実務の友   ヤミ金融に関する判例集
最新更新日2003.7.17-2006.08.10
 文章内容を検索する場合は,[Ctrl]+[F]キー(同時押し)で,現れた検索画面に検索用語を入力して検索します。
ヤミ金融からの借受けに対し元本返還を要するか

(1) 元本返還必要
    1 H14.10.24 東京簡易裁判所 平成14年(ハ)第11334号 不当利得返還請求
    2 H14.11.22 東京簡易裁判所 平成14年(ハ)第906号 債務不存在確認請求
    3 H14.12.2 東京簡易裁判所 平成14年(ハ)第12934号 不当利得返還請求
(2) 元本返還不要
    1 H15. 2.13 東京簡易裁判所 平成14年(ハ)第13266号 債務不存在確認請求
    2 H16.11.10 東京簡易裁判所 平成16年(ハ)第7327号 貸金請求事件
    3 H17. 1.17 福岡高等裁判所 平成16年(ネ)第752号 貸金請求控訴事件
    4 H17. 2.23 札幌高裁 平成16(ネ)第305号 不当利得返還,貸金請求控訴事件
    5 H17. 3.25 東京地方裁判所 平成1 6年(ワ)第2798号貸金請求事件
    6 H17. 8.30 東京高等裁判所 平成1 7年(ネ)第2586号貸金請求控訴事件(5の控訴審)
    7 H18. 3. 7 最高裁三小判平成18.3.7(4の上告審)

参考判例
    1 最高裁3小判昭29.8.31民集8巻8号1557頁
    2 東京高裁判平成14.10.3判例時報1804号41頁

参考資料
     ヤミ金融規制法の内容,参考文献等
     金銭消費貸借と公序良俗違反(判例集)


(1) 元本返還必要
1 東京簡裁判平成14.10.24(東京簡易裁判所 平成14年(ハ)第11334号 不当利得返還請求)
最高裁HP
(判決理由抜粋)
 「1 被告は,この事件の口頭弁論期日に出席せず,答弁書その他の準備書面も提出しないので,請求原因事実を認めたものとみなされる。
2(1) 上記の事実によれば,原告の支払い利息は,年率に計算すると4238パーセントになる超高金利であって,経済社会常識から著しくかけ離れた暴利行為というべきであるから,本件の金銭消費貸借契約においてなされた利息契約は公序良俗に反し,無効と解するのが相当である。
 (2) 前記(1)により,利息契約は暴利行為として無効であるとしても,金銭消費貸借契約時における原・被告の具体的内容,経済的事情,主観的悪性等の主観的あるいは客観的状況が明らかではない本件にあっては,金銭消費貸借契約自体が無効であるとまではいえない。したがって,本件金銭消費貸借契約自体が不法原因給付に当たり原告に返還義務はないから,原告が被告に支払った合計金20万5000円について不当利得として返還を求めるとする原告の主張は,本件金銭消費貸借契約自体が無効だとする限りにおいてその前提を欠き理由がない。
3 以上によれば,本件金銭消費貸借契約は,利息の定めのない消費貸借契約であり,被告の不当利得は,原告の支払額から借入額を差し引いた金額と認めるのが相当であり,原告の支払った金額20万5000円から借入額金14万9530円を差し引いた金5万5470円及びこれに対する平成14年9月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当であるからこれを棄却する。」


2 東京簡裁判平成14.11.22(平成14年(ハ)第906号債務不存在確認請求事件)
最高裁HP
(判決理由抜粋)
 「(3) そうすると,上記(1)の@平成13年11月30日の金銭消費貸借契約の金利は約1217%になり,A同年12月14日の金利は約1304%になる。
(@,15万円×X%×10日÷365日=5万円,X≒1217,A,20万円×Y%×7日÷365日=5万円,Y≒1304)
 (4) 従って,本件@Aの金銭消費貸借契約は金利の契約部分において,出資法,貸金業法に違反し,利率それ自体において著しく高率であるから,原告の窮状無経験等を考慮することなく,また被告の動機の不法を問題とすることなく,公序良俗(民法90条)に違反する無効な契約というべきである。
 しかしながら,原告が被告から交付を受けた上記Aの20万円の借入れも被告の不法原因給付(民法708条)となるかについては,上記認定のとおり,原告は被告の電話による融資の勧誘に応じて借入れをしたもので,原告の仕事内容,原告が被告からの借入時点の債務が約300万円位であったこと,原告は他の高金利業者からも借入れをしており,原告自身も自転車操業的であったと認めている事実,被告の原告に対する融資態様等を比較検討すると,原告は自由な意思で被告から借入れをしたものと評価すべきであり,本件@Aの金銭消費貸借契約が金利の契約部分において,公序良俗(民法90条)に違反し無効な契約であるとしても,被告の貸付は倫理,道徳に反する醜悪な貸付として,被告にのみ不法原因が存したということはできない。(甲第8号証,原告本人,証人B)
 (5) まとめ
本件Aの金銭消費貸借契約の金利及び返済期限の部分は公序良俗により無効となるが,金員の返還合意は有効である。原告は被告に対し,交付を受けた20万円の返還義務を負うといわなければならない(原告は被告から金員の請求を受けた時に遅滞の責めを負う)。」


