Chapter:EX−5 親友イコール… |
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虹精の街プリナスの郊外に6人の子供達がいる。アルフと友人たちだ。 彼らがいる空き地には長さ10メートル、幅1.5メートル程の四角が地面に描かれていて、その両端に2人の少年がいた。 「じゃあ、始めるわよ」 四角の外、丁度2人の中心あたりにいた青髪の少女が2人に話しかける。2人は少女の問いに頷くと、お互いの《魔法剣》と同じくらいの長さの棒を、身構えた。 「初め!」 少女、クレイアの掛け声に2人は同時に身構えたまま距離を詰める。そして、2人の距離がお互いの武器の間合いに入った次の瞬間には、棒と棒がぶつかり合う音が幾度も響く。 本来ならば、《魔法剣》の修練として行う模擬戦は、修練場を使うのだが、今は1週間後に控えた剣術大会のため、どこも満員の状態が続いている。彼らが実際の《魔法剣》では無く、木の棒を用いているのも、修練場であれば特殊な魔法で《魔法剣》の威力を弱めているのだが、ここではそれが出来ず、何かの間違いで相手に致命傷を負わせてしまう事を防ぐためだ。 アルフの攻撃をヴォルティスが防ぎ、もう一方の手で持った棒で反撃する。そして今度はアルフが後ろの部分を使って弾く。お互いの実力はほぼ互角で、一進一退の攻防が続いていた。 「たあっ!」 「そこかっ!」 タイミングは同時。それぞれの持った棒は、相手の首筋の手前で止まる。そのまましばらく動きを止め、隙をうかがっていたが、その次の瞬間。 「もらったぁ!」 「うわっ!?」 ヴォルティスは、棒を手放し、アルフの手首を掴むと、半ば強引に投げ飛ばした。そして、倒れたところを間髪いれずに馬乗りになる。 「はい、そこまで!」 クレイアの終了の掛け声と共に、ヴォルティスはアルフの上から降り、彼が起き上がる手助けをする。 「今の勝負、ヴォルティスの勝ち!」 「これで、3勝1敗な」 「急に投げに来るなんて…」 「お前は詰めが甘いんだよ。だから負けるんじゃないか。それに…」 「それに?」 「…いや、なんでもない。さすがに4回も休みなしで戦ったら疲れたし、少し休まないか」 何かを言いかけてやめた様にも聞こえて、アルフは少し首を傾げたが、それ以上聞かない事にして、少し休む事にした。しかし… 「アルフー!そっちが終わったら、こっちも手伝って。アルフの笛が無いとなんだかしっくり来ないのよ」 「お願いだから、少し休ませてよ…」 少し離れた所で、ルフィーナとシェイディルが歌の練習をしているが、どうやらアルフに曲の方を担当して欲しいようだ。もっとも彼も来る時に頼まれて、いつも使っているフルートを持ってきていたのだが。 アルフもげんなりしつつも、フルートを持って2人の方に歩いていった。 「ヴォルティス…あんたも気付いているんだろ?言った方がいいよ」 アルフがルフィーナとシェイディルの方へ向かって、しばらく歩いた頃にサンドラがヴォルティスに話しかける。 「サンドラも、気付いてたか…けど、俺達が言った所で何が変わるんだ?」 「だからって、このまま大会に出させる気かい?今のままだと、間違いなく負けるよ」 「分かってる。しかし、あいつ自身が気付く以外に方法はないだろ」 2人の話にクレイアも加わる。 「ねぇ、さっきから何を話しているの?今のままだと、アルフが負けるとか言ってなかった?」 「クレイア、お前はあいつの事、どう思う?」 「どうって…とても優しくて良い子じゃない。それがどうかしたの?」 クレイアの返事に、ヴォルティスは少し肩をすくめる。 「確かに、アルフという『人物』としては、十分評価できることだが、『戦士』として、同じ様に評価されるとは限らない…そういう事だ」 ヴォルティスの言葉にクレイアは少し眉根を寄せるが、それ以上の事は何も言なわなかった。 そして、大会当日がやってきた。アルフたちから大会に参加するのは、アルフ、ヴォルティス、サンドラの3人だ。しかし、3人が同じというわけではなく、サンドラのみもう一つ年上のクラスでの挑戦になる。 