パワーオブラブ


恋。
したいなー。
なんてゆーか、ムテキノチカラ?
なんでもできちゃうくらい、元気爆発。パワー・オブ・ラブ。
──だから早く、君に会いたい。
ねえ。早く、会いに来てよ。
早く。
恋。


     



「だってオンナノコって見てると嬉しくなるよね?」
 そんなことを真面目な顔で言ったのは。ごくフツーの、どちらかというと真面目っぽい感じのマトモナ男の子だったので、はっきり言って私はちょっとびっくりしていた。
 世間では中堅どころとか言われてるけどつまりはごくフツーのヒトタチが集まる学校の、大して広くもない図書室には人なんかほとんどいない。しかもオヒサマがキレイな放課後だったりしたら、ここにいるのはよっぽどの本好きか、よっぽど図書室という場所が好きか、よっぽどの理由があるかしかない。
 よっぽどの理由なんて。
 なんでか知らないけどよっぽど図書室が好きならしい、クラスの真面目っぽい男の子がよくここに来るから、っていう、私にとってはただそれだけだ。
 今日は珍しく他にも人がいて、1年のオンナノコが数人、カオ寄せ合って何事かひそひそ囁いていて。なんか秘め事っぽいなぁアヤシイなぁと思って見ていたら、そういうのに興味なさそうと思ってたヒトが、微笑ましげにそれを見つめていた。
 それで。思わずなんか嬉しそうだねとか聞いてしまって返ってきたのが、さっきのあの台詞だ。
 そんなナンパな女たらしみたいなこと言ったりするんだ?
 それはカオに出ていたみたいで。それってつまりヘンナモノ見たときのカオが。
「え? ちがう?」
「ちがくはないけど意外だ。っていうか私がオンナノコ見て嬉しいのはオンナノコ好きだからだよ?」
 すごーく後になってここで自分の主張をする必要はなかったことに気づいたけどこのときは何にも考えてなかった。──と言うことを後で言ったら思いっきり笑われたけどそれはまた別の話で。
「うん。おれも好きだよ?」
 っていうか嫌いな人っているの?
 そういうことを大真面目で聞くんですかこの人。
「女嫌いのヒトって結構いるよね。男でも女でも」
「そうなんだ……。力強くてカッコイイのに」
 ちょっと待ってくださいセンセイ。
「──今オンナノコの話してるんだよね?」
「うん」
「ちからづよくてかっこいいんだ?」
「うん」
「パワフルだよね。力に満ちあふれてる」
「英語か日本語かの違いでおんなじコトなんですが」
「うん、そうだね。イタリア語だとタント・アムール?」
 ほんとかなぁそれ。
「ほめてるんだけど。一応」
 一応とつけたすあたり、フツーとはちょっと違うほめ方かも知れないという自覚はあるらしい。
「なんつーかフツーはオンナノコってかわいいよねとかなんとか言ったりするもんなんじゃないのかなあ」
「そういうことは他の人も言うでしょ。オンナノコも自分でわかってるでしょ。だから今更おれが言う意味ナシ」
 …………ちょっと今カッコイイかもと思ってしまった。深く。
 あ。
 深い。
 ホント深い。ずしーんて来た。沈んだよ今!
「だから好きだよ。力強くてかっこよくて。すごく好きだ」
 そんなことを真面目な顔で言って。
 満たされたカオで笑った。
 ──満ちあふれてるのは、誰の、何の力?
「返事は?」
 え?
「だから返事。おれの発言に対して」
「うん。好きなのはいいことだよね。──って、」
 え?
「あれ? ──え? 何が好きなの?」
「オンナノコ。っていうかおれにとってはすなわち君のコト」
 一瞬シナプスが切れてて理解するのに時間がかかった。
「──うそおっ!?」
 叫んで立ちあがったらガタンとステキな音を立てて椅子が倒れた。──よくよく考えたらここは一応図書室だった、失敗。
「……言われる気はしてたけどほんとに言うかな。っていうかここでおれが嘘をついていったい何の得が」
 真面目っぽい感じだけどときどきふっと他の人と違う感じのこと言うから気になってた。この人、いつも何をどんな風に考えてるんだろうって、知りたくなって。
 何か考えるときの眉のひそめ方がコダワリっぽいと思った。何にこだわってるんだろう、何にこだわりたいんだろう。
 今眉をひそめているのはいったいどうして?
「ねえ。返事は?」
「う、うん、……びっくりした…………」
「それはわかってるよ。おれじゃなくてもこの部屋にいるヒト全員わかってる。──本読まないのに図書室来るのはどうして?」
 今度こそ本気でびっくりした。
「──っなんで知ってんのよそんなの!?」
「好きな子のことなんて知るよね」
 大真面目にそんなこと。
 っていうか待って。
 お願いだからそれ以上何も言わないでください。死にそう。ていうか死ぬ。
 ついてけないよ。追いつかない。
 ココロばっか超光速で地球の周りなんか70回くらい回ってて。カラダはここで息するのも精いっぱいなのに。
「全然知らないよ……。そういう人だったんだ……?」
 もうびっくりだ。アタマくらくらしそう。
「変? ちがう?」
「うん。ヘン。でも違わない」
 伝わってください。チャチなオンボロアンテナ、がんばってメッセージ発信してるから。
「うん。──やっぱりパワフルだな。やっぱり好きだ」
 また笑う。
「あ。──で、返事は?」
「ッ……わかってんなら聞かないでよっ!」
「わかってないから聞いてるんだよ。──おれが思ってる答えは正解ですか?」
「うん。正解」
「ほんとに? おれが何思ってるか聞かなくていいの?」
「なんて思ってるの?」
 真面目な顔して聞くから思わず真面目に聞き返してしまった。そしたらなんと意外なことに赤くなって。
「そんなの聞くなよ。自惚れてるみたいだろ……」
 眉をひそめて目を逸らす。自惚れはかっこわるい? それもコダワリ?
「カッコイイよ」
 私が惚れてる人なんだから、君も惚れてよ。
 そんなこと言う人だったんだ私?
 意外だったのは向こうもおんなじだったみたいで。丸くなった目が、ため息ついて、優しくなった。
「それ返事? ──カッコイイな」
 うん。パワフルです私。パワーオブラブ。
 1年ズもがんばれ。




                               fin.





コメント(by氷牙)     2002.8.2

どうしたんですかアイカワさん、と思ったアナタは正解(笑)。いやアイカワだってたまにはこういうのを書くことあります、そういうオトシゴロなんです(はい〜?)。
ていうか今サイトの更新なんかしている場合じゃないのは百も承知(苦笑)。フッ、現実逃避ってスバラスィ〜ですね。

しかしお話はお話で真面目なのであります。
実は書いたのは結構前です。ていうかかなり前。──ん〜、メモ帳の更新の日付を見ると、5月半ばのようですね(そう、珍しくもナゼかメモ帳で打ってたのでした。ちなみに普段はテキトーに下書きして一太郎で清書(?)です)。ある方のパワフルでピュアでジュヴナイルなラブストーリーを読んだら、とっても前向きな恋の話がとっても書きたくなって、ドトウのように書き始めたのでした。

恋の物語はあまり書かない相川ですが、どうせ書くなら、そのお話を読んだ人が「こんな恋してみたいな〜」と思うようなものを書きたいな、と、思っています。
人生短いからね、なんでもやった方が良いんだよ、きっと。
──わかってはいるけどでも自分ではあんましやらないから、その分彼らにがんばってもらいましょう。がんばれ若者。パワー・オブ・ラブ!





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