手に持ったカードと場に置かれたカード、そして目の前のはしばみ色の瞳をちらりと見
やって、オスカーは静かにカードを開いて見せた。
「──フルハウス」
 Qのスリーカードに9のペア。悪くない。
 一瞬目を瞠ったチャーリーは、しかしすぐに薄い唇を勝利の笑みに歪ませた。
「俺の勝ちやな。──Jのフォーカード」
 パラ……と音を立ててカードが開かれる。表情を変えないオスカーに、チャーリーは軽
く眉を上げ、椅子に背を凭れさせて腕を組む。
「さて、オスカー様。俺の勝ちでっせ。言うたやろ、俺は賭けるモンがあると強いて」
「ああ、そのようだな」
 確かに、何も賭けずにやっていた時とは比べものにならない。
「やっぱりな、欲しいモンがあると違うで。とくにそれが、滅多に手に入らん貴重なモン
やったりしたらなおさらや」
「なんだ、チャーリー、おまえそんなものを俺にたかる気か? 守護聖の特権なんか使わ
なくても、おまえなら何でも手に入るだろう」
 もっともな疑問を口にすると、チャーリーはちっちっ……と舌打ちに合わせて人差し指
を振る否定のジェスチャーをして見せた。
「いやいや、違うんやなーそれが。俺の欲しいモンてのはな、オスカー様にしか頼めない
モンなんや」
「──もったいぶってないで早く言ったらどうだ」
「せっかちやなー。もうちょっと、こう、俺の欲しいモンて何やろなーとか、考えてくれ
へんの〜?」
「おまえが女性だったら考えてやっても良いが、考えてもわかりそうにないものを考える
のに時間と労力を費やすほど、俺は暇じゃないんでな」
「冷たいなぁ……。ま、ええわ。俺もいい加減言いたくてウズウズしてたところや」
 チャーリーはふいに表情を変えた。
 そしてその唇が紡いだのだ。──オスカーを一晩もらい受けると。


「は? ──なんだそれは」
「いややな〜、オスカー様ともあろうお方が、そんなトボけた答えせえへんといてや。あ
んただって使たことあるやろ。──それとも何、わかってて俺を焦らしてるんかいな」
 にやにやと人の悪い笑みを浮かべて、チャーリーはオスカーの出方を窺っている。
 言葉の意味に気づいて、オスカーは思わず椅子ごと後ずさった。ガタンと響いた音が、
オスカーの心の動揺を表している。
「チャーリー、おまえまさか……っ」
「そう、その“まさか”や」
「──っ」
「撤回はせえへんしさせへんで。男に二言はナシや」
 ぐっと言葉に詰まるオスカーを、はしばみ色の瞳が射抜く。トボけた言動に隠されては
いるが、抜け目のない男だ。以前からそう思ってはいたが、猛禽に似た色の眼に、オスカー
は自分が追いつめられた小動物の立場であることを知った。
 観念した様子のオスカーに、チャーリーが余裕の表情で口を開く。
「さて、どないします? 今晩今これからでもええし、あんたが心の準備が必要や言うな
ら日を改めてもええねんけど」
「いや、今日でいい」
「そ? そんなら場所変えましょか。シャワーはどないします?」
「先に使わせてもらう」
 言うなり自分の家のようにすたすたと歩いていく背中を見送って、チャーリーは肩をす
くめるとテーブルの上のカードを片づけ始めた。


 バスルームから戻ると、ソファでくつろぐチャーリーの姿が目に入った。ポーカーフェ
イスで近づくオスカーに気づいて立ち上がる。
「これ、あんたと飲もう思て取って来たんや。ちぃと待っててな、すぐ戻るさかい」
 そう言ってチャーリーは入れ替わりにバスルームへと姿を消す。小さくため息をついて
髪を掻き上げ、オスカーはテーブルの上のボトルに目を留めた。
「────これは……」
 手に取ってみると、それはオスカーの気に入りの赤ワインだった。そういえば、いつだっ
たかチャーリーに話したような記憶がある。女性相手ならば、オスカーもそれくらいの記
憶はお手のものだったが、まさかチャーリーが自分の好みを覚えているとは思わなかった。