「いよいよか…」 「順当に勝ち進んでいったとして、俺達が当たるのは準決勝か…俺達にとっては、実質決勝戦みたいなものだけどな」 「それよりもまずは、目の前の相手だよ。僕の最初の相手は…地精パイラートという人か」 「ほら、あそこにいる、あいつだ」 ヴォルティスが視線でその人物を示す。そこには歳はアルフ達とほぼ同じくらいだでやや背が低いが、筋肉質で「屈強」と呼ぶに相応しい人物が、自身の《魔法剣》であろう斧を磨いていた。 「ちょ…ちょっと待ってよ。あれって、本当に《魔法剣》!?」 「良く見ろ、石で出来ている。あいつは地精族だから、《魔法剣》が石で出来ているのは当然だろ」 「あんなので斬られたら、間違いなく死んじゃうよ…」 「大丈夫だって。ここも修練場と同じ魔法がかかっているから、少なくとも致命傷になる事はない」 「そういえば、ヴォルティスは去年も参加したんだっけ」 「まあ…な。一回戦で負けたけど。そして、その負けた相手が、あいつだ」 2人がひそひそ声でそう話していると、パイラートの方が近づいてきた。 「何をさっきから人の顔を見てひそひそと話してるんだ!?こっちは試合前で気が立っているんだ。分かったらさっさどこかへ行っちまいな」 「それなら、俺達だって試合前だ。丁度良い準備運動だ。かかって来な」 「やめておきなよ、ヴォルティス」 アルフの言葉に、パイラートは眉根を寄せ、確認するかの様に言う。 「ヴォルティス?ああ、去年真っ先に俺に負けたやつか…良いぜ、どっからでも来な。相手になってやるぜ」 「くっ!言わせておけば!」 「落ち着けって、こんなところで戦っても何の意味も無いよ」 パイラートに掴みかかりそうになったヴォルティスをアルフが止めに入る。 「アルフ!放せ!もうガマンできねぇ」 「アルフ…お前が虹精アルフロストか?」 「そうだよ。君の対戦相手だ」 「どんなヤツかと思っていたら、こんなひ弱なヤツだったとはな。悪いが、女の子相手でも俺は容赦しないぜ、じゃあな」 パイラートはそういい残して去っていく。その後姿を、今にも飛び掛りかねない調子で、ヴォルティスがにらみつける。 「ったく、感じ悪いぜ!去年以上に性格が悪くなっていやがる」 「僕って、そんなに女の子っぽいかな…」 「お前もお前で、そんな事で凹むな!いいか、あいつは勝つためなら何でもしてきやがる。不意打ちやだまし討ちも平気でなるようなやつだ。気をつけろ」 やがて、係りの者がアルフを呼びに来る。 「いよいよか…」 「俺の出番はまだ後だから、観客席に行っている。いいか、ひ弱な女の子呼ばわりした事を後悔させてやれ」 ヴォルティスはそう言いながらアルフの背中を軽く叩いて送りだす。アルフのその越えに応えるように左手で小さくガッツポーズを作り入場口へと向かっていった。 試合はアルフのペースで進んでいた。パイラートの動きは遅く、力では劣るものの、素早さではアルフに分があった。そのため、素早く懐に飛び込んでは攻撃し、そしてパイラートが反撃する前に飛び退くいてパイラートを翻弄する。 「こ…の!」 アルフのスピードの前に自慢の斧も空を切るばかりのパイラートが痺れを切らし、アルフに突進をかける。しかし、その動きも直線的で、かわす事に何の苦も無かった。 「いけー!アルフー!」 「今のところは大丈夫だが…」 「どうしたのよ、ヴォルティス。あんなに押しているじゃない。絶対アルフの勝ちよ」 「確かに、あいつの戦士としての技量なら、参加している連中のなかでもトップクラスだろうな…しかし…」 「あ、アルフ!チャンスよ」 アルフのスピードに翻弄され続けたパイラートが、ついに足をもつらせて倒れる。この間も攻撃も認めているため、普通であれば、アルフの勝利は確定である。 しかし彼は《魔法剣》を振りかぶるものの、その場で立ち尽くす。歯を食いしばるその表情は、まるで何か躊躇しているようにも見えた。 「まずいっ!とうとう出やがった!」 「とうとう出た…って?」 「あいつの『戦士』としての致命的な弱点だ…あいつは『優しすぎる』んだよ!」 