5W1Hは実務の友
実務の友   Whシンキング

 知的生産というのは、
頭をはたらかせて、
なにかあたらしいことがら−情報−を、
ひとにわかるかたちで提出することなのだ、
梅棹忠夫著「知的生産の技術」

----------  目   次  ----------
  (1) 5W1H
(2) 6人の賢者
(3) 仕事の発想とチェック
(4) 危機管理の発想
(5) 創造的な発想
(6) 国語力の育成
  (7) 法律実務と5W1H
(8) 起訴のための八何の原則
(9) 捜査のための八何の原則
(10) 「が」と「は」の使い分け


 

(1) 5W1H
 新聞記事の書き方には,5W1Hという原則がある(注1)。
 社会の出来事は,結局「何が何して,どうなった」と表現されるが,これには,
いつ(When) どこで(Where) 誰が(Who) 何を(What) なぜ(Why) どうやって(How)
か,この5W1Hを書き漏らさない,ということである。
 例えば,ある日の新聞記事は,次のような書き方である。
 「28日午前11時ごろ,○○町の○○鉄道○○線の踏切で,ダンプカーの荷台が上り線の架線に接触した。けが人はなかった。この影響で○○線は上下45本が運休した。
 ○○署の調べでは,ダンプカーは近くの作業現場で砕石を下ろした後,荷台を上げたまま踏切を通過しようとして架線にひっかかったという。運転手の男性(62)が荷台を下げ忘れたらしい。」
 5W1Hは,「何時(いつ), 何処(どこ)で, 何人(なんびと)が, 何を, 何故に, 如何(いか)にして」ということであり,「何」が六つあることから,六何(ろっか)の原則とも言われる。
 社会の出来事を新聞記事として客観的に的確に伝えるには,文章作成上,これらの構成要素をきちんと押さえることが大切であるということを教えている。
 しかし,5W1Hが求められるのは,何も新聞記事の書き方に限らない(注2,3)。
 ビジネスのコミュニケーションは,キャッチボールのようなものであり,人と人との間の意思と情報が確実に伝達し合うことが大切である。
 その意思と情報が確実に伝達し合うためにも,情報の整理(文章表現)と伝達(報告・連絡)の場面で,5W1Hは,重要な役割を担う(注4)。とりわけ,出来事(事実)の報告・伝達には,5W1Hは欠かせない。
(注1) 記事の書き方として5W1Hを説くもの
 (1)  田村紀雄・林利隆・大井真二編「現代ジャーナリズムを学ぶ人のために」(世界思想社2004年5月92頁)
 (2) 大石 裕・岩田 温・藤田 真文著「現代ニュース論」(有斐閣2000年11月100,180頁)
 (3) 共同通信社「記者ハンドブック(第10版)」(2005年3月・10頁)
 (4) 中央公論新社「読売新聞 用字用語の手引」(2005年2月10頁)
 (5) 時事通信社「最新用字用語ブック(第5版)」(2006年6月・548頁)等参照
 なお,(3)の「記者ハンドブック」は,「もう一つのW」として,「記事が読者に対して持つ意味・値打ち(Worth)の検証も大事だ」としている。

(注2) テレビ放送のニュース原稿の書き方で5W1Hを説くもの
   福島中央テレビ(5W1Hの発音付き)

(注3) 作家・元日本経済新聞論説主幹の水木楊氏は,あらたにす(2008年07月02日付け)「コラム記者と作家の文章術」の中で,「新聞社内で「雑報」と呼ばれる殆どのニュース記事は、Who、When、Where、Whatの順に並んでいるのです。ときにWhereの入らないこともありますが、Who、When、Whatは必ずこの順で入っています。」「文章のうまさとは、この5W1Hの語順と語尾をいろいろ使いまわすことができるということなのです。」と述べている。

(注4) 語源を調べると,古英語(初12〜15世紀)では,5W(When,Where,Who,What,Why)の綴りも,実は「H」から始まっていたという。
古英語
  なお,5W(When,Where,Who,What,Why)1H(How)等は,"wh-words"と総称されているようである。
(参考文献)
 「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店2001年)
 下宮忠雄・金子貞雄・家村睦夫編「スタンダード 英語語源辞典」(大修館書店1989年)