「おまっとさん。──と、気づいてくれたんか。あんた前にソレ好きや言うてたやろ」
 微笑んでソファに腰を落とし、栓を開ける。途端にワインの芳香が部屋を満たした。
「ええ香りやな……。この香りだけでも幸せな気分になれそうや」
 うっとりと呟いてから、かすかな音を立ててグラスに注ぎ、はい、とおどけた仕草でグ
ラスを指し示す。
 相手の緊張をほぐすには、少々オーバーなくらいのアクションがちょうど良い。オスカー
もよく使う手段だ。だがそれをされて自分が緊張していると思われていることを知り、オ
スカーは少しばかり矜持を傷つけられた思いがした。だが認めざるをえないだろう、だい
たいこの状況で緊張しない人間の方が珍しい。
「ほんじゃ、カンパイしましょか。──俺たちの夜に」
 猛禽の瞳で、今度はプレッシャーをかけてくる。すっかりチャーリーのペースだ。努め
てポーカーフェイスを維持してワインを口に含むと、独特の香りと甘さが心をほぐし、酸
味と苦みが頭に刺激を与える。
「どや? お味のほどは」
「ああ、──旨いな」
「そらよかった。ガチガチにキンチョーして味もロクにわからんようなっとるかと心配し
とったんやで」
「──そんなに、緊張しているように見えるか?」
「そらあんた、よっぽど図太いヤツでない限り、緊張すんのは当たり前やろ」
 大げさに目を見開いて両手を上げるチャーリーに苦笑を漏らし、オスカーは再びグラス
に口をつけた。
「それにしても……、おまえにそんな趣味があるとは知らなかったぞ」
「あれ、そうなん? けっこう知ってる人おったから、てっきりあんたも知ってるもんか
と」
「そうなのか?」
「ん〜っ、オリヴィエ様やろ、セイランさん、ゼフェル様に、……あ、クラヴィス様も何
や知ってそーな感じやったな」
「なんだその面子は……」
 頭を抱えたオスカーに、チャーリーはさらりと御同類ってヤツやろと答えた。
「もしくは、身近に御同類がいたか。──ま、俺の方はそんなん聞かんかったからわから
へんけど」
「おまえは……、男が好きなのか?」
 その質問を口にするだけでも背中がけば立ちそうだ。オスカーの表情を見やってチャー
リーが笑った。
「いや、俺は男も女も両方イケるクチです。あんたは思いっきりノン気そうやな」
「当たり前だ」
「あんたほどの男なら、女はもちろん、男だって放っとかへんやろ。あんたが知らんだけ
で、今までにもあんたをそーゆー目で見てたヤツはいたはずや」
「気持ちの悪いことを言うなっ!」
 言ってから、はっとしてチャーリーを見たが、別にこたえた様子はない。ほっと息をつ
いて、何で俺がこんなヤツに振り回されないといけないんだと、オスカーは内心毒づいた。
オスカーともあろうものが、何で。
「面と向かって気持ち悪い言われるとさすがに傷つくな。──けど、気持ち悪かろうが何
やろうが、今夜一晩、あんたは俺のモンや」
「──────────好きにしろ」
「ええ、好きにさせてもらいます」
 にっこり笑って立ち上がると、チャーリーはゆっくり歩み寄り、オスカーの頬に触れた。
緊張に強張る精悍な頬のラインを辿り、そっと仰向かせる。
「そんな初心な反応されたら、よけいに燃えてまうやろ。心配せんでもキスはせぇへんて」
 遊びの男とは、セックスはしてもキスはしない。それが、ある種の女たちの中では当然
のルールになっている。それを、チャーリーはもちろんオスカーが知っていると踏んで口
にした。
 氷蒼の瞳が、鋭い光を放つ。
「馬鹿にするな」
 牙を取り戻した獣の眼に、チャーリーはぞくぞくするような快感を覚えた。自然、唇が
笑みを形どるのがわかる。
「キスしてええの? ──そんじゃ、遠慮なく」
 言うなりチャーリーは薄い唇に食らいついた。言葉通り、遠慮を知らない舌が腔内をま
