祈るもの「……手ェ出してみな」 突然のことに驚きながら、ショナが素直に手を差し出すと、ウォルターはポケットから 出した手をその上に掲げ、ゆっくりと手のひらを開いた。かすかな音を立てて、金の鎖が 滑り落ちる。 「──ウォルター、これ」 「今日出かけた町で見かけたんだ。──これだろ、ルノーが言ってたヤツ」 つけてみるよう言われて鎖を首にかける。先にあしらわれた十字架の重みが、なぜか逆 に心地よい。 神様にお祈りをするときに使うんだよ。 そう言ったのはルノーだった。きっとショナに似合うからと。 「ふぅん……、確かにけっこうイイ感じだな。ショナが見たら喜ぶぜ、神の御使いだって」 「ルノーの方が、よっぽど天使のようなのに」 普段は年齢に相応しくない無表情のショナだが、ルノーの話をするときだけは、かすか に痛みにも似た表情をする。太陽を見上げて目を細める人のように。 「あいつがそう言いたいなら言わせてやればいいだろ。あの方が、あいつの兄貴代わりに なってやってんのとおんなじだ」 ショナの身につけている黒衣に、金鎖のロザリオは思いのほか良く映えた。細い金の髪 と相まって、蒼白い少年の肌が光を放っているようにさえ見える。 「──あ。ウォルター! か、帰ってたんだね」 小柄な身体に不釣り合いな大きな本を抱えて、ルノーが姿を現した。本を抱え直し、小 走りで駆け寄ってくる。 「お帰りなさい! ……あっ、ショナ、それ……っ?」 ショナのロザリオに気づき、ルノーが声を上げた。丸く瞠られた目がウォルターを見上 げる。 「これだろ、おまえが言ってたのって。──ほら、これおまえの分」 鎖をたらしてロザリオの全貌を見せてから、両手のふさがっているルノーの代わりに、 ウォルターはその首に鎖をかけてやった。 「わぁ……っ、ありがとう! でも、これ、どうしたの……?」 途端に疑わしげになった眼差しに、ウォルターが小さく舌打ちをする。 「今日、ゲルハルトと出かけた町で見つけたんだよ。──言っとくけど、ちゃんと金払っ て買ってきたからな!」 なまじ前科があるだけに、ウォルターの口調も勢いがない。 確かめるようにウォルターの顔を覗き込んで、やがてルノーが破顔した。 「うん、ありがとう!」 そしてショナに顔を向け、良かったね、とまた笑顔を浮かべる。 「やっぱり、ショナによ、よく似合うね。すごくきれいだよ。神様の御使いみたい」 「ルノー」 そう言われるだろうことは容易に予想できたが、実際に面と向かって言われ、ショナは 戸惑っているようだった。 「そう言えるおまえも神の御使いみたいなモンだよ。──ま、おれは見たことねぇから知 んねぇけど」 どこか呆れたようにウォルターが呟き、二人の頭をぽんと叩く。踵を返そうとしたとこ ろに、先手を打って飛びついてきた身体があった。 「おうっ、どーした、何か相談か?」 「──ってぇっ! おい、ゲルハルト、でけぇ図体で飛びついてくんじゃねぇよ!」 「お。何だ、ロザリオじゃねぇか。──ああ、さっき買ってたのこれだったのか」 ウォルターの罵倒にかまわず、ゲルハルトはひょいと手を伸ばしてショナの首にかかる ロザリオを手に取った。 「知ってっか? これはな、神様に祈りを捧げるときに使うんだぜ」 「──おまえでも祈るコトなんてあんのか」 疑わしげなウォルターに、船乗りは毎日海に祈るんだとゲルハルトは笑った。 「二人ともよく似合ってんな。天使様みてーだ。──ま、コドモはどんなくそガキでも天 使だけどな! ほら、天使ランランって言うじゃねぇか」 「天真爛漫、だろ」 「おう、それだそれ! ま、つまりはウォルター、俺に言わせりゃおまえも天使だってコ トだ!」 笑い声を響かせて去っていく背中に、ウォルターが顔をしかめる。誰が天使だ、呟きは 口の中だけで留められた。 「──まあ、二人とも、似合ってんぜ」 破顔したルノーにつられ、ショナとウォルターの頬にも笑みが浮かんでいた。 fin. こめんと(byひろな) 2002.5.13 久しぶりの偽守護聖話です。──が、『CrystalSun』の続きではありません〜(^^;)。あれも早く書かなきゃ! で。今回のお話は、実はラブ通に送ろうかと思って書いたお話なのですが、……書いてからしばらく忘れていました(^^;)。書いてずいぶん経ってしまったので、もういいやと思ってこっちでUP。なので長さも20×100以内でおさめてあります。まあここでは40×50ですが。 で。 …………ウォルターがどんどこイイコになってきていますねぇ(笑)。そしてショナと仲良しです(笑)。だって好きなんだもん。でも別にこれはウォルショナってワケじゃなくて、ふつーにお友達・仲間です。ええ。 ショナって全然笑わない子ってイメージがあるので、少しは笑わせてあげたいなと思って書きました。あと、ルノーもね、ウォルターもね、笑っていてほしいですから。 そしてゲルちゃん…………。ごめん、なんか馬鹿っぽくなってしまった(^^;)。けっこう漢気溢れるいい男だと思っているのですが。その割には作中での扱いがあまりに……(^^;)。いつか君を格好良く書きたいよ(^^;)。 |