〜 ランディvマルセル編 〜

「ね、ランディ。──明日、一緒にチョコレートケーキつくろ?」
「え!? お、俺も“作る”のかい?」
「うんっ♪ おいしいお菓子をね、一緒に食べるのも楽しいけど、一緒に作って一緒に食
べたら、もっとステキだと思うんだ♪」
 邪気のないマルセルの笑顔に、ランディは眉を寄せて考える表情を見せ、やがて苦笑混
じりに承諾の返事をした。


「──けっこう、難しいんだな、これって」
 泡立て器と格闘しながら、ランディが呟く。カッカッカ、と泡立て器とボウルのぶつか
る小気味良い音がキッチンに響いていた。
「うん、クリームを泡立てるのはね、手際よくやらないといけないし、けっこう力がいる
んだよ」
 隣でドライフルーツを細かく刻みながら、マルセルが答える。チョコレイトケーキと一
緒にドライフルーツの入ったクッキーも作ることになったので、そっちの方の準備だ。
 外界にいた頃、学校で何度か女の子たちにお菓子をもらったことがあったが、彼女たち
もこんな苦労をしてあのお菓子を作ってくれていたのかと思うと、今更ながらにその有難
みがわかるというものだ。
 とかなんとか考え事をしていたら、カシッと音を立てて、泡立て器がボウルの側面を滑っ
てしまった。
「うわっ、」
 ランディの顔に、ホイップクリームがはねる。
「ああ、ランディじっとしてて、ぼくが取ってあげる」
 マルセルは手を伸ばしかけ、ふと、思いついてすみれ色の瞳をきらめかせた。
「──!!?」
「えへっ、──甘いね♪」
 ぺろんっ。マルセルが舌を伸ばしてランディの頬に付いたクリームを舐めたのだ。肩を
すくめてウインクをしたマルセルの視線の先で、ランディは声も出せずに真っ赤になって
いる。ランディはそのままずっと息を止めていたらしく、しばらくして音を立てて息を吸
い込み、大きなため息を吐いた。
「──マルセル、……心臓に悪いよ……」
 まだ赤い顔のまま、眉を寄せてランディが呟く。
「ごめんね? だって、ランディおいしそうだったんだもの」
「……っ」
 上目遣いで首を傾げられ、ランディがまた息をつまらせる。一瞬目の前の身体を抱き寄
せようと手が動きかけたが、今それをしてしまってはお菓子作りどころではなくなってし
まう。目を閉じて、深呼吸をして、──ランディは、自制心を総動員して、なんとか思い
留まった。


 やがてスポンジの準備も終わり、いよいよデコレイト・タイムだ。チョコレートを混ぜ
たクリームと白いままのクリームの入った袋を持って、マルセルはかなりご機嫌のようで
ある。
 ランディは椅子のひとつに腰を下ろして、わくわくした様子のマルセルを、同じくらい
楽しそうな表情で見つめていた。手伝わないのは、その方が確実においしそうなケーキが
できると踏んでのことだ。やはりお菓子は、味も大事だが見た目が大切なんである。
 マルセルは、時折ランディに相談しながらスポンジにクリームを塗り、ランディには到
底できそうもないような優雅な模様を描き、チョコレートケーキのデコレーションを完成
させた。ふう、と小さくため息をつき、満足そうな笑みが愛らしい。
「できた!」
「うん。──お疲れ」
 席を立って、ランディがマルセルの頭を軽く撫でた。そして、くすっと笑って身をかが
める。
「え?」
「ほっぺた。クリームついてたぞ」
 ぺろっとマルセルの頬を舐めて、ランディがいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「うそっ!? ──もうっ、気づいてたんならもっと早くに教えてよぉ」
「ははっ、ごめん。だって、マルセルすごく一生懸命やってて──かわいくて見とれてた
んだ」
「…………もう」
「ごめん、そんなに怒らないで。──はい」
 言ってランディは、指先に取ったチョコレートクリームをマルセルの前に差し出した。
指先にキスをするように、マルセルがクリームを食べる。ちょうどキスをするときのよう
に半ば伏せられた目が、ランディの胸をときめかせた。
「──んっ」
 マルセルの唇が指先から離れるより早く、ランディの唇がそこに触れる。
 驚いて身を引こうとしたときにはもう、背中にランディの腕が回されていて。
 引き寄せられ、顔を上向かされて、もう一度、今度は深く口づけられた。
「──チョコレートの味がする」
 呟いて、甘いね、とランディが笑った。
「マルセルも、全身、チョコレートのにおいだ」
「……ランディだってそうだよ」
「じゃあ、俺たち、人間チョコレートだな」
「ふふっ、──ゼフェルが聞いたらなんて言うかな」
「そんな甘いにおいさせてこっち来んじゃねー!──とか?」
「ふふっ、言いそー」
「そしたらしばらく2人でいようか」
「……今だって2人だよ?」
「うん。──マルセル、」
 改めて身体を引き寄せて。耳元にキスしてランディが囁く。
   Happy Valentine’s Day
 くすぐったそうに首をすくめてマルセルが笑った。同じように、ランディの耳元にキス
して同じ言葉を囁く。
 見つめ合って笑みを交わし、今度は唇にキスを贈った。
                                             fin.



こめんと(byひろな)     2001.2.14

ベタな話&壁紙ぱ〜と2(笑)
──ってことで、バレンタインランマルです。
もう、皆さん、砂でもチョコレイトでも好きなだけ吐いてください(爆)。だーー。
もー勝手にやってろてめーらー!!と、ゼフェルが発狂しそうな勢いです。……なんか最近、私の中のランマルテイストが変わってきてるよ(苦笑)。
なんか……どうしたんだろうね?わたし
ああ、言っておきますけどワタクシ、お菓子作りはほとんどやったことありません。ケーキなんて問題外。そんな私の書いたお話ですので、お菓子作りに関する記述の信憑性はカケラもございませんのであしからず(っつってもそんなにたくさん書いてないけどね)。

なんか、マルセルじゃなくてリモちゃんでもいけるような気がしたので、ランリモバージョンも作ってみたんですが……。ココからどうぞ♪


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