メルーカ EXTRA 〜聖夜の誓い〜



 その街は、祭りの日を前にした、独特の熱気に包まれていた。
「ねえ、エル、なんだろう。何かあるのかな……?」
「何か祭りでもあるのかも知れないな。そうすると、しばらく動きが取れなくなるが……。
誰かに聞いてみよう」
 誰か、と言っても、普段ならば聞く相手を選ぶのだが、これだけ皆が浮き足立っている
のならば、誰に聞いても答えを得ることができそうである。
 エレスと一緒に周りを見回して、メルーカは、店屋の看板の横にかけられた、新しい、
おそらくこの祭りのために作られたのだろう看板に目を留めた。
「ね、エル、これ……」
 Merry Xmas
 看板には、そう書かれてあった。
「メル……メリィ……?」
「メリークリスマス、って読むんだよ」
 読み方に苦心するメルーカの後ろから、年若い男が声をかけてきた。隣に立つ、同じ年
頃の女が、人懐っこい笑顔を浮かべてメルーカを覗き込む。
「ぼうやたち、旅の人? このお祭りは初めて?」
「あ、はい。──やっぱり、何かお祭りがあるんですか?」
 エレスをちらりと見やって、メルーカは二人に尋ねた。情報収集は自分でやるからおと
なしくしていろ、といつもなら言われるのだが、この距離で、この二人相手ならば危険は
ないと判断したのだろう、エレスは何も言わず、ただ佇んでいる。
 二人から聞いた話の概要はこうだ。
 昔、この街を、飢饉や災害や、ありとあらゆる災厄が襲ったことがあった。人々は互い
を思いやる心を忘れ、争うようになる。そんな事態を憂え、一人の青年が立ちあがった。
この災厄は、人々の醜い心が呼び寄せたのだと。人々に与えられた、神からの、古くから
この街を支える精霊たちの罰だと。青年は、皆を説得し歩き続けた。彼の言葉に心を動か
され改心する者も現れ、街はよい方向に動き始めた。だが、そんな混乱の中で利益を得よ
うとする心ない者の手により、青年は罠にかけられてしまう。青年こそが諸悪の根元だと
して、彼は極刑にかけられることとなった。最後のその日、彼は、天を見上げてこう言っ
た。
『私が罪を被り、それでこの街が救われるのならば、私はこの街のすべての罪の身代わり
になりましょう。この街に暮らす、愛する人々が幸せになるのならば、喜んで私は罪を被
り、すべての罰を受けましょう』
 次の日、類を見ない大嵐が街を襲い、多くの者が命を落とした。その嵐を乗り越えた者
たちが、今のこの街の祖というわけだ。
「その青年はね、生まれる前に、この世を救う人になると予言を受けていたらしいの。彼
が生まれたのは明日、つまり今日はその前の日に当たるのよ。だから今夜は、皆でお祝い
をするの。救世主の誕生に、街の平和に、感謝を示して」
「──ま、そんなこと言って今では、家族や恋人、友人たちで、たまには仲良くゆっくり
食事でもしましょう、っていう日になってるけどな」
 混ぜっ返した男の言葉に、メルーカは驚いて顔を上げた。
「え……? ここの人たちは、普段は家族で食事をしないんですか?」
「ん、できる人たちはしているけどね。ほら、ここはずいぶん大きな街だろう、それだけ
商業も発達してるんだ。客が多いと、裁ききれなくなったり、他の店との差を出すために、
遅くまでやってる店も多いんだ。そうすると、なかなか夕食の時間に家に帰れなかったり
もするよね」
「そうなんだ……」
「だからね、家族や恋人と、ゆっくり食事ができるっていうのは、ささやかだけど、とて
も幸せなことなのよ」
「うん! ね、エル、……エル?」
「ああ、悪い。……ちょっと考え事をしていた」
 服の袖を引っ張られ、エレスははっと我に返った。
 どこにでも、似たような話は存在するものだ。他の者の罪を被り、罰を受けて命を落と
した救世主。この街に精霊の子孫と呼ばれる民がいたかどうかはわからないが、救世主が
そうであった可能性もある。何より、青年の死の翌日に、街の罪を一掃した大嵐……。
 <祝福の水の子>を手に入れる、というのは、その命を手に入れるということなのか。
今までその可能性に気づかなかった自分に、エレスは衝撃を受けていた。もしそうだとし
て、そうだとしたら……。
 考えを打ち切り、エレスは小さく頭を振った。
「祭りの由来はわかった。もう一つ聞いてもいいか。この看板、同じ文字が街のあちこち
に散りばめられているのが見える。メリークリスマス、の意味を教えて欲しい」
「ああ、それはね、青年の名前を祝福する言葉よ、彼の誕生を祝う祭りだから」
「クリスマス……?」
「そう、クリスト、ともキリスト、とも言われているわ。本当はChristと書くのだけれど、
彼のかけられた十字架にひっかけて、Xと表されることが多いの。その方が書きやすいし
ね」
 キリストの誕生に祝福を。
「そうか……。たすかった、礼を言う。」
「いえ、どういたしまして。──あ、もしかして、今日の宿をまだ決めていないんだった
ら早い方がいいよ。よかったら僕が紹介しようか、小さいけれど、なかなかいいところだ
よ」
「ちょっと、こんな所でまで営業して!」
「だって早くしないと野宿になってしまうよ、今晩の野宿は、綺麗ではあるだろうけど、
あまりおすすめできないね」
「それはそうだけど……」
 言い合う二人に、エレスとメルーカは顔を見合わせた。
「あのっ、お言葉に甘えて、紹介してもらってもいいですか……?」
「え、ほんと? もちろんだよ!」
「もうクリスってば、恥ずかしいんだから……」
 女の呟きを、メルーカが聞きとがめた。
「クリス? お兄さん、クリスさんっていうんですか?」
「あ、うん、おそれおおくも、この街の救世主様にあやかって名付けられたんだ」
「私はマリア、奇しくもそのキリスト様のお母様の名前よ。──ぼうやたちは?」
「ぼくはメルって言います。彼は、エル」
「メルに、エルね。エルって、確か古き良き言葉で光って意味があるんじゃなかったかし
ら?」
「よく知っているな」
「ふふっ、ありがとう。じゃあ、今日この四人が集まったのは、救世主様のお導きかしら
ね。救世主にその母親に、祝福に光、だなんて、いくら何でもできすぎだもの」
 屈託のないマリアの笑みに、皆もつられて笑みを零した。