(2) 6人の賢者
 ビジネスの世界では,「計画 -> 実行 -> チェック -> 行動」のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルが重要だとされる。このサイクルを基本に,さまざまの出来事,状況に応じて,的確に事態を認識し,行動計画を立て,適切にして迅速な判断と処理が求められるのである(注1)。
 5W1Hは,その場合の情報収集や仕事の進め方等の必要事項に落ちやモレはないか,そのチェックリストとしても機能する。同時に,社会の出来事を知り,ものごとの知識を深める上でも,有効な情報収集促進ツールとして機能する。
 「5W1Hを友とせよ」というアドバイスがある(注2)。
 イギリスの作家キップリングは,こうした「六何」を「6人の賢者」にみたてて,その詩の一節で次のように書いている(注3)。
 I keep six honest serving-men.
    (They taught me all I knew);
 Their names are What and Why and When
   And How and Where and Who.
(私は,6人の正直な召使いを持っている。
彼らは,私の知りたいことを何でも教えてくれた。
その名前は,What,Why,When,How,Where,Who である。)
 ビジネスの情報伝達や文章表現では,第1に正確性(Correctness),第2に明確性(Clearness),第3に簡潔性(Conciseness)の3Cが求められる(注4)。
 仕事ができる人は,目的に応じて「6人の賢者」=「5W1H」をうまく使いこなすと言われる。
 この5W1Hの原則に対しては,さらに近年は,「何人に対し(to Whom)」を加えて6W1Hとしたり(注5),あるいは「どれだけ(How much)」も加えて6W2H(注6)とするなどのバリエーションがある。
時期 場所 理由 方法
いつ
(When)
どこで
(Where)
誰が
(Who)
何を
(What)
なぜ
(Why)
どうやって
(How)
    誰に対し
(to Whom)
どれだけ
(How much)
   
    誰と共に
(with Whom)
     

(注1) 問題解決学(実務の友)
(注2) 扇谷正造著「ビジネス文章論 続現代文の書き方」(講談社現代新書1983年)
(注3) キップリング(Rudyard Kipling 1865-1936)は,日本では,「ジャングルブック」等で有名なノーベル文学賞作家。引用の詩は,著作「Just So Stories」(日本訳で「なぜなぜ物語」)中の「The Elephant's Child」という話の中の詩の一節)。
   扇谷正造著「ジャーナリスト入門」(実業之日本社1966年)11頁は,「5W1Hの出典は,これである。」としている。
   篠田義明著「ビジネス文 完全マスター術」(角川oneテーマ21・2003年)185頁は,5W1Hを最初に提唱したのは,エドマンド・バーク(Edmund Burke 1729-97)だとしている。
(注4) 文章の3Cの原則を説くもの
 (1) 馬場博治著「文章教室20講」(大阪書籍1983年)142頁
 (2) 田村紀雄・林利隆・大井真二編「現代ジャーナリズムを学ぶ人のために」(世界思想社2004年5月)91頁
 (3) 大石 裕・岩田 温・藤田 真文著「現代ニュース論」(有斐閣2000年11月)179頁
 (4) 扇谷正造著「ビジネス文章論 続現代文の書き方」(講談社現代新書1983年)27頁
(注5) 6W1Hを説くもの
 篠田義明著「ビジネス文 完全マスター術」(角川oneテーマ21・2003年)185頁
(注6) 6W2Hを説くもの
 福島哲史著「「書く力」が身につく本」(PHP文庫1997年)87頁
 福島哲史著「「書く力」が仕事力を高める!」(KKロングセラーズ2006年)76頁




