『オスカー考』


今年のアカデミー賞も、なかなかいい感じだったように思う。
本命ばかりがオスカーをゲットし、汚い言葉を使えば、
「どれ一つとして意外性もクソもなかった」わけだけど、
まあ順当な結果じゃなかったかなと思うアタシ。
ここでひとつ、自前ホームページという強みを利用(悪用?)して、
今年のオスカーを好き放題にいろいろ語ってみようかと思っちゃったりして。








<とりあえずの目玉>

今年のオスカーレースでまず注目されるのは、『ラスト・サムライ』で助演男優賞にノミネートされた渡辺謙ちゃんと、外国語映画賞でノミネートされた『たそがれ清兵衛』だろうか。個人的には日本人勢については二の次だったりするんだけどね(←非国民かも) 

結果的には日本勢の受賞はならなかったけど、そもそもオスカー・ノミネーションの席はたった5つ。つまり、何千本という映画、そして何千人、何万人という俳優の中からわずか5本(or5人)しか選ばれないのだ。そんな中、ハリウッドでは完全にマイノリティー人種の扱いを受けている日本人がノミネートされた。これって十分に「健闘した!!」って言えるんじゃないかなあ、と、アタシは思うワケで。

そしてもう一つのポイントは、作品賞、監督賞を始め11部門にノミネートされた『ロード・オブ・ザ・リング』がどこまでレースに食い込んでくるか、だろう。結果、ノミネートされた全部門において受賞するという快挙を成し遂げた。ちなみに11部門受賞は、『ベン・ハー』と『タイタニック』に並ぶ最多ゲットのタイ記録。ノミネートされた部門すべてを受賞したのは、『恋の手ほどき』と『ラスト・エンペラー』に続く3作目だそうな。ちなみに『恋の・・・』と『ラスト・・・』は共に9部門。そういう意味では『ロード・・・』が一枚上手か。

....と、ここまではとりあえず褒めモードで書いてみたけど、一つだけツッコんでもいい?

『ロード・オブ・ザ・リング』って、11部門もノミネートされた割には、すべて技術・美術系のテクニカル部門だってのが気になる。つまり、俳優部門では一つもノミネートされてないって事。イヤな言葉を使えば、現代のハイテクに頼りまくった映画だって事も言えなくもない。アラゴルン役のヴィゴ・モーテンセンとか、助演男優賞候補に入っても良かったんじゃないかと思うけどなあ(←明らかに演技よりも顔で選んでるだろ自分!!) 一般的な相場で考えれば、ガラドリエル役のケイト・ブランシェットが助演女優賞にノミネートされそうなんだけど、今回は出番少ないから仕方ないか。



*ケイト・ブランシェットは、1998年に『エリザベス』で主演女優賞ノミニーとなった実力派女優である。








<5秒遅れのオスカー>

先日起こった「ジャネット・ジャクソン見えちゃった事件」はご存知だろうか。毎年、アメリカ中が大熱狂の渦と化すNFLプレイ・オフのハーフタイム・ショウで、ジャネットのちょっとした悪ノリがエラい騒動に発展してしまった、あの事件である。

これを受けて、オスカーの独占放送権を持つABC局は、いざという時に備え、今年の授賞式の模様を5秒遅れの録画放送という方法でオンエアした。5秒あれば、放送禁止ゾーンの言動もちょちょいのちょいでカットして放送できるというわけだ。スゴいなABC....。



*昨年も5秒遅れの録画放送だったならば、マイケル・ムーアの「ブッシュよ恥を知れ!!」という受賞スピーチはカットされていたのだろうか?







<やっぱりコイツだ、ビリー・クリスタル>

オスカー授賞式の司会には、やはりこの人を置いて他にいない、と、アタシは確信している。『恋人たちの予感』でメグ・ライアンと絶妙なコンビネーションを見せた俳優だと言えば、思い出す方も多いかもしれない。

最近のアカデミー賞授賞式は、ビリー・クリスタル、ウーピー・ゴールドバーグ、スティーブ・マーティンの3人が順繰りに司会をしているといった感じなのだが、ウーピーはギャグが少々キワドイし、スティーブは内輪ネタがやや多めでイマイチ笑えない。その点、若干ベタではあるかもしれないが、ビリーの司会はとにかく純粋に笑わせる。

It’s a wonderful night for Oscar, Oscar, Oscar
Who will win?