3 東京簡裁判平成14.12.2(平成14年(ハ)第12934号 不当利得返還請求事件)
最高裁HP
(判決理由抜粋)
 「1 被告は,本件口頭弁論期日に出頭しないし答弁書その他の準備書面を提出しないので,請求原因事実を認めたものとみなされる。
2 請求原因(2)の事実によれば,原告が被告に支払った利息は,平成14年6月11日貸付分については年率にすると300パーセント以上,同年7月3日貸付分については実に年率2600パーセント以上であって,いずれも暴利行為として公序良俗に反するものであることは明らかであり,本件利息契約はいずれも無効である。
  ところで,本件消費貸借契約はいずれも,被告が上記のような暴利を得るために締結したものであり,その意味では,貸付金の給付は不法原因給付性を有するのではないかと考えられなくもない。
  しかしながら,利息契約を無効として,被告から原告に対し利息分を返還させることによって,実質的に暴利性は排除されることになるのであり,それ以上に貸付元本分についてまで原告の返還請求を認めることは,かえって結果的に妥当ではないことになるものと考えられ,貸付金の返還約束を内容とする本件消費貸借契約自体は有効なものとして処理するのが相当である。
 3 以上のとおりであるから,原告の請求は,支払額合計金9万8000円から貸付金合計金7万5000円を差し引いた金2万3000円及びこれに対する平成14年7月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。」


(2) 元本返還不要
1 東京簡裁判H15.2.13(平成14年(ハ)第13266号債務不存在確認請求)
最高裁HP
(判決理由抜粋)
 「2 争点(2)(公序良俗違反)について
 (1) 貸金業者である被告の本件貸付の利息は,前記のとおり年利換算で1863パーセントないし2562パーセントとなり,出資法5条2項による貸金業者に対する制限金利である年29.2パーセントの63倍ないし87倍に達する高金利であって,その暴利行為性,反社会性は顕著である。また,前記認定のとおり本件貸付当時,原告は原告代理人に自己破産の手続を依頼していたという状況に照らすと,原告はこのような高金利となることを全く知らなかったか(無知),あるいは高金利と知りつつも前記Eへの返済資金の入手にのみ固執せざるを得ない窮迫した状況下にあり,貸金業者である被告がこれに乗じて本件貸付を行ったものと推認するのが相当である。
 (2) 前記のような反社会性及び原告の状況を踏まえ,出資法が高金利を刑事処罰の対象として取り締まっている趣旨,並びに,昨今の経済不況及び市場金利の低迷を反映した出資法の平成11年改正法による貸金業者貸出金利の引下げの趣旨に照らして考えると,本件のような高金利の根拠となる利息の合意(利息契約)は,暴利行為として公序良俗に反して無効と解すべきである(民法90条)。さらに,本件の高金利は,金利制限超過の程度に照らして出資法が予定する高金利処罰の対象となる犯罪行為のうちでも特に悪質と評価されるべきものであり,このような利息契約と一体となって密接不可分の関係にある本件消費貸借契約そのものについても,これを一体として公序良俗に反して無効と評価して法の保護に値しないものと解するのが相当である。
 3 争点(3)(不法原因給付)について
 (1) 被告が原告自宅マンション及びその付近に原告主張のような張り紙(甲4号証)をしたこと,原告主張のようなお悔やみ電報(甲5号証)を出したことは当事者間に争いがない。甲6号証(電話メモ),甲8号証(原告本人陳述書),甲9号証(写真撮影報告書),甲11号証(A陳述書),証人Aの証言及び原告本人尋問の結果によれば,被告は弁済期あるいは最初の利息支払日である10月9日の翌日である同月10日から,前記のような張り紙等のほか長男,親族への取立行為,夫であるAの職場への電話による取立行為を行っていることが認められる。
 (2) 登録貸金業者である被告は,このような取立行為が貸金業法及び金融監督等に当たっての留意事項(業務ガイドライン)上許されないことは十分に知った上であえて行っており,第1回口頭弁論期日においても張り紙及び電報が違法な取立行為であったことを自認している。そして,このような違法な取立行為を弁済期あるいは最初の利息支払日の翌日から直ちに敢行しているという事実に照らすと,被告には当初から法の規制に従った適正な手続に乗っとった債権回収を行おうという意図は毛頭なく,原告に法律上の義務があるかどうかにかかわらず,原告の無知,窮迫に乗じて,できるだけ多くの弁済をさせ収益を得ることを目的として本件契約を締結したものと推認するのが相当である。
 (3) 本件契約の目的を前記のとおりと解すると,このような契約は法の保護を受けるに値しないものというだけにとどまらず,本件契約に基づいて原告に交付された金員は,不法原因に基づく給付(民法708条。しかも,不法の原因はもっぱら給付者である被告にあると解される。)としてその返還請求に法の助力を与えるべきではなく,返還請求権がないものと解するのが相当である。そして,その結果として,原告は本件契約に基づく返還義務を負わないことになる。」


