One Day Happy

「ティムカ様、こんにちは!」
 元気良く挨拶をして入ってきたのは、栗色の髪の少女。
「あはっ、アンジェリーク、今日も元気そうですね」
「はいっ!」
 少女の笑みに、いつも自分は勇気づけられる。時々家族が恋しくなってしまっても、
彼女が明るく声をかけてくれるだけで、元気が出てくる。
 いつものように学習とおしゃべりをしたあと、少女はドアを押し開けながらティムカ
を振り返った。
「ティムカ様、今度の土の曜日、夕方お暇ですか?」
「土の曜日ですか? はい、大丈夫ですよ」
「良かった! じゃあ、空けておいてくださいね! 失礼しまーす」
 少し蒼みがかった翡翠の瞳を輝かせて、少女は扉の向こうに消えた。
「土の曜日の夕方……。ちょっと楽しみですね」


「ねぇメル、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかなぁ?」
「あ、マルセルさま。こんにちは! メルにお願いってなぁに?」
「ふふっ、メルにしか頼めないことなんだ。あのね……」
「──ええっ、ほんとに〜!? メル、一生懸命がんばって作るからね!」
「うん、メル、よろしくね!」


「だーっ、ちげぇよバカ! そっちじゃなくて、この赤い方だっつってんだろ!」
「ご、ごめん。……難しいな、これ」
「……こんなん簡単な方だぜ。リモートコントロールが要らないんだからな」
「そうなのか。ゼフェルってすごいんだな」
「はあっ!? ナニ言ってンだおめぇ……」


「はあ〜いリュミちゃん、首尾はどうかな〜?」
「ああ、オリヴィエ。……順調ですよ、必要なものは先日チャーリーに頼みましたし。
今ごろルヴァ様が受け取ってらっしゃると思います」
「そっか。……うふふ、楽しみだね、なんだかワクワクしちゃうよ☆」
「ふふっ、そうですね」


「は〜い、まいどぉ! お届けモンでっせー!!」
「ああ、これはチャーリー。どうもありがとうございます」
「いやいや、これもかわいいティムカちゃんのため……と、まだナイショやったな」
「ええ、まだナイショです。ふふ」
「じゃあ、土の曜日、俺も楽しみにさせてもらいますよって。ほんじゃ、おおきに〜」


「ねぇレイチェル、こんな感じでいいかなぁ? ヘンじゃない?」
「きゃはは、な〜に言ってンの! 今更気にしたって元は変わんないんだから、な〜ん
てね!」
「ひっど〜い!」
「うそうそ、似合ってるって。──ティムカ様もびっくりするよ!」
「喜んでくれるかな」
「うん、バッチリ! なんたってこのワタシが計画立てたんだからね!」


         ♪         ♪         ♪


 コンコン。ノックの音に胸をときめかせて扉を開けたティムカは、そこにいた人物に
落胆と驚愕の入り交じった表情を浮かべた。
「ヴィクト−ルさん? こんばんは。どうかなさったんですか?」
「ふふっ、そんなロコツに残念そうな顔をすることはないじゃないか、ヴィクトールさ
んがかわいそうだよ」
「え? あ、セイランさんも。……一体どうなさったんですか?」
「いや、アンジェリークに頼まれてな」
「僕らが王太子のお迎えにあがったというわけさ。……まったくあの女王候補達は人使
いが荒いね」
「え??」
「さあ、行こう。みんな待ちかねているぞ」
「は、はい」


「あ、ティムカ様!」
 真っ先に見つけて声をあげたのは、もちろんアンジェリークだった。
「みんな、準備はいい?」
「せーのっ」
「ハッピィバースディ、ティムカ!!」
 パンパンッ☆
 ティムカ達がテーブルにたどり着いたと同時に鳴り響いたクラッカー。呆気にとられ
て、ティムカは墨色の瞳を大きく見開いたまま、舞い散るテープを見つめていた。
「くっ、なんて顔をしているんだい」
「……え?」
「ティムカ様、お誕生日おめでとうございます!」
 改めて告げて、アンジェリークはティムカの前に歩み出た。その時初めてティムカは
アンジェリークのドレスに気づいたようだった。
「アンジェリーク。……とても似合ってますよ」
 嬉しそうに少女が頬を染める。
 ちょーっと、そこで二人で盛り上がってんのもいいけどさ。オリヴィエが口を挟んだ。
「ティムカちゃん、なんでアンジェがそんなカッコしてるか分かってる?」
「え? あ、そういえば。────ああ、そうか、今日って僕の誕生日なんですね!」
「そうだよ! だからね、ワタシ達、みんなでティムカ様のお誕生日を祝って夕食会を
することにしたんだ!」
「えっ、……あ、ありがとうございます! 僕、とっても嬉しいです!」
「ふふっ、ティムカの席はこっちだよ、早く早く!」
 マルセルはたたっと駆け寄ってティムカの腕を掴むと、主賓席へとひっぱっていって
椅子に座らせた。その両隣にアンジェリークとレイチェルが座る。
「はいっ! 皆さんおそろいやなー? それでは、ティムカちゃんの……おっと、品位
の教官ティムカ様の、誕生パーティを始めたいと思いまーす! 司会はワタクシ、“ナ
ゾの司会者”がお送りいたしまーす!」
 赤いリボンを付けたスプーンを握りしめ、チャーリーがオーバーアクション付きの口
上を述べ始めた。それだけでクスクスと笑いが起こる。
「ではさっそく、カンパイをいたしましょーっ!! 皆さんグラスのご用意はOKでっ
かー? ほんじゃカンパイの音頭はヴィクトールさんにお願いしましょー!!」
「え、お、俺か? ……そんなの聞いてないぞ」
「きっと彼のことだから、たった今決めたんじゃないのかな。──さぁ、皆さんお待ち
かねですよ」
「う、うむ。困ったな……」
 そう言いつつヴィクトールは立ち上がった。コホンと一つ咳払いをする。
「では、ティムカの誕生日と、俺達を出会わせてくれた女王試験、それから女王陛下の
治める宇宙の平和に、」
 カンッパーイ☆