(3) 仕事の発想とチェック
 5W1Hは,これまでみたように,まず情報の整理や文章表現,情報の伝達を適切に行うのに役立つと同時に,今後どうするかを考える行動計画あるいは対策又は企画の立案をするに際しても役立つ情報ツールである。
 5W1Hは,指示する,命令を受ける,連絡する,伝言する,計画を立てる等,仕事の進め方を考える上で,必要事項の漏れを防ぎ,発想を促進し,正確度を期すようにチェックリストの役割も担う。
 既に一般に周知された基本的な必須ツールといえよう(注1)。
What 何を仕事の内容,種類,性質,分量
Why なぜ意義・目的,動機,理由,ネライ,背景,必要性
Who 誰が組織,担当,グループ,中心となる人,役職,人数
Whom 誰と相手,関係,人数
When いつ着手時期,期限,時間,納期,スケジュール,季節,頻度
Where どこで場所,位置,職場内外,屋内外,出先
How どのようにして手段,方法,段取り,テクニック,仕事の進め方,期待度
How much どれだけ数量,予算,単価,範囲
(ビジネスでは,6W2Hが使用されることが多くなっている。)
 以上を整理すれば,5W1Hのチェック機能としては,
 第1に,これまでに起きた出来事,既にある事態の情報収集(現状把握)を効果的にするとともに,必要事項の把握に漏れが生じないようにチェックするのに役立つ(注2,3)。
 第2に,これから今後どうするかを考える,行動計画あるいは対策立案(企画)を考えるに際しても,必要項目に漏れやダブりがないようにするチェックリストとしても機能する(注4,5,6)。
 こうした機能面から,5W1H法は,QCサークル活動のように(注7),何をなすべきか,どう解決すべきかの職場改善運動の1つとしても活用されている。
(1) 情報整理・情報伝達のための5W1H  漏れ,ダブりの防止
 発想の促進
 必要事項のチェック
(2) 情報収集・企画立案のための5W1H 現状把握のための
5W1H
対策立案(企画)のための
5W1H
 これらは,結局,情報の収集・整理・伝達という人間の基本的な情報処理過程において,5W1Hが必須のツールであることを示している。
(注1) 「5W1Hは,一般用語であり,仕事の仕方としても周知のものである」とした裁判例がある。
  東京知財高判平成16年12月27日(平成15年(行ケ)第268号 審決取消請求事件) →【全文】
 5WIHをオペレーションラベルとして注記する構成の看護支援方法をプログラミングした 看護支援ソフトについて,次のように判断して請求を棄却している。
(判決理由抜粋)
  「5W1H」は,平成8年4月26日日本経済新聞社(1版6刷)発行「日経文庫(420)秘書入門」26〜27頁(乙1)に,上司から の指示・命令の受け方のポイントとして,「5W2H(WHEN=いつ,WHER E=どこで,WHO=誰が,WHAT=何を,WHY=なぜ,HOW=どのよう に,HOW MUCH,HOW MANY=どのくらい)を確認します」とあるこ とからもうかがわれるとおり,一般用語であるとともに,特開平7−309083号公報(乙2,段落【0009】,【0010】),特開平6−289970号公 報(乙3,段落【0038】)及び特開平11−232088号公報(乙4,段落 【0025】,【0026】)にも,業務管理において,仕事の進め方として5W 1Hを決めることが記載されているから,「業務管理において,仕事の進め方とし て5W1Hを決めること」は,本件出願日当時周知であったというべきであり,」
  また,「患者の病状がケースバイケースで,変化しやすいものであ っても,的確な看護を行うために,医師の指示に沿った看護の進め方として,可能 な範囲で5W1Hをあらかじめ決めておくことには,十分な合理性があり,仕事の 進め方としては,むしろそうすることが自然であるから,「看護業務において,仕 事の進め方として5WIHを決めておくことは当業者が当然に考えること」である というべきである。」
(アンダーラインは編者)  *日経文庫「秘書入門」の著者は,土屋治子氏。
(注2) インタビュー(聴取)のチェック方法として,
  山本弘明著「ビジネス・インタビュー入門」(日経文庫454)
(注3) 西村克己著「論理的な文章の書き方が面白いほど身につく本」(中経出版2006.06)「第2章文章作成のテクニック」中「5W1Hの活用で情報モレを防ぐ」
(注4) ”モレなくダブリなくする”問題解決の技法として,
  MECE(ミッシーと読む。"Mutually Exclusive and Collective Exhaustive"の略)がある。
(注5) 5W2Hチェックリスト
(注6) ビジネス会話で,指示・指令を出す,受ける場合に5W1Hの活用を説くものとして,・野村正樹著「ビジネスパーソンのための話し方入門」
(注7) QCサークル活動とは,グループ・メンバーの意欲,能力,工夫等により,仕事の管理,改善力を向上させ,「Quality Control(品質管理)」を高めようとする活動であり,そのために,さまざまな方法が考案されている。QCサークル活動の用語




