ひとひら 〜EverGreen〜「乾杯!」 軽く触れ合わせたグラスが澄んだ音を立てた。 「誕生日おめでと。──これでまゆらもお仲間だからね!」 勝ち誇った口調で奏子(そうこ)が言った。まゆらはのんびり「そうだね〜」なんて答えている。 「そうだね〜、って、それだけ?」 「うん、別に。自分の年自体はどうでも。──ああ、でもこないだね、もう一生の半分をヒロくんと一緒にいるんだと思ったら、さすがに『うわぁ』と……」 「あーはいはい、良かったね」 「奏子ちゃんだって一緒じゃない」 「あたしは違うわよ、高校入った夏からだから、もう16になってたし、まだ14年!」 「変わんないってば」 くすくす笑うまゆらに、奏子は「変わるわよ!」と頑固に主張を続けている。 「けど長いよね〜。つきあい始めたのが15で、20ちょうどで結婚でしょ。今年はふたり揃って三十路になって、結婚生活10周年!」 「奏子ちゃんとはもっと長いよ?」 「三つ子の魂だもんね」 「そうそ、だから100まで一緒だよ」 「ちょっと! やめてよそんな先の話!」 奏子が思い切り顔をしかめ、まゆらがまた笑い声を立てた。 一息ついたところで、ちょうど前菜が運ばれてくる。 「わぁっ、おいしそう♪ ──いいご身分よね〜。世の中こんな不景気だってのに、ダンナを会社に送り出し、子供は学校や親に預けて、我らはコースランチで3000円? 俊介に言ったら『ふざけんな』とか言われそう」 「毎日そんなだったら怒られてもしょうがないけど、たまには、いいんじゃない?」 「そうね、今日は“大事な”まゆらの誕生日なんだし」 大事な、を強調した奏子の言い方に、まゆらの頬に苦笑が浮かぶ。 「奏子ちゃん……、それ、俊介くんにそのまま言っちゃダメだよ……?」 「なんで? 言うわよもちろん。当然でしょ」 「もう……」 俊介くんかわいそう、などと言いながら、まゆらもまんざらではなさそうだ。 なんといってもやはり、三つ子の魂の幼馴染みだし、親友だし、将来誓ってもいいくらい、大好きで大事な存在なのは、あの頃から変わっていない。 「ね、奏子ちゃん」 「なに?」 「私、ヒロくんのこと大好きだし大事だけど、奏子ちゃんのことも、大好きで大事だからね」 真面目な顔で告げたまゆらに、奏子は真顔になって、やがてゆっくりと笑みを広げた。 「うん」 「奏子ちゃんの誕生日にもさ、またこうやって一緒にお昼しよう? 夜はおうちで家族水入らずでお祝いで」 「ん、あたしもついに専業主婦になったしね」 「じゃあ約束!」 差し出された小指を絡め、約束を交わす。 「これからも、仲良くしようね」 幼い頃と変わらずに。卒業しても仲良しでいようね、と、桜の下で約束したあのときと同じように。 fin. |
コメント(by氷牙) 2003. 3月23日の『ORIGINAL蘭30』合わせの無料本。2日前にあった『そうさく畑』の新刊準備がずれ込んだため、本編『ひとひら』がおちてしまい、でも何か出したくて、急遽執筆(というほどのモノでも)。 本編では中3の彼女たちの、その後の物語。──で倍近く年とらせてるワタシってナニ(笑)。いや、蘭が30回記念だったんで、30才にしただけなんですが。ハタチとかだと、まだまだってかんじでしょ(何が)。 しかし30にしては大人げないですね(^^;)。……でもこんなもん? 現在26才のアイカワや、現在50才(!)のハハオヤ見てると、友達と再会しちゃえばこんなもんかなって感じもします。 中学時代の友人と、こんなふうに、30になっても40になっても、うちのハハsフレンズのように50になっても、わいわいやれたらいいなぁと思いながら書いてました。 (ところでサブタイトル「EverGreen」なのになんで文字色ぴんくかというと、蘭30のテーマが「Cherry Blossom」だったので、この日はいろいろぴんくにこだわってたからなのでした) ☆このお話はお持ち帰りフリーです。 |