さぐる。目を閉じてもはしばみ色の視線が追いかけてくるようで、オスカーは眉間を狭め
瞼に力を込めた。
 唇の感触は、女のそれと大差ない。少し肉付きが乏しいが、薄い唇の女だっている。絡
まる舌も、積極的な女だと思えばいい。だが、ワインの芳香の合間に香るかすかな煙草の
匂いとムスクに似た香水、そして紛れもない男の匂いが、口づけの相手が自分と同じ性を
持つ者だということをオスカーに知らしめている。
「往生際悪いで。どうがんばっても、俺が男やいうことに変わりはない。まあ、多少抵抗
してくれた方がええけどな、従順なあんたなんて、らしくないやろ……」
 音を立てて軽いキスを贈り、チャーリーの手が下に滑る。腰を抱かれ、襟の合わせから
のぞく鎖骨に口づけられて、オスカーはわずかに身を強張らせた。
「ここで……するのか?」
「初めてはベッドの方がええ? ──なんてな、ソファに男二人はさすがに無理そうや。
広いベッドの方が、思う存分あんたを味わえるしな」
「勝手に言ってろ」
 邪険に言い捨ててチャーリーの身体を押しのけると、オスカーは自ら寝室に向かう。以
前一度だけ入ったことのある部屋だ。むろんベッドを使うためではなく、部屋に飾られた
絵の女を見せたいと言われて。男の寝室なんか見ても面白くも何ともないとは思ったが、
その絵の女は、確かに美しかった。
 勝手に扉を開けて室内に入る。壁にかかる絵の女にちらりと視線を向けて、シャツのボ
タンに手をかける。と、後ろから抱きしめられ手を押さえられた。
「ちょお待ってや。俺の脱がす楽しみとっといてんか」
「男に脱がされる趣味はない」
「俺があんたを脱がしたいんや」
 重ねて言われ、小さく舌打ちして手を下ろす。胸に留まったままのチャーリーの手が、
シャツの上を這い回る。
「……さっさと済ませろ」
「冗談。たった一度っきりのチャンスや、十分堪能させてもらいますわ」
 抱きしめられ、胸を腰を撫で回されて、オスカーが軽く眉をひそめる。押しつけられた
チャーリーの情熱がわずかに高ぶっているのを感じ、オスカーは改めて自分がそういった
欲望の対象にされていることを実感した。
 はだけたシャツの間から滑り込んだ指が、胸の飾りに触れた。びくりと揺れた身体に、
背後のチャーリーが低く息を吐いて笑う。
「意外と敏感なんやな。──うれしい誤算や」
 言うなりシャツを落として露わになった背中に口づける。
「キレーな肌やな……。ああ、あんたの全身、早う見とうてたまらんわ」
 背中に触れる息が熱い。今まで自分が抱いてきた女たちも、自分の吐息をそんな風に感
じてきたのか。思うともなく思った瞬間脇腹を噛まれ、オスカーの口から呻きが零れる。
「俺といるときは俺のことだけ考えてや」
 見透かされた悔しさに奥歯を噛む。先ほどからチャーリーの口にする台詞……あえてオ
スカーの言いそうな言葉ばかりを選んでいる気がするのは、きっと気のせいではないのだ
ろう。
 腰に降りた手がベルトをはずし、下着の中に直接触れた。そのまま脚を撫で下ろすよう
に手が滑り、オスカーの、腰から続く引き締まった臀部、そして力強い脚が露わになる。
「思ってたより、ちぃと細いかな」
 チャーリーの声が、腿の後ろから聞こえた。と、息の触れた場所に口づけが降りる。
「なぁ、オスカー様……なんか声聞かせてや」
 甘えるような声に無言を通すと、突然目の前にチャーリーが現れた。驚きに目を瞠るオ
スカーを抱き寄せ、チャーリーの唇が舌が、オスカーを貪る。それと同時に背中を滑り降
りた手に、オスカーは思わず身を仰け反らせていた。結果として押しつける形になった腰
から、チャーリーの脈動が伝わってくる。
 唇を離してオスカーの全身を眺めやり、チャーリーが唇に笑みをはく。
「物理的刺激には反応してくれるんやな。俺には欲情してくれへんみたいやけど」
「当たり前だ。男に欲情なんかするか」
