Ein Klein Tag Musik

 とある土の曜日、夢の守護聖オリヴィエは、朝から一人執務室にいた。土の曜日なんて、
執務をしているのはジュリアスくらいのものだ。けれど今回ばかりは仕方がない。昨日の
夕方、そのジュリアス直々に頼まれてしまった案件があるのだ。
 他の人が思うほど仕事嫌いでも遊び人でもないオリヴィエは、……つまりは結局のとこ
ろお人好しなのだが(それを言うと嫌がるので、知っている者も言わないようにしている)、
この急ぎの、しかも確かにジュリアスよりはオリヴィエが見た方が良い案件を片付けるべ
く、土の曜日だというのに出仕しているのであった。
 ようやく解決のめどが立ってきた頃、控えめなノックの音がオリヴィエを呼んだ。
「開いてるよ」
 意識の一割ほどを声に使って返事をする。それだけ真剣なのだ。
 その、オリヴィエらしからぬ小さな声を、ノックの主はきちんと聞き分けていて、そうっ
と、オリヴィエの意識をジャマしないように静かに扉を開いた。うすく開いた扉の向こう
から流れてきた気配に、オリヴィエははっとして顔を上げる。
 そこにいたのは、水の守護聖リュミエールだった。
「リュミエール……」
「ごきげんよう、オリヴィエ。……お邪魔では、ありませんか……?」
「ジャマだなんて、とんでもない!」
 目を見開いて言うと、リュミエールはくすくすと笑った。
「そうですか、それは良かった。──そろそろお昼の時間になりますから、もし切りが良
ければご一緒にと思ったのですが」
「え?」
 言われて時計を見ると、確かに、もうそんな時間だった。
「気づかなかったのですか?」
「──はぁ。ウッソみたいだけど、ホントに知らなかったよ」
 嘘、に思いきり力を入れた言い方に、またリュミエールが笑う。
「それだけ、真剣だったのですね」
「んー、まあね、だってあのジュリアスが、私に頼みに来るくらいだからね」
 おそらくクラヴィスの次くらいに、自分に仕事を頼むのを苦手としているんじゃないか
と、オリヴィエは思っている。──当たらずとも遠からずではある。
「たまにはさ、ちょっとくらい力になってやんないとね。いろいろとメーワクもかけてる
からさ」
 そう言ってオリヴィエはリュミエールの身体を抱き寄せた。おとなしくの腕の中に収まっ
て、リュミエールは自分を抱く腕に手を添える。
「ジュリアス様は、あなたが思っている以上に、あなたのことを信頼していらっしゃる…
…と、私は思いますが」
「そうかなー?」
「そうですよ」
「ふふ、あんたにそう言って微笑まれちゃうと、そんな気がしてくるから不思議だよね」
 執務服とは違う、少し襟ぐりの広い服からのぞく首すじに、オリヴィエはそっと唇を押
し当てた。
「オリヴィエ」
 驚いて、リュミエールが小さく抗議の声を上げる。
「こんな綺麗なうなじを見せつけるあんたが悪いんだよ」
 同じ場所を、今度は軽く吸うように口づけて、オリヴィエはリュミエールを抱く腕に力
を込めた。
「オリヴィエ、ここは……執務室です……」
「うん、わかってる。──でも、あんたも、どきどきしてるね……?」
 すっと手を滑らせて胸の位置に当てると、いつもより少し早い鼓動が伝わってくる。
 ほのかに首すじを染めて、リュミエールが俯いた。
「それはあなたが……」
 全ては言わない言葉に、うん、わかってると返して、ふたりはしばらくそのままで時を
過ごした。やわらかくたゆたうような時が過ぎるにつれ、少々ヘヴィな案件に参り気味だっ
たオリヴィエが、調子を取り戻しはじめる。それと同時に、いつまでも色づいたままのリュ
ミエールの首筋に、オリヴィエのいたずら心が頭をもたげてきてしまった。
 密かに唇を笑みの形にし、オリヴィエの手がゆっくりと動く。左胸に当てられていた手
は少しずつ身体の横の線を辿って下に降り、もう一方の手は右肩から鎖骨へと続く丘陵を
確かめるように動いた。
 ぴくり、とリュミエールの身体が揺れる。
「い、いけませんオリヴィエ、」
 もがいて前へ逃れようとする身体を、追いかけるようにオリヴィエも前に進む。そのま
まふたりはくっついてじりじりと進み、執務室横に大きく場所をとる鏡の前へとやってき
ていた。いいものを見つけたと、オリヴィエの笑みがますます深くなる。鏡越しにその表
情に気づいて、リュミエールが肌を染めた。
「オリヴィエっ」
「リュミエール、あんたが欲しいんだ……」
 首すじに息を吹きかけるように囁かれては、もうリュミエールに勝ち目はない。
「こんな、ところで……誰かが来たら……」
「来ないよ、土の曜日だもの」
 あっさり否定して、オリヴィエは手を動かし続ける。それならせめて場所を移動してく
れと頼むリュミエールに、オリヴィエは艶やかな視線を返し、唇の端を引き上げた。
「だめ。──私に抱かれてるときのあんたがどんなに綺麗か、あんたにも見せてあげたい
んだ」
 かあっとリュミエールの体温が上がったのがわかった。
