Partner?

 地の守護聖ルヴァの執務室で“勉強会”なるものが催されるようになって、聖地の時間
にして、約1年が経つ。相次いで守護聖の交代があり、年少の者が増えたため、筆頭守護
聖ジュリアスの依頼を受けてルヴァが始めたものだ。守護聖の役目に始まり、各惑星の伝
承、動植物の生態や分布、天体の観測等々、ありとあらゆる分野を学んでいる。堅苦しい
ことだけでは飽きてしまうし、なによりどんなことでも知っておいた方が良いとルヴァは
考えるからだ。けれど、そのルヴァの思いを生徒達がわかっているかどうかは、少々疑わ
しい──わかってはいるけどめんどくさい、というのが本音だろうか。
「──えー、ですからねー、私達守護聖というのは、お互いに仲良く協力し合うことが大
切なんですねー」
 にこにこにこ。今日もいい天気ですねー、と言うのと同じ口調で、ルヴァの講義は続く。
 けっ、やってられっかよ。小さく吐き捨てたゼフェルをランディがたしなめた。一瞬、
二人の視線が火花を散らす。またやってる……、マルセルはため息をつき、この二人こそ
仲良くなってもらいたいと思った。そして、他にも反目し合う二組の守護聖達に思いが移
り、──ふと、あることに気づいた。
「あれ?」
「どうしました、マルセル?」
 突然声をあげたマルセルに、ルヴァがのんびりとした声でたずねた。
「ねぇルヴァ様、ぼくたち守護聖って、全部で9人ですよね?」
「ええ、そうですねぇ」
「そんなん見りゃわかんだろ」
「マルセル、何を言ってるんだ?」
 呆れた顔をするゼフェルとランディには構わず、マルセルはすみれ色の瞳を丸くしてル
ヴァを見上げる。
「どうして9人なんですか?」
「──は?」
 さすがのルヴァも、一瞬言葉を失いぽかんとしてしまった。
「ジュリアス様とクラヴィス様は、──光と闇は対になる存在なんですよね。オスカー様
とリュミエール様も。でもぼくたち9人なんですよ、2人ずつにしていったら、1人余っ
ちゃいます」
「そう言えば……そうだな」
「つーか残り5人だろ?──どこをどう組み合わせるってんだよ」
 言われるまでそんなこと気にしたことはなくとも、一度気づいてしまうと無性に気にな
るものである。ランディとゼフェルはそれぞれ難しい顔をして考え込む仕草をした。マル
セルは、顔中に「なんで?」を散りばめさせて、ルヴァをじーっと見つめている。
 ルヴァは3人の様子に満足げに眼を細めた。日頃勉強嫌いの彼らが、ひょんなきっかけ
からでも自分たちの力について関心を持ってくれたことが嬉しいのだろう。ただでさえ細
い眼をより細くしてにこやかに頷くと、マルセルの疑問を解く鍵となる言葉を口にした。
「ああ、それはですねー、“対”を一つに固定してしまうとわからなくなってしまうんで
すよ」
 “対”を一つに固定するとわからない……?
 ルヴァのヒントに、3人は一様に首を傾げた。
 そうですねぇ、ルヴァは3人を見回して一つ頷くと、マルセルの方に向き直った。
「マルセル、あなたは自分と“対”になるのは誰だと思いますか?」
「え? ぼくの“対”……ぼくと反対の力を持つ人ですよね。ぼくの緑の力、豊かさ、の、
反対……?」
 戸惑いに視線を揺らし、マルセルは自分の力と司るもの、性質を口にした。細いアーチ
状の眉が微かに寄り、心持ち唇が尖っている。他の二人も同じように考えているのだろう、
真剣な表情をしていた。
「わかりませんか? ──あなたの司る豊かさ、緑は自然の恩恵ですね」
「自然の……、あっ……! わかったゼフェルだ!!」
「はい、よくできました」
 目を輝かせて叫んだマルセルに、ルヴァも同じくらい嬉しそうに微笑みを向けた。
「そうですね。自然の恵みとして与えられるものと、人が自らの手で作り出すもの。対極
にあるもの、“対”となるものです。──ではゼフェル、あなたは、自分の“対”は誰だ
と思いますか?」
「……マルセル以外で、ってコトか?」
 “対”を固定してはいけない、ルヴァの言葉を確認する。その理解力の高さを、ルヴァ
は密かに買っていた。本人には言わない、言っても照れ隠しにしては激しい反発をされて
しまうだけだ。
「ええ」
 だからルヴァはただ頷いた。
 右手の親指を口元に当て、ゼフェルの眼差しが真剣なものになる。マルセル同様、自分
の力のキーワードを口にしながら爪を噛む。その速さが増してきたところでルヴァがまた
新たな助言をした。
「文明が発達していくには、鋼の力──技術の向上が不可欠ですね。けれど、スキルだけ
がただあっても、それは役立たずのガラクタにすぎません」
「! そうか、──ルヴァ、おめぇの力だな。技術を活かすための、より高い技術を生み
出すための知恵だ」
「ええ、そうです。よくできましたね」
 ゼフェルはもともと好奇心が非常に旺盛な少年だ。褒められて照れくさそうにしながら
も、赤い瞳が得意気にきらめいている。
「さて、私の力ですが──、地の力、知恵、物事を考える力ですね。うーん、これはです
ねー、私の悪いところでもあるんですが、つい色々なことを、深く難しく考えすぎてしま
うんですねぇ」
 言いながらランディの方を見ると、ちょうど待ち構えていたかのようなタイミングで目
が合った。一瞬驚いた表情をしたランディは、けれどルヴァと今目が合ったことで確証を
得たようだ。空色の瞳が、答えを掴んだ喜びに、その輝きと大きさとを増していく。
「わかったようですね」
「はい! ルヴァ様、俺の力ですね!」
「ええ、そうです。ランディ、あなたの力は前進する勇気を与える力。──どんなに素晴
らしい考えが浮かんだとしても、それを実行に移すことができなければ意味がありません
からね」
「ランディ野郎の場合はちっとはアタマ働かせろってコトだな!」
 ニヤリと笑ってゼフェルがまぜっ返した。ランディが声を荒げ、マルセルが頭を抱える。
再び臨戦態勢に突入した二人に、困りましたねぇ、ルヴァはため息混じりに呟いた。
「あー二人とも、ケンカはいけませんよー。──あなた方の場合は、司る力の性質よりも
性格の方が対になっているようですねぇ……」


