memory


「────あれ?」
 オスカーの腕の中に抱かれてぼんやり外を眺めていたオリヴィエが、突然声をあげた。
「どうした?」
 外に何か見つけたのかと、オスカーがオリヴィエごと上体を前へと傾ける。
「んっ、苦しいッたら。──別に、なんでもないよ」
 身じろぎをして髪をかき上げた右手の肘を、そのまま捉えられ引き倒される。綺麗なカー
ブを描いて反る胸が、背の下に入れられた腕の力強さに支えられて、氷蒼の瞳の間近で上
下した。
「なんだ。俺はてっきり、あの花を見つけたのかと思ってたぜ」
「!? あんた、気づいて……」
「当然だろう。あの花は、俺たちにとっては忘れられない大切な花だからな」
「……そうだね」
 珍しく素直に頷いて、目を閉じる。当然のように重ねられる唇を当然のように受け入れ
る自分。
 それが当然のことになったのが、ちょうど、この季節だった。あの時も、今と同じよう
にこの窓からあの花が見えていたことを覚えている。
「せっかくだから、忘れられない夜にしてやろう」
「ふうん……、じゃあ、お手並み拝見させてもらおうかな」


 また、新しい一年を刻もう。また、新しいあなたを心に刻もう。


 鎖骨をくすぐる紅い髪を撫で、窓の外の花に想いを馳せる。手に触れる髪と同じ色をし
た、春を告げる木。
「あの木……あの花、私の故郷では、雪の中で咲いてたんだ」
 真っ白な雪の中、そこだけ炎が灯ったかのように。
「ほう。──おまえが故郷の話をするなんて珍しいな」
「そうだね。──んっ、あんたの、髪の色に……ちょっと似てる……」
「それは光栄だ」
 汗ばむ身体を抱く腕に力を込めて、オスカーが満足げに目を細める。
「おまえの故郷の思い出の中にもある……忘れられない花なんだろう?」
 ぐっと身体を揺さぶられて、オリヴィエが天を仰ぎ息を吐いた。
「俺もあの花は好きだ。潔い感じがするからな。それに──薔薇にも負けない、情熱の炎
の色をしている」
「んっ……」
「オリヴィエ。おまえはこれから、あの花を見るたびに俺を、この夜を思い出すんだぜ」
 呪文のように囁く低い声。鋭い光を放つ、氷蒼の瞳。
「ばぁ……か、あんたこそ……っ」
 荒い息を吐いてオリヴィエは、逞しい肩に歯を立てた。オスカーが息をつめる。
「あの花を自分に例えて、私に覚えさせようって魂胆だろうけど……忘れらんなくなんの
はあんたの方だよ」
「構わんさ」
 即答して、顎を捉えすぐさま舌を深く差し入れる。唇を離して、オスカーはにやりと自
信に満ちた笑みを浮かべた。
「俺はもとから、お前のことを忘れるつもりなんてさらさらないぜ。おまえの口の悪さも、
この身体も、──おまえへの想いも」
 わずかに目を瞠り、オリヴィエも同じ笑みを返す。
「バカだね。──忘れてなんかやんないよ。忘れさせてなんかやるもんか」
 今度はオリヴィエの方から。
 噛みつくようなキスを返して、視線を合わせ、微笑んで抱き合った身体は、春の訪れを
告げる花の匂いがした。

                                           fin.



こめんと(byひろな)     2001.3.22

ちーやんさんの、サイト一周年おめでとうございます!記念に送らせていただいた炎夢v
しかしなにやら、記念モノにしようと思ったのに、いや、記念モノではあるんだけど、……オスカーさん、退任間近?みたいな話に(^^;) なんででしょう……。
そう言えば、炎夢でオスカーがオリヴィエに振り回されてない話書いたの初めてかも(笑)。
ちなみに、赤い花、一応椿のイメージです。春に咲くのも冬に咲くのもどっちも好きさ〜♪

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