(4) 危機管理の発想
 この5W1Hの各構成要素は,必ずしも重要度や必要度,構成(表現)の順序が一律に定まっているものでもない。 文章表現,事態の把握,対策の立案等,その目的に応じた必要度(Need to know)によって異なる。
 「いつ(When)」,「どこで(Where)」がいつも文章表現の先頭に来るとは限らないし, 「誰が(Who)」が冒頭に来て,「なぜ(Why)」が省かれても支障がない場合もある。強調すべきものが冒頭に位置したり,あるいは重要なものは説明が詳細になったり,当然了知可能なものは省略されたりすることもある。
 危機管理のための情報収集と伝達も,5W1Hに即して行われなければならないが,ここでも,そのすべての要素が一律に要求されるわけではない。
 危機管理では,
[1]まず「何が起きたか」(What)の情報が優先され,
[2]次に「誰が」(Who),
[3]次いで「いつ」(When),「どこで」(Where)が続き,
[4]「なぜ」(Why),「どうやって」(How)は後からでもよいとされる(注1)。
 現に起きた事態の客観的かつ迅速な把握と伝達が,まず優先される。
 優先されるべき重要な情報は何か。5W1Hも,その目的と必要とされる情報,場面に応じて,活用の方法と力点が変えられなければならない。
(1)何が(What) (2)誰が(Who) (3)いつ(When)
どこで(Where)
(4)なぜ(Why)
どうやって(How)
(注1) 佐々淳行著「危機管理のノウハウ・PART1−信頼されるリーダーの条件−」(PHP文庫1979年)
  同書59頁以下では,「六何の原則=情報の構成要件= ファイブW・ワンH(5-W・1H)」のタイトルの下,危機管理の場合の情報伝達の要点として,ニードツーノウ(Need to know)の原則,ベター・ザン・ナッシング(Better than nothing)の原則,第一報の重要性等を説いておられる。
  佐々淳行先生講演要旨(宮崎県危機管理局作成)
(注2) 大田区ホームページ:緊急時の危機管理3-2:危機情報の伝達
    「危機情報に接した職員は、5W1H(何を、いつ、どこで、誰が、なぜ、どのように)を明確にして報告するようにします。一部不明な項目があっても、知り得た情報の範囲内で、とりあえず第一報を入れます。その際には、確認、未確認の区別、あるいは「聞き取り」であるか否かなどを明確に伝えます。」




(5) 創造的な発想
 「なぜ」(Why),「どうやって」(How)の事項は,「危機管理」では後順位になるが,「問題解決の技法」では,逆に,これらが何より優先される。
 文章表現等とは少し場面は異なるが,一定の問題状況への取組みの一例として,有名な「トヨタ式5W1H」がある。
 これは,もともと,トヨタのかんばん方式の生みの親・故大野耐一氏が,「5回の「なぜ」を自問自答することによって,ものごとの因果関係とか,その裏にひそむ本当の原因を突きとめることができる。」として,数々の改善策を生み出したことに由来する(注1)。
 これを一般的な問題解決手法として,「トヨタ式5W1H」と呼んでいるようである。ここでの5W1Hは,「Why,Why,Why,Why,Why,How」である。
 「なぜ?,なぜ?,・・・」と5回繰り返し問題を深く問う中でこそ,物事の本質,真の原因が突き止められ,そこから「如何にして」の解決策,改善策が生まれるとする(注2)。
 これは,創造的な問題解決技法を説くものであり,その思考方法は,WhyとHowによる思考の集中と深化が重要だともいえる。危機管理の発想とは逆順である。
 危機管理が起きた事態の把握を重視するのに対し,創造的な問題解決技法は,今ある事態に対する今後の変革を促すことに力点がある思考方法といえよう。
(1)なぜ(Why) (2)なぜ(Why) (3)なぜ(Why) (4)なぜ(Why) (5)なぜ(Why) どうやって(How)
(注1) 大野耐一著「トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして」(ダイヤモンド社2006年85刷)
    企業情報>トヨタの生産方式(トヨタ自動車によるトヨタ生産方式の紹介)
    トヨタ生産方式(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
(注2) 松林博文著「クリエイティブ・シンキング」(創造的発想力を鍛える20のツールとヒント)(ダイヤモンド社2003年)