 翌日、ジュリアスの執務室を訪れたルヴァに、ジュリアスがたずねた。
「ルヴァ、そなたランディ達に何を話したのだ?」
「──は……?」
 聞けば、今朝一番にジュリアスの元へランディがやってきたらしい。
『俺たち守護聖の力って、決まった人とだけでなく、9人それぞれがお互いに影響し合っ
ているんですね。俺、みんなともっといろんな話をして、協力していかなくちゃって思っ
たんです』
『そうか、それは良いことだな』
『はい! 俺、がんばります! ──ジュリアス様も、クラヴィス様やリュミエール様と
もっとお話しされたらいかがですか? 新しい発見があるかも知れませんよ』
「──何やらずいぶんと意気込んでいたが……。ルヴァ、昨日は勉強会だったのだろう、
何を話したのだ?」
 そう言って見上げるジュリアスの瞳には、少しだけ責めるような光が宿っている。どう
にも嫌い──というより苦手なクラヴィスと仲良くしろなどと、年若いランディに言われ
てしまったのが彼の矜持を傷つけたらしい。
「ああ、──ふふ、ランディがそんなことを言ったのですか。じゃあこれからはゼフェル
ともっと仲良くなってくれますかねー。あの二人は、いい友達になれると思うんですよ」
 ねぇジュリアス? 同意を求められてジュリアスは頷いた。
「それで……、私とクラヴィスにももっと歩み寄れと、そう言いたいのだな?」
「いえ、そこまでは……。──そうですねー。見方を変えると、また良いかも知れません
ねぇ」
「見方を、変える?」
「ええ。──昨日彼らに話したのは、“対”の話です。光と闇、炎と水、それだけに対を
固定してしまわないで、また別の面から見ると、また違った対の姿が浮かんでくると」
 あんなに一生懸命私の話を聞いてくれたのは、もしかすると初めてかも知れませんねぇ。
思い出して微笑むルヴァを見上げて、ジュリアスもまたその頬に微かな笑みを浮かべた。
「そうか。──ずっと一つのところに留まっていると、柔軟な考えができなくなる。そな
たの話は、彼らの成長に確実に役立っただろう。ひいては我ら守護聖の、陛下の護られる
宇宙のためにもなる。感謝するぞ」
 そんなたいそうなものじゃないんですがねー。ルヴァの呟きが陽差しに溶けた。

 それからしばらく、お子様組が発端の“対探し”が聖地宮殿内で流行することになる。
 そして、この“対探し”が守護聖達の人間関係にどのような影響をもたらしたかという
と……。
「ゼフェル、どうしておまえはいつもそうなんだ!!」
「けっ、ッるっせぇ、てめーに言われる筋合いはねーや!」
「もぉ〜二人ともやめてよぉ!」
「あー二人ともー、ケンカはいけませんよー。……はぁ、困りましたねー」
 ……何も変わっていなかったりする。少なくとも、表面上は。
 彼らが自分の“良き仲間”に気づくのは、いったいいつになることやら。
                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2000.12.7

2500HITのむくさんリクエスト、ルヴァ様の出てくるお話。withお子様s。
ルヴァ様のお話……というか、「ルヴァ様がお話ししているお話」になってしまいました。
“対”は“pair”なんですが、仲間という意味を込めて、タイトル、“partner”に、なぜかクエスチョンマークが付いています(笑)。誰が誰とパートナーになれるかは、お好みで(笑)。
実は守護聖9人を3人ずつ3つに分けようなネタもあったんですが。今度書こうかな?

やはりルヴァ様というと、にこにこと微笑みながらうんちくを傾けるの図が浮かぶ私。
と、いうことで、たまにはお子様達がルヴァ様のお話に興味を持ってくれたらと思って書いてみました。
しっかしなんでだろーなー。私が書くと、子供らが仲良くなる(笑)。ランディとゼフェルも、親密度100近くありそうだよね。あ、この話はそれほどでもないかな? ランディとマルちゃんに至っては、150くらいあるのでわ。……らぶらぶ?


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