「俺はあんたに欲情しとるで。──わかるやろ」
「────目を見ればな」
 無言を通そうとすればできたはずなのに、温度と湿度を増したはしばみ色の瞳にオスカー
は逆らえなかった。眼差しで気圧されるなんて、父親とジュリアス以外にはあり得ないと
思っていたのに。
 満足げに頷くチャーリーに促されるままベッドに腰を下ろす。横にならず、上体を起こ
したままの形でいることを望まれその通りにすると、投げ出された脚の間にチャーリーは
身体を割り込ませた。
「ええ眺めやな。夢みたいや」
「そうだな、とびきりの悪夢だ」
 低く笑って、チャーリーの手が頬に伸びる。
「心配せんでも、ちゃんとあんたもええ気持ちにさせたる」
「……自信ありげだな」
 もちろん、とチャーリーは笑った。濡れた唇が鎖骨に触れた。


 オスカーはずっと、壁にかかる絵を見つめていた。身体をまさぐる手や舌、その主を見
ようとはせずに。時折視界の隅を緑の髪が横切るとすっと目を閉じ、また遠くのものを見
るように絵の女を見た。豊満な肉体をさらす気高き女戦士は、男の腕に抱かれるとき何を
思っていたのだろう。そんなことを思いながら。
「──その絵、何でそこに飾っとるかわかります?」
 突然話しかけられ、思わずチャーリーを振り向いて、──しまった、と思った。無防備
な視線を捕らえ、チャーリーが笑う。オスカーの背に、ぞくりと悪寒に似たものが走った。
「あの女戦士が、あんたに似てる思たんや。そう思たら、無性に欲しなった。この部屋で、
毎晩あの絵を眺めながら、……俺が考えてるんは、オスカー様、あんたのことやで」
 艶を増した笑顔が近づいてくる。唇を貪られ、腰を抱かれながら、与えられる感覚を拒
むように眉をひそめるオスカーを、チャーリーは面白そうに見つめていた。触れ合わせた
ままの唇を笑みの形に引き上げ、確かに快楽を得ている欲望の証を握り込む。一瞬だけオ
スカーが眉を強くしかめた。
「自分に、絶大な自信を持ってるんやろな。誰かが自分のものになることはあっても、自
分が誰かのものになることなんてないと思ってんのやろ。自分の価値の高さを──自分が
貴重な宝石やって、ちゃ〜んとこの身体はわかってるんや」
 包んだ手の中で、刺激に応えて欲望が力を増す。
「手に入れるためには、金も力も、身体も命さえも賭けなあかん。けどな、オスカー様、
俺は商売人やから、そういうモノにこそ惹かれる、手に入れたくなる。ギャンブルも、人
生も、面白いのはハイリスクハイリターン、……そうやろ?」
「……そうだな」
 男の欲望を愛撫することに慣れた手が、オスカーを巧みに追い上げていく。かすかに乱
れた息の下から、オスカーは小さく同意を示した。
「そんなら……往生際悪いことやめようや。ほら、この手は女の手なんかやない、女の手
は、こんなにでかくもごつくもないやろ。今、あんたをええ気持ちにさせてるのは俺の手
や。俺とのキスも、こうして俺の手に触れられるのも、……この身体は気に入ってるって、
俺にはちゃんとわかってるんやで」
 確かに、チャーリーのキスはオスカーの好みに合っていた。オスカーと同じくらいに手
慣れた感のする仕方だ。だが、慣れや上手い下手とは関係なく、ただの好みとも言うべき
相性の部分で、チャーリーの仕方はオスカーに合っている。それは、先ほどからオスカー
の身体の各所に施される愛撫の手にしても言えることだった。
「なぁ……、気持ちええやろ、そんならもっと顔に出してや。ええ顔見せてくれたら、もっ
と気持ち良くしたる。あんたが今まで感じたことないくらい……気ぃ失うくらいにな」
 頬ずりをするように顔を寄せ、耳元で優しい声が囁く。オスカーは表情を変えずに無言
を通している。氷蒼の瞳が揺れたのを知るのは絵の中の女戦士だけだった。
 チャーリーの愛撫を黙って受けながら、オスカーは密かに戸惑いを感じていた。人の手
