意地っ張りな君に


「いい加減、少しは認めたらどうだい? 僕のことが好きだって」
 そんなことを言われたらますます意地になるのを百も承知で、セイランはわざとそんな
言い方をする。
 アンジェリークは、やはりムキになってセイランをキッと睨みつけた。けれど、うっす
ら染まった頬と悔しそうな口元が、その答えだ。
 セイランが、うすい唇の端を笑みの形に引き上げる。軽く握った右手を顎に当て、淡い
青色の瞳がちらりとアンジェリークを流し見た。
 まったく……わかってないね。どんな表情も君らしくていいと思ってしまうくらいには、
僕はもう君に惹かれているんだよ。
       カラカ
 自分のことを揶揄って遊んでいるだけのような男に惹かれてしまう自分が許せないと、
アンジェリークは全身で訴えている。これはこれで、なかなかお目にかかれない、派手な
告白だ。
 それが楽しくて、ついつい寝た子を起こし火に油を注ぐような真似をしてしまうのだが
……、本当にいつまでもこのままで良いと、セイランも思っているわけではない。彼女が
ほんの少し素直になって自分への気持ちを認めるのなら、自分も少しだけ正直な気持ちを
告げても良い。
 そう思うセイランの、半分はいつもと同じ揶揄いの、しかし半分は本音の言葉を、アン
ジェリークは100%揶揄いの言葉ととったようだった。
「僕だって、君のことは結構気に入っているんだ。どう、君は僕との新しい関係を築いて
みようとは思わないのかい?」
 セイランにしてみればかなりの譲歩を見せた台詞に、しかしアンジェリークは疑いの眼
差しを向けた。
「だって、セイラン様、恋人作らないって……、言い寄る女の人、片っ端からひどい振り
方するって」
 ふう……とセイランはため息をついた。
「何とも思ってない人に度の過ぎた愛情を押しつけられても迷惑なだけだよ。──君は、
そんな女性とは違うだろう?」
 “何とも思ってない人”とは違う。その言葉に、アンジェリークの心は揺れる。彼が自
分に、他の人に向けるもの以上の興味と好意を持ってくれているのはさすがにわかってい
る。けれど、相変わらずの揶揄いの言葉にいちいち過剰に反応してしまう自分がいる。そ
れもこれも自分がセイランに惹かれているせいだとわかっているから、そしてセイランが
それをわかっていて揶揄うのがわかるから、なおさら悔しいのだ。
 余裕ある態度を、何とかして崩してやりたいと思い、けれどその度振り回されているの
は自分だと目の前に突きつけられる。
 アンジェリークは悔しそうに唇を噛んだ。
「それとも、これなら信じるかな」
 ふとセイランの瞳がきらめいた。細い神経質そうな指が、くいっとアンジェリークの顎
を捕らえ、彫像のような顔がすっと近づいた。
「──!!」
 掠めるようにキスを奪われ、目を見開いたアンジェリークの頬が真っ赤に染まる。セイ
ランが、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「どう? 少しは信じた?」
 セイランは相変わらず余裕綽々の態度だ。
 人との接触を嫌うセイランが、自分から手を伸ばして触れる相手は数少ない。だからこ
そ、それが証拠になるとセイランも踏んだのだろう。それはたしかにそうなのだが、アン
ジェリークにしてみれば、それですら、いつもと同じ揶揄いの一環に思えてしまう。
 だいたい! 乙女のファーストキスを、冗談半分で……っっ!
 真っ赤になって口を押さえ、セイランを睨むように見ていたアンジェリークが、何かを
決意した顔になった。表情の変化に気づいたセイランが、今度は何をしてくれるのかと興
味深げな顔をする。
 ぐっと右手を握りしめ、アンジェリークはその腕をセイランに伸ばした。襟元を掴み、
ぐいっと引き寄せる。
「──!?」
 セイランがゆっくりと目を瞠った。
 セイランの唇を奪い返して、アンジェリークはキッとセイランを睨みつける。
「失礼します!」
 叫ぶように捨て台詞を吐いてくるりと背を向け、アンジェリークは駆け出した。
「────ぷっ。くっくっ……、あはは」
 一人残されて、セイランはこらえきれず笑い出した。
「まったく、なんて子だろうね」
 そう反撃が来るとは、さすがに思わなかった。わかりやすいと思いきや、いざという時
には予想を遙かに超えたことをして楽しませてくれる。
 それなら今度は後ろからそっと抱きしめて、優しく愛の言葉を囁いてみようか。
「楽しみは尽きないね」
 とりあえずは明日会ったときの反応が見物だな。セイランは青紫色の髪を揺らしてくす
くすと笑った。


                                    fin.

   



こめんと(byひろな)     2001.5.19

またまたリッヒ〜に奪われてしまったキリ番、掲示板カウンタ800HIT記念のセイコレです。
このセイランの言動を、アンジェリークを揶揄って遊んでるだけととるか、ひねくれ者の不器用な愛情表現ととるかは人それぞれ。……でも私は思う、絶ッ対ッ!セイラン楽しんでるっ!!(力説) アンジェ、だめだよこんな男、やめた方が良いよっ!
でもリヒトはこのセイランを「かっこいい!」と言います。──どうよ?それ?(笑) 皆さんどう思います??
ま、なにはともあれ、いじわるな男を恋人に持ってしまうことになるらしいかわいそうなアンジェちゃんに同情を捧げつつ、今度ゼフェルあたりに切り返し策を聞きに行ったら?と思う、HIRONAでありました(笑)。──けっ、勝手にしろっ!とか言われそう(^^;)

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