Raining Lightly小雨降る街並みを、ユリナは一人歩いていた。 くすんだ壁の間、雨に濡れた傘の赤が鮮やかに映える。
剥き出しの、年季を感じさせる配管の口から、ちょろちょろと雨水の垂れる音がする。 くぅ──ん どこかから、か細い鳴き声が聞こえた気がして、歩みを止めて辺りを見回す。
古びた石壁の建物の間から顔を覗かせたのは、ユリナの住むアパルトメントの隣に住み 「リューシャ、」 名を呼ぶと、身軽に駆け寄ってくる。爪が濡れた石畳を掻き、かすかに音を立てた。 「どうしたの、おまえも雨のお散歩?」 ユリナの問いかけに、リューシャはただ首を傾げた。
「ユウウツな日に追い打ちをかけるような雨と思ったけど、──こういうのも、たまには 石畳に映る自分とリューシャの影を見つめて、ぽつり呟く。 「さ。帰ろうか」 リューシャを促して、ユリナは再び歩き始めた。 いつの間にか雨足は弱まり、くすんだ雲の向こうに夕暮れの気配が迫ってきていた。
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