(6) 国語力の育成
 これからの時代においては,技術革新と情報過剰が進む中,人が充実した生き方を実現するには,有用な情報を得て,人と人との間の交流,情報活用を図り,生活上,仕事上,それぞれ適切に課題や問題を解決していくことが求められる。
 そこでは,情報の収集,取捨選択能力,コミュニケーション能力,創造的な問題解決能力等がなければ,主体的な適応は困難になる。
 これからの時代に生きるには,それに資する「国語力」が求められる(注1)。それには,5W1Hを基本にした「考える,書く,聞く,伝える」コミュニケーション力が,まずなければならない。
 人は,出来事や事実,現象,物事等に対しては,
時間軸(When)」と「空間軸(Where)」を定める中で,
特定の「人物(Who)」を中心にして,
どのような人的な関わり方(with Whom,to Whom)で,
行為 その関わり方の理由(Why)と方法(How)がどうであり,
どんな行為(What)をしたか,
が明確に示されることで,
関係 その認識力,イメージ力を高め,意味内容を理解し,
人と人とのコミュニケーション関係を保っている(注2,3)。
 5W1Hは,事実や現象,物事等の対象に対する人間の認識や発想,思考の基本様式を示しているともいえる。
 5W1Hの活用は,情報の選択・活用力,創造的な発想力,問題解決力等の育成につながり,人に「生きる知恵と力」を与える。
 5W1Hは,これまでみたように,文章の構成や展開の仕方を教えるのみならず,問題や状況を論理的,分析的に把握する力を与え,人と人との意思・情報の伝達を確実にし,さらには,現状をよりよいものへと改善する発想力,問題解決力を引き出してくれる。そのツールが5W1Hである(注4)。
 このツールは,法的な問題の考え方,その思考と解決力にとっても,必須のものとなる(注5)。
(注1) 「これからの時代に求められる国語力について」(文部科学省2004年2月3日文化審議会答申)
(注2) 昔話「桃太郎」も,「むかしむかし,あるところに,おじいさんとおばあさんが住んでいました。」と,まず,時,場所,人物を明らかにしている。
(注3) 推理小説家の斉藤栄氏は,ミステリー作法の入門書「ミステリーを書いてみませんか」(文春文庫)の中で,次のように指南している。
  「小説を考え出す時に一番問題になるのが,いわゆる5W1H」,「この六つが決まれば,一つのストーリーが出来る」として,
  まず what 何を書くのか,テーマの問題。次は,when 時代背景,3番目は where 場所であるが,「いつ」「どこで」は一体をなし,その前に,who 誰,ヒーローとヒロインの人物像を考えなくてはいけない。推理小説の場合,その次が why なぜという動機,最後が how で,どういうふうにやるか,犯行のやり方,事件の展開の仕方ということ・・・という趣旨の話をしておられる(要約は,このページの編者)。
(注4) 「仕事=問題解決」であり,有効適切な問題解決には合理的思考法が求められる。「合理的思考法とは何か。「何が問題なのか」,「なぜ問題なのか」,「どうしたらよいのか」,このWHATとWHY,HOWの3つを考えることである。」 →(問題解決学(実務の友)
(注5) 鳥取市公文規程は,第4条(公文の作成要領)別表の中で,公文作成の原則として,正確であること,簡潔であること,平易であることの3つを挙げ,「正確であること」の説明の中で,次のように記述している。
   「文書は、意志を正確に伝達する重要な手段の一つである。意志が誤って伝えられるようでは、その目的を達することが出来ない。公文の作成に当たっては、次の事項(いわゆる5W1H)を明確にして、伝えるべき事項を正確にまとめ、誤解が生じないよう努めなければならない。」




