実務の友
 交通事故訴訟

民事裁判手続IT化の先を考える

2022/2/9
(1) 民事裁判のIT化への取組
 今,「民事裁判のIT化」が進められていますが,基本的なことは,見たい書類,資料がすぐ読める,すぐ分かる仕組み作りが重要です。
 紙の資料をペラペラめくるのではなく,必要な資料が項目別に整理されており,必要な情報が素早く検索され,関係者に直ちにその情報が共有化され,法的判断の方向性が見通せるのでなければなりません。
 「IT化」と言われていますが,現代では,一般に「通信」に重きを置き,ICT(Information and Communication Technology)化と呼ばれる方が多くなっているようです。裁判の基本にあるコミュニケーションと情報の共有化を,紙ベースでなく,電子的な仕組みで,どう実現していくかが問われています。
 今は,裁判所と弁護士等とでWebを通じた会議や書面の交換システムの基幹構築の段階にあるようですが,基本は,1人1人の担い手がパソコンをどう使って法律的な電子情報処理をどう効率的に処理できるかにかかっていると思います。電子書面の交換が実現できた先で,依然として,紙にプリントアウトしたり,パソコン画面に眼をこらして電卓をはじいたりするようでは,最終フェーズの到来は望むベくもありません。
 「情報交換システムができてからどうするか」ではなく,将来を見据えて何が必要な情報か,どう整理して,どう効率的な処理を図るか,情報交換の先にある,電子システムを利用した生産的な情報処理と活用の仕方も考えていかなければなりません。情報活用の考え方やコンセンサス,内部的な情報処理をさばけるサブシステムやツールができていないと,有効に機能しません。電子的な処理を見据えた,1人1人の情報の迅速な検索と情報処理(読み・書き・算盤)の仕組み作りは,今,もう始まっています。
  民事訴訟の三本の矢(法苑188号) (整理,計画,協働)

(実務の友管理人)


2022/4/4
(2) 裁判情報処理システムの構想と始動
 民事裁判手続のIT化については,既に拙著『コートマネージャーとしての裁判所書記官』(風媒社・2019年)で触れ,下図(同書302頁)を掲載し,その計画と問題点,今後の課題等について書きました。
 
MinjiSystem

 この民事裁判手続のIT化の計画は,ITを活用して,裁判所に「事件管理システム」を構築・稼働させ,@オンライン利用による訴状,準備書面等の提出(e-Filing),Aウェブ会議利用による審理(e-Court),B 電子データによる事件の進行管理・期日調整・判決発出(e-Cace Management)等,民事裁判の「3e」の実現を図るものです。
 新聞・TV報道によれば,2022年2月14日に法制審議会が,民事裁判の全面的IT化の改正要綱を取りまとめ法務大臣に答申したということです。2025年度中の全面実施を目指し法整備され,今年度からオンラインを利用して「3e」が部分的に先行実施され,本格的に動き出すようです。
 民事裁判は,裁判情報処理システムの観点からみれば,上図のとおり,訴状等の申立内容を「入力」し,裁判所で「審理処理」され,最後は処理結果が判決として「出力」される手続です。
 現在の取組は,当事者(代理人弁護士)と裁判所間の入力部と出力部において,裁判情報の電子的な交換と連携,共有を図り,審理の充実・促進を図ろうとするものと言えます。
 そのシステム自体は,現在のIT技術力によれば,それほどの困難はなく実現できると思います。そのシステムの入力部と出力部では,紙に印刷する手間は省け,人は動かずして机上の電子機器の操作だけで済みますから,時間的,経済的な負担は大幅に軽減されて便利この上なく,情報交換も円滑に,敏速に行われるようになります。
 しかし,いいことずくめなのかは,また別に考えておかなければならないと思います。