そして、アルフは気付いていない。パイラートの口元には笑みがある事に。その事に気がついたヴォルティスが立ち上がり叫ぶ。 「騙されるな!アルフ、それは演技だ!!」 しかし、アルフがその声に反応する前に、パイラートの斧がアルフ目掛けて飛んでくる。突然の事に避けることさえ出来ず、顎に斧が命中してしまう。 「ぐ…っ!」 普通であれば十分致命傷となっていたその攻撃は、一撃でアルフの意識を消し飛ばした。 それから暫くして、アルフは会場の中にある医務室で目が覚めた。すぐに起き上がり、《魔法剣》を構えようと意識を集中する。 「アルフ、落ち着いて。もう終わったから」 傍にいたクレイアに肩を叩かれ、アルフはようやく我に返った。 「負けちゃったんだ…」 「でも、後ちょっとだったじゃない」 「くそっ!あの時にどうしてためらってしまったんだ…せっかくのチャンスだったのに、どうしても倒れている人に攻撃出来なかった…」 アルフはベッドを叩き、半泣きになりながら叫ぶ。周りからは冷たい視線で見られているが、お構いなしだ。 「…僕がもっと強かったら…非情になれたら…」 「強くなくても良いじゃない」 次第に自己嫌悪に陥りつつあったアルフを抱きしめつつ、クレイアが耳元でささやく。 「私は戦士としてのアルフよりも、いつもの優しいアルフの方が好きだもん。それに、倒れている人に攻撃できないって、立派な事よ。ヴォルティスから聞いたけど、試合前に散々バカにされた相手なのに…」 「あ、そうだ。ヴォルティスは?僕との試合をあんなに楽しみにしていたのに…謝らないと」 「ヴォルティスは今、試合の最中よ。アルフの敵討ち…かしら」 その頃、ヴォルティスとパイラートの試合は今まさに勝負が付こうとしていた。ヴォルティスの剣がパイラートの斧を切断し、その切れた先は上空へと飛び上がりながら消滅する。 「戦いに情を挟んだあいつの弁護をするつもりはない」 ヴォルティスがパイラートの目前でつぶやく。 「だがな!俺のダチの思いを踏みにじった、お前だけは許さねぇ!」 ヴォルティスはパイラートの首筋を掴み、明らかに体重の重い彼を片手で持ち上げる。次の瞬間にはヴォルティスの頭は真っ白になっていた。制止するする審判…それを振り切る自分… 気がついたときには、ヴォルティスの《魔法剣》はパイラートの『核』を貫いていた。 「あーあ、結局今年も勝てなかったか…」 「でも、あのパイラートって子もそのまま医務室に運ばれて、決勝は出れなかったのでしょ?」 試合では、基本的には何をしても構わない事になっているが、相手の『核』を攻撃することだけは禁じられている。審判の制止により、ヴォルティスの一撃は僅かに『核』をそれたものの、明らかに故意に狙ったとして、ヴォルティスの反則負けになってしまったのだ。 「やっぱり、僕があの時躊躇わなかったら、ヴォルティスまで反則負けになる事もなかったのに…」 「だーかーら、お前は詰めが甘いって言ってるんだよ。ほら、立てよ」 ヴォルティスが立ち上がりながら、アルフに手を差し出す。 「今年はダメだったが、また来年があるじゃないか。早速来年に向けて特訓だ!イヤとは言わせないぞ!」 その言葉に、しばしきょとんとしていたアルフだが、すぐにヴォルティスの手を握り返す。 「言ったね。後で後悔しないでよ」 「ふん。その言葉、そっくりそのままお返ししてやるよ」 早速、取っ組み合いを始めるアルフとヴォルティス。しかし、2人の顔には笑顔がある。 「まったく、これだから男の子は…」 半ば感心、半ば呆れながら、クレイアは2人を見守っていた。しかしその時。 「面白そうじゃないか、あたいも混ぜてよ。今回は大したヤツがいなくて、不完全燃焼なんだ」 「やめろー!サンドラ〜」 2人を一気にを持ち上げ、振り回すサンドラ。その様子に、もはや呆れるしかない残りの女の子達3人だった。 Chapter EX−5 終わり |
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