二人の時は


「……泣くなよ」
 動きを止めて、ゼフェルは汗で張り付いた髪を拭ってやった。
「なっ、泣いてなんか……っ」
「じゃあコレはなんだよ」
 目尻に溜まった雫をなぞる。
「しっ、らない……っ」
「そんな、……痛いか?」
 ふっと声を低めて聞くと、ランディはためらうように視線を揺らし、小さく首を振った。
                 イ
「じゃあ、──そんなに、泣くほど悦い?」
「────ッ!!?」
 見事なまでに赤くなる顔を見ながら、ゼフェルは満足げに唇を歪めた。咄嗟に握られた
拳をシーツに縫い止め、睨む目を真上から見下ろす。
「なぁ、ランディ、」
「──しっ、知らないよッ……」
「ふぅん……。────オレは、すげぇイイぜ……」
 耳元に唇を寄せて囁く。ぎゅっとランディが目を瞑り、同時に熱いランディの内部がゼ
フェルの情熱を締め付けた。
「ンッ……」
「なぁ、身体鍛えてるヤツって、ココも締まりがイイって、知ってるか?」
 ゼフェルはいつも、ランディが恥ずかしがって嫌がるのを知っていて、わざといやらし
い言葉を口にする。
「──ッ、なんでそういう……っ」
「なんで? そんなん、おめーがカワイイからに決まってンだろ」
「どっ、どこがだよっ!? それにそんな、かわいいなんて言われても嬉しくないっ!」
「オレはおまえにカワイイって言うの、嬉しいぜ?」
 ニヤリと唇を歪めて笑うと、ランディがかっと赤くなった。
「ほら。──やっぱカワイイじゃねーか」
「だ……っ、から! なんでおまえいつもそうやってえらそうな言い方するんだよ!」
「いいだろ、別に黙ってオレの後についてこいとか言ってるワケじゃねーんだから」
「そういう問題じゃ、」
「うっせ、そーゆー問題なんだよっ。──それにおめーの方こそ、昼間はいっつも年上ヅ
ラしてえらそーじゃねーか」
「な、そんなことないっ」
「あるね」
「ないってば!」
「ある!!」
「ない!!」
 身体をつなげたまま、ひとしきり言葉の応酬を繰り返し、──やがてゼフェルが溜め息
をついた。
「ちっ、────ったくなんでこんな時まで言い合いしてなきゃなんねんだよ」
「ゼフェルが先に──、アッ!」
 突然身体を引き寄せられて、言いかけた文句が途切れる。
「そんなんよりこっちだこっち」
「なん……っ。卑怯だぞゼフェル、ごまかすなよ!」
「ごまかしてんじゃねーよ、もっと有意義な時間の使い方しようぜって言ってるだけだろ」
「ゆ、有意義って」
                  ナ
「有意義だろ。おまえの説教聞くより啼き声聞いてた方が何倍もイイぜ」
「な…………っ!?」
 再び文句を言おうと開いた口を、手で塞ぐ。
「だーから、文句も説教もお断り。そんなの、他のヤツらがいるトコででもできんだろ。
──せっかく二人っきりなんだ、二人の時しかできないコトしようぜ。な?」
 赤くなり、しかし口をつぐんだランディに、ゼフェルは満足げに笑みを返した。
 手を伸ばし、ランディの情熱を握り込む。顕著な反応に気をよくして手を動かすと、や
がてランディの口から吐息が漏れた。
「なんだよ、声聞かせてくんねーの?」
 耳元で囁いてやる。首をすくめて逃げる身体を押さえて舌を這わせると、びくりと肩が
震え、鼻にかかった声が上がった。
「……いつもそーしてりゃカワイイのによ」
 思わず独り言が漏れる。しまった、と思ったが遅かった。
「だ……っから! なんですぐそうやってかわいいかわいい言うんだよ! そんなにかわ
いい子が好きならそういう子を探せばいいだろ!?」
「るせっ、そんなんじゃ意味ねーだろーが! おまえだから犬っコロと駆け回ってンの見
るだけでもカワイイと思うんだよっっ!!」
「えっ…………」
 再び怒鳴り合って。やや間を置いて、ランディが空色の瞳を丸くした。大きな目で見つ
められ、ゼフェルがばつが悪そうにふいっと顔を背ける。
「──ゼフェル、」
「滅多なこと言わすンじゃねぇよバカランディ……」
「え、えっと……なんか、照れるな……はは……」
 どういうリアクションをすればいいのかわからず、ランディは思わず照れ笑いを浮かべ
てみたりする。が、むっとしたゼフェルに睨み返されてしまった。さて、ではどうしよう
か、と思った時、むっとしたままのゼフェルの顔が近づいてきて……。
「え? ────んんっ」
 唇を塞がれ、舌を強く吸い上げられて、背すじが震えた。顎を捉えられ、逃げ場を失っ
たまま、ゼフェルの舌の動きに翻弄される。
「んっ、……は、ゼッフェッ……ぅんッ」
 こらえきれず身を捩ると、中でゼフェルの位置が変わり、思わぬ感覚をもたらした。咄
