Any Road

 ノックの音に扉を開けると、そこにはたった今心に思い描いていた人がいた。
 祈りの滝でもないのにそんなことが起こるなんて、とアンジェリークは翡翠色の瞳をま
ん丸に見開いて立ち尽くすばかりだ。
「やあ。おはよう、アンジェリーク」
 すがすがしい朝にふさわしい微笑みを浮かべたランディは、なぜか両腕を身体の後ろに
隠している。気づいてアンジェリークが背後を覗き込もうとすると、すっとランディが身
を引いた。
「ランディ様? ……後ろに、何か持ってらっしゃるんですか?」
「うん。でもまだ内緒だよ」
 そう言ってランディは、いたずらを思いついた子供のように、空色の瞳をきらめかせた。
「アンジェリーク、右と左と、どっちがいい?」
「えっ?」
 目をぱちくりさせて、しばらく迷った後に、アンジェリークは右、と答えた。
「右だね? ──はい! アンジェリーク、誕生日おめでとう!」
 ばさっと目の前に差し出されたのは、アンジェリークの好きな花ばかりを集めて作った
花束だった。
「えっ……。──あっ、ありがとうございます!! わぁ……っ、すっごい、きれい……」
「良かった、喜んでもらえて」
 花束にも負けない満面の笑みを浮かべたアンジェリークに、ランディも嬉しそうだ。い
ろんな角度から花束を眺めてにこにこしていたアンジェリークは、ふとあることに気がつ
いた。
「ランディ様、私、好きなお花の話って、しましたっけ……?」
「ううん、俺とはしてないよ。でも、マルセルに話しただろう?」
 そう言われてみれば確かに、マルセルと一緒に花壇の手入れをしたときにそんな話をし
た覚えがある。
「マルセルに、君の誕生日に花を贈りたいって言ったら、教えてくれたんだ。──俺は花
の種類とか名前とかよくわからないけど、かわいいと思うよ。すごく君に似合ってる」
 真っ直ぐなランディの言葉に、アンジェリークの頬がうっすら赤くなった。
「ところでさ、良かったら今日の予定を教えてくれないかな。誰かのところに育成のお願
いに行くつもりだった? それとも……」
「えっと、──今日は、ランディ様のところへお話しに行こうと思ってたんですけど……」
「えっ? 俺のところに? ──すごいな。なんか、……ありがとう、嬉しいよ」
 ランディが照れて、栗色の髪をくしゃりと掴む。少し俯くと、髪の間からのぞく耳たぶ
までもが真っ赤になっているのが見えた。
「じゃあ……、じゃあさ、せっかく天気も良いことだし、どこか外で話をしないか? 俺
も、君といろいろ話したいし」
「はいっ! ──あ、じゃあちょっと待っててくださいね」
 元気良く返事をすると、アンジェリークをもらった花束をとりあえず手頃な花瓶に挿し
て、出かける準備を整える。くるくると良く動くアンジェリークの姿を、ランディが楽し
そうに見ているのにも気づかずに。
「ランディ様、お待たせしました。──え、もしかして、……ずっと見てました?」
「うん、良く動くなぁって思って見てた。なんだか、ハムスターみたいだよね?」
「もうっ、それって、落ち着きがないってことですかっ!?」
「あははっ、違うよ。すごくかわいいってことだよ」
 赤くなったアンジェリークに声をかけて、ランディは先に歩き出した。慌ててアンジェ
リークも後を追う。
 公園へ続く道を歩きながら、アンジェリークはふと思い出して尋ねた。
「そういえば、ランディ様、さっきお花くださいましたけど、あの時左を選んでたらどう
なってたんですか? もしかして別のプレゼントだったり、何にももらえなかったりした
のかしら」
「え? ──ああ、それはね。……あの時左を選んでたら、プレゼントは、……やっぱり
あの花束だったよ」
「……もうっ、ランディ様ったら!」
「ははっ、だってさ、ただ普通にあげるだけじゃ面白くないだろ?」
 笑ってそう言うと、ランディはふと真面目な顔になった。
「君がどちらを選んでも、俺が君にあの花束をあげる運命は変わらない。それと同じよう
に……、いくつ選択肢があっても、俺が君を好きになる運命も変わらないよ。どんな道を
辿っても、俺の想いは必ず君に辿り着くんだ」
「ランディ様……」
 わずかに目を瞠ったアンジェリークを、ランディの温もりが包み込む。
「アンジェリーク、好きだよ。──誕生日、おめでとう」
 囁きと共に、額にそっとキスが贈られた。

                                           fin.



こめんと(by ひろな)          2001.4.11

【BlueWing】の由梨さんのお誕生日にと、送らせていただいたランリモ創作です。ちょうど、もうすぐお誕生日という時期に、うまいことランリモを思いついたので。
誕生日プレゼントは、ランディ様からの愛の告白vなんて、リモちゃんうらやましすぎ。いや、この場合はリモちゃんではなく由梨ちゃんですねo(^o^)o

タイトル『AnyRoad』は、「anyway」とおなじ「とにかく・結局」という意味の「anyroad」からとっています。

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