実務の友   敷金返還等に関する最高裁判例集
2003.10.23 - 最新更新日2006.08.10
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索  引

■ 敷金返還等に関する判例 -----------------------------------------------------------
     1 最高裁一小判昭和29.3.11民集8巻3号672頁
     2 最高裁一小判昭和43.6.27民集22巻6号1427頁
     3 最高裁一小判昭和43.11.21民集22巻12号2726頁
     4 最高裁一小判昭和44.7.17民集23巻8号1610頁
     5 最高裁二小判昭和48.2.2民集27巻1号80頁
     6 最高裁一小判昭和49.9.2民集28巻6号1152号
     7 最高裁二小判昭和53.12.22民集32巻9号1768頁
     8 最高裁一小判平成10.9.3民集52巻6号1467頁
     9 最高裁一小判平成11.1.21民集53巻1号1頁
    10 最高裁二小判平成17.12.16(最高裁Webサイト最近の判例)

■ 参考リンク -----------------------------------------------------------------------
       敷金返還と原状回復特約に関する判例集


 1 最高裁一小判昭和29.3.11民集8巻3号672頁,判例解説民事篇昭和29年度47頁
(最高裁HP該当判例)
1 建物の賃借人が,借家権及び造作等の名義で賃貸人に交付した金員は,賃貸借終了後その返還を求めうるか。
2 借家法第5条にいわゆる造作の意義
(判決要旨)
1 建物の賃借人が,借家権及び造作代又は造作権利増金の名義で賃貸人に交付した金員が,賃貸借の設定によって賃借人の享有すべき建物の場所営業設備等有形無形の利益に対する対価の性質を有するものである場合において,賃借人が十数年間も右建物を使用した以上は,格段の特約の認められない限り,賃貸借が終了しても,右金員の返還を受けることはできない。
2 借家法5条にいわゆる造作とは,建物に附加せられた物件で,賃借人の所有に属し,かつ建物の使用に客観的便益を与えるものをいい,賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため,特に附加した設備の如きを含まないと解すべきである。


○  賃貸借終了後いわゆる権利金の返還を請求できないとされた事例
 2 最高裁一小判昭和43.6.27民集22巻6号1427頁,判例解説民事篇昭和43年度(上)513頁 (最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 期間の定めのない店舗の賃貸借において,右店舗の場所的利益の対価としての性質を有する権利金名義の金員が賃借人から賃貸人に交付されたいた場合には,賃貸借がその成立後2年9箇月で合意解除されたとしても,賃借人は,当然には,賃貸人に対して右金員の返還を請求することができるものではない。
(参照条文) 民法601条


○  建物の賃借人が差押を受けまたは破産宣告の申立を受けたときは賃貸人はただちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約の効力
 3 最高裁一小判昭和43.11.21民集22巻12号2726頁,判例解説民事篇昭和43年度(下)872頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 建物の賃借人が差押を受けまたは破産宣告の申立を受けたときは賃貸人はただちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は,借家法第6条により無効である。
(判決理由抜粋)
 「建物の賃借人が差押を受け,または破産宣告の申立を受けたときは,賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は,賃貸人の解約を制限する借家法1条ノ2の規定の趣旨に反し,賃借人に不利なものであるから同法6条により無効と解すべきであるとした原審の判断は正当」


○ 賃貸建物の所有権移転と敷金の承継
 4 最高裁一小判昭和44.7.17民集23巻8号1610頁,判例解説民事篇昭和44年度(上)491頁)
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 建物賃貸借契約において,該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には,旧賃貸人に差し入れられた敷金は,未払賃料債務があればこれに当然充当され,残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される。


1 敷金の被担保債権の範囲及び敷金返還請求権の発生時期
2 家屋の賃貸借終了後におけるその所有権の移転と敷金の承継の成否
3 賃貸借終了後家屋明渡前における敷金返還請求権と転付命令
 5 最高裁二小判昭和48.2.2民集27巻1号80頁,判例解説民事篇昭和48年度578頁,判例時報704号44頁,判例タイムズ294号337頁,金融法務事情677号45頁,金融商事判例353号5頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
1 家屋賃貸借における敷金は,賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものであり,敷金返還請求権は,賃貸借終了後家屋明渡完了の時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除しなお残額がある場合に,その残額につき具体的に発生するものと解すべきである。
2 家屋の賃貸借終了後明渡前にその所有権が他に移転された場合には,敷金に関する権利義務の関係は,旧所有者と新所有者との合意のみによっては,新所有者に承継されない。
3 家屋の賃貸借終了後であっても,その明渡前においては,敷金返還請求権を転付命令の対象とすることはできない。


○ 賃借家屋明渡債務と敷金返還債務との間の同時履行関係の有無
 6 最高裁一小判昭和49.9.2民集28巻6号1152号,判例解説民事篇昭和49年度209頁,判例時報758号45頁,判例タイムズ315号220頁,金融法務事情738号37頁,金融商事判例453号7頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは,特別の約定のないかぎり,同時履行の関係に立たない。
(判決理由抜粋)
 「期間満了による家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務が同時履行の関係にあるか否かについてみるに,賃貸借における敷金は,賃貸借の終了後家屋明渡義務の履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのある一切の債権を担保するものであり,賃貸人は,賃貸借終了後家屋の明渡がされた時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除してなお残額がある場合に,その残額につき返還義務を負担するものと解すべきものである(最高裁昭和46年(オ)第357号同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁参照)。そして,敷金契約は,このようにして賃貸人が賃借人に対して取得することのある債権を担保するために締結されるものであって,賃貸借契約に附随するものではあるが,賃貸借契約そのものではないから,賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは,1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものとすることはできず,また,両債務の間には著しい価値の差が存しうることからしても,両債務を相対立させてその間に同時履行の関係を認めることは,必ずしも公平の原則に合致するものとはいいがたいのである。一般に家屋の賃貸借関係において,賃借人の保護が要請されるのは本来その利用関係についてであるが,当面の問題は賃貸借終了後の敷金関係に関することであるから,賃借人保護の要請を強調することは相当でなく,また,両債務間に同時履行の関係を肯定することは,右のように家屋の明渡までに賃貸人が取得することのある一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合するとはいえないのである。このような観点からすると,賃貸人は,特別の約定のないかぎり,賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく,したがって,家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解するのが相当であり,このことは,賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であっても異なるところはないと解すべきである。そして,このように賃借人の家屋明渡債務が賃借人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合にあっては,賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はないというべきである。」


