惑い人なロケット

プラネテス・・・初めてこの作品に出会ったのは果たしていつだったか? 色々なファンサイトを見ると、雑誌への初出は1999年とのこと。意外と以前からあるのにちょっとびっくり。私自身は、書店でコミックを見かけ、ためしにと1巻を購入。そして、ついつい2巻、そして後はずるずると・・・である。
現在(2004/08/01)、アニメ版がNHKの教育で放送されているが、もともとこれはBSで放送されていたもの。現在、DVDが続々リリースされている状況である。 そして、サイトを検索する限りにおいては、このアニメ版、ハチマキが木星往還船に乗り込むまでを描くようである。となると、原作ファンとして気になるのは、「ハチとタナベ」の関係であるが、果たして結婚まで描かれているのだろうか。
原作コミックは、4巻まで刊行されているが、あのハチマキの名台詞「愛し合わずにはいられない」までを入れてくれると、実にまとまりがいい気もするが、どうもこの辺りは無理ぽいですね。公式サイトを見る限りでは・・・
アニメ版といえば、原作との最大の違いは、オリジナルキャラクターである「クレア」の存在でしょう。いまのところ、DVD(4巻で視聴)ではかつてハチマキと関係のあった女性という扱いだが、となるとタナベとの対比の為のキャラか?
実際、DVD3巻収録の第8話「拠るべき場所」では、タナベとクレアは対立してますし。
アニメ版ならではのキャラは他にもいるが、原作との根幹的な違いを象徴するキャラとして、このクレアの存在は際立っている気もするのですが。
そして、もうひとつ、原作との最大の違いは、タナベの扱い、というよりも、物語の視点として、タナベという作中最も視聴者に近い視点を利用して、作品世界を展開させていることでしょう。ただ惜しむらくは、これにより、原作特有の「クールさ」が相殺されている気もします。また、タナベが原作より「女性らしく」描かれていると思うのは、私の気のせいでしょうか?ひょっとして、「女性キャラ」の扱いについては、アニメスタッフの方が一枚上手?(笑)

「プラネテス」・・・この作品の魅力のひとつは、宇宙開発を「人類の叡智の結晶」としてではなく、当たり前の「日常」とするクールな視点ではないかと思います。その視点があるからこそ、主要キャラクター各人に私たちは思い入れをもって感情移入できるのでは?実際、ハチマキもタナベも「会社員」という立場ですし、他のキャラクターも特別なエリートというわけではありません。タンデムミラーエンジンの生みの親、ロックスミスを別にすれば、いわゆる天才的な科学者も登場しません。
宇宙空間は良くも悪くも、我々の暮らす地上世界の延長線上であり、そこにはあいも変わらず、先進諸国とそれ以外の勢力との確執が存在します。そう、プラネテスで描かれる世界は現代の延長線上にある、歴史としての「未来の姿」でもあるのです。

ところで、SFをファンタジーの亜種とするなら、このプラネテスはファンタジーではない「日常」としての宇宙を見事に描いていると思います。しかも、科学考証にとらわれすぎたいわゆる「宇宙オタク」の描くものではなく、「残酷なまでに美しい宇宙」を我々に提示してくれます。
SFニュースタンダードとは、出版している講談社の宣伝コピーですが、その看板も決して大げさなものではありません。
ただし、アニメ版の方が色々と「マンガチック」なのは興味深いです。製作したスタッフの方針なのか、それともクライアントであるNHKの方針なのか。まぁ、タナベのこともそうですが、そうした描写の方がSFファンや原作ファン以外の視聴者への食いつきはいいでしょうね。
ちなみにアニメ版の製作会社は、ガンダムシリーズで有名なサンライズ。案の定、宇宙空間の描写はお手の物である。久々にSFファンにもお勧めできるアニメーションな気がします。
アニメ版のプラネテス、未見の方には申し訳ないのですが、第一話は文句なく傑作です。最初の話というのは「ツカミ」ですが、その点、アニメ版の一話はこのアニメ版がどういうスタンスで描かれていくのかを原作ファンに提示し、おそらく初見の方には、いかなる世界観と物語なのかを明確に提示してくれています。

プラネテス 原作:幸村 誠 講談社モーニングKC刊 現在(2004/08/01) 4巻まで刊行
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