君の夢を見た

  Ｄｅａｒ　Ｒａｎｄｙ，


　はぁい、ひさしぶり、元気にしてる？
　──なんて、こんな挨拶はやっぱりあんたの顔を見ながらしたいよね。

　今日ね、あんたの夢を見たんだよ。
　その日印象に残ったことを夢に見るって言うでしょ、すぐわかったよ、夢の原因。
　風の話。
　風、って聞くだけですぐにあんたが思い浮かんじゃうあたり、私もまだ重症みたいだよ。
　私の家の近所に、ときどき子供達が遊びに来るんだ。昔のあんたたちみたいに腕白盛り
って感じでカワイイよ。それでね、昨日そのコたちが『風は何で出来てるか』って話をし
てたんだ。
　風は何で出来てるのか。吹く風はどこから来るのか──どこに行くのか。
　風は空気で出来てるんだよ。空気の温度差や、気圧の差や、そういったものが空気の流
れを生んで、それが風になるんだ。
　そんなのは、ルヴァの講義を聞くまでもなくわかってるけど。
「風は明日に向かって吹いているんだ！」
　子供のひとりがそう言った。笑顔がキラキラ眩しかった。

　そんなコトがあったから、思わずあんたの夢見ちゃってサ。
　夢の中では案の定、あの台詞を言っているのはあんたで。自信満々の笑みを浮かべて。
　強い風が吹いて私たちの髪を掻き乱して、それでもあんたは真っ直ぐ私を見つめてた。
　──泣きそうになった。不覚だ。

　ああ、ヤダなぁ。おセンチなのは性に合わないんだよね。こんな、出さない手紙をした
ためるなんてのは。オリヴィエ様らしくないよ。
　だけど。
　夢の中だけどあんたに会えて嬉しかったよ。変わらない笑顔が、抱き締めたくなるくら
いに愛おしかった。
　だからアリガト。風は空気で出来ているから、今この瞬間にもあんたは私のそばにいる
ってことになる。いつでも私は、あんたの力を感じることが出来る。
　明日に向かって吹く風に乗せて、眩いほどに輝く力を。

  Ｄｅａｒ　Ｏｌｉｖｉｅ，

　オリヴィエ様、元気にしていますか？　俺は、……俺たちは、相変わらずです。進歩な
いって笑われるかも。それくらい変わってないと思う。
　そういえば、俺、あなたに手紙書くのって初めてかも。カードなら何度か書いたけどね。
毎回センス悪いって言われて、でも嬉しそうに笑って受け取ってくれたのも、もうずいぶ
ん前のことのような気がします。

　あのね、今日、あなたの夢を見たんですよ。びっくりした。朝目が覚めて、しばらくぼ
うっとしてた。
　昨日、庭園で子供達が走り回ってて、空の話をしてたんです。昼と夜の、空の色の話。
　きっと、そのせいであなたの夢を見たんだと思う。
　光の屈折とか空気中の塵に吸収される色とか、ルヴァ様がしてくださった難しい話はあ
まり覚えてないけど、俺が夜空の色を宇宙の色だと言ったときのあなたの顔は覚えてる。
見開かれた瞳がとても綺麗だったから、とても良く覚えてるよ。
　だって、あなたの瞳は、夜空の色だから。人々に美しさをもたらす夢の守護聖。眠って
るときに見る夢の『夢』じゃないってわかってるけど、でもやっぱり、あなたは夜の、月
光の下に立っているときの方が、あなたらしくて綺麗だった。夜空の色の瞳も、星々を散
りばめて光る長い髪も、月光に透けるような白い肌も、まるで本物みたいに目の前にあっ
た。夢だなんて思ってなかった。
　だから朝起きて、……隣りにあなたがいなくて、空ももうあなたの瞳の色じゃなくなっ
てたから、なんだか泣きたいような気持ちになってしまったんだ。

　会いたいよ。オリヴィエ、あなたに会いたい。──会えないのはわかってるのに、それ
でも会いたい。会いたくてたまらない。
　──ごめん、こんなの俺らしくないですよね。こんなこと、あなたに言ったらきっと笑
われちゃうな。もともとこの手紙は出すつもりがないけど、逆によかったかも知れない。
また最初から文面を考えるのは、今の俺にはちょっとツライし。
　俺らしく前向きに考えよう。夢の中でだけどあなたに会えて良かったって思った方がい
い。だって、ほんとに会えて嬉しかった。きっとあなたも元気で変わりないって信じられ
たから。
　夢の力が美しさをもたらしてくれるってほんとですね。俺は今でもあなたの力に守られ
てるんだ。あなたの力は、今でもこの世界を支えてる。俺も、あなたを支えていられるよ
うに、この世界を守っていけるように、がんばります。
　今度また夢の中で会うときに、胸を張ってあなたに会いたいから。