(7) 法律実務と5W1H
 こうした5W1H(六何の原則)は,法律実務の世界でも,基本的に,法律文書の作成,要件事実の整理,犯罪事実の捜査,認定等でも,重要な役割を果たしている(注1)。
 法律実務で行われる法的な判断も,基本的に,法規を大前提とし事実を小前提として,結論として法的判断(判決)を導き出す三段論法(判決三段論法)で行われる(注2)。
 刑事事件であれ,民事事件であれ,「ある行為又は状態(事実)」に対し,法規を当てはめ,要件(構成要件,要件事実)が充足するかどうかが判断され,法的な判断として,その法律効果の発生,不発生が決せられる(注3)。
 ここでは,どのような事実があったのか,法的判断のため取り上げるべき(法律要件に該当する)事実は何かが問題となり,具体的な事実が対象となる。その事実は,通常,人に関わる行為又は状態であり,「誰が(主体),いつ(日時),どこで(場所),何を又は何に対し(客体),どのようにして(手段方法),何をしたか(行為と結果)」の5W1Hで表される。
 刑事事件でも民事事件でも,手続的には,5W1Hに即した事件情報(事実)の収集(主張,立証手続)が必ず基本とされ,その事実の吟味,事実認定の作業が最重要課題となる(注4)。
 とりわけ刑事事件の場合は,審判範囲の特定と被告人の防御権との関係で,事実の明確化はより厳密であり,その判決には,「罪となるべき事実」を記載することが要求され(刑事訴訟法335条1項),その審理の前提となる起訴状記載の公訴事実にも,訴因を明示し,それには,具体的な「罪となるべき事実」を特定すべきことが要求されている(刑事訴訟法256条3項)。
(刑事訴訟法335条1項)
 「有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。」
(刑事訴訟法256条3項)
 「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」
 これらの条文解釈として,注釈書では,
「(1)何ぴとが〔何ぴとと共に〕(犯罪の主体), (2)いつ(犯罪の日時), (3)どこで(犯罪の場所), (4)何を又は何ぴとに対し(犯罪の客体等), (5)どのような方法で(犯罪の方法), (6)何をしたか(犯罪の行為と結果)の六項目(いわゆる「六何の原則」)を念頭に置いて,公訴事実を訴因として構成するのが一般である。」
と解説されている(「註釈刑事訴訟法〔第2巻〕」)。(括弧付きの数字は,原文では○数字) (注5)
 「条解刑事訴訟法〔第3版〕」にも,「六何の原則」の文字こそないが,訴因の明示には事実特定の6項目の記載が必要とされる旨の説明があり(注6),5W1Hは,当然の前提になっている。
(注1) 要件事実について,加賀山茂教授「要件事実の考え方−大陸法と英米法の考え方の融合をめざして−」参照
(注2) 判決三段論法について,たかーむ通信:平成16年10月24日(日曜日)法律の勉強にとって大切なこと参照
(注3) アメリカの裁判官(法学者)ジェローム・フランクは,その著「裁かれる裁判所(上)」の中で,裁判の判断過程を,基本的な当てはめとして,「法規範(R)×事実(F)=判決(D)」の図式(フランクの公式)により現実分析をしている。
参照:「伝統的法学では司法過程は、事件の事実に法規範を適用して判決を得る過程であるとされている。フランクはこれをR(legal rule)×F(facts of case)=D(court’s decision)という数式に表して説明している。すなわち、判決(D)はR とF との所産であり、R とF が確定すればD は自ずと明らかになるという見解である。」)
(注4) 事実認定の困難性について,小出ロ一判事「刑事裁判と事実認定 一実務法曹の限られた体験から」(「月刊学術の動向」2005年10月号27頁」(日本学術協力財団発行)参照
(注5) 註釈刑事訴訟法 第2巻(立花書房1979年)429頁参照
(注6) 条解刑事訴訟法<第3版増補版>(弘文堂2003年)468頁参照




(8) 起訴のための八何の原則
 法律の世界は,人と人との争い事(民事)や犯罪(刑事)を対象とする。
 その事実の構成要素としては,
(1) 第1に,行為の主体と相手方(客体)として「誰が(Who),誰に対し(Whom)」が明確にされ,
(2) 次に「如何にして(How),何をした(What)のか」,行為の方法(How)と内容結果(What)が問題とされ,
(3) さらに,その事実が他の事実と識別され,よりその行為の意味内容が明確にされるように,時期(When)や場所(Where)等の特定が要請される。
 5W1H(六何の原則)は,刑事では,さらに犯罪事実をより明確にするため,「誰とか(with Whom)」(共犯関係),「誰に対してか(to Whom)」(犯罪の客体)が加わり,これらを合せて事実特定の「八何の原則」と呼ばれる場合が多い。
 八何の原則については,司法研修所検察教官室編「検察講義案(改訂版)」には,「被疑者の取調べの要点」として,「犯罪の日時,場所,方法,動機又は原因,犯行の状況,被害の状況及び犯罪後の情況等の犯罪構成要件に該当する事実及び情状に関する事実」が必要だとして,次のような記述がある(注1)。
 「この取調べに際しては,次のいわゆる「八何の原則」(7W1H)を落とさないように注意しなければならない。
 (1) だれが(Who)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・犯罪の主体
 (2) だれと(with Whom)・・・・・・・・・・・・・・・・・共犯関係
 (3) なぜ(Why)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・原因・動機・目的
 (4) いつ(When) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・犯罪の日時
 (5) どこで(Where)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・犯罪の場所
 (6) 何を(What)又はだれに対し(to whom)・・犯罪の客体
 (7) どんな方法で(how)・・・・・・・・・・・・・・・・・犯罪の方法
 (8) 何をしたか(what) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・犯罪の行為と結果

