1 最高裁二小判昭和39.6.24民集18.5.874
【判決要旨】
事故により死亡した幼児の得べかりし利益を算定するに際しては、裁判所は、諸種の統計表その他の証拠資料に基づき、経験則と良識を活用して、できるかぎり客観性のある額を算定すべきであり、一概に算定不可能として得べかりし利益の喪失による損害賠償請求を否定することは許されない。
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2 最高裁二小判昭和42.11.10民集21.9.2352
【判決要旨】
交通事故により左太腿複雑骨折の傷害をうけ、労働能力が減少しても、被害者が、その後従来どおり会社に勤務して作業に従事し、労働能力の減少によつて格別の収入減を生じていないときは、被害者は、労働能力減少による損害賠償を請求することができない。
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3 最高裁二小判昭和43.8.2民集22.8.1525
【判決要旨】
企業主が生命または身体を侵害されたため企業に従事することができなくなったことによって生ずる財産上の損害額は,特段の事情のない限り,企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によって算定すべきである。
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4 最高裁三小判昭和43.8.27民集22.8.1704
【判決理由抜粋】
不法行為によって死亡した者の得べかりし利益を喪失したことによる損害の額を認定するにあたっては,裁判所は,あらゆる証拠資料を総合し,経験則を活用して,できるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努めるべきであり,蓋然性に疑いがある場合には,被害者側にとって控え目な算定方法を採用すべきであるが,ことがらの性質上将来取得すべき収益の額を完全な正確さをもって定めることは不可能であり,そうかといって,そのために損害の証明が不可能なものとして軽々に損害賠償請求を排斥し去るべきではないのであるから,客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収益の額を算出することができる場合には,その限度で損害の発生を認めなければならないものというべきである。
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5 最高裁二小判昭和43.11.15民集22.12.2614
【判決要旨】
甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる。
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6 最高裁二小判昭和45.7.24民集24.7.1177
【判決要旨】
不法行為の被害者が負傷のため営業上得べかりし利益を喪失したことによつて被つた損害額を算定するにあたつては、営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではない。
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7 最高裁二小判昭和49.7.19民集28.5.872,判例解説民事篇昭和49年度528頁
【判決要旨】
1 事故により死亡した女子は,妻として専ら家事に従事する期間についても,右家事労働による財産上の利益の喪失を受けたものというべきである。
2 事故により死亡した女子の妻として専ら家事に従事する期間における逸失利益については,その算定が困難であるときは,平均的労働不能年齢に達するまで女子雇用労働者の平均的賃金に相当する収益を挙げるものとして算定するのが相当である。
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8 最高裁二小判昭和53.10.20民集32.7.1500,判例解説民事篇昭和53年度483頁
【判決要旨】
交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については,幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合においても,将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではない。(補足意見及び反対意見がある。)
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9 最高裁三小判昭和56.12.22民集35.9.1350,判例解説民事篇昭和56年度843頁
【判決要旨】
交通事故による後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合においても,後遺症の程度が比較的軽微であって,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないときは,特段の事情のない限り,労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない。
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10 最高裁二小判昭和62.1.19民集41.1.1
【判決要旨】
就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額をいわゆる賃金センサスの女子労働者の平均給与額を基準として算定する場合には賃金センサスの平均給与額に男女間の格差があるからといつて、家事労働分を加算すべきものではない。
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11 最高裁一小判平成8.4.25民集50.5.1221
【判決要旨】
交通事故の被害者が後遺障害により労働能力の一部を喪失した場合における逸失利益の算定に当たっては、事故後に別の原因により被害者が死亡したとしても、事故の時点で、死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない。
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12 最高裁二小判平成8.5.31民集50.6.1323
【判決要旨】
1 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合、最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては、死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではない。
2 交通事故の被害者が事故後に死亡した場合、後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては、事故と被害者の死亡との間に相当因果関係がある場合に限り、死亡後の生活費を控除することができる。
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13 最高裁三小判平成16.12.20判例タイムズ1173号154頁
【判決要旨】
不法行為により死亡した被害者の相続人が,その死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,被害者が支給を受けるべき障害基礎年金等に係る逸失利益だけでなく,給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を控除すべきものと解するのが相当である。
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14 最高裁三小判平成17.6.14民集59巻9号983頁
【判決要旨】
損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率(年5%)によらなければならない。
【判決理由抜粋】
「我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば,被害者の将
来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は民事法定利率である年5%より
引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない。
しかし,民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは,民法の制定に当たって参考とされ
たヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率,我が国の一般的な貸付金利を踏まえ,金銭は,通常の
利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。そして,現行法は,将来の請求権