 身体を重ねるようになって、もうずいぶんと時が経つ。口説き文句にはわりと平気な顔
をするのに(どころか、時々オリヴィエも負けそうな台詞をさらっと言ってくれちゃった
りする)、こういう、直接的なことを言われると、少女のような反応をするリュミエール
がかわいくて、オリヴィエはついつい、意地悪をしてしまうのだ。
「ほら、リュミエール、見てごらん。──私がどんだけあんたを欲しがってるかわかる…
…?」
 鏡を通しても力を失わないオリヴィエの熱い視線に、リュミエールは濃く長い睫毛を震
わせた。その反応に満足して、オリヴィエの手はいよいよリュミエールの腰を探りはじめ
る。腰から太股を、なぞるように、撫でるように。そして手をすっと浮かせて、反対側も
同じように。オリヴィエの手を求めて変化しはじめている場所には敢えて触れずに。
 小さくため息のような声を聞いて、オリヴィエは、肩を撫でる手を下に移動させて、服
の上からもわかる胸の飾りをそっと撫でた。リュミエールが息をつめたのがわかる。リュ
ミエールにもわかるように笑って、そこに軽く爪を立てた。
「あっ……」
 思わず漏らした自分の声に、リュミエールは肌を粟立たせた。
「リュミエール、好きだよ……」
 首すじに何度目かの口づけを落として、襟元から脇へ続くボタンをはずしていく。露わ
になった薄薔薇色の肌に手をすべり込ませ、色づき立ち上がった胸の飾りに直に触れた。
「あっ、オリヴィエ……っ」
 小さく首を振るリュミエールを無視して、オリヴィエは脚を撫でる手の動きを大きくし
た。揺れる身体を抱きしめて、下から上へ脚を撫で上げる手が、やがて服の裾をつまんで
上へとたくし上げた。白くほっそりとした脚が鏡に映る。
「なんて綺麗な脚なんだろう……」
 この脚の美しさを知っているのは、自分だけ。そしてこの脚が、どんなに淫らに自分を
誘うか……。
 手を前に動かしてリュミエールの情熱を鏡に晒すと、オリヴィエはそのままリュミエー
ルの身体を鏡に押しつけた。熱くなった部分を急激に襲った鏡の冷たさに、リュミエール
が声を上げる。
「やっ、オリッ、ヴィエ」
 リュミエールの吐く息で鏡面が曇る。鏡に触れている頬や脚が熱いのか冷たいのかわか
らなくて、リュミエールは鏡から離れようともがく。それをさらに押しつけるように動く、
オリヴィエの身体。
 手のひらで包むように双丘を撫でていた手が、間に入り込んできた。腰を前に逃がせば
鏡に自らを押し当てることになる。けれど後ろにひけば、それはオリヴィエの手を積極的
に求める動きになってしまう。リュミエールは俯いて、いやいやをするように首を振った。
それに合わせて横に揺れる腰が、オリヴィエをどんなに煽るかも知らずに。
「リュミエール、そんなかわいいコトしないで。もう我慢が出来なくなっちゃう……」
 余裕のない声で囁いて、オリヴィエの手が白い丘を手に掴んでぐいっと引き上げた。服
越しにもわかる、オリヴィエの熱い昂ぶりに、リュミエールの身体が震える。
「あぁっ、ん、オリヴィエ……っ」
 鏡面にすがるように指を立てて、リュミエールが脚を震わせた。その間にオリヴィエの
指先が差し込まれる。待ち侘びていたかのようにすんなりと、そこはオリヴィエの指を奥
まで受け入れた。自分の身体の反応に、驚いたように海色の瞳が見開かれる。オリヴィエ
もまた驚いて、リュミエールよりも深い、例えるならば夜の海の色をした瞳を見開いた。
そして、ゆったりと、勝ち誇ったような声が、リュミエールを包む。
「リュミエール、そんなに……欲しかったんだ……?」
 軽く動かされただけで震えてしまう身体が、何よりもその答えだ。あさましい自分の反
応に、リュミエールの瞳に涙が滲む。
「リュミエール、泣かないで。私を欲しいと思ってくれるのは、全然、恥ずかしいコトじゃ
ないんだよ。──あんただって、私があんたを欲しいと思うことを、そうは思わないでしょ
う、嬉しいと思ってくれるでしょう? 私だって同じだよ。あんたが私を欲しいと思って
くれて、素直にそれを表してくれるなら、こんなに嬉しいことはないんだ」
 その言葉は、今までのどんな愛撫よりも、優しくリュミエールの身体を突き抜けて。
 応えるように、リュミエールの熱い内部がオリヴィエの指を締め付けた。
「んっ……」
「リュミエール、愛してる。あんたが欲しいよ……」
「あっ、オリヴィエッ……、っ、早くっ……」
 リュミエールの中から指を引き抜くと、オリヴィエはリュミエールの双丘を押し広げた。
引き込むようにうごめく熱い内部に、情熱を全て押し込んでいく。
「リュミエール……っ!」
 下から突き上げられて、リュミエールが哭いた。
「ああっ! ……んっ、あ、オリ、ヴィエ……っ!」
 いつの間にか肌と同じ熱さになった鏡に手をついて、リュミエールは揺さぶられるまま
に声を上げていた。最後の恥じらいを示すように口元に当てられた手も、その声を遮る役
目は果たしていない。
 ただ求めるままに、求められるままに、ふたりは熱い身体を動かしていた。