 しばしの歓談の後、オリヴィエがリュミエールにパチリとウインクを送った。気づい
てリュミエールがすっと立ち上がる。
 リュミエールはハープを、オリヴィエはリュートをその手に取ると、テーブルから少
し離れた位置に並んで座った。何人かが気づいて話を止める。二人は目配せをして、同
時に弦を弾き、曲を奏で始めた。
「あ……」
 気づいてティムカが声をあげる。
「ええ、あなたの故郷の曲ですよ。──特にこの曲が好きだと、セイラン達に聞きまし
てねぇ、二人に演奏してもらうことにしたんですよー」
 ルヴァがにっこりと微笑む。その言葉にティムカは思わずセイランを振り向いた。
「何だい、僕が君の好きな曲を覚えているのがそんなに不思議かい? 悪いけど、僕は
自分の好みのものも覚えられないような、お粗末な記憶力は持ち合わせていないつもり
だよ。──つまり、僕もこの曲は好きだっていうことさ」
「セイランさん……」


「じゃじゃーん! それでは、プレゼント進呈の時間でーっす!! ええっと、まずは
マルセル様とメルちゃんやな」
「ふふっ、ぼくたちからはね、これ!」
 そう言って差し出された小さな手に乗っていたのは、真珠をあしらった首飾りだった。
光の加減で、それぞれの珠が絶え間なく色彩を変える。シンプルなだけに、淡い輝きが
美しい。
「あのねあのね、マルセル様と一緒にね、メルが一生懸命作ったんだよ!」
「それでね、」
 すみれ色の瞳をきらめかせて、マルセルはティムカの耳元に顔を寄せた。
「この首飾り、アンジェとおそろいなんだよ♪」
「えっ」
 そう言われて見ると、確かにアンジェリークの胸元にも同じ首飾りがある。まともに
アンジェリークと目が合ってしまって、ティムカの陽に焼けた頬がぱっと赤くなった。
 はにかみながら礼を言うティムカに、皆のあたたかい拍手が送られる。
「お次は、ランディ様とゼフェル様!」
「ティムカ、誕生日おめでとう。俺達からは、これを、──幸せの青い鳥が、いつでも
ティムカのそばにいるように」
「頭んトコのスイッチ入れるとよ、歩いたり、首振ったり羽ばたいたりすんだぜ。どっ
か飛んでっちまうと困るから、リモートコントロールは出来ないようになってんだけど、
いいよな」
「俺も少し作るの手伝ったんだよ」
「あぁ? 手伝っただぁ!? てめーのはジャマしてたっつーんだよ!」
「なんだと!?」
「あー、二人ともー、ケンカはダメですよー」
「あはっ、お二人とも、ありがとうございます! 動かしてみてもいいですか?」
「ああ、もちろん!」
「メルも見たーいっ!」
「ぼくもー!」
 みんなに見えるようにテーブルの上に置いてスイッチを押すと、青い鳥は白いクロス
の上をちょこちょこと歩き始めた。時折羽ばたいて、首を傾げたりする。
「わあっ、すごいですね!!」
「へぇ、良く出来てんじゃない」
「いいないいな、メルも欲しいなっ! ねぇゼフェル様、メルにも作って?」
「あっ、メルずるーい! それならぼくも欲しいな!」
「おっめーらなぁ、これはティムカへの誕生日プレゼントなんだぜ? おめーらにやっ
てどうすんだよ」
「ほら、マルセル、メルも。わがまま言っちゃダメだぞ。──きっとゼフェルが他のも
のを作ってくれるさ」
「なっ……!? ランディ、てめー何言ってんだ!!」
「キャハハッ、ランディ様ったらすっかりお兄ちゃんだネ!」
「ふふっ」
「いっやーオモロイ鳥やなー。──そしたら最後はルヴァ様からやな。どーぞ!!」
「えー、これはですねー、私からというより、皆からなんですが。──あ、ちょっと重
たいですからね、気をつけてくださいねー」
 差し出されたのは、ずっしりと重そうな分厚い本だった。
「最新版の、海の生物の図鑑です。あなたの故郷の海に棲むイルカ達も、もちろん載っ
ていますよ」
「リュミちゃんの案でね、そこの“ナゾの司会者”に頼んで取り寄せてもらったんだよ。
絵本もいいかなとは思ったんだけど、こっちの方が見応えがあるでしょ☆」
「はいっ!……皆さん、ありがとうございます!」
「それでは皆さん、もう一度ティムカちゃんに盛大な拍手を!!」

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