                    *                  *                  *


「──ああ、それでクリスが客を連れてきたんだね。珍しいと思ったら……」
「あんたたちはそれこそ、クリスの救世主だよ」
 宿の主人と女将は、口を揃えてそう言った。どうやら、クリスの日々の働きは、いまい
ち報われていないようだ。だが彼らの口ぶりから、愛されているのだとわかる。
「クリスさん、ここで働いてるんですね。よかった、素敵な所で」
「おやぼうや、口が上手いね。そんなこと言われたら、サービスしないわけにはいかない
な」
「えっ、ぼく、そんなつもりじゃ……」
「いいんだよ、大きな宿じゃないからね、クリスマスと言っても結構ヒマなんだ」
 自慢するようなことじゃないけれど、と主人は茶目っ気たっぷりにウインクを投げた。
 案内されたのは、2階に上ってすぐの部屋だった。普通なら、奥の部屋から案内するの
だが、今日この日に限って言えば、この部屋からの方が眺めが良く、こちらの方が上部屋
になるのだと言う。
「夜になればわかるよ」
 そう言って、女将はその理由を教えてはくれなかった。おそらくクリスから彼らがこの
街が初めてであることを聞かされていたようだ。素敵なナイショなら大歓迎だ、街の人々
の活気が乗り移ったように、メルーカも言いしれぬ期待に胸を弾ませていた。
「ね、エル、なんだか楽しいね」
「ふっ、そうだな」
 先ほどから、全身でワクワクを表現しているメルーカだ、口に出さずともエレスにわか
らないはずがない。
「違うよ、クリスマスもそうだけど、──今日、クリスさんとマリアさんにお話聞くのも、
宿を決めるのも、僕に話をさせてくれたじゃない。なんだか嬉しかったんだ」
 微笑まれ、エレスが目を瞠る。苦笑して、そうだなと返すと、元気のいい肯定の返事が
返った。
「これも、ひとつのクリスマスプレゼントかな」
「クリスマスプレゼント?」
「うん、マリアさんが教えてくれたんだ。クリスマスの日にはね、家族とか恋人、友人、
そういった大切な人に、プレゼントをするんだって。──ねえ、エルは? 何か欲しいも
のある? ぼく、エルにクリスマスプレゼントあげたいな」
 あまりに率直な言葉に、エレスは苦笑した。
「俺にとっては、お前がこの旅につき合ってくれているだけで、もう充分なんだが」
「そうなの? ────じゃあ、ぼくもエルだけでいいや、エルがいるならそれでいい」
 屈託のない笑みを浮かべるメルーカの横で、淡い金の髪がさらりと揺れた。