2 東京簡裁判H16.11.10(平成16年(ハ)第7327号 貸金請求事件)
最高裁HP
(判示要旨)
 貸金業の規制等に関する法律第42条の2に定める金利を超えることを理由として金銭消費貸借契約を無効とした事例(控訴)
(判決理由抜粋)
 「1 平成15年の改正で貸金業法42条の2が新設されたのは,貸金業者の中には,登録業者であるかどうかにかかわらず,高金利の貸付けを行い,また執拗な取り立てを行うなどして,債務者やその家族等を窮地に追い込むという者もおり,これが深刻な社会問題となったため,これらの貸金業者の活動を規制し,高金利の貸付けによる収益を得させないようにするためである。このような立法趣旨からすれば,貸金業者が,同項所定の金利を超えることとなる可能性がある利息の契約をすれば,その消費貸借契約は無効となるというべきである。そうすると,費用等の名目で多額の利息を天引きした上,連帯保証人を立てるなどの条件を付し,その条件を充たすことができないときは,期限の利益を喪失し,元本,利息などを一時に支払う旨の契約を締結した場合も,当然同項の適用を受け,その金利が計算上同項の利率を超えるときは,当該消費貸借契約は無効となると解される。
(略)
3 以上によれば,本件契約は,貸金業法42条の2第1項が規定する年109.8パーセント(平成16年がうるう年であることは顕著な事実である。)を超えることは明らかである。したがって,このような利息の契約をしたときは,当該消費貸借の契約は無効となるから,本件契約に基づいて,利息のみならず元本の返還を請求することはできない。 」


