Fairy Fllavour 「お待たせいたしました。今日のおすすめはローズとバニラで香りづけをしたフレーバーティーですよ」 「うわあ〜っ、いい香り〜」 手を組んで歓声を上げ、マルセルはうっとりとすみれ色の瞳を細めた。幸せそうな様子にルヴァとオリヴィエが笑みを浮かべる。 「そう言っていただけると、私も嬉しいですよ」 穏やかな笑みを湛え、リュミエールはマルセルの前に白磁のカップを静かに置いた。 「そんなの甘ったるいだけじゃねぇか。オレはフツーの紅茶でいいぜ」 「香りほどには甘くないハズだよ。アンタでも飲めると思うけど」 「匂いだけで充分だって」 「ホントいい香りですよね。それだけで幸せになれそうな感じだ。せっかくだから、俺はフレーバーティーの方を飲んでみようかな」 顔をしかめるゼフェルの横で、ランディの興味深げな眼差しがリュミエールの手を追いかける。紅茶のポットとランディとを見比べていたオリヴィエが、ふいに口紅を引いた唇を笑みの形に歪めた。 「ふぅ〜ん、そういうコトか……」 「オリヴィエ? どうかしたんですか?」 「ねぇルヴァ、この香り、何かを思い出さない?」 「この香り……? 薔薇と、バニラの、この香りですか?」 そう、と微笑むオリヴィエに、5人は一様に首を傾げた。 「何か、って言うより、誰か、かな。誰かさんタチ」 「あッ……」 小さく声を上げて、ランディがかすかに頬を赤らめた。 「おっやぁ〜? 何で赤くなるのかなランディくんは〜?」 恰好のオモチャを見つけたとばかりに詰め寄るオリヴィエに、ランディがたじろいで後ずさる。 「けっ、ランディ野郎のクセに色気づきやがって」 「なんだとっ!?」 照れもあるのか一転臨戦態勢に突入するランディだが、ニヤニヤ笑いを浮かべる今日のゼフェルが相手では劣勢は免れない。 「そっか、あの二人かぁ〜。それで何だかすごく良く知ってる、安心できる感じがしたんですね」 やっと納得がいったとマルセルが感嘆の声を上げた。ルヴァとリュミエールも頷きを返す。 あの二人、とはもちろん、女王候補の二人の少女、アンジェリークとロザリアのことだ。──いや、この場合はロザリアとアンジェリークと言うべきか。幼少の頃から完璧なる女王候補たれと育てられたロザリアは、気高く美しい、まさに薔薇のイメージだ。彼女自身薔薇の花を好み、彼女からは常に薔薇の香気がかすかに薫る。対するアンジェリークは特筆すべき美貌や特技の持ち主ではないが、明るく屈託のない笑顔や前向きな姿勢は、どこか人を惹きつける。かわいらしいものが大好きな彼女は甘いものも大好きで、休日にはマルセルやディアとお菓子作りをしていることが多い。そのせいか、彼女はしばしばバニラエッセンスの甘い香りを漂わせていた。 「二人の存在は、今や私たちにとって欠かせないものですからねぇ」 「そうですね。私も、二人の笑顔に会えない日など、想像できないくらいです」 「うん、ホントにね。あのコたちは、そうだな、常春の楽園に更なる春を運んでくれた、天使かはたまた妖精かってカンジかな?」 「──けっ、そろいもそろってクセーこと言いやがって……」 うんうんと頷く大人たちに、思春期まっさかりのゼフェルが顔をしかめて悪態をつく。 「でもゼフェルだって、二人のこと好きでしょ? 初めはあんっなにイヤがってたのに、今じゃよく自分から誘いに行ってるじゃない」 「っ……せぇマルセル黙れ!」 「おや。やるじゃん少年☆ んで? どっちどっち?」 「ロザリアだよね〜♪」 「黙れっつってんだろ! オ、オレはただ! あいつがジュリアスみてーな頭のカタイやつになんねぇよーにだなぁっ……!」 「お気に入りの場所とか、いろいろ案内してあげてんだ?」 「っせぇな黙れカマヤロー!」 真っ赤になって怒鳴るゼフェルを眺めて、ランディがぽつり呟いた。 「ゼフェル……。そうだったんだ。俺、初めて知ったよ」 「ったりめーだ、てめーにまで悟られてたまるか!」 「そーゆーアンタは、アンジェちゃんにご執心だよねぇ」 「え゛……っ、ち、ちがいますよ! 俺は別に、そんなつもりじゃ……っ」 「ふ〜ぅ〜〜ん……?」 「……オリヴィエ様っ!!」 水を得た魚とはこのことか、ルヴァは大きくため息をついた。隣でリュミエールも苦笑を洩らす。 「困った人ですね、オリヴィエも」 「はぁ……そうですねぇ……」 前回の女王試験の際にオリヴィエがいなくて良かったと、ルヴァは心の底から思っていた。先代の鋼の守護聖ライにこの調子でやられたらどうなっていたかと思うと気が遠くなる。──と思ったら、前回の女王試験のことを思い出した。 「ああ、そう言えば、ディアも薔薇の香りが好きでしたねぇ〜」 ルヴァはひとり、うんうんと満足げに頷いた。 