に触れられるのは嫌いではない。男友達に対しても、肩を組んだり背中を叩いたり、そう
いったスキンシップは多い方だ。女との触れ合いも、それが決まった恋人であれ一夜限り
の恋の相手であれ、積極的に求めてくる女も何人もいたし、触れられるよりもオスカーの
身体を触る方が好きだと言う女も中にはいた。細い手指が身体を辿る感触を楽しんだこと
もある。
 だが、チャーリーの手はそのどちらとも違うのだ。どこがどう違うのか説明はできない
が、何かが違う。触れられるその感触を、心地良いと思うだけでなく……、もっと、それ
が続くことを望みたくなる。
 そんな馬鹿な。ふと頭に浮かんだ思考を、オスカーは慌てて打ち消した。我に返ってみ
れば、そもそもこの状況で何も抵抗していないこと自体がおかしいのだ。身体の自由を奪
われているわけでもない、オスカーはただベッドの上に脚を投げ出して座っているだけだ。
そしてその身体を、さして力を込めるわけでもなく片腕で抱きながら、チャーリーの手が
舌が甘い刺激を与えている。
 身体の上を這い回る手の大きさ力強さは、紛れもなく男のものだ。
 わずかに身を引こうとしたオスカーの動きを予想していたかのようなタイミングで、
チャーリーの手が脚の付け根に触れた。やわらかく包まれ揉みしだかれて、眉根を寄せた
オスカーの顔が天を仰ぐ。
「っは……っ」
 仰け反った喉に、チャーリーが食らいつく。喉仏を銜えるように口を押しつけ、山すそ
を辿って舌が蠢く。口の中にオスカーの喉の振動が伝わってきて、チャーリーは舐め回す
舌を止めないままかすかに唇を笑みの形にした。
「は……っ……チャーリー……ッ」
 掠れた声が、チャーリーの名前を呼ぶ。
「ええで……オスカー様……」
 まさかこの場で名を呼ばれるとは思わなかった。チャーリーが思わず喉を鳴らして唾液
を飲み込む。喉元から顔を上げると、苦悶に顔を歪めたオスカーの顔があった。
「あんた……ええ顔するなぁ……。思ってたより……いや、比べもんにならんくらいや…
…」
 熱っぽい眼差しで見つめ、薄く開かれた唇に舌をのばす。喘ぐように開かれたそこに吐
息を吹き込むように笑って、何度目になるかわからない口づけを交わした。それと同時に
オスカーの欲望を煽る手に力がこもる。
「…………っく……んぅ……」
 覚めかけたオスカーの思考が、また霞に埋もれていく。今までこだわっていたことが、
どうでもいいことのように思えてくる。
 この手が、男のものか女のものか、それはどちらでも構わない気がした。チャーリーの
手は、初めからそうするために作られたもののように、オスカーの肌にしっくりと馴染む。
何も考えないでいい、今は俺の手の唇の感触だけを感じてくれればいい。──いつかどこ
かの女に言った台詞が、チャーリーの声で聞こえた気がした。今の君の唇は、ただ俺の名
を呼ぶためだけにあるんだ。
「…………チャーリー……」
「ええな……、あんたが口にすると、世界で一番の名前に思える……」
 満足げな声に目を向けると、チャーリーはいつの間にか着衣を解いていた。引き締まっ
た、細身ながらに鍛えられている身体だ。いい身体をしているな、客観的に思う。その裸
身に欲情こそしなかったが、間近にある胸板や熱を持った欲望の在処を目にしても、不思
議なほどに嫌悪はなかった。ふっと目を上げ、絵の女を見る。女戦士は、ただ気高く、ど
こか遠くへ視線を定めていた。
 視線を感じて目を戻すと、こちらをじっと見ていたチャーリーと目が合った。はしばみ
色の瞳が軽く瞠られ、くすりと小さく笑みが漏れる。
「やっと……俺の目、ちゃんと見てくれたな……」
「そうか……?」
「そや……、あんたずーっとあの絵ばっかり見てたやん。そら女の方がええやろけど、今
は俺のことだけ見てて欲しいな……」
