星の誓い 〜Purple the Orion〜

 凍る夜空に、星が瞬く。
 南天にかかる勇者の左足、そこに輝く蒼い星を見上げて、セイランは小さくため息をつ
いた。


『セイランさん、知ってますか? オリオン座のあの蒼い星、リゲルって言うんですけど、
ほんとは2つの星が並んでるんだそうですよ』
 ルヴァ様に教えてもらったんです、とランディは得意気に笑った。
『綺麗だね、……あなたの瞳の色みたいだ』
 ランディはわずかに目を瞠って、頬を赤らめ俯くと、そっとセイランを抱き寄せた。
『ありがとうございます。でも、セイランさんの瞳の方がもっときれいだ……』
 キスをされると思ったから、目を閉じた。そっと唇が触れてすぐに離れ、今度はしっと
りと重ね合わされる。
『セイランさん……』
 熱い吐息に促されるように、セイランが草原に身を横たえる。
『──ここじゃ、寒いですよね……』
 ぎりぎりのところで暴走しそうな想いを押しとどめて、ランディが息をつめて囁いた。
セイランはそんな彼の律儀さに小さく笑って腕を首に回す。
『いいよ。あなたが暖めてくれるんでしょう……?』
 堰を切って溢れ出す想いに流され、2人抱き合う。何度もキスを交わし、舌を絡め、手
が指が、相手の身体を探る。
『ここだっけ……リゲル……』
 セイランの手がランディの左膝に触れ、すっと脚の内側に手を滑らせた。ランディが息
をつめ、脚の筋肉が緊張したのが伝わる。
『綺麗だね……』
 呟いて、膝の内側に唇を寄せる。ついばむキスが少しずつ上にあがっていく。ランディ
が慌てたようにセイランの肩を掴んだ。
『セイランさんっ……』
『したいんだ。──させて』
 言うなりランディの情熱を口に含む。息をつめてこらえるランディの左脚を撫でながら、
もうじき自分の内側からかき乱すであろう熱さを、愛しさを込めて舌で辿る。
 肩を掴まれたと思った途端、視界が反転した。ランディの向こうに、オリオン座が見え
る。
『セイランさん……っ、──好きだ……!!』
 揺さぶられるままに声をあげ、ランディの背に腕を回す。
『もっと……っ、もっと、感じさせて……』
 求める言葉を口にしたのはあれが初めてだった。いや、最初で最後、だったか。
 熱い身体に抱きしめられながら天を仰ぐ。わずかに位置を変え、けれどまだオリオンは
そこにあった。
『セイランさん、さっき、俺……、リゲルが1つに見えるけど2つの星だって言いました
よね。──俺たちも、あの星みたいにずっと一緒ですよ』
 はっとして、セイランは背後のランディを振り返った。
『遠く離れてしまっても、──離れていても1つに見えるあの星みたいに、俺たちも、ずっ
とずっと一緒です。もし俺に会いたくなったり、……さみしくなったら、この空を思い出
してください。オリオンの左足、リゲルを思い出して、俺の言葉を……俺の想いを、思い
出してください。
 俺はいつでもあなたの側にいます。いつでも、あなたを想っています』
 セイランの耳元、いつもより低い声が、真摯な想いを告げる。やわらかな栗色の髪が頬
を撫で、セイランの胸の奥を刺激した。
『セイランさん……あなたが好きです』
 耳から入り込んだ言葉が、身体中に沁みわたる。身体に回された腕に触れ、祈るように
目を閉じた。
『ランディ様。僕に、印を残して。僕があなたのものだって……』
『セイランさん……?』
『もっと僕を、あなたのものにして』
 身体をひねり、唇を重ねる。
『セイランさん。……どうして、俺があなたのものだって言わないんですか』
 息をひそめた問いかけに、セイランはふと笑みを閃かせた。その美しさに、ランディが
目を奪われる。
『あなたはこの宇宙のものだよ。──守護聖としてじゃなく一人の人間として、なんて言
わないで。切り離すことなんてできやしないんだから』
『それでも言わせてください。あなたが俺のものなら、俺はあなたのものだ』
 強い力で抱きすくめられる。見なくても、わずかに眉を寄せ真剣な顔をしているランディ
の姿が目に浮かぶようだ。
『覚えていてください。俺の想いを』
 言ってランディは、先ほどセイランがしたように、セイランの左脚、膝の内側にキスを
した。強く吸って、薔薇色の痕をつける。
 オリオンの左足、蒼い星。
 それはまるで誓いのキス。誓いの証。セイランの心をさらった嵐の爪痕。