3 福岡高裁判H17.1.27(平成16年(ネ)第752号 貸金請求控訴事件 )(判例タイムズ1177号18頁)
最高裁HP
(判示要旨)
 利息年133.3パーセントを超える消費貸借契約について貸付けの態様等を考慮して,利息の合意のみならず,消費貸借契約自体も公序良俗に違反するとして無効とした事例
(判決理由抜粋)
 「 (2) ところで,本件のような,貸金業規制法3条1項に定める登録を受けない貸金業者が行う出資法違反の高金利による貸金問題である,いわゆる「闇金融」を巡っては,平成9年から10年にかけては中小零細事業者等を対象にしたいわゆる「システム金融」の問題が,また,平成13年から14年にかけては一般消費者を対象にして10日で2ないし3割という違法金利で貸し付けするいわゆる「都イチ金融」の問題や電柱の張り紙などに掲載した携帯電話で融資の受付を行ういわゆる「090金融」の問題がそれぞれ発生し,その結果,これらの被害者である多重債務者の自殺,あるいは多重債務者による返済目的の財産犯罪の多発など大きな社会問題となったことは,当裁判所に顕著である。これらの問題を受けて,その間の平成11年法155号による改正で,出資法5条の高金利の処罰規定における金利は,「40.004パーセント」から「29.2パーセント」に引き下げられたが,これらの問題が改善された兆しは認められなかった。そこで,平成15年7月25日に成立した平成15年法136号は,新たに貸金業規制法42条の2の規定を設けて,貸金業を営む者が業として行う金銭消費貸借契約において,原則年109.5パーセントを超える利息の契約をしたときは,当該消費貸借契約は無効としたほか,出資法5条の高金利の処罰規定の法定刑を「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれの併科」から「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれの併科」へ,また,貸金業規制法47条の無登録営業等に対する法定刑を「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれの併科」から「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれの併科」へなどと引き上げたのである。他方,本件貸金(1)及び本件貸金(2)の利息の約定は月1割であるから,その年利率は120パーセントになるが,いずれも貸付時において天引きがされているから,結局,天引き後の金額を元金とする実質年利率が133.3パーセントを超えることは計算上明らかである。この利率が,出資法5条2項が定める貸金業者に対して刑事罰が科される上記金利年29.2パーセントをはるかに超え,さらに同条1項が定める何人に対しても刑事罰が科される上限金利年109.8パーセントをも超えるものであることはいうまでもない。したがって,被控訴人が上記無登録者として営む貸金業の一つである本件貸金(1)及び本件貸金(2)は,いずれも上記改正前の行為であっても,その約11か月から9か月前という時期からして,極めて違法性の高い犯罪行為であることに変わりはないことになる。このような出資法違反の貸金行為は,上記のような「闇金融」を巡る問題状況,特にそれによって引き起こされた数々の大きな社会問題が上記平成15年法136号による改正の前後を問わずに変わりないことからすると,もはやそのこと自体でもって,既に公序良俗に反する行為といっても過言ではないといわなければならない。
   これに加えて,上記認定のとおり,本件各契約当時,控訴人は老齢で難聴の障害を持っていたこと,本件各契約は,多重債務で困っていた控訴人がBやAの甘い言葉を簡単に信用した結果であること,特に,本件保証契約に際し,安易に登記済証,印鑑登録証明書,白紙委任状等の重要書類を交付していることなどからすると,控訴人に,金銭消費貸借契約に関する知識,高金利の借入れや連帯保証が持つ危険性に対する認識を著しく欠いていることは明らかである。そして,控訴人は,本件各契約により現金を何ら取得したものではないことがうかがえる。これに対し,上記認定のとおり,被控訴人は,控訴人との間で複数の貸付けや連帯保証を併存させているが,本件各契約を含めてこれらについて帳簿等の記録を残していないばかりでなく,控訴人に対し,本件各契約の詳細な契約書や弁済金に関する受取証書を一切交付していないのである。その結果,上記認定からも明らかなように,本件各契約の内容や弁済の経過は極めて不明確なものとなっているため,控訴人は,自らの本件各契約の債務残額や弁済の充当関係などを的確に認識することができず,被控訴人から指示されるままに借入れと返済を繰り返していたことがうかがわれる。その意味で,上記認定のAが本件各契約で果たした役割や控訴人とAとの関係からすると,被控訴人は,Aとともに,むしろこのような不明朗な貸付け状況や控訴人の知識の乏しさに乗じて,違法な高金利による利益を得ようとしていたものと推認するのが相当である。
   結局,以上を総合すると,被控訴人が,控訴人の窮迫,無思慮に乗じて犯罪行為に該当する本件各契約を成立させたことは明らかであるから,本件各契約は,公序良俗に反する契約として無効である,といわなければならない。
3 結論
   以上のとおり,被控訴人の本件各契約に基づく本訴請求は,本件各契約が無効である以上,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないことに帰するので,これらを棄却するのが相当である。
よって,被控訴人の本訴請求を認容した原判決を取り消し,被控訴人の本訴請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 」


