閃光ビルを出た途端の烈しい陽差しに射抜かれた。 瞼の奥に閃光が蘇る。 手をかざして陽差しを遮りながら、俺は足元が崩れ落ちていくのを感じていた。 真夏の昼の、眩しさ、暑さ。そんなものとはかけ離れた暗闇が、背を覆い流れ落ちていく。 「……っ」 乾いて張りついた喉が、誰かの名前を呼んだ。 衝撃と、赤と黒と光。 心地悦かったフラッシュの渦がダメになった。 光が俺に向けられる、光が俺に向かってくる。 襲いかかる光が、 光が、俺から を奪う。 カッ、と靴の踵が地面を打つ音がした。目の前に誰かが立った気配。突然前髪を掴まれ、痛みを覚えると同時にさらなる激痛が額に炸裂した。 「っ……ってぇっ!!」 「へたれてんじゃないわよ情けないわね!」 しゃがみ込んでいた俺にデコピンを食らわせた女は、同じくらい容赦のない声を投げて腕を組んだ。見上げると、太陽を遮る位置に仁王立ちの女。見下ろしてくる視線は、意外にも優しい。 「──すげぇアングル」 呟くと、今度はゲンコツが降ってきた。暴力的な女だ。 「儚く立ち眩むなんてのは女の子だけの特権よ。あんたみたいなデカい男が儚くてどうすんの」 「おまえ、それ男女差別だぞ」 「うるさいわね、さっさと立ちなさい、通行の邪魔よ」 ため息をついて立ち上がる。ホントに少し立ち眩んで額に手を当てた。情けないなホントに。 もう一度息をついて、伏せていた目を開ける。毅い眼差しが俺を見上げていた。 「急いで治して復帰しようなんて考えなくていいわ。だけど、いつか必ず復帰してもらうわよ。──だいたい、あんたみたいなカオだけ男、それしかできないでしょ」 「……言いたい放題だな、ホントに……」 「ホントのこと言ってるだけでしょ。あそこはあんたの還る場所よ。あんたが還るのは……他のどこでもない、あの光の中よ」 光、熱、視線、嬌声、そんなものの渦巻く世界。 「…………そうかな」 あそこに戻っても、もう、 はいないのに。 「そうよ。──お守りあげる」 「? お守り?」 「あんたが馬鹿なこと考えたりしないように」 促されて手を出すと、一枚の写真を渡された。 「これ……」 「いつか還れば、会えるわよ」 それはあの日の夜の、二人一緒の最後の撮影。 太陽に見立てた閃光をバックに、背中合わせ、寄り添うように立つ、俺たち二人の姿だった。 fin. |
コメント(by氷牙) 2003.8.1 突発謎SS。 微妙に暗いんだか明るいんだか何が何だか(ダメじゃん)。 『夏』って、明るい眩い陽差しとか叫びたくなるような青い海とか空とか、それと同じくらいに明るい強い笑顔とか(個人的趣味・笑)そういうものを多く思い浮かべますが、それと同時に、そんな眩さの中、濃く暗く重い影を感じることも、ままあります。 なんだろう、イメージとしては『八月が来るたびに』? 戦争の本なんですが。たぶん私が生まれて初めて読んだ、戦争のお話。 夏の陽差し、閃光、灼き付く影。 そんな感じ。 8月と言えば、8月1日は母方の祖母の命日です。彼女の幼い頃の冒険譚(笑)は、おそらく僕に多大な影響を与えていますね。それに、アイカワハハを産んだ方ですから、なんと言っても(笑)。 主題的には『勿忘草』ととっても被ったお話ですが、喪ったかなしみをひきずるだけじゃなくて、それを乗り越える強さを、その先にあるものを掴むつよさを、持って、手に入れて、生きていきたいなぁと。 |