という歌詞から始まる『作品賞ノミネート作品メドレー』は、アタシがオスカーを見始めた18歳の頃から変わっていない。その『水戸黄門』的な相変わらずさが嬉しいし、もちろんその中身は毎回ゲラゲラもんで面白い。できれば毎年ビリーに司会をやってもらいたいぐらいである。



*彼は、司会の準備に半年を費やすそうだ。









<各カテゴリー>

助演男優賞は『ミスティック・リバー』のティム・ロビンス。彼は1995年に『デッドマン・ウォーキング』で監督賞にノミネートされた経験があるが、俳優としてのオスカーレース参戦は意外にも今回が初めて。「虐待や暴力の被害者のみなさん、助けを求める事は恥ではなく、暴力の連鎖を止める大きな力なのです」という彼の受賞スピーチは、とても熱く、また、素晴らしく力がこもっていた。アタシが言うのもなんだけど、成長したね、ティム(笑)


*ティム・ロビンスは以前、壇上でものっすごい政治批判をしちゃったために、パートナーのスーザン・サランドンともども、しばしアカデミー側からマークされていた事がある。



主演男優賞は、同じく『ミスティック・リバー』のショーン・ペン。「俳優に優劣はつけられない」というポリシーから、これまで授賞式は欠席続きだったのたが、『ミスティック・リバー』の他メンバーに説得されたのか、はたまた「ショーン、おまえ今年はオスカーが取れるよ」と事前に内部情報が回ったのか(笑)、今年はようやく重い腰を上げての出席。しかもちゃっかりオスカーまで奪っていくというタイミングの良さ(笑)「あれー、オレもらっちゃったよぉ」みたいなカンジで、少しはにかむような表情でスピーチをする彼は、役になりきっている時とはまったく違う柔らかい雰囲気を漂わせ、見ているこっちが穏やかな気分にさせられた。



助演女優賞は『コールド・マウンテン』のレネー・ゼルヴィガー。二年前には『ブリジット・ジョーンズの日記』、また昨年は『シカゴ』で主演女優賞にノミネートされたが、惜しくも受賞ならず。まさに「三度目の正直」で、めでたくオスカーを手中に収めた。

個人的に、彼女ほど「七変化」な女優は珍しいと思う。非常に失礼な言い方だが、彼女は決して美形ではない。彼女のメジャーデビュー作『ザ・エージェント』を観た時は「え、何このフツーな人!?」と、こんなに没個性な人を相手役に選ぶなんて、トム・クルーズもいよいよ気が違ったんじゃないかと思ったものだ(レネー、ホンマにゴメン) しかしその後、彼女がキャリアを重ねていくにつれて、自分自身がとんでもない見当違いをしていた事に気づいた。

今は、彼女の演技に対する姿勢が気に入っている。『ベティ・サイズモア』のタイトル・ロールをめちゃめちゃカワイく演じ、『ブリジット・ジョーンズの日記』では、増量ムチムチ・ボディに姿を変えての熱演。オチは気に入らないが、キャラはキュートだった。キャラクターの余りあるだらしなさに嫌気が差し、原作を読破しきれなかった経験を持つアタシとしては「レネーが演じなければ、ブリジットにこれだけの愛らしさは出なかっただろう」と確信している。

また『シカゴ』では、ミュージカル初体験ながら、かなりの健闘ぶりを見せた。助演女優賞はベルマ・ケリー役のキャサリン・ゼタ・ジョーンズにかっさらわれたが(←やっぱりミュージカルあがりの女優には華があった)、あれはあれで、レネーなりにいい味出してたと思う。歌声もロキシー役のイメージに合ってたし、何よりもあのステージ衣装からスラリと伸びた足!!! ハムストリングス(=太ももの裏側)の張り具合といい、背中の筋肉のつき方といい、元体操選手であった事を確実に物語っている体つきである(←どこ見とんねん・笑) 色気だエロティシズムだという以前の問題で、生物学的な面においてまさにアタシ好みの体型だ。

....って、ここはアタシの体型趣味を語る場ではない(誰か止めてくれ!!!!!)

とにかく、初受賞の感動に体を震わせていたレニー。シンプルなスピーチだったが、どうにかなりそうなぐらい珍しく緊張していた彼女を見ていると「良かったねー」と素直に喜んであげたくなった。



主演女優賞は、本年度アカデミー賞の本命中の本命と言われていた『モンスター』のシャーリズ・セロン。14kg増量し、眉をそり落としたその顔に特殊メイクを施して(←もはや誰だか識別不能のレベル)、米国初の女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノスを演じた。キレっぷりで言えば『21グラム』のナオミ・ワッツもいい線まで行ってたが、やっぱり14kgの豹変ぶりには誰もかなわないってか(笑)