                    *                  *                  *


 この宿の方針で、食事は基本的に皆で摂るのだという。どの街から来たとも知れぬ、年
も育った環境も、身なりも何もかもが違う人々が、食事のひとときを共にするのだ。
 その日の夕食は、祭りの習わしに則って、鶏肉が用意されていた。丸ごと焼いた鳥をそ
れぞれとりわけ、色鮮やかな副菜を添える。今日だけは特別だと、メルーカにも淡い色の
発泡酒が振る舞われた。
「わあっ、綺麗!」
 珍しいものばかりで、メルーカはいたくご機嫌だ。エレスも半ば呆れたように苦笑を洩
らしつつ、初めての街の初めての祭りを、それなりに楽しんでいるようだった。
「──あれ? え、あ……っっ!」
 突然、声を上げたメルーカが、ガタンと音を立てて立ちあがり、窓辺へと駆け寄った。
珍しい、というより初めてのことだ。エレスは驚いて、制止するのも忘れて背中を見送っ
た。
「ねえ、エル! 見て! ──っあ……」
 興奮した様子で振り向いて、メルーカは初めて自分の粗相に気がついた。恥ずかしそう
に頬を染め、ごめんなさいと呟いて席に戻ろうとする。
「ああ、降り始めたかい? あんたたち、初めてだろう、雪なんてものは」
「ゆき……?」
 咎めることなくメルーカの隣に歩み寄って、女将が窓の外、夜空を見上げる。赤土の色
とは違う、かすかに赤みの差した夜空からは、白い、綿のようなものが降ってきていた。
「そう、雪だよ。どういう偶然が積み重なってできるのかは知らないけどね、この時期、
小さな小さな氷が集まってできるこんな粒が、空から降ってくるんだよ」
「雨とは、違うんだね。すごい、綺麗……」
「今夜は一晩中降り続くだろうよ。部屋からもよく見えるはずだ、食べ終わったら、行っ
てごらん。外に出てみるのもいいが、寒いから気をつけるんだよ」
「はい!」
 返事をして席に戻り、メルーカは、小さく謝った。幼いメルーカの粗相は、連れであり
保護者であるエレスの責任だ。
「エル、ごめんね、初めてだったから、ぼく、びっくりしちゃって……」
「ああ、構わない。誰も気にしていないようだしな」
「うん、ありがとう。あのね、雪、すごく綺麗なんだよ。エルも一緒に、後で見ようね!」
「ああ……」
 食事を再開したものの、メルーカは、外で降り続く雪が気になって仕方がないようだ。
エレスは苦笑して、ひとつの提案を口にした。
「メルーカ、それじゃあせっかくの料理も味がわからないだろう。──先に、外に出てみ
るか?」
「えっ、いいの!? あ、でも、お料理、冷めちゃうよ……?」
「温かくても味がわからないなら同じだろう。それにきっと、ここのは冷めても食べられ
る味だろうからな」
 それでも躊躇うメルーカに、吹き出した女将が近寄ってきて背中を叩いた。
「行っておいで、メル。後で温め直してあげるから」
「本当!? ありがとうございます!」
「お兄さんも行っておいで。あんたも初めてだろう? それに、さすがにひとりで行かせ
るのは心配だからね」
「ああ、恩に着る」
「なに、うちの料理を褒めてくれたお礼さ」
 苦笑交じりに礼を言って立ちあがり、エレスもメルーカの後を追って外に出た。地面に
は、もう雪が幾分か降り積もり、うすく綿を敷いたようになっている。天を見上げると、
淡く光を放つようにも見える白い粒が、揺れながら、静かに舞い降りてきていた。
「あ、エル……。良かった、来てくれて」
「ん?」
「エルも来ないかなーって、思ってたんだ。一人で見ても綺麗だけど、エルと一緒に見た
ら、もっと綺麗だろうなって思ったから」
「そうか」
「うん」
 差し伸べられた手を取ると、メルーカは微笑みを浮かべ、また天に顔を戻した。
 その微笑みは、雪と同じく光を放っているようにエレスには見えた。手を差し出すと、
雪の粒が舞い降り、すぐに消える。手のひらに落ちたと同時にただの水に戻るのだ。考え
すぎだ、思いつつも、その符合はエレスの心に不安を呼び覚ます。
「すごい、綺麗だね……。なんだか、こうして見上げていると、このまま空に飛んでいき
そう……」
 夢心地でメルーカが呟いた。同じ空を見上げて、落ちていく感覚にとらわれていたエレ
スは、はっとして隣に顔を向けた。つながれた手に力がこもり、メルーカが訝しげに顔を
