週末はHoney moon T

written by 薪原あすみsama


「あっ、ヤダ…もうこんな時間じゃない!」

親友であるリュミエールの執務室でハーブティーをご馳走になっていたオリヴィエ

は時計の指す時刻に気付き慌てて椅子から立ち上がる。

「ふふ…良い週末を、オリヴィエ」

「…アンタもね!」

リュミエールの意味深な微笑に突っ込みを入れる余裕もなく、オリヴィエはばたば

たと部屋を出て行った。

宮殿を出て馬車を捕まえたオリヴィエの向かう先は、私邸ではなく…先日“金の髪

のおちゃめな女王陛下”から拝領した小さくも豪華な別邸である。

何故自邸ではないのかというと、それは…。

「あ、オリヴィエ!」

とびきりの笑顔でオリヴィエを迎えるのは、風の守護聖・ランディ。

「ゴメン、遅れちゃって…」

「大丈夫ですよ。そんなに待ってません…歩いてきましたから」

馬車から降りようとするオリヴィエに、ランディが手を差し伸べる。

「…アリガト」

騎士のような仕草のランディに、手を預けて馬車を降りるオリヴィエの指には二つ

の指輪が光っていた。

「…本当に執務の時もしてくれてるんですね、それ」

気付いたランディは嬉しそうに…しかし照れくさそうにそんなことをつぶやく。

「当たり前じゃない。この二つは、私が持ってる中でサイコーにお気に入りなんだ

からね」

一つはプラチナのリングにカポションスクエアカットのピンクトルマリンが嵌め込ま

れたもので…もう一つは微妙に色味の異なるピンクサファイアが金枠にぐるりと

並べられたエターナルリングである。

もちろんどちらも、ランディがオリヴィエに贈ったものだった。

「じゃあ、行きましょう」

ランディに導かれるように、オリヴィエは足を踏み出す。

そうしていると…不意に数週間前のことが脳裏に甦った。






「オリヴィエ、お話があるの」

週に一度の定例会議の後、にこにこと微笑むリモージュ…女王陛下にそういって

声をかけられたのは約一ヶ月前。

「お話って?」

ロザリアを伴って女王の私室に通され、切り出されたのは…つい先頃ランディに告

げられたプロポーズについてのことだった。

そう言えばランディは、あろうことかこの麗しき女性たちにそのことを相談していた

のだったと思い出す。

「…承諾したの?」

興味津々といった様子で尋ねてくる女王に、オリヴィエは呆れ気味のため息をつ

きながら答えた。

「…ランディの様子見てればわからない?」

そして自分の様子も…。

きっと断っていたならば、気まずさや自己嫌悪で二人揃って執務拒否でもしていた

に違いない。

「ああ、やっぱり大丈夫でしたのね」

ロザリアの言葉に、宇宙の育成だけでも大変なはずの彼女らに余計な心配をさせ

ていた事を知る。

「…ゴメンね。もう余計な事に気を揉ませたりしないから」

引っ掻き回すだけ引っ掻き回しておいて、結果報告もしていない(当のオリヴィエが

させていないのだが)ランディに代わって頭を下げた。

「ねえ、オリヴィエ。わたしたちに、いい考えがあるの…だから頭を上げて?」

その言葉に、ゆっくりと顔を上げたオリヴィエは…その直後思いもしなかった事を

女王陛下と補佐官から提案されたのである。






「オリヴィエ…?」

ランディの呼びかけに、はっと我にかえると…屋敷前の階段で足を止めてしまって

いることに気付いた。

「あ、ゴメン…」

「疲れてるんですか…? 足元に気をつけてください」

未だ手を預けたまま、オリヴィエは階段を上り始める。

「こうしてるとさ、思い出しちゃうんだよ…あの時のこと」

オリヴィエはぽつりとつぶやきをこぼした。

「あの時?」

問い返すランディに、苦笑いを浮かべながら答える。

「だからほら…女王の御前で階段登ったとき」

「あ……」

ようやく何のことか分かったランディは、今更のように顔を赤らめた。

忘れるわけもない…まだ数週間しか経っていないのだから。

「こんなことになるなんて、正直思ってなかったけど…でもなんか嬉しいよ」

守護聖や聖地関係者が見守る中、女王と補佐官の御前で二人は永遠の誓いを

立てたのである。

それが、リモージュの言った提案だった。

口約束だけでは、またいつすれ違いが起こるか分からないから…いっそのこと覚

悟を決めて多くの証人の前で生涯を誓えと。

「俺も、なんかすごく幸せなんです。毎日が…」

「こうして一緒にいられるのは週末だけだけどね」

二人のための屋敷を与えられ、週末をそこで過ごす。

「…でも、だからこそ張り合いがあるっていうか」

ランディの言いたいことは分かる。

たとえそれが、二人の感情が執務への弊害にならないよう配慮した女王と補佐官

の狙い通りの結果だとしても…。

「ワタシも同じだよ…ランディ」

「オリヴィエ…」

二人は手を重ねたまま、屋敷の扉の前に並んだ。

――さあ、蜜月の続きを始めよう。

<Next>






COMMENT by 薪原あすみsama


ありがちな「公認になった話」を
馬鹿っプルにならないように注意しながら書きましたが…どんなもんでしょう。



(管理人コメント)

──と、いうことで(『ふってあげる』コメント参照)、新婚ほやほやの風夢〜v
ばかっぷるテイストも可愛い(暗に誰かさんに期待・笑)けど、こちらはしっとり(?)オトナっぽく! さすがはあすみ陛下です!
オリヴィエ様かわいいですねぇ、ランディかっこいいですねぇ(うっとり)。
続きも期待しています〜vv
(02.10.15UP)





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