4 札幌高裁判H17.2.23 平成16年(ネ)第305号 不当利得返還,貸金請求控訴事件 )
最高裁HP
(判示要旨)
 貸金業法に定める登録貸金業者が出資法5条所定の利率を大幅に上回る超高金利の貸付をしたことは,違法行為の手段にすぎず,民法上の保護に値する財産的価値の移転があったとは評価できないとして,弁済を受けた金員全額の返還を認容した事例
 (一審・札幌地裁は,利息の過払い分の返還のみ認めていたが,「なお,控訴人は,被控訴人から貸金名下に合計58万5000円を受領したが,それを損害額から控除することは,法は不法な原因に基づく財産変動の回復について助力しないという民法708条の趣旨に照らし相当ではない。」と主張し,元本を含めて請求が認容された。)
(判決理由抜粋)
 「4 以上によれば,被控訴人は,原判決書別紙取引経過目録1記載のとおり,控訴人との間で金員の授受をしていたことが認められるところ,それは,貸金業法や出資法を全く無視する態様の行為であり,まさに無法な貸付と回収であって,貸金業者として到底許されない違法行為であるというべきである。
  法は,ある程度の高利による消費者金融を許容してはいるが,本件のように出資法の罰則に明らかに該当する行為については,もはや,金銭消費貸借契約という法律構成をすること自体が相当ではなく,被控訴人が支出した貸金についても,それは貸金に名を借りた違法行為の手段にすぎず,民法上の保護に値する財産的価値の移転があったと評価することは相当ではない。
  したがって,本件において,控訴人が被控訴人に支払った108万9000円はその全額が被控訴人の不法行為に基づく損害であるといい得るとともに,被控訴人から控訴人に交付された金員については,実体法上保護に値しないのみならず,訴訟法上の観点から見ても,被控訴人に利益になるように評価することが許されないものというべきである。このことは,たとえば,通常の取引における債権者の不注意に基づく過失相殺の主張が許されても,当該取引が債務者の詐欺や強迫による場合には,当の欺罔行為者又は強迫行為者である債務者からの過失相殺の主張を許さないものとすることと同様に,法の実現の場面における各行為や主張の評価として民法及び民事訴訟法の前提となっているものと解することができる(民法1条,91条,民事訴訟法2条)。
5 以上の次第であるから,控訴人の本件請求のうち,被控訴人の不法行為に基づく主張は理由があり,したがって,その余について判断するまでもなく,本件請求を全部認容すべきところ,その一部を棄却した原判決は不当である。 」


5 東京地裁判H17.3.25 平成1 6年(ワ)第2798号貸金請求事件(判例時報1914号)
(判示要旨)
 超高金利の利息の合意及びこれと一体をなす消費貸借契約それ自体が暴利行為として公序良俗に反するものとした事例
(判決理由抜粋)
 「原告の被告会社らに対する各貸付の約定金利は,被告会社Aにつき,年利600%を超え,また,被告会社Bにつき,400%を超えるが,いずれも貸付時において天引きがされているから,天引き後の交付額を元本額とする実質年利率は,被告会社Aにつき800%,被告会社Bにつき500%を超える計算となる。この年利率は,出資法5条2項に定める上記29.2%を大幅に超え,更に同条1項に定める上記109.5%をもはるかに超えるものであり,これらの合意がいずれも,それ自体犯罪行為を構成するものである。 そして,被告会社らに対す各貸付が行われたのは,平成15年改正法が施行される前とはいえ,被告会社Aについては,同改正法が成立しその一部が施行される直前の時期に相当し,被告会社Bについても,同改正法が成立する1か月ほど前の時期に該当し,国会その他で同改正法の在り方を巡って議論が重ねられている状況にあったものといえるから,違法性の高い犯罪行為であるとの評価は,同改正法の成立ないし施行前後を通じ変わるものではない。 また,前記のとおり,本件では,出資法5条1項に定める109.5%という利率の数倍に及ぶ超高金利であるから,強い社会的非難に値するものであって,利息の合意及びこれと一体をなす消費貸借契約それ自体が暴利行為として公序良俗に反するものというべきである(なお,これに加えて,上記認定のとおり,被告会社Aについては,短期的には資金的に相当の逼迫した状況にあり,また,被告会社Bについても急な資金繰りの必要があったものと認められ,原告がこのような事情に乗じて違法な高金利によって利益を得ようとしたものと推認され,このような事情も公序良俗に反すると判断される付加的な事情となる)。
5 以上によれば,原告の被告会社らに対する各消費貸借契約は,いずれも無効であり,被告A’び被告B’との間の連帯保証契約も,各消費貸借契約が無効である以上同様に無効であって,原告の各請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,・・・ 」