嗟にしがみついてしまってから、ぱっと手を離す。
「いいぜ。──掴まってろよ」
 言葉と同時にゼフェルが動き始めた。意識がそこに集中してしまって、うまく息が継げ
ない。
「あっ、ちょっ、と待って……っ」
「これ以上待てるかバカ」
 腰を掴んで引き寄せられて、喉を反らせてランディが叫んだ。
「んあっ、は・あ……っゼ、フェルッ……」
「おまえ、もっと自分がしっかりして、オレが執務さぼったりとかしないように見張って
おかなきゃとか思ってンだろ。別に、普段はそれでもいーけどよ、……ちょっと抜けてっ
トコあった方がおまえらしいだろ」
「な、に……」
「──オレと二人でいるときくらいは、ちったぁ甘えろっつってんだよっ」
「やっ、だ……」
「甘えたりねだったり、ワガママ言ったり、そーゆー顔オレにくらいは見せたっていいだ
ろっ」
 “頼れるお兄さん”の顔も“素直で聞き分けの良い後輩”の顔も、今は要らない。寄り
添ってまどろむだけで幸せだったり、同じものを見ても全然違う反応が新鮮だったり、触
れた肌の熱さをもっと感じたかったり。
 他の人間が知らない、二人だけの時の表情を、もっと見たくて。
 なのにランディが頑なに“お兄さん”であろうとするように見えて、ゼフェルはつい、
わざとその顔を崩すようにと動いてしまう。
「やっだ……っよ……」
「なんでだよ」
「んっ、……だって、こんな風にゼフェルに抱かれて、その上、甘えるなんて……っ」
 少し悔しそうなランディの言葉に、ゼフェルがすっと表情をなくした。
「ぶぁ──っか」
「なっ……!」
「おまえがヘタに頭働かせよーとすっとろくなコトになんねぇんだから、考えんなって」
「なっ、そんな言い方……っ」
「ばか、別におまえのことオンナみたいに扱ってるわけじゃねぇだろ。深く考えたりしな
いでフツーにしてりゃいいんだよ。それがおまえだろ、……それでこそおまえだろ」
「ゼフェル……。──なんでそんな、ばかばか言うんだよ……っ」
 ランディが拗ねて唇を尖らせると、ゼフェルは一瞬口をつぐんで、ニヤリと口端をつり
上げた。
「そりゃ、アレだろ、『ばかな子ほどカワイイ』ってヤツだろ」
「なっ……! ば、ばかっ……」
「ほら、おめーだってばかって言ってンじゃん」
「だってゼフェルが……っ」
「オレが?」
「──っっ。────どうせ言われるなら、ばかって言われるより、好きって言ってくれ
た方がいいよ……」
「……お、」
 顔を背けたランディに、ゼフェルも少し赤くなる。頬を緩ませ、手を伸ばしてやわらか
い髪をくしゃりと撫でた。
「ばーか」
 笑いを含んだ、優しい声。
「またっ」
「──好きだぜ」
 耳元で囁かれて、ランディがぴくりと身をすくめた。まさか本当に言われるとは思って
いなかったのだろう、顔といわず首すじといわず、全身真っ赤になっている。
「なんだよ、オレにだけ言わす気かよ」
 追いつめられ、逃げ場をなくしてランディは視線をさまよわせた。身体を少し離したゼ
フェルの視線が熱くて痛くて、……いたたまれない。
 そっと伸ばした腕を、ゼフェルの首に回して引き寄せた。こうすれば、きっと真っ赤に
なっているだろう顔を見られずにすむ。
「──俺も…………好きだよ」
 ゼフェルは一瞬目を瞠り、熱い身体を抱いて耳にキスをした。

                                           fin.



こめんと(byひろな)     2001.5.9

【Four~Seasons】のりんさんのお誕生日にと贈らせていただいた(押しつけたとも言う)ゼフェラン。
しかしなんなんだこの話……っツーかこいつら……(^^;)
会話はかわいいですが、その会話をどんな体勢でしているかと思うと…………(^^;;
マークの色、ほんとは赤なんですが(やってるし(^^;))、でもメインは会話だし、いっか、ってかんじ。
ランディに甘えてもらいたいゼフェルとゼフェルに頼ってばっかは嫌だと思うランディ。平行線です(^^;)
これがウチのゼフェランの基本スタンスだったりします。そしてもっと端的に言うならば、ヤりたがりのゼフェルと嫌がるランディ(爆)。
しかしゼフェルがなんだか余裕ありげなところが、気に入りませんな(爆)。私のランディ(←思い込み)にばかばか言いやがってこいつ……っ(-゛-;)
いえいえ、でもこの話の二人は何だかんだ言いつつラブラブvでございます。


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