2022/4/5
(3) システム化の前提要件
 「3e」化により裁判所利用の利便性と迅速性は向上し,利用者はその便益を享受できますが,問題は,その入力と出力の間にある内部的な処理過程,そこでの情報処理力です。
 「3e」が実現していけば,裁判所には,入力面で,オンラインによって,多方面から,大量の事件ごとに,それぞれに内容や書き方の違った電子ファイルが,大量に送り込まれることになります。あふれる電子情報を,どのようにして遅滞なく,適切に捌いて処理するか。「裁き」の前に「情報捌き」が問題になります。この捌きには,不正アクセス防止,セキュリティを確保しつつ,法的要件,要件事実該当性の具備,正確な表記のチェック等が必要になります。
 そこでは,電子情報をパソコン画面を見て,紙に印刷することなく、必要な情報を読み取り,複雑な内容を整理し理解しなければなりません。ウェブ会議等を利用するにしても,釈明をし争点を整理し,電子情報化された証拠と対照精査し,適正に法律的な要件充足性等の判断処理を下し(内部処理),判決書を出力していくことは,そう簡単なこととは思えません。
 従来のように,常に印刷物として提供された主張と証拠書類に基づいて,内容をチェックし精査していくのとでは,大きな違いがあるように思われます。この電子情報受取り後の反論等、訴訟対応時の問題は,裁判所だけでなく,代理人弁護士の立場でも,同様と思います。
 電子情報はPDFファイルで提供されるようですが,それだけでは,紙に書かれた情報が電子画面に置き換えられて表示されるだけですから,さらに電子的な書面を基に,これを「読み」、「書く」知的な作業を効率的に行うためには、その情報処理の効率的な仕組みを工夫する必要が高くなります。
 交通事故訴訟を例にとって考えてみると,現状では,分厚い紙ファイルから該当の縦横一覧表を検出し,そこから求める数値を拾い出し,電卓をたたいて計算し,その結果をパソコン画面のワープロに打ち込んで,分かりやすい書式で書類を作成する分野もあります。
 「3e」化が進んでも,なおこのような面倒な手作業をしていたのでは,電子情報化,ペーパーレスの実現とは言えません。情報処理力は,紛争解決力に直結します。
 「3e」が実現された先には,これまでの紙ベースの情報交換とは違った面での情報処理の方法や技術,情報リテラシーが求められます。既に検討されているとは思いますが,「3e」が実現される前に,検討しておかなければならない問題が大きいと思います。紙ベースを前提とした実務処理の仕組みをどう変えていくか,電子情報を基に,効率的な情報整理と自動処理の方法,分担と協働の態勢等,新たな仕組みと態勢の組織開発に力を入れていかなければなりません。これは,裁判所内部の課題となりますが,利用者(法律事務所等)の課題でもあります。その取組がなければ,内部的な情報処理力は伸びず,適正迅速な裁判の実現は望むべくもありません。
 今人気の朝の連続ドラマを見ていたところ,古いタイプの時代劇の老役者から,「日々鍛錬し,いつ来るともわからぬ機会に備えよ」という言葉が聞かれました。
 システム開発とは違いがあるでしょうが,何か共通項も感じます。いつ必要とされるかもわからぬ機会に,どのようにも対応できるように,将来のあるべき姿を描き,その効果的な実現をめざし,日々鍛錬してその思考と技術を磨き,組織的な能力開発,事務改善に備えなければならないと思います。

2022/4/6
(4) 今一つの効率化ソフト
 「3e」実現の事件管理システムは,裁判所組織を中心とした大規模な裁判情報処理システムで,これは前述のとおり,当事者と裁判所間の情報の交換と共有を入出力関係で効率化するものですが,「入力→情報処理→出力」の処理場面では,裁判官なり弁護士なりが,必ず個々人において「読み・書き・算盤(計算)」の種々の情報処理をして,その作業の連鎖で組織的な情報処理が成り立っていきます。
 ここでの情報処理が,今後どのように合目的的,効果的に活用,工夫されて結果を出していくかが,司法全体としての情報処理力(紛争解決力)につながっていきます。
 ここで,交通事故訴訟の場合を例に,効率的なソフトの紹介をしたいと思います。ここでは,ソフトの宣伝や抽象論の提示というより,IT時代におけるシステム的な考え方と実務的な実践例を提示するところに重点があります。
 交通事故訴訟において,当事者双方にそれぞれ123万4567円,65万4321円の損害が生じ,それぞれの過失割合が20:80の場合の各自の請求額(負担額)はどうなる,30:70の場合はどうかなど,各場合に応じて素早く計算ができれば,判決結果の予測もでき,和解の見通しもつきます。これを電卓を利用して計算していたのでは,時間もかかり面倒な作業となります。これをパソコンを利用して,過失割合に応じてシミュレーションとして一覧表ができれば,訴訟や和解の有益な検討資料になり,当事者,保険会社等の事前検討も容易になります。
 交通事故損害賠償請求事件の負担割合計算ソフトの紹介とフローチャート,操作案内
 このソフトは,Wordのソフト1本の利用により,瞬時に,@過失割合による負担割合額の計算,A過失割合ごとの一覧表の作成,B和解条項としての文章作成を自動的に実行してくれるものです。これは一例ですが,1回の入力だけで面倒な計算と文章作成の多様な処理が自動化され、敏速に一括処理される効果を得ることができます。
 こうした発想と仕事のシステム化により,裁判結果の予測と時短の可能性が高められ,裁判実務の効率化と審理の充実,質的向上が図られていくものと考えられます。
 IT化は,単に紙媒体の情報が電子化に置き換わるものではなく,煩瑣な,あるいは反復の処理が電子化により一括・自動処理され,時間・労力の節減効果が審理の充実と質的向上に向けられていくものでなければなりません。
 これからの時代は,組織的な事件管理システムの適切な運用とともに,ウェブ会議等による口頭議論の活発化,個々人の情報リテラシーの向上を図りつつ,こうしたいわば小間物のソフト(ITツール)の開発・利用により,民事裁判の一層の適正・迅速化を図っていく必要が増大していくものと考えられます。
(元簡易裁判所裁判官 山本正名)

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