オスカーが着々と(?)計画を進めている間、首謀者のあずかり知らぬところで、事態
は進展を見せていた。
「──ぉわっ!」
「わっごめん、だいじょうぶかい!? ──ぁっ、ゼフェルっ」
 相手がゼフェルと知るやいなや、ランディはぱっと手をはなした。
 廊下の角でぶつかりかけて、2人は今、手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいる。
「──なっ、なんで赤くなってんだランディヤロー!」
「えっ、俺、そんなつもりじゃ……っ」
 赤くなったランディに気づいてゼフェルが一歩後ずさり、ランディも驚いて身を引いた
ために一歩下がる。ぎりぎりで手の届かない距離で睨み合う二人の間、いつものケンカと
は一味違う緊迫した空気が流れた。
「だ────────っったくっ! なんなんだよもう!!」
 先に切れたのは、やっぱりゼフェルだった。
 大声で喚いて、がしがしと銀髪を掻きむしる。びっくりして、ランディは思わず首をす
くめ、そのままゼフェルを見守った。
「なんなんだよこれはっ!? ランディ! てめーはアンジェのことが好きだったんじゃ
なかったのかよ!?」
「好きだよ! 俺の気持ちは変わらない!」
「じゃあなんてオレ見て赤くなんだバカ!」
「知らないよそんなの!」
「知らないで済むかっ、ちったぁ考えろ!!」
「なんでいつもそんな言い方するんだっ。俺だって考えてるよ、でも分からないものは分
からないんだっ!!」
 荒い息遣いの中、大理石の廊下に響いた2人の声のこだまがかすかに聞こえる。
 大きくため息をついて、ゼフェルが壁沿いにずるずるとしゃがみ込んだ。
「──ゼフェル?」
「はぁ──────────────。ったく、なんでこのオレサマがおめーなんかに煩
わされなきゃなんねんだ」
「ゼフェルッ、」
 再び応戦体勢に入りかけたランディを制して、ゼフェルは自分の隣を指差した。一瞬た
めらって、ランディが床にしゃがみ込む。
「答えのねーもん考えっから、ワケ分かんなくなんだよな」
「──?」
「おまえさぁ、アンジェのこと好きなんだろ?」
「ああ、好きだよ」
「そんならよぉ、──誰に何言われたか知んねーけど、って、大方赤毛のおっさんだろー
けどよ、惑わされんなよ。そーゆー単純バカなとこもおまえらしいけどよ、でもそれって
違うだろ。見失っちゃいけねーモンてあんだろ」
 かしかしと、ところどころで頭を掻きながら、ゼフェルが呟く。決して隣のランディを
見ようとはせず、頑ななまでに前を向いて、わずかに唇を尖らせて。
 かすかにひそめられた眉の下、紅玉の瞳は真剣な色をしていた。
「オレとおめーは、そーゆー“好き”じゃねーだろ」
 空色の瞳が、大きく見開かれた。
「ゼフェル……」
 ランディの視線を避けるように、ゼフェルが顔を背ける。
「────ゼフェルッ! ありがとう!!」
「がっ。──てめっ、抱きつくなっ!」
 あっと言う間に、ゼフェルはランディの胸に抱きしめられていた。両腕ともに抱き込ま
れているため身動きがとれない。ムダと思いつつもがいてみるが、ランディの腕は、やは
りびくともしなかった。
「──っ、いっ、てえっ、っつってんだろっ! はなせこのバカ力ッ!!」
 残り少ない息を振り絞って喚くと、ごめんと叫んでランディが手をはなした。ほっとし
たのも束の間、今度は肩をがっしと掴まれる。
「ありがとうゼフェル! そうだよな、俺たち友達だもんな!」
「な…………っっっ」
 ゼフェルは絶句し、ついで一気に赤面した。構わずランディは熱弁をふるい続けている。
「ゼフェルのおかげで目が覚めたよ。俺、おまえと友達になれて良かったって、心から思
うよ!」
 二の句の継げないゼフェルにやけに晴れ晴れとした笑顔を返し、ランディは立ち上がる
と颯爽と駆けていった。
「──────────っ、なんなんだ、あいつは……」
 赤い顔のまま大きくため息をつき、ずるずると背をすべらせる。壁に寄りかかっている
と言うより床に寝そべっている状態で、ゼフェルは呆れた声を漏らした。
 鉄砲玉かよ。呟いて、ふとニヤリといつもの笑みを浮かべる。
「いや、“聖地の核弾頭”だな。──とんでもねーヤツ」
 背中に触れる大理石の床が、冷たくて気持ちいい。しばらくここで寝ていようかと思っ
た途端、規則正しい足音が聞こえてきた。
「げっ、やべっ」
 見つかって説教を喰らう前に、逃げるに限る。ゼフェルはぱっと飛び起きて、足音とは
反対の方向に駆けだした。