          *         *         *


 壁に寄りかかるようにして、ふたりは床に座り込んでいた。
 泥のような倦怠感が身体中を包んでいる。けれど、心はとても穏やかで、満たされてい
て。微かにつないだ指先が、あたたかいと思う。
 オリヴィエが、長いため息をついて、髪をかき上げた。
「はぁ、やっちゃったなぁ……。──ごめんリュミちゃん、大丈夫?」
 身体のことを聞かれているのだと思って、リュミエールはいつもの答えを返した。
「いや、そうじゃなくてさ。あんた、公私混同しないタイプじゃない。なのにさ。──あ
あ、大丈夫って聞き方はちょっとヘンだね。……ごめん?」
 先程の、傲慢なほどに強気だったオリヴィエはどこへ行ってしまったのか。リュミエー
ルの機嫌を窺うような眼差しをする。驚いてリュミエールは口を開いた。こういう弱気な
表情は、オリヴィエには似合わない。
「どうしてあなたが謝るのです? 私も、初めは驚きましたが、その……結局は……」
「いいよ、言わないで」
 言いよどんで赤くなったリュミエールに、オリヴィエは優しいいつもの笑みを向けた。
恥じらうように俯きながら、少しほっとする。
「ちょっとね、誘導尋問みたいで狡かったかな、と思ったんだ」
 オリヴィエは、つないだ手を引き寄せると、指先にそっとキスを贈った。
「でも、言ったことはホントだよ。私はいつでもあんたが欲しい。あんたも同じように、
私のこと欲しがってくれたら、嬉しいな」
 優しい指が、水を紡いだ髪を撫でた。
「リュミエール、好きだよ……」
「ええ、オリヴィエ、……私も、」
 愛しています。
 囁くような声とともに、そっと唇が押し当てられた。


                                       fin.

   



こめんと(byひろな)     2001.2.11

はい。ようやっと書けた、念願の(?)オリリュミ創作は、TOPカウンタ4444をGetされたあすみさんへの捧げものでした。
危険度は赤で……ってことだったんですがが……、ごめんよあすみさん、やりすぎた(泣笑)。いや、やらせすぎた、か?
っつーか、これって、さすがに“少なくとも”18禁、だと思います……。20禁にしといた方が良い?
だってさ、真っ昼間の執務室、はまだ良いとして(いいのか?)、鏡プレイに立ちバックだよ(滝汗)。ああ、ごめんヴィエ様、ごめんリュミちゃん。ごめんオリリュミ(爆)。
──と、彼女へ捧げるときのコメントにも書いたので、彼女のサイト【天使の二重奏】にも載っているのですが、向こうでいち早く読んだリヒト曰く、「話自体よりもあんたのあのコメントがえろいよ」みたいなことを言われてしまった……(TT)。な、ナニがいけないの? 立ちバックって、専門用語?(爆)
ちなみに、タイトル『Ein Klein Tag Musik(アイン・クライン・ターク・ムジーク)』というのはドイツ語でして(『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』ってあるでしょ?あれからとってます)、『昼間の音楽』ってことですが、つまり……リュミちゃんのかわいい鳴き声♪ってヤツですね、フッ。


さしあげもの&いただきものコーナー




Parody Parlor    CONTENTS    TOP

感想、リクエストetc.は こ・ち・ら