Raining Lightly



 小雨降る街並みを、ユリナは一人歩いていた。

 くすんだ壁の間、雨に濡れた傘の赤が鮮やかに映える。

 剥き出しの、年季を感じさせる配管の口から、ちょろちょろと雨水の垂れる音がする。
水溜まりに爪先が入り、ぴしゃ、とかすかに水が跳ねた。

 くぅ──ん

 どこかから、か細い鳴き声が聞こえた気がして、歩みを止めて辺りを見回す。

 古びた石壁の建物の間から顔を覗かせたのは、ユリナの住むアパルトメントの隣に住み
ついている、コリーに似た雑種の犬だった。

「リューシャ、」

 名を呼ぶと、身軽に駆け寄ってくる。爪が濡れた石畳を掻き、かすかに音を立てた。

「どうしたの、おまえも雨のお散歩?」

 ユリナの問いかけに、リューシャはただ首を傾げた。

「ユウウツな日に追い打ちをかけるような雨と思ったけど、──こういうのも、たまには
いいわね」

 石畳に映る自分とリューシャの影を見つめて、ぽつり呟く。

「さ。帰ろうか」

 リューシャを促して、ユリナは再び歩き始めた。

 いつの間にか雨足は弱まり、くすんだ雲の向こうに夕暮れの気配が迫ってきていた。



                                       fin.


コメント(from 氷牙)          2001.6.23

相川の大好きな絵描きさん、笹倉鉄平さんの同タイトルの絵を見て思いついたお話。──というか、そのまんま?(苦笑)
仕事が終わったあと、幕張から新宿まで、わざわざ足を運んだ甲斐があった、と、この絵(の宣伝用パンフみたいなもの)を見たとき思いました。
これからの梅雨の季節にちょうど良い絵です。
鉄平さんの絵には、いろんなストーリーをそれぞれの心に思い浮かばせる力があります。それは、みんなの心にある郷愁というような気持ちに訴えるものがあるから。何かを見たとき、初めて見聞きするものでも“懐かしい”と思うことってありますよね。そんな感じ。
日常のさりげない一瞬。その中の何気ないドラマ。
そんなものを、描けたらと思います。



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