Christmas morning「おっはよー!」 ばんっ!と勢いよく扉を開けて、少女の声が部屋に響いた。 「ああっ、まだ寝てるのぉ〜?」 「あぁ……? んだよてめぇ……」 ベッドメイキング台無しなぐしゃぐしゃの布団の中からは、不機嫌そうな、少年の声。もぞもぞと動いて、より深くに潜り込もうとしている。 「メリー・クリスマース! ──って、ちょっと! 起きてよ!!」 「っせえな、今何時だと思ってんだよ」 「うん、朝の7時」 間髪入れず返った答えに、布団を被っていても聞こえる舌打ちと、ふざけんな、という押し殺した唸りが漏れた。 「休みの日くらい、寝かせろよな」 「なんで。休みの日だからこそ早起きするんでしょ。ほらほら、見てよ、可愛いでしょ?サンタさん」 思いっきりしかめた顔を布団の間から覗かせた少年の目に、真っ赤なサンタクロース・ルックに身を包んだ少女の姿が映った。──ご丁寧に、ミニスカートだ。 「んじゃ、ちょっと早いけどクリスマスプレゼントやるか?」 「え? ──っきゃあっ!」 かがみ込んだ少女に布団の中から腕が伸び、手首を掴んで引き倒す。悲鳴を上げて、少女の身体がベッドの上に倒れ込んだ。すかさず少年がその上にのしかかる。 「ちょっ、っと! やだっ、なにすんの!?」 「クリスマスプレゼント」 「なっ……、何がよ〜! そんなっプレゼント、いらないっ……しっ、あげないっっ!!」 必死の抵抗に、プッと吹きだして少年が力を抜いた。 「バーカ、んな朝っぱらからサカるかよ。冗談だ冗談」 上体を起こして胡座をかき、寝癖のついた髪をぐしゃりと掴む。 「え、──そうなの?」 真顔で返して、少女の視線がちらりと動いた。 「おい、何見てんだスケベ」 「ちっ、ちがうってば!」 「何が違うんだ、今見てただろ」 「見てないってば!」 「ふうん……? ま、どっちでもいいけどな。──っていうかお前な、男の部屋にそんなカッコで入ってくんじゃねえよ。マジで襲うぞ」 応酬を切り上げ、また顔をしかめて、少年が責める目つきで少女を見やる。 「なんで?」 「なんで、って……。誘ってんのかもとか思うだろうが」 コイツに限ってそれはねえってわかってるけど、と言う言葉は、少年の胸の中に留められた。 「そんなんじゃないけど、でも見せたかったんだもん」 「──わぁってるよ」 唇を尖らせる少女に、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回して不機嫌そうに少年が答える。小さくため息をついて、少女を見やり、少年はにっと唇を笑みの形にした。 「まあ、似合ってんぜ、そのカッコ」 「──ほんと!?」 頷くと、少女の顔がぱぁっと晴れた。少年の腕が伸び、少女の額をこづくように撫でる。 「ほれ、着替えっから外出てろ。そしたら朝飯食いに行こうぜ」 「え、私作るよ? 朝ご飯」 「…………おまえ、メシ作れんの?」 次の瞬間、少女の握り拳が少年を襲った。 「ってぇ……」 「失礼ね、朝ご飯くらい作れます! 冷蔵庫の中何もないだろうと思っていろいろ買って来たんだから」 扉に向かう少女の背中に、たまご2コな、と声がかかる。はいはい、と返して、サンタクロースは部屋を出ていった。 数分後、服を着替えて顔を洗い、ダイニングにやってきた少年を出迎えたのは、パンの焼ける香ばしい匂いと、目玉焼きを作る少女の後ろ姿だった。テーブルには、レタスとプチトマト、それから缶詰のコーンで作った、簡単なサラダが乗っている。 「へぇ、意外と手際いいじゃん」 ひとりごちた少年に、振り向いて少女が声をかける。 「あ、ちょうどイイトコに来た。お皿並べて、それから飲み物お願い」 「おまえな、」 「早く早く、パンが焦げちゃう!」 「へぇへぇ」 パンを取り出し皿に載せてテーブルに並べる。インスタントコーヒーを二人分淹れてそれもテーブルに置いたところで、少女がフライパンを持ってやってきた。 目玉焼きを皿に移し、フライパンを戻して席に着く。 「どう、なかなかでしょ?」 「ま、とりあえず見てくれはな。味は食ってみないとわかんねぇけど」 「味だっておいしいです!」 睨み合うように顔を合わせ、二人同時に吹き出して、コーヒーカップに手を伸ばす。 「おい、砂糖何杯入れる気だよ」 「え? だって朝はカフェオレって決めてるんだもん」 「それじゃカフェオレじゃなくてコーヒー牛乳だろ」 「カフェオレだもん!」 ぜってーコーヒー牛乳、と呟いて、自称カフェオレを作る少女を目を細めて見つめながら、少年は自分のコーヒーカップに口を付けた。 fin. |