<とりあえず終幕。命短し、恋せよ少年!>

 ゼフェルと別れたランディは、真っ直ぐアンジェリークのもとに向かっていた。やっぱ
りちゃんと想いを伝えたい。ゼフェルとの仲が妙な感じになってしまったのを心配してい
るらしいことも話に聞いていた。誤解を解いて、二人の恋を応援するつもりなことも伝え
て、でもやっぱり彼女が好きだと、伝えたい。
 そんな想いに背を押されて走っていると、ちょうどアンジェリークの赤いリボンが視界
に入った。
「あっ、アンジェリーク! ちょうどよかった、俺、君に話があるんだ。ちょっといいか
な?」
「え? ──は、はい。なんですか?」
 アンジェリークは突然のことに目を丸くして、けれどすぐに笑って了承の返事をくれた。
ほっとすると同時にその笑顔に励まされて、ランディはちらっと周りをうかがって人がい
ないのを確認すると、再びアンジェリークに向き直る。
「アンジェリーク、俺、君のことが好きだ。でも、君がゼフェルのこと好きだって知って
るし、ゼフェルも君のこと好きで、その……つ、つき合ってる、ってのも、わかってる。
でもだからって、俺は君のことを好きな気持ちをなかったものになんかできないよ」
 そこまで一息に言って、ランディは深呼吸をした。
「だから……せめて、俺が君を好きでいることを許してほしい。──いいかな?」
「──はい、ランディ様」
 くすっと小さく笑って、アンジェリークは頷いた。
「ほんとかい!? ありがとう!! ──よかった、それすらダメって言われたら、俺、
明日から何を支えに生きていけばいいのかわからなくなってしまうよ」
 大げさな物言いに、またアンジェリークが笑う。
「あ、信じてないな。ほんとだよ。俺、今、君への想いで生きて動いてる気がしてるくら
いなんだ。だから、この気持ちを大切にしたい。君が、俺のことを同じように思ってくれ
たらもっと嬉しいけど、そうじゃなくても、俺、君のことを考えているだけで幸せなんだ」
「ありがとうございます」
「だから何かあったら俺のことも頼りにしてくれよな。もしゼフェルが君を泣かせるよう
なことがあったら、俺が君の代わりにあいつをやっつけてやる!」
 拳を握って、ランディは笑った。アンジェリークも声を立てて笑う。なにやらそこには
男女の友情らしきものが、芽生えているようだった。


 こうしてオスカーの企みは潰え、聖地に平和が戻ったかに見えたのだが……。


 執務室に戻ったゼフェルは、棚から工学事典を取り出そうとして、腕の痛みに顔をしか
めた。
「ッツ。なんだ? ──ああ、さっき……」
 ランディに、思いっきり腕ごと抱きしめられたのだった。すごい力だった。
「くそ、あのバカ力……」
 呟くゼフェルの顔は、うっすら赤くなっている。
「くっそ! なんでオレがあんなヤローのこと気にしてなきゃなんねんだっ」


 聖地に起きた恋愛革命は、まだ終わらないようである。
  

                                       fin.    




こめんと(byひろな)     2001.4.7

しらたまサンからのリクエストは、なんとっ!「ゼフェル・ランディ・オスカー・アンジェの四角関係」 というものでした。三角関係でもひぃ〜っな私に、四角関係ッ!!!? 戦々恐々です。で、どうしましょう〜、とご本人にお伺いを立てたところ、「リモージュとゼフェルはすでにラブラブ。 ランディはゼフェルがリモージュに取られちゃったみたいで少し寂しい。 で、ランディはオスカーに相談に行きます。 この気持ちの正体は何なのか……。 オスカーはランディの話を聞いてやるけど、実は……」という、ヒジョ〜にオイシイ(笑)お話になったのでした。なにやらオスカー様が間抜けな役回りになってしまいましたが(^^;) ま、大目に見てやってくださいませな。
ところで裏でロザりんを巡ってオリヴィエvsマルちゃんになってますが、これは単に私の趣味です(笑)。つーかせっかくなので(?)年少組&中堅組を全員出したかったのよ。……ごめんね、年長組サン。あ、ひとりだけ足音のみの登場をなさってる方がいらっしゃいますか(爆)。


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