Reverse 〜特別な日常〜


「──ゼフェル、……誕生日おめでとう」
「ん……」
 後ろから優しく抱きしめてくる身体に背中を凭れさせて、ゼフェルはわずかに目を細め
た。首すじに触れる髪がくすぐったい。
「ゼフェル、」
「ん?」
「──キス、してもいい……?」
 身体をひねって後ろを向き、降りてくる唇を受け止める。恋人、と呼べる関係になって
約1年。こんなことにも、もうずいぶん慣れたように思う。そういえば、キスは結構して
いるかもしれない。その先は、きっと周りが思うほどにはしていないけれど。
 唇を離すと、ランディは決まって幸せそうな微笑みを浮かべる。少し照れくさそうなそ
の笑みは、見ているこっちが赤くなってしまうようで、だからゼフェルはいつも、照れ隠
しにふいと横を向いてしまうのだ。
 だけど、今日はゼフェルの誕生日。ささやかな誕生パーティは執務の間のお茶会タイム
で催され、その後はランディとの二人の時間だ。執務が終わったら、ゼフェルの家に行っ
ても良いかな。上目遣いに告げたランディの表情が、ほのかな下心を感じさせて、……ゼ
フェルも少し、期待をしてしまう。
 初めから、セックスを切り出すのはたいていゼフェルの方だ。たまにはランディに言わ
せてやろうと仕向けたりもするが、結局それはそのまま誘いの仕草になってしまう。
「なあ……」
 さらなるキスをせがんで唇を寄せると、ランディはすぐに応えてくれる。けれどその後
がなかなか進まない。キス自体が好きだということもあるが、その後の、男同士で身体を
つなぐ行為に抵抗を──躊躇を感じるらしいのだ。ふつう逆じゃねーのか、と言うと、そ
うかなと首を傾げながら、ゼフェルのことが好きだからこそ大切にしたいんだ、と相も変
わらず全身から火が出そうな台詞が返った。
 キスを続けながら、少しずつランディの方に体重をかける。片手でゼフェルの背を抱き
ながらもう片方の手をベッドについたランディを見下ろして、ゼフェルはふと瞳をきらめ
かせた。
「ん? どうかした?」
 気づいて問いかけたランディに笑いかける。
「なあ、──しようぜ」
「え、」
 言葉と同時に、手が服にかかる。
「ちょっ、え、──ゼフェル?」
 直接的な誘いの言葉に、ランディの頬が赤くなった。重ねた唇の間から舌を滑り込ませ、
絡め合わせる。
 服の裾から手を滑り込ませていくらか体温の高い身体を探り、もう一方の手は脚の間に
伸び……。
「ちょっ……、ちょっとゼフェル、どうし……っ」
 慌ててゼフェルの手を押さえようとしたランディが、バランスを崩してベッドの上に仰
向けに倒れた。ちょうど良い、と片脚の上に跨り身体を押さえてしまう。手をついて、覆
い被さるようにランディを覗き込んで。
「なぁ。──たまにはこういうのも良くねぇか……?」
「え?」
「いっつもおんなじだと飽きるだろ? だからよ、たまには逆にオレがおまえを……って、」
 どう? 耳元に顔を近づけて問いかけながら、腰骨のあたりをまさぐる。
「ええっ!? そっそんな、」
「──なんだよ、ヤなのかよ?」
「だってそんな……っ」
「そんな、なんだよ? 誕生日プレゼントだと思えよ。別に減るモンでもねーしいいじゃ
ねーか」
「よくないっっ」
 焦って叫んだランディに、ゼフェルは不機嫌そうに目を細めた。半分は演技だが、半分
ちょっとマジでムカッときた。そんな思いっきり嫌がることねーじゃんか。思わず非難め
いた言葉が口をついて出る。
「──おめー、自分がされてヤなコトオレにしてんのかよ?」
「そっ、そうじゃないよ! でも、…………だって、急にそんなこと言われても、──困
るよ……」
 自分でも何を言っているのかわからなくなってきているのだろう、ランディは眉根を寄
せ、助けを求めるようにゼフェルを見上げている。内心ため息をつきながら、ゼフェルは
最後のダメ押しの言葉を口にした。
「イヤならイヤってはっきり言えよ」
 そしてそんな台詞を拗ねたように言われて、イヤだと言えるランディではないのだった。