あげる。
「エル……?」
「おまえには、そう見えるのか?」
「え……?」
「俺は、落ちていきそうだ。目指すべき方向を見失って、このまま、……」
「エル……」
「おまえなら、──おまえ一人なら、目指す場所にたどり着けるというなら、俺はこの手
を離すべきなんだろうな」
 そう言いながら、エレスの手に込められた力は緩む気配がない。握り返して、メルーカ
が声を震わせる。
「やだよ。ぼく、エルが一緒じゃないとやだ」
 涙の滲んだ瞳でエレスを見上げ、強い調子で繰り返す。
「ぼくは、エルと一緒じゃないといやだよ」
「ああ……」
 天を見上げて、メルーカが呟いた。
「この雪で……、あなたの罪を癒せたらいいのに。少しでも、あなたの心を、癒せたらい
いのに……」
「メルーカ、」
「この街の、救世主──キリストって、<水>の子だったのかな。ぼくと同じ、<水の祝
福を受けし者>だったのかな……」
 手をつないでいても、いつの間にか消えていそうで、エレスは小さな身体を抱きしめて
いた。
「おまえは死なせない。死なせたりはしない」
 思わず口をついて出た言葉。
 メルーカの死によって、例えこの罪が贖われたとしても。メルーカを失って、この先ど
うやって生きろと言うのか。
「ぼく、エルのためなら、エルの罪が浄せるのなら、死んでもいいと思うけど、……でも、
やだな、ぼくは、エルと一緒にいたいよ、エルと一緒に生きていたいよ」
 激したエレスを宥めるように、メルーカの小さな手が、背中を抱き返した。
 やがて、エレスの腕の緩む気配を感じ、メルーカが小さく口を開く。
「ねえ、エル、──今、外には誰もいないよね、」
「あ、ああ、……?」
「少しだけ、──上に行かない?」
 そう言ってメルーカは、屋根の上を指差した。遠慮がちな口調の中、わずかに悪戯っぽ
い響きが感じられる。言わんとするところを察し、エレスが眉を寄せた。
「メルーカ、おまえ」
「もう夜だから暗いし、雪も降ってるし、今日はみんなおうちの中にいるでしょう?」
「────本当に少しだけだぞ」
「うん!」
 ため息をついて腕を解き、身体を離す。次の瞬間、二人は宿の屋根の上にいた。
 メルーカの背には雪より白い純白の双翼が、エレスの背には、夜空より濃い漆黒の双翼
が、広げられている。
 屋根に腰を下ろして、メルーカがエレスを見上げて笑った。
「やっぱり、エルの翼って綺麗だよ」
「そんなことを言うのはおまえだけだぞ」
「うん、ぼくだけでいいよ。他の誰も、ぼくのこともエルのことも知らなくていい。──
そう思うのって、わがままかな……」
「それがわがままなら、──いや、いい」
「えっ、何? 気になるよ、なんて言おうとしたの?」
「ずいぶん小さなわがままだな、と言おうとしただけだ」
 隣に腰を下ろしながら、エレスが答える。
「嘘だよ、ねえ、なんて言おうとしたの?」
「ほら、あまり暴れると落ちるぞ」
 手を伸ばし、宥めるようにメルーカの髪を撫で、エレスは少し近くなった天を見上げた。
遮るものがなくなった分、頭上いっぱいに広がる空は、恐ろしくさえ感じられる。
 このまま、天高く、神のおわす処に連れて行かれるのか、それとも地の底の、光射さぬ
場所に突き落とされるのか。
「ねえ、エル」
 呟いて、小さな手がエレスに触れた。
「その昔、この街を救ったっていうキリストは、この街の人すべての罪を浄そうとして命
を落としたけれど、ぼくが救いたいのは、エルだけなんだ……傲慢かも知れないけど、」
 すべての人が幸せになれたらいい。けれど、一番大切な者が、一番幸せになって欲しい。
「ああ……」
「ぼく、前に言ったよね。あなたを、嘆きの夜から救い出して、希望の朝へ連れていって
あげるって」
「ああ、」
「一緒に、行こうね」
「──ああ。おまえを、決して死なせたりはしない。おまえが死んで得られるものなど、
何もない」
「うん……ありがとう……」
 雪降り続く天を見上げ、二人はそれぞれの心に誓いを刻んだ。
「──さて、あまり遅いと女将が心配するだろう。そろそろ戻るか?」
「うん、そうだね。──ぼく、おなかすいちゃった」
「上の空で食べるからだ」
「だって、雪が気になって仕方なかったんだもの」
「きっとあの女将のことだ、それくらいお見通しだぜ?」
 いつになくおどけた調子のエレスの言葉に、二人は声を立てて笑いあった。