「ピーチ、アプリコット、ストロベリー。そういったものも好んで飲んでいました」 「えっ? ルヴァさま、それってもしかして、ディア様や陛下が女王候補だった時の……?」 「ええ。陛下はミントがお好きでしたよ」 もっとも、飲んでいたのはフレーバーティーではなく、カティス特製のカクテルだったとは、口が裂けても言えないルヴァだった。 「へぇ……っ、そうなんだ。──ディア様らしいですね」 「そうですね。よく、好む香りはその人自身を表すと言いますが、陛下もそうだったのでしょうか」 リュミエールの言葉に、ルヴァは笑みを深くした。 「ええ。ミントの香りの似合う、清々しい方でしたよ」 「いいなぁ……、女王陛下、ぼくも早くお会いしたいなぁ」 「ああ、そうだな。──けど、そうか、この女王試験が終わったら、アンジェリークやロザリアとも気軽に会えなくなっちゃうんだな」 「そうだねぇ。補佐官になった方とは会えるけど、陛下とは、滅多なことでは会えないだろうね」 育成は順調に進んでいる。初めの頃こそロザリアの圧勝かと思われた今回の女王試験だが、今ではどちらが勝ってもおかしくないと皆が思っていた。どちらが女王になっても素晴らしい宇宙を育めるだろうとも。 「なに辛気くせぇツラしてんだよ。試験終了なんてまだ先のこと、どーなるかなんてわかんねぇだろ」 「だってゼフェル……」 「だいたい考えてもみろよ、あいつらだぞ? 女王や補佐官になったからって、そうそう変わると思うか?」 ふたりの巻き起こした数々の事件……もとい、出来事を思い出して、皆は一様に大きく頷いた。 「そ、っか。──そうだな、会っちゃいけない、っていうんでもないんだしな!」 「そーそ、アンジェリークなら、補佐官だろうが女王だろうが息抜きとかいって抜け出してくるぜ」 「それでロザリアが怒って連れ戻しにきたり……?」 「────あのコならやるね。補佐官でも、例え女王だったとしても」 「それでは今と変わりありませんね」 「はぁ、そうですねぇ……」 呆れた吐息をつきながら、そんな聖地も悪くないと思う守護聖達だった。 「──ふふっ、なんだか楽しみになってきちゃった」 マルセルの笑みに、皆の同意が返る。 「ねぇリュミエール様、次の日の曜日には、お茶会、ディア様もお招きしませんか? それで、ぼくたちが作ったミントクッキーを、陛下におみやげに持っていっていただいて……」 「それは素敵ですね」 「でしょうっ! ──ランディとゼフェルも手伝ってよね!」 「ああ、もちろん!」 「なんでオレまでっ……! んな甘ったるい空間にいられっかよ!」 「ゼフェルは甘くないお菓子の担当にしてあげるから!」 「そーゆーモンダイじゃねぇ……っ!」 「おーやおや、なんだか賑やかになってきたねぇ」 「そうですねぇ……」 子供達の騒ぎを笑って見守りながら、ルヴァとオリヴィエは甘い香りの紅茶を口に運んだ。 ふたりの春の妖精は、いったいどんな宇宙の姿を見せてくれるのだろうかと期待しながら。
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こめんと(byひろな) 2004.10.12 ひろなもメッセージ作成をお手伝いさせていただいている、ASOこと【Angelique Special Online】の、スタッフ応募の際のスキルシート用に書いたお話のうちのひとつです。 お題は「女王候補達の事を話し合う守護聖(教官&協力者)たち」 と、いうことで、リモ&ロザについて語る、お茶会組(ひとまとめかよ)。ところで、私が書くとかなりの高確率でランディもお茶会組に含まれてしまうのですが、……ほんとは、そんなことないハズだよねぇ? ま、所詮はランディラバーな相川の書く話と言うことで。 そんでもって今回UPしたお題その2SS『Fairy Fllavour』。天使の香り。 オリヴィエ様絶好調(笑)。 やっぱりこういう掛け合いは楽しい。絶好調オリヴィエに振り回される子供たち……(笑)。ランリモ&ゼフェロザふうみです。両方ともまだまだ発展途上、つかまだ芽が出たばかり。マルちゃんはどっちかというとリモちゃんかな。リュミちゃんはロザりん(コミックス夢魔編は萌だった。リュミロザにルヴァロザにオリロザ……!)。ヴィエ様はふたりともカワイイし気に入ってるけど恋人にはまだね、という感じかしら? で、ルヴァ様はちょっぴりディア様といいかんじだったりすると萌です。オリディアも捨てがたいですが! そしてライディアをほのめかしたがる相川(笑)。ライディア、萌だよ……。ディア様を巡ってライvsヴィエは、ぜひとも絵で見たいです、できることなら由羅センセの絵で!(無理言うな) |