を現在価額に換算するに際し,法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には,法定利率により中間利
息を控除する考え方を採用している。例えば,民事執行法88条2項,破産法99条1項2号(旧破産法(平成
16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様),民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法13
6条1項1号,2号等は,いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算
することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するにつ
いても,法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから,民法は,民事法定利率により中間利息を控
除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって,事案ごとに,また,裁判官ごとに
中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ,被害者相互間の公平の確保,損害額
の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らすと,損害賠償額の算
定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事
法定利率によらなければならないというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及
ぼすことが明らかな法令の違反がある。」
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15 最三小判平成22.1.26判タ1321号86頁
【判決要旨】
損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算する場合における中間利息控除の方法は,ホフマン方式によらなければならないものではない。
【判決理由抜粋】
「原審は,損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算する場合における中間利息控除の方法はホフマン方式によらなければならないとし,このことは最高裁平成16年(受)第1888号同17年6月14日第三小法廷判決・民集59巻5号983頁(以下「平成17年判決」という。)の判示したところから帰結される旨判断するものであるが,
平成17年判決は,上記の場合における中間利息控除の方法について何ら触れるものではないから,原審の上記判断は,平成17年判決を正解せず,法令の解釈を誤るものといわざるを得ない。
しかしながら,原審が,その適法に確定した事実関係の下において,上告人の不法行為により死亡した被害者の逸失利益を現在価額に換算するための中間利息控除の方法としてホフマン方式を採用したことは,不合理なものとはいえず(最高裁平成元年(オ)第1479号同2年3月23日第二小法廷判決・裁判集民事第159号317頁参照),原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,原判決の結論に影響のない事項についての違法をいうものであって,採用することができない。」
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16 最一判令和2.7.9 (平成30年(受)第1856号 損害賠償請求事件)(裁判所判例システム)
【判示事項】
1 交通事故の被害者が後遺障害逸失利益について定期金賠償を求めている場合において,同逸失利益が定期金賠償の対象となるとき
2 交通事故に起因する後遺障害逸失利益につき定期金賠償を命ずるに当たり被害者の死亡時を定期金賠償の終期とすることの要否(消極)
3 交通事故の被害者が後遺障害逸失利益について定期金賠償を求めている場合に,同逸失利益が定期金賠償の対象となるとされた事例
【判決理由抜粋】
「4(1) (略)民法は,不法行為に基づく損害賠償の方法につき,一時金による賠償によらなければならないものとは規定しておらず(722条1項,417条参照),他方で,民訴法117条は,定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えを提起することができる旨を規定している。同条の趣旨は,口頭弁論終結前に生じているがその具体化が将来の時間的経過に依存している関係にあるような性質の損害については,実態に即した賠償を実現するために定期金による賠償が認められる場合があることを前提として,そのような賠償を命じた確定判決の基礎となった事情について,口頭弁論終結後に著しい変更が生じた場合には,事後的に上記かい離を是正し,現実化した損害の額に対応した損害賠償額とすることが公平に適うということにあると解される。
そして,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補填して,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,また,損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。このような目的及び理念に照らすと,交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき,将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに,上記かい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合があるというべきである。
以上によれば,交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において,上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは,同逸失利益は,定期金による賠償の対象となるものと解される。
(2) また,交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について一時金による賠償を求める場合における同逸失利益の額の算定に当たっては,その後に被害者が死亡したとしても,交通事故の時点で,その死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,同死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではないと解するのが相当である(最高裁平成5年(オ)第527号同8年4月25日第一小法廷判決・民集50巻5号1221頁,最高裁平成5年(オ)第1958号同8年5月31日第二小法廷判決・民集50巻6号1323頁参照)。上記後遺障害による逸失利益の賠償について定期金という方法による場合も,それは,交通事故の時点で発生した1個の損害賠償請求権に基づき,一時金による賠償と同一の損害を対象とするものである。そして,上記特段の事情がないのに,交通事故の被害者が事故後
に死亡したことにより,賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ,他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の?補を受けることができなくなることは,一時金による賠償と定期金による賠償のいずれの方法によるかにかかわらず,衡平の理念に反するというべきである。したがって,上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずる場合においても,その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したからといって,上記特段の事情がない限り,就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるものではないと解すべきである。
そうすると,上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては,交通事故の時点で,被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。
(3) 以上を本件についてみると,被上告人は本件後遺障害による逸失利益につい
て定期金による賠償を求めているところ,被上告人は,本件事故当時4歳の幼児
で,高次脳機能障害という本件後遺障害のため労働能力を全部喪失したというので
あり,同逸失利益は将来の長期間にわたり逐次現実化するものであるといえる。こ
れらの事情等を総合考慮すると,本件後遺障害による逸失利益を定期金による賠償
の対象とすることは,上記損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められ
るというべきである。」
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