                    *                  *                  *


 雪を払って宿に戻ると、ちょうどイイトコに来たね、と女将が出迎えてくれた。
「今温め直してあげるからね、それまでこれ食べて待ってな。──なに、どうせお腹を空
かせているだろう、全部綺麗に平らげられるさ」
 そう言って差し出された篭の中には、ほくほくと湯気を上げる、茹でた芋が山盛りになっ
ていた。
「──ほらな」
 顔を見合わせ肩をすくめ、二人で女将に礼を言う。と、店の主人と、他の部屋に泊まっ
ている客たちが二人を手招いた。様子からして、顔見知りのようだ。客たちも、この街の
出身なのかも知れない。
「ほら、兄さんたちもこっちでどうだい。こんな寒い日には、身体の中から暖まるのが一
番だぜ」
「そうだな、相席させていただこうか。だがこいつには飲ませないでくれよ」
「そりゃあもちろん。こんな酒を子供に飲ませるほど俺たちは悪い大人じゃないさ。ぼう
やはこっちだ、ほら、さっき飲んだだろう」
 と、どこからか、先ほどの発泡酒が出てきた。用意がいい。どうやら、二人が帰ってく
るのを、今か今かと待ちかまえていたようだ。
「初めての雪はどうだい。すごいだろう、この街の自慢なんだ。この街に、神の加護があ
る徴さ」
「ああ、マリアという娘に聞いた。この祭りの由来もな」
「なんだ、もう知っちまってるのか。残念だな。じゃあこの話はどうだ?」
 この分だと、労せずして情報収集ができてしまいそうだ。二人は顔を見合わせて笑い、
客人たちの待つテーブルに歩み寄った。
「ね、エル」
「なんだ?」
「エルって、そうやってお話ししてるのいいね、ぼく初めて見たよ」
 こっそりと、エレスの腕を引いてメルーカが囁く。確かにメルーカ以外の者と、あまり
親しく話をするところは見せたことがない。もっとも、親愛の情と言うよりは情報収集の
ための社交辞令なのだが。それでも、今日はエレス自身、いつもより穏やかな気分でいら
れていると分かる。メルーカのおかげか、それとも今日の日の雪のせいか、この街の、宿
の人間の人柄か。
「そうだな。──まあ、たまにはこういうのもいい」
「うん、そうだね」
 窓の外では、しんしんと、雪が降り続いている。部屋の中は、それを感じさせないくら
いに温かく、人々の明るい笑いに満ちていた。