 近づく唇を受け止める。脚の付け根を弄られながら背中を撫でられ、手の動きを追って
身体が反った。ゆっくりと身体を横たえ、真上から覆い被さってチャーリーが見下ろして
くる。
「さあ、オスカー様、これが最後のベット(賭)やで。掛け金はあんたの身体。あんたが
勝てば、身体中痺れるくらいの快楽の世界へご招待や」
 チャーリーの指が奥に滑り、オスカーの入り口に触れた。
「おまえが勝ったら……?」
「そら俺が一方的に楽しませてもらうだけや」
「──それはずるいな。どっちに転んでもおまえに良いことだけじゃないか」
 思わず眉をひそめたオスカーに、チャーリーが肩を揺らして笑った。
「冗談やて。初めっから勝つつもりはあらへん。──いや、ホントにあんたをええ気持ち
にさせられたら俺の勝ちってトコかな」
「──どうせ、勝負を降りることは許されないんだろ」
「降りたいんなら止めはせぇへんけど……きっとあんたは降りんやろな」
 ゆるゆると手を動かしながら、何もかも見透かした目がオスカーに近づく。
「────勝手にしろ」
 ため息交じりに呟いて、オスカーがおとなしく目を閉じる。と思いきや、攻撃的な視線
を向けると同時に伸びた腕がチャーリーの首を捉え、食いつくように唇が合わせられた。
不意打ちに驚いたチャーリーが、しかしすぐに応え始める。
 閉じた瞼の裏、強く気高い女戦士は、変わらぬ眼差しでどこか遠くを見つめていた。


                                    fin.
   



こめんと(byひろな)     2001.8.13

王子、こと平遊さんにささげたチャーオス。まさかこの私がオス受けを書くことになろうとは……(笑)。遊さんのサイト【Fairy Pack's Trick】でギリ番(キリ番ニアピン)を踏んで、風夢書いて欲しかったのに……と愚痴ったら(笑)交換条件でどや?と言われ、風夢欲しさに条件を飲みました(笑)。でも書けるかどうか不安だったんですが、いざネタが浮かんだら、けっこうさくさくと(笑)。だ〜けどやっぱりチャーリー弁は難しい! 冗談めかした言葉ばかりじゃなく、本気でチャーリーさんはオスカー落としにかかってますからね、マジに口説いてもらわんと。本気の遊び、みたいな感じで。駆け引きは……私自身は苦手ですが、そういう関係はとても好きです(オスセイとか、オスオリとかね)。
そういえば、このお話ってば久しぶりの黄色マークですよ。最後まで、やってそうだけど(てかやってるだろ・笑)書いてない、と。──でもこれって赤にした方が良かったかしら……?(^^;) ある意味ひろなの趣味が出まくっています。受けが女々しいのは嫌、ってのと(格好いい受けが好きv)、本番シーン(^^;)よりその前が好きってのと。なのでオスカーさん、あがき続けてます。でも結局落ちちゃいます(爆)。それだけチャーリーさんがお上手だったってことで……(^^;)

ところで。これ書いたあとにサイト巡りしてて、これの逆バージョン(?)見つけてしまいました。チャーリーさんとオスカーさんがカードで賭をして、オスカーが勝ってチャーリーをもらう、と。なにやらチャーリーさん、とっても色っぽくかわいかったです(^^;)。そしてその二人は結果として恋人vなかんじに(苦笑)。──っつーか私、その話以前に読んでたよ(^^;)。まさかその話の記憶が残ってて賭の話になったんじゃなかろうな、それじゃパクリだぞ私……(^^;)。
あ。お話の中に出てくる絵の中の女戦士さん、オスカルさま@ベルバラとか(女性版オスカーにあらず)、ジャンヌダルクとか、ウテナとか(爆)、そんな感じのを思い浮かべてくださいませ(個人的に髪は長い方が好み・笑)



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