○ 土地賃借権の移転と敷金に関する敷金交付者の権利義務関係の承継の有無
 7 最高裁二小判昭和53.12.22民集32巻9号1768頁,判例解説民事篇昭和53年度629頁,判例時報915号49頁,判例タイムズ377号78頁,金融法務事情883号52頁,金融商事判例566号3頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 土地賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転された場合であっても,敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は,敷金交付者において賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務の担保とすることを約し又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り,新賃借人に承継されない。
(判決理由抜粋)
 「土地賃貸借における敷金契約は,賃借人又は第三者が賃貸人に交付した敷金をもって,賃料債務,賃貸借終了後土地明渡義務履行までに生ずる賃料相当の損害金債務,その他賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担することとなる一切の債務を担保することを目的とするものであって,賃貸借に従たる契約ではあるが,賃貸借とは別個の契約である。そして,賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃借人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合においては,敷金交付者が,賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し,又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り,右敷金をもって将来新賃借人が新たに負担することとなる債務についてまでこれを担保しなければならないものと解することは,敷金交付者にその予期に反して不利益を被らせる結果となって相当でなく,敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではないと解すべきである。なお,右のように敷金交付者が敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し,又は敷金返還請求権を譲渡したときであっても,それ以前に敷金返還請求権が国税の徴収のため国税徴収法に基づいてすでに差し押さえられている場合には,右合意又は譲渡の効力をもって右差押をした国に対抗することはできない。」


○ 災害により居住用の賃借家屋が滅失して賃貸借契約が終了した場合における敷引き特約の適用の可否
 8 最高裁一小判平成10.9.3民集52巻6号1467頁,判例解説民事篇平成10年度(下)758頁(敷金,権利金,礼金,保証金の意義について解説あり)
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 居住用の家屋の賃貸借における敷金につき,賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合であっても,災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了したときは,特段の事情がない限り,右特約を適用することはできない。
(判決理由抜粋)
 「居住用の家屋の賃貸借における敷金につき,賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員(以下「敷引金」という。)を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合において,災害により賃借家屋が滅失し,賃貸借契約が終了したときは,特段の事情がない限り,敷引特約を適用することはできず,賃貸人は賃借人に対し敷引金を返還すべきものと解するのが相当である。けだし,敷引金は個々の契約ごとに様々な性質を有するものであるが,いわゆる礼金として合意された場合のように当事者間に明確な合意が存する場合は別として,一般に,賃貸借契約が火災,震災,風水害その他の災害により当事者が予期していない時期に終了した場合についてまで敷引金を返還しないとの合意が成立していたと解することはできないから,他に敷引金の不返還を相当とするに足りる特段の事情がない限り,これを賃借人に返還すべきものであるからである。」
(参照条文) 民法619条2項


○ 建物賃貸借契約継続中に賃借人が賃貸人に対し敷金返還請求権の存在確認を求める訴えにつき確認の利益があるとされた事例
 9 最高裁一小判平成11.1.21民集53巻1号1頁,判例解説民事篇平成11年度(上)1頁,判例時報1667号71頁,判例タイムズ995号73頁、金融法務事情1551号41頁,金融商事判例1072号28頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 建物賃貸借契約継続中に賃借人が賃貸人に対し敷金返還請求権の存在確認を求める訴えは,その内容が右賃貸借契約終了後建物の明渡しがされた時においてそれまでに生じた敷金の被担保債権を控除しなお残額があることを条件とする権利の確認を求めるものであり,賃貸人が賃借人の敷金交付の事実を争って敷金返還義務を負わないと主張しているときは,確認の利益がある。
(判決理由抜粋)
 「建物賃貸借における敷金返還請求権は,賃貸借終了後,建物明渡しがされた時において,それまでに生じた敷金の被担保債権一切を控除しなお残額があることを条件として,その残額につき発生するものであって(最高裁昭和46年(オ)第357号同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁),賃貸借契約終了前においても,このような条件付きの権利として存在するものということができるところ,本件の確認の対象は,このような条件付きの権利であると解されるから,現在の権利又は法律関係であるということができ,確認の対象としての適格に欠けるところはないというべきである。また,本件では,上告人は,被上告人の主張する敷金交付の事実を争って,敷金の返還義務を負わないと主張しているのであるから,被上告人・上告人間で右のような条件付の権利の存否を確定すれば,被上告人の法律上の地位に現に生じている不安ないし危険は除去されるといえるのであって,本件訴えには即時確定の利益があるということができる。」


○ 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約が成立していないとされた事例
10 最高裁二小判平成17.12.16 (最高裁Webサイト最近の判例)
(最高裁HP該当判例)
(判決理由抜粋)
 「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。 」


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