「──消えてしまったよ、あなたの……」
 壁にもたれて座り込み、セイランは自らの左脚を引き寄せた。膝の内側、ランディがつ
けた口づけの痕は、もうずいぶん前に消えてなくなってしまっている。
 それでもそこに手を触れると、ランディがそこを吸い上げた時と同じ熱さが、セイラン
の身体を突き抜ける。
「ん……っ」
 月と星に照らされた白い背が反り、歪められた細い眉の下、蒼い瞳が何かを探すように
揺れた。
『セイランさん……』
「あ……っ、はっ……ぅ、ランディ様っ……」
 自らの情熱を手で包み高めながら、セイランの瞳は夜空に輝くひとつの星を見つめてい
る。
 夜空の勇者、蒼い星。
『セイランさん! こんにちは!』
 すべての人に元気を与える笑顔。
『大丈夫ですよ。俺がいますから』
 何を根拠にそんなことを……、と文句を言いながら、にっこり微笑む彼の姿に何度励ま
されたことか。
『セイランさん、あなたが好きです』
                              ツヨ 
 こんな表情もできるのかと思った。思いつめたように眉を寄せ、毅い眼差しが真っ直ぐ
セイランを見つめていた。きらきら輝く水晶のような空色の瞳が、眩しくて、愛しくて。
『セイランさん……』
 吐息交じりの、低い声。
『くっ……、セイランさんっ……!』
「あ……っ!!」
 思い出の中のランディとともに、セイランは張りつめた想いを解き放った。ぐったりと、
力を抜いて壁にもたれ、荒い息を鎮めながら星空を見上げる。
 ランディの胸にもたれて見上げたあの時と同じように、オリオンはセイランの右肩の後
ろにあった。蒼い星が瞬いて、まるで……。
「──っ、」
 セイランの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
「ランディ様……」
『もし、俺に会いたくなったら……』
 あの夜を思い出して、彼の言葉を想いを、思い出しても切なさはますます募るばかりだ。
 一目でいい、彼の姿を見たい。
 ゆっくりと息を吸い、震える吐息をついて。髪をかき上げ自嘲の笑みを浮かべる。
「まったく……らしくないね」
 けれど、願いが叶うなら。
 蒼い星よ、あの人のもとへ、僕の想いを届けておくれ。
 セイランの心に応えるように、夜空の勇者が、左足の蒼い星が、瞬いた気がした。


                                           fin.



こめんと(byひろな)     2001.3.17

バナーを作ってくれたお返し、ということで書かされた(^^;)ランセイ。
DA PUMPの曲「Purple the Orion」をもとにしています。
──が、あんましもとになってない(^^;)。リゲルのエピソードがメインになってしまいました。しかもこのネタ、オリジナルじゃないし。もとは高群保さんのマンガ『Rigel〜冬の星座〜』です。この人のせつな系のお話は、もう、胸がぎゅぅぅ〜〜ってなっちゃうのです。『海に似た空の色』ってシリーズが、とっても好き。ゼヒゼヒどうぞ。
で。最初は、“窓からのぞくオリオンに 見つめられながら”、“恥ずかしいほど 好きな君に / 感じて欲しい 俺の想い”ってことで、アオカンよね〜♪(爆死)って感じだったのですが。いや、夜空だからクロカンか?(爆滅)
結局、ランディを思い出して一人でしちゃうセイランさんの話に。これはこれで、せつないけど、えっちぃ……。最近セツナ系ランセイがいくつか浮かんでます。なぜかしら?
ちなみに、「Purple the Orion」、つい先日浮かんだトロワバージョンもあり(笑)。いつか書こうかな?

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