(注)(1) これはひとつの原則にすぎない。各犯罪の取調べ事項は,事件に応じてその応用を考えなければならない。」
(括弧付きの数字は,原文では○数字)
 これにより起訴状記載の犯罪事実(公訴事実)の書き方の一例を示せば,次のようになる。
 被告人は,○山○子と共謀の上,平成18年8月18日午前零時30分ころ,東京都新宿区○○4丁目3番地先路上において,実友良夫(当25年)から過去の出来事をめぐって注意を受けたことに立腹し,同人に対し,その背後から同人の腕をつかむなどして同所に駐車中の普通自動車内に押し込み,その大腿部を数回足蹴りにするなどの暴行を加えたものである。
(注1) 司法研修所検察教官室編「検察講義案(改訂版)」(法曹会1998年発行92頁) (法曹会のホームページ在庫案内)又は「検察講義案(平成18年版)」(法曹会2007年発行55頁)




(9) 捜査のための八何の原則
 八何の原則は,捜査に携わる者にも,捜査全般にわたっての重要な鉄則になる。
 警視庁鑑識課出身・長谷川公之氏は,「犯罪捜査」(「推理小説入門」所収)の中で,八何の原則は,「犯罪捜査「八何の原則」」とも呼ばれ,「これらの事項は,現場観察,調書作成,取調などの捜査全般について必要欠くべからざる事柄」だとしている(注1)。
 斎藤澪氏の小説「この子の七つのお祝いに」(第1回横溝正史ミステリ大賞受賞作)(注2)には,刑事同士の会話の中で,
「八何の原則」とは,
 1・何人(なんびと)が(犯人)
 2・何人(なんびと)とともに(共犯)
 3・何時(いつ)(日時)
 4・何処(どこ)で(場所)
 5・何人(なんびと)に対し(被害者)
 6・何故に(動機)
 7・如何(いか)にして(手段)
 8・何をしたか(結果)
だと解説される場面がある。
 ここで,刑事は言う。「三つの事件をそれぞれ八何に割りふってみたのですが,結局,どれも一番重要な1と6が埋まらないんです」
 1と6とは,「誰が?」,「なぜ?」・・・。
 捜査とは,?の穴埋め作業に似ているのかも知れない。八何の原則に即して,一つ一つ調べ追及して穴埋めしていく中で,犯罪を明確にし,犯人を追い求め,真相に迫っていく作業である。
 医学評論家・上野正彦氏の著作「死体は知っている」(角川文庫)にも,自らの監察医としての経験を踏まえ,上記の項目が「八何の原則」として説明され,「私は検死や解剖をするときには,八何の原則を念頭に置いてやっていた。」と綴られている(注3)。
 犯罪事実は,些細な事柄や小さな犯罪の痕跡から,真実を追及する熱意と姿勢の中で,地道な調査,努力を経て,次第に明らかにされていく(注4,5)。
(注1) 木々高太郎・有馬頼義共編「推理小説入門」(光文社文庫2005年175頁)
 「すべての犯罪の解明には,幾つかの基本的な捜査要項があって,それは,(1)何時(犯行日時) (2)何所で(犯行現場) (3)何人が(犯人) (4)何人と共に(共犯) (5)何人に対して(被害者) (6)何故(動機・目的) (7)如何にして(犯行方法) (8)何をしたか(犯行結果)など,八つの「何」によって現わされる項目なので,これを普通,犯罪捜査「八何の原則」と呼んでいる。」
(注2) 斎藤澪著「この子の七つのお祝いに」(角川書店1981年74頁)(第1回横溝正史ミステリ大賞受賞作 )(現在,書店にはなさそうです。)
(注3) 上野正彦著「死体は知っている」(角川文庫)174頁
(注4) 5W1Hを章立てにしたミステリー(第1章WHO? 第2章WHERE? 第3章WHY? 第4章HOW? 第5章WHEN? 第6章WHAT?)として, 岡島二人著「5W1H殺人事件」(双葉社1985年) 岡島二人著「解決まではあと6人―5W1H殺人事件」(講談社1994年)がある。
(注5) 平成20年8月26日付け産経新聞記事には,「元名物検事長作の「捜査いろは唄」 47首で捜査の心得、技術説く」として,元高松・仙台両高検検事長歴任,弁護士大塚清明氏が,現役時代、豊富な捜査経験をもとに考案したユニークな「捜査いろは唄(うた)」が紹介されている。記事には,「《一度にて 良しと思わず 推敲(すいこう)し 八何(はっか)確認 起訴状起案》 47首はこの一首で始まる。八何とは「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どうやって」のいわゆる「5W1H」に、「誰と」「誰に対して」を加えたものだ。」とある。
(注) 八何の原則は,捜査に限らず,事実報告の記載事項としても利用されている。
 一例として,対馬市火災予防違反処理規程事務処理要綱別添1にも,「質問調書の作成上の留意事項」として,「八何の原則」に即して違反事実の報告事項が定められている。
 すべて違反にはその構成要件が定められており、一定の違反ありとするには、少なくとも次の八何(六何)の原則からなる基本的構成要件を満たすだけの事実が存在しなければならない。従って、これだけの事項は、違反事実を特定する上で必ず記載しなければならないのである。
  ア 誰が(違反の主体)
  イ 誰と共に(共犯)
  ウ いつ(違反の日時)
  エ どこで(違反の場所)
  オ なぜ(目的)、動機
  カ 誰に又は何を(違反の客体)
  キ どんな方法で(違反の手段、方法)
  ク 何をしたか(違反行為の結果)