 キスなら何度もしたことがある。ランディの上に乗る形でキスをしたことも、その身体
に触れたことも、何度もある。それなのになぜか新鮮に感じるのは、今、自分がランディ
を抱くための前戯としてその身体に触れているからだろうか。
「……っ」
 その先に待つ行為に身構えているせいか、ランディの身体は少しこわばっている。それ
が、初めて身体を重ねた日を思い出させて胸が高鳴る。引き締まった身体を舌で辿りなが
ら、ちょっとした気の持ちようでこんなに違うものなのかとゼフェルは感心をしていた。
「──ランディ、」
 脇腹に口づけて顔を上げると、不安げな顔をしたランディと目が合った。
「なに情けない顔してんだよ」
 ふっと笑ってやわらかい髪を梳いてやる。
「そんな、……こわいか?」
 覗き込むようにして聞くと、ランディはまた困ったような顔をした。
「こわい、んじゃないけど…………。────どうしようって思ってる」
「なんだよそれ」
「わかんないよ……」
 そんなん、オレはもっとわかんねぇよ。呆れて呟いて、ゼフェルはまたランディの髪を
梳いた。──こんなに“頼りない”ランディも珍しい。
「こんなの、考えてやるコトじゃねぇだろ。なんも考えないでいいんだよ」
 そう言って、ランディの下肢に手を伸ばした。
「なんも考えらんなくなるくらい、悦くしてやっからさ」
「ばっ、何言って……、ッ」
 握った手を動かすと、引き締まった下腹に力がこもる。ぴくりと震える脚を撫で上げ、
にっと口端を引き上げて笑うとゼフェルは手の中の熱に唇を寄せた。
「ッア……ッ!」
 押し殺した叫びが漏れ、息を詰める音が聞こえる。いつもより少し大胆な気分になって、
硬さを増していく情熱に愛撫を加える。
「ランディ、──イイか……?」
 返事は期待していないけれど、聞いてみたくなった。
「そっ、んなこと、聞くなよ……っ」
 おめーだって聞いてくるコトあるじゃんか。思ってから、ランディの答えが自分がそう
聞かれたときのものと同じだと気づいた。じゃあ、今のランディも、そんなときの自分と
同じことを思っているのだろうか。
「ふぅん。──気持ちイイんだな」
 満足げに笑って、舌先でつつ……と舐め上げる。びくん、と身体と手の中の情熱が同時
に震え、手足の指がシーツを掴んだ。
 片脚を持ち上げようと手を膝裏に添えると、察してランディが脚に力を入れる。内側に
歯を立てて揺れた身体の隙をついて片脚を立たせ、さらに下方に舌を這わせる。
「ぅんっ……、ッ、ゼフェッ……っあ、く……っ」
 硬すぎるほどに硬くなった部分とは対照的なやわらかさ。顔を引き離そうと伸びてきた
ランディの手を掴んで腰の横に押さえつける。
「あっ、ゼッ……っ!」
 ゼフェルの手が先端を包み込んだ瞬間、ランディが身を反らせて熱を解放した。ため息
とともに力を失う身体に、ゼフェルは濡れた手を滑らせる。
「んっ……! ちょっ、ゼフェルッ、」
 慌てた声を上げるランディを後目に、ゼフェルは指先をそこに押しつけた。くっと力の
こもる入り口を確かめるように撫で、そのまま指を沈めていく。
「やっ、待ってっ……」
「ランディ、力抜けよ」
「そんなこと言ったって……っ」
 しゃーねーな。呟いて、再び情熱を口に含む。力の抜けた隙に、少し後退させた指先を
さらに奥へ押し込んでいく。
「う……っ」
 指の中程まで進めたところで、ゼフェルは顔を上げてランディの表情を確かめた。
「ランディ、──痛いか?」
 何とも言えない表情で、ランディがゼフェルを見上げる。強いて言えば、やはり困った
ような顔というのが一番近い。
「痛、くはない……けど、────なんか、……変な感じ……」
「そか、」
「っ! ──まっ、待ったッ!」
「──なんだよ。────動かさねーとずっとこのままだぞ」
 うっと言葉に詰まったランディを笑って、ゼフェルは指を動かし始めた。きつく眉を寄
せて、ランディが耐える。
 ゼフェルはただ、いつもランディにされていることをそのまま返しているだけだ。ラン
ディが自分にするのと同じように。──ランディは、いつもこんな風に自分を見ているの
か。そう思いながら、それをされているときの自分を思い出して、ゼフェルはぞくりと身
を震わせた。ランディの内部を探りながら、脚や腹部を撫でながら、自分がそうされてい
るときの感触を思い出す。ランディも、自分と同じように感じているのだろうか。
「ぅ……っ」
 見下ろすその表情からは、堪えているのが苦痛か快感かは判別がしにくい。だがきっと、
ゼフェルが今いつものランディと同じように感じているのならば、ランディが今感じてい
るものも、きっと自分と同じもののはずだ。
「なぁランディ……。おめー、いつもこんな風にオレのこと見てんだ……?」
 返事はない。差し入れた指を動かしながら自らの脚の間に手をやると、一度も触れてい
ないはずのそこはすでに十分硬くなっていた。
「──やべぇ、なんかマジでコーフンしてきた……」
 息が荒くなってくるのを自覚する。身体が熱を増すのを感じる。ごくりと唾を飲み、指
を増やす。そうしながら、やはり自分が同じようにされるときのことを思い浮かべて身体
の中が熱くなる。
「ぅあっ、──っく、」
 触れた身体も熱く汗ばんでいる。汗とも涙ともつかない滴が目元を伝い落ちる。
「──ランディ……、わりぃ、もうダメだ、入れたい……」
 一方的なのは百も承知で、けれどもう耐えられない。ぐっと脚を掴んで押し上げ、指を
抜いた部分に硬くなった自身の先端を押し当てた。息を飲んだランディが涙ぐんでいるよ
うにも見える瞳をゼフェルに向け、目を閉じる。
 ランディが息を吐くタイミングに合わせて、ゼフェルは身体を押し進めた。


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