6 東京高裁判H17.8.30 平成1 7年(ネ)第2586号貸金請求控訴事件(5の控訴審)
(判示要旨)
 超高金利の利息による貸付は犯罪を構成するものであり,貸付ないしは取立に当たって強迫ないし脅迫がなかったとしても,不法原因給付となるとして返還請求を否定した事例
(判決理由抜粋)
 「2 控訴人の不当利得返還請求について
 控訴人は, 「控訴人は,被控訴人会社Aに対して実際に少なくとも170万円を交付しており,被控訴人会社Bに対して少なくとも9 9万円を交付している。したがって,消費貸借契約が無効であれば,これらの交付金は,被控訴人会社A及び同Bの不当利得となる。よって,控訴人は,被控訴人会社A及び同A’に対し140万円の,B及び同B’に対し53万円の,各支払を求める。」旨を主張する。
 しかし,控訴人の被控訴人会社Aに対する貸付利息は,貸付名目額を基準とすると約678%{(365日÷11日)×45万円÷220万円},交付額を基準とすると853%{(365日÷11日) ×45万円÷175万円}にも達し,また,控訴人の被控訴人会社Bに対する貸付利息は,貸付名目額を基準とすると約474%{(365日÷15日)×24万円÷123万円},交付額を基準とすると589%{(365日÷15日) ×24万円÷99万円}にも達するものであること,控訴人によるこの貸付けはそれ自体が出資法5条 2項に違反し犯罪を構成するものであること,その他原判決が説示する事情(原判決の11貢末行から13頁20行目まで)を考慮すると,たとえ控訴人が貸付けないしは取立てに当たって強迫ないし脅迫を手段としていないとしても,控訴人の被控訴人会社Aに対する上記170万円(当裁判所の認定は175万円)の交付及び被控訴人会社Bに対する上記99万円の交付はいずれも不法原因給付に当たるものというべきであり,しかも,不法の原因が被控訴人会社A及び同Bについてのみ存したものとはいえないから,控訴人はその返還を求めることができないものというべきである。
 控訴人の上記主張は採用することができない。
3 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,・・・ 」


7 最高裁三小判H18.3.7 不当利得返還,貸金請求上告事件
(要旨)
 「契約自体が、貸金に名を借りた違法行為で無効。返済額は不法行為による損害。元本も保護に値しない」として, 元利金の全額返還を業者に命じた前記4の二審・札幌高裁判決が確定。
 業者側は「当事者が合意して結んだ契約。利息はともかく、元本分の返還も違法というのは、憲法の財産権の侵害だ」などとして上告したが、第三小法廷は「上告理由に当たらない」と上告棄却する決定をした(新聞報道による。)。




参考判例
1 最高裁3小判昭29.8.31民集8巻8号1557頁 〔最高裁HPを読む〕
(判決要旨)
 消費貸借成立のいきさつにおいて,貸主の側に多少の不法の点があったとしても,借主の側にも不法の点があり,前者の不法性が後者のそれに比し極めて微弱なものにすぎない場合には,民法第90条及び第708条は適用がなく,貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するを相当とする。

2 東京高裁判平成14.10.3判例時報1804号41頁 〔判決理由抜粋を読む〕
(判決要旨)
 借主を窮迫させ,これを利用して多額の経済的利益を得ることを目的として,その手段としてされた金銭の貸付けと担保の取得などの行為が公序良俗違反であるとされ,これにより交付された金員を不当利得を理由として返還請求することが不法原因給付を理由として拒絶された事例



参考資料
1 ヤミ金融対策法の成立
 (1) 法律の正式名称=「貸金業の規制等に関する法律及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律」
    法律の条文内容
 (2) 平成15年(2003年)8月1日に公布。平成16年1月1日から施行。
    ただし,下記改定の要点の (2)(3)(5)は,平成15年9月1日施行)
2 改正の要点 金融庁のHP「ヤミ金融対策法が成立しました」
    (1)貸金業登録制度の強化   (2)罰則の大幅な引上げ  (3)違法な広告、勧誘行為の規制
    (4)違法な取立行為の規制強化 (5)年利109.5%を超える利息での貸付契約の無効化
3 日本弁護士連合会長の談話(「ヤミ金融対策法の解釈について」)平成15年9月19日付け
  要旨「一部のマスコミが「元金については返済義務があることとされた」との内容の報道をしたり、金融庁
 がホームページにおいて、「当該契約は無効であり、利息については一切支払う必要がありません。」と記
 載したりしていることから、誤解が生じて」いるとして,「数多くの判例が認めるように、当然に不法原因給付
 として元金は返還を要しないというべきである。」。
4 消費者金融,ヤミ金の実態と問題点に関する参考文献
 (1) 宇都宮健児「消費者金融 実態と救済」(岩波新書 2002.4)
 (2) 鈴木宏明「ヤミ金融」(岩波ブックレットNO.588 2003.2)
 (3) 別冊宝島編集部編「ヤミ金融の手口」(宝島社文庫 2003.1)
 (4) 別冊宝島編集部編新装改訂版「ザ・取り立て」(宝島社文庫 2002.12)
  等