(10) 「が」と「は」の使い分け
 これまでの話で,新聞記事や出来事,物語の書き表し方は,まず時期,場所を示し,「誰が」どうした,という表現形式であった。
いつ(When) どこで(Where) 誰が(Who) 何を(What) なぜ(Why) どうやって(How)
 しかし,起訴や捜査の場合,起訴事実や被疑事実等の「犯罪事実」の表現は,そのような語順,表現とはならない。まず犯罪主体(誰が)が示され,その次に「いつ,どこで・・・」と記述される。そして,「なぜ(Why)」は,省略されることが多い。犯罪の捜査段階では,犯行の全貌解明のため動機「なぜ(Why)」は重要な鍵を握るが,次第に,客観的な行為と結果が犯罪の評価の対象として重視され,犯罪事実の書き方としては,一般に,動機「なぜ(Why)」は背後に潜んで,表現されない(注1)。
誰は(Who) いつ(When) どこで(Where) どうやって(How) 何を(What)
したか
 刑事法では,犯罪主体の刑罰責任が問われることから,その主体が誰なのかを明確にした上で,次いで,時期,場所,方法等が特定して表現される。
 新聞記事等の出来事では「誰」と表現された部分は,犯罪事実では,「誰」と表現される。
 この「が」と「は」の使い分けは,言語学でいう「新情報と既知情報の原理」で説明すると,また違った面白さがある。大野晋氏は,「が」は未知のものを,「は」は既知のものを示すと説明している(注2)。
 最初に物語の中心人物が出てくるとき(新情報のとき)には「が」で示され,次にそれが出てくるとき(既知情報のとき)は「は」で示される,というものである。
 この説明により,昔話「桃太郎」をみれば,
 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。
 最初の「おじいさん」は未知の新情報なので「おじいさん」,次の「おじいさんは」は,前のおじいさんを受けて既知の情報であり,「おじいさん」となる,と理解できる。
 新聞記事では,「実友○子が」であるが,捜査結果で,犯人が判明し確定的となって「被疑者実友○子は,・・・」となり,主語として冒頭に記載され,起訴により「被告人実友○子は,・・・」となっていく。
 これは,新聞記事との比較の話だけであって,「犯罪事実の書き方」としては,犯罪主体を明確にするため主語は冒頭に配置する,ということだけかも知れない。
(注1) 犯罪の原因や経緯等が重大な犯罪事実の全容を明らにしたり,量刑上重要な意味を持ったりする場合には,動機も記載される。単純な財産犯や各種取締法規違反の罪等では,動機は,犯罪事実に記載されることはないようである。
(注2)
(1) 大野晋著「日本語の文法を考える」(岩波新書1978年)
   ハは題目を提示して,それを既知扱いとする。
(2) 大野晋著「日本語と世界」(講談社学術文庫1889年)
  「第2部日本語について」の中の「ハとガの源流」
 ハとガの相違について
   ハ・・・・・既知を承ける。また既知と扱う。
   ガ・・・・・未知を承ける。また未知と扱う。
   松下大三郎著「標準日本口語法」(昭和5年)の中に原型があるとしている。
(3) 野田尚史「新日本語文法選書1 ハとガ」(くろしお出版1996-2003年)
(4) 「ハ」と「ガ」の使い分けについての諸説をまとめた修士論文として,『日本語教育における「は」と「が」の教授法』―中国人学習者に対する日本語教育の場合― がある。
  最近出版の坂野信彦著ハとガ(ブイツーソリューション;星雲社2006年4月)は,ハとガの使い分けを「適合性」と「特異性」で説明する。


(以上 2006.07.29-08.05-08.14-09.16,2007.04.13,2008.02.07-03.16-09.07(修正)記)



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