の根抵当権を設定させ,これによって,本件貸付債権の遅延損害金等の形で,みずからあるいは控訴人甲原らを通じて大きな利益を得ようとしたものであり,また,それについての被控訴人の異議や抗弁の主張を封ずるため,本件各債権について根質権を設定し,本件各不動産についての担保権も実質的に控訴人甲原らに移転させたものと認められる。その結果,被控訴人は,その家族が居住する本件各不動産を競売により失い,生活が崩壊する危険にさらされることになった。
 カ このように借主の思慮の乏しさと法的知識の欠如を利用し,詐欺的な手段,方法を用いて,複雑巧妙にその抗弁の主張を封じながら,高額の利益を得ることが,取引上許されないことはいうまでもない。本件は,一見すると通常の金融取引の外観を呈しているけれども,その実質は社会の一般的秩序に反する形で借主の資産を侵奪し,借主である被控訴人に多大な財産的損害と精神的苦痛を与えるものであり,その反社会性は顕著である。
 そうすると,本件金銭消費貸借及びこれと事実上一体を成す本件根抵当権設定契約は,公序良俗に反し,無効である。」
2 「ア 本件金銭消費貸借契約が公序良俗違反である以上,被控訴人が控訴人戊野から交付を受けた3160万円は,法律上の給付原因を欠くのであるから,不当利得になるというべきである。
 そこで,それが民法708条の不法原因給付に当たるか否かについて検討する。同条にいう不法原因に当たるか否かは,その行為の実質が社会生活及び社会感情に照らし反道徳的な醜悪な行為と認められるほどの反社会性を有するか否かによって決するのが相当であり,具体的には,当該行為の違法ないし不法の性質,態様,双方の違法性・不法性の大小,強弱などを総合的に考慮して判断すべきものである。また,同条が不法な行為をしながらその損害を回復しようとする者の非難すべき性格に対し,制裁としてその回復を拒否することによって,不法行為を防止しようとしていることからすれば,その適用に当たっては,将来の同種の不法行為の発生を防ぎ,抑圧するという観点も必要であると解される。
 イ 本件についてこれをみるに,控訴人戊野は,被控訴人の軽率,無経験,法律の不知につけ込み,被控訴人において必ずしも住宅ローンの借換えをする必要がなかったにもかかわらず,従前の住宅ローンよりも有利な条件で借換えが可能である旨虚偽の事実を申し向けて,被控訴人の本件の借入れを決断させた上,本件各不動産にその融資額を遙かに上回る極度額の根抵当権を設定させ,これによって,本件貸付債権の遅延損害金等の形で,みずからあるいは控訴人甲原らを通じて高額の利益を得ようとしたものである。また,控訴人らは,控訴人らに対する抗弁の主張を困難ならしめるため,一般人において理解不能なほどに難解・複雑な債権根質入れという方法を意図的に用い,その内容を説明することなく契約書に署名押印させるなどして,本件各不動産に控訴人甲原らの根質権設定登記を設定するなど,その手口は極めて用意周到,巧妙である。
 このように,借主の思慮の乏しさと法的知識の欠如を利用し詐欺的な手段で,借主の唯一の居住不動産を奪い,極めて高額の利益を得ようとすることは,社会の一般的秩序に反する形で借主の資産を侵奪するものであり,その反社会性は顕著である。そうすると,その行為は社会生活及び社会感情に照らし反道徳的な醜悪な行為といって妨げない。
 そして,本件について,被控訴人の側にも軽率な面があり,あるいは思慮が足りないところがあったことは前述のとおりであるけれども,違法ないし不法な行為を行っているのは,もっぱら控訴人らであり,被控訴人ではない。また,前記のように,本件の取引が極めて用意周到,巧妙なものであり,しかも,一見すると正常な金融取引の外観を呈するものであって,通常人が本件のような被害に遭う危険性は決して少なくないこと,なお,控訴人戊野はその後も丙野という別会社名でバスという公共的交通機関に同種の広告を出しており,同様の被害が広がる可能性も存在することなどを総合的に考慮すれば,将来の同種の不法行為の発生を禁圧する必要性は高いというべきである。  法は,刑法19条1項1号及び2号にみられるように,高度の違法性ある行為の手段とされた財物の交付があるときには,これを没収することにより,その行為を禁圧しようとしている。それと同じように民法708条は,高度の違法性ある行為の手段とされた財物の交付について,その返還請求に助力しないことにより,その行為を禁圧しようとするものと考えられる。
 本件給付が不法原因給付に当たらないとすれば,控訴人戊野は不法な利益を挙げるという目的達成には失敗しても,その手段として交付した金員の元本については確実に回収できることになる。これは,法は不法に助力しないという民法708条の趣旨に反することになると考えられる。
 そうすると,本件給付は,民法708条の不法原因給付に該当するものと解するのが相当である。
 ウ 以上のように,本件給付は,民法708条の不法原因給付に該当するから,控訴人甲原は被控訴人似たいし,本件給付の返還を求めることはできないといいうべきであり,控訴人甲原の反訴予備的請求も理由がない。」

 8 金銭消費貸借契約が公序良俗に反し無効とされた事例
 ○ 東京地裁平成16.8.27判例時報1886号60頁
(判決要旨)
 詐欺商法を行う事業者が販売する商品代金の支払のために金銭を貸し付けることが,詐欺の幇助として公序良俗に反し,貸金業者と顧客との金銭消費貸借契約は無効であるとされた事例
(判決理由抜粋)
 「以上に認定説示したところからすれば,控訴人は,パル・レジェンドが商品購入希望者に借入債務を負担させることによって調達させた金銭を,偽物のブランド品等の商品代金名下に詐取していることを知りながら,パル・レジェンドから紹介された商品購入希望者に金銭を貸し付けることで,パル・レジェンドによる上記詐欺を幇助したものといわざるを得ない。かかる金銭消費貸借契約が公序良俗に反し,無効であることは明らかである。」