南アフリカ出身の彼女は元々バレリーナ志望だったが、膝をやられて断念。じゃあ女優になろう、と、コネなしで単身ハリウッドへ乗り込み、ここまで成長したっていうスゴい人。それだけでなく、10代の頃の家庭内いざこざ(←気が引けるので書くのを控えたが、かなりショッキング)なんかもあって、けっこう苦労人だったりする。「お母さん、いつもサポートしてくれてありがとう」と、声を詰まらせてサンクス・スピーチをする彼女と、嬉し涙を浮かべながら笑顔で娘の晴れ姿を見つめるお母さん。そして、同じくうるうる目で席からシャーリズを見つめるカレシのスチュワート・タウンゼント。ああ、なんていい場面なんだ!!!! 思わずこっちまでもらい泣きをしてしまった次第である(照笑)


*『モンスター』のシャーリズは、口をへの字にすると、『ファーゴ』のフランシス・マクドーマンドに瓜二つだ。









<オスカー受賞の法則>

アカデミー側からこれと言った公言があるわけではないが、オスカーを手にする俳優達には一定の共通項があり、特に近年は、この傾向が顕著に表れている。アカデミーも人間の集まりなので、一定の好みや偏りが出るのは致し方ないが、オスカーを意識する俳優や監督ならば、意図的にこのあたりの線を狙って映画を作っているのではないかと疑われても否定はしまい。


その法則とはズバリ、『え、まぢであのひと!?!?!?』という意外性にある。


女優に関して言うならば、「特殊メイク」または「減量・増量」によって外見を変えてしまうのがポイント。「え、これってあの人!?」というド肝抜かせます作戦がオスカーへの近道、と言えるのではないだろうか。ここ数年の実績を見ただけでも、おのずとそれは理解できるはずだ。


シャーリズ・セロン:
特殊メイク+大幅増量の娼婦兼連続殺人犯。アカデミーが泣いて喜ぶ(かどうかは知らないが)、いかにもアカデミー好みの難役(笑)今回の主演女優賞は、シャーリズ・セロンとダイアン・キートンの一騎打ちと言われていたが、上記のような法則に従うと、シャーリズ受賞は確実。また、『モンスター』が超シリアス映画であるのに対し、ダイアン・キートンの『恋愛適齢期』は、熟年層が主役のラブコメディ。アカデミーがコメディよりもシリアス系を好む傾向にある事も考慮すると、シャーリズの受賞がいかに堅いものだったかがわかる。


*昔からハリウッドでは、「娼婦を演じればオスカーがもらえる」という俗説が密かに存在している。



ニコール・キッドマン:
昨年『めぐりあう時間たち』で主演女優賞を受賞し、オスカー俳優の仲間入り。トム・クルーズの影から完全に抜け出した感のある彼女のポイントはズバリ「つけ鼻」(笑) これは昨年の映画界で随分とネタにされたほどの衝撃度だった。別につけ鼻つけたからオスカー取れたワケじゃないけど、上記の法則にはしっかりとあてはまっている。


*撮影中、つけ鼻をつけたままロケ地付近を歩いてみたところ、誰もニコールだと気づかなかったらしい。



ハル・ベリー:
『チョコレート』で、いつもよりムッチリした体型+ボサボサのヘア・スタイルで、いわゆる下層階級の女性を演じた。感情面でかなり激しいシーンが続くため、精神的・体力的ともに消耗も激しかっただろうと思われる。彼女もまた体型を変え、キレまくり演技で2年前の主演女優賞をゲット。



ヒラリー・スワンク:
『ボーイズ・ドント・クライ』で性同一性障害のティナ=ブランドンを演じ、3年前の主演女優賞をかっさらった。あの時は、どこから見てもホントに男の子にしか見えなかったのにはビックリ。もし身近に彼女(彼?)がいたら、アタシも騙されてしまう可能性アリ。撮影終了後、役から抜け出すのにずいぶん苦労したとヒラリーは後に語っている。


*ヒラリー・スワンクが、ずーーーーっと前に『ベスト・キッド3』や『ビバリーヒルズ青春白書』に出ていたのを見た覚えがある。



また、男性陣においては「身体的・精神的に障害を持つ役がオスカーに近い」という法則が存在する。

トム・ハンクス:
HIVポジティブの人物を演じた『フィラデルフィア』、そして、「人生はチョコレートの入った箱のようなものだ。開けてみるまで中味はわからない」などの『ガンピズム』なる思想をも生み出し、一躍話題となった『フォレスト・ガンプ』での熱演を見せ、二年連続で主演男優賞を獲得。『フィラデルフィア』では、患者になりきるためにゲッソリと激痩せした。また、受賞は逃したものの、激太り&激痩せを決行し、無人島でのサバイバル劇をスリリングなものに仕立て上げた『キャスト・アウェイ』で主演賞ノミニーとなっている。


*映画の度に激太り&激痩せを何度も繰り返すハンクス。おかげで普段の彼がどんな体型なのか思い出せない。



ショーン・ペン:
知的障害を持つ父親と一人娘の親子愛を描いた『アイ・アム・サム』で主演男優賞ノミネート。これらを考慮に入れると、『ミスティック・リバー』での主演男優賞受賞は、近年で数少ない「心身ともにノーマルなキャラ」(←不適切な表現かもしれないが、他にふさわしい言葉が思いつかない)の受賞と言ってもいいかもしれない。(もっとも、娘を殺害されて苦悩する父親という意味では、精神的負担の重い役といえなくもないが)



ダスティン・ホフマン:
知的障害を持つ兄貴レイモンドを演じた『レインマン』で主演男優賞を受賞。めちゃ有名だし、内容については言うまでもないか。

*やはりトム・クルーズは「あげまん」だった(これについては後述する)



アル・パチーノ:
『セント・オブ・ウーマン』で盲目の退役軍人を演じ、主演男優賞をゲット。ノミネート7度目にしてようやくの初受賞。また、この年は、同時に『Glengarry Glen Ross』(←邦題って『摩天楼を夢見て』だったかなぁ・自信なし)で助演男優賞にもノミネートされていた。


ここまでパターン化してしまうと、たまには意外どころを受賞させてみたいと思うのはアタシだけだろうか? もっとも、体を変えようが顔を変えようが、それ以前に素晴らしい演技をしている事が必要最低条件である(ハズ)



以上が今年のオスカー考。いくらなんでも語りすぎ(笑)










<おまけ 〜トム・クルーズのあげまん説〜>

今や地球上で知らんもんはおらん(かもしれない)トム・クルーズ。彼にはおごったところが一切なく、共演者やクルー達に対して非常にフレンドリーに接する気さくな人だ、というもっぱらの評判である。これは、そんな彼の優しさが、ある種ウラ目に出た俗説(と言うか、勝手にアタシが打ち出した定義)である。それは


「トムと共演するとオスカーに近づく」


先述した『レインマン』のダスティン・ホフマンを始め、数々の俳優達がトムの献身的オーラを受けて(!?)オスカー受賞、もしくはノミネートを果たしている。


キューバ・グッディング・ジュニア:
『ザ・エージェント』でワガママなフットボール・プレイヤーを演じ、助演男優賞を受賞。この作品は作品賞にもノミネートされた。


サマンサ・モートン:
『マイノリティー・レポート』でトムと共演した彼女は、『イン・アメリカ』で今年のアカデミー主演女優賞ノミニーとなった。


ジュリアン・ムーア:
もともとオスカー常連女優だが、『マグノリア』でトムと共演している。


渡辺謙:
言うまでもなく『ラスト・サムライ』で助演男優賞ノミニーに。次は『バットマン』の悪役をやるらしいが、『バットマン』って、確かヒットしたのは2作目までだったよなあ....(不安)


レネー・ゼルヴィガー:
『ザ・エージェント』でトムが自ら相手役に大抜擢。当時の彼女は、トムとはどうにも釣り合わないほどの個性のない女優だった(←私見)が、気がついてみれば今年の助演女優賞の覇者となっていた。


ニコール・キッドマン:
「トム・クルーズの嫁」という、何よりも強い宣伝文句を持していたニコール。そのおかげでつらい思いもした事も多々あるだろうが、離婚を機に超ワーカホリック化し、昨年の主演女優賞をゲット。今後はトムの方が「ニコールの元ダンナ」と言われる時代がくる可能性アリ(笑)


肝心のトム自身はと言うと、ゴールデン・グローブ賞やSAGアワード、ピープルズ・チョイス賞などなどなど、いろーんな賞を何度も受賞し、アカデミー賞にも3回ノミネートされているのだが、いまだにオスカーとは縁がない。まあ「7度目の正直」のアル・パチーノに比べれば、3回ノミネートなんてまだまだしれてるとも言えるが(笑) しかし、ここまで来るとどう考えても彼は「あげまん」だとしか思えない。ひょっとすると、彼がオスカーを手にできるカテゴリーは、「老いて死ぬ間際になるともらえる」と密かに言われている(爆)名誉賞だったりするのか?


確かに、人に愛情を注ぐのは素晴らしい事だし、彼の映画作りに対するポリシーも尊敬に値する。しかし、もうちっとぐらい自分の事も考えていーんじゃないのトム・クルーズ? この前、彼のインタビュー番組を見たんだけど、まるで聖人君主みたいなんだもん。すごいと思うよ、彼の人に対する献身的な態度とか、常に何かを学ぼうとする姿勢は。でも、かなり邪念混ざりまくりで生きてる(笑)アタシにとっては、なんか立派すぎて、ねえ。