                                  
                                       fin.


コメント(from 氷牙)          2001.12.24

皆さん、メリークリスマス。
またもやってしまいました。クリスマス特別記念、突発創作(苦笑)。いや〜おかしいなあ、今日僕は、『メルーカ』本編の続きを打ち込もうとPCに向かったはずなんですが(笑)。
そんなわけで、メルーカ特別編、『聖夜の誓い』です。旅の途中ということになっていますが、とりあえずカーラの森に入る前ならしいですが、……お気になさらずに。メルーカの髪の長さも断定してないしね。
一応この話『メルーカ』は、異世界ファンタジーというジャンルに入ると思うので、そうするとキリスト様も何もあったもんじゃないのですが、まあ、半パラレルと思ってね、ということで、寛容な気持ちでお読みください(^^;)。って今更書いても後の祭り!?(^^;)
キリストの話は、微妙にノアの方舟が混ざっています。誰か人一人死んだからって、街の人が一斉に悔い改めるとは思えなかったので、ごーっと、流してしまいました(笑)。赤の大陸には水がないんじゃなかったのかというツッコミも今回は不可。大目に見てください。
さて、半パラレルということで、なにやらエレスくんが普段より明るいです(笑)。いいことだ。サービスで(?)二人の羽根も見せていますね。忘れている人もいるかも知れませんがエレスくんは真っ黒くろすけですよ(笑)。メルーカは金髪に水色の瞳、翼は純白です。そんな二人が、雪の舞う夜、屋根の上に……。いいじゃありませんか、絵的に心くすぐられますね。誰か描いてくれないかな(笑)。そんでもって今回、ちょっとラブラブ?(笑) 本編での現状(第11話)を考えるとかなり絶望的なんですが、いつかこんなふうに、本編でもラブラブになってくれたらいいですね、なんてヒトゴトのように書いているけど続き書くのは俺だろうが、みたいな。いや、先に言っちゃいますけどメルーカは絶対にハッピーエンドです。絶対に、有無を言わせずハッピーエンドです! お楽しみに。
ちなみに本編再開は、……どうしようかな、潔く年明けにした方が良いのかな。まだ1話分も打ち終わってないので打ち終わり次第、ということになります。ちなみに今現在まだ第五章書き終わっていないのですが(^^;)。それ言ってるとキリがなくなりそうなので、方針変えました。章ごとに書き終わってから更新開始、と言っていましたが、とりあえず書けた分からUPしちゃいます。後は野となれ山となれ(死)。でも大丈夫、確固たる目指すべき場所は頭の中で燦然と輝いているし、メルちゃんのお導きもありますからね。僕自身、早く続きを書きたくて身体中ウズウズしています。早く早く!と、訴えている。きっとみんな以上に僕が先を待っているのです。──なら早く書けよって? あはははは。ファイトだ俺。
では、皆様の心にも、救いの天使が舞い降りますように。




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