[3.手術]
その日の朝、入院の手続きをとると、昼にはもう手術が始まっていた。
手術といっても、足の付け根からカテーテルを挿入して検査を行ない、患部を
発見したら、ステントと呼ばれる器具を挿入して血管を広げるだけのもので
あるから、局所麻酔ですむ。もっとも、それがかえって嫌な場合もあるのだが。
というわけで、まず足の付け根、というよりほとんど股間に麻酔を打たれて、
カテーテルを挿入することとなった。
「ここ、これでいいのか?」
「場所がわからん、変に入り組んでて」
「これで3回目・・」
などという具合に声が聞こえてきて「人の体で遊ぶんじゃねぇ」と思いながら
時間だけが経過していく。
かなり長い時間が経過した後、
「よし、サンプルをとって」
「造影、いってみよう」
との声でようやく安心しかけたのだが、そのあと
「なんじゃこりゃ、肝臓造影になってる」
「まあ腎臓も映ってるから・・」
カテーテルは腎臓よりも肝臓に近い場所に入っていたのだった。しかも・・
「腎動脈に狭窄部はないな」
「意外な結果だが」
3人が3人とも一致した見立ては間違っていたのである。しかも、サンプルの
血漿レニン活性だけは、左右とも異様に高かった。
入院2日目は、蓄尿というものをやった。これは、一日の尿をサンプルとして
貯めておき、内分泌系に異常があるか否かを調べるものである。
結果はこのときすぐには出なかったが「異常はみられない」とのことだった。
初日の手術が「患部が存在しない」との結果で中途半端に終わってしまったため
3日目以降にやることがなくなってしまった。しかも、本人は手術の1時間後に
平然と自力でトイレに行き(カテーテルの穴が開いているため普通は立つことも
無理のはずだが・・)化けものぶりをあらわにした。そのため